魔女狩り聖女ジャンヌ・ダルク サイドストーリー篇

白崎詩葉

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盗憐の魔女⑤

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 暗い夜を月が照らしている。
 アキセは手枷をついたまま、魔女に連行された。
 手枷の軸を折られただけで、いまだに手と頭は手の枷に挟まれたままだった。
 すげーかっこ悪い。
屋根から屋根へと、ウサギのように飛び回り、平く広がった家の屋根に止まる。
 魔女は、アキセを人形のように投げる。
「イテ!」
「さ~て」
 魔女の顔に影が覆う。
 アキセは鳥肌を立つ。
「まあ、君の実力は、見れたことだし…」
「逃がしてくれます?」
「何言っているの。私が怒っている理由。なんだと思う?」
 魔女が問いかける。
「聖女に怪盗魂を穢されたから」
「違う!私の人気を奪ったことよ!」
「そっち!」
 思わない理由で声を上げた。
「あんなに頑張ってこの町の人気者になれたのに!って何!あんたのせいで人気奪ったのが一番のショックよ!」
「そっちが持ちかけたからじゃねえか!」
――てか、人気の範囲が狭いな。それで満足するのか。魔女って
「うるさい!」
 魔女は、片手に鉈が現れる。
「私から人気を奪った罪を今すぐ償いな!それに半魔族(ハーフアビス)ふぜいで似た力を持ちやがって、生意気なんだよ!」
「すみません。お命だけは~」
 諦めた時だった。
 空からジャンヌが魔女の頭に蹴りを入れ、屋根にヒビ入るほど踏みつける。
 ジャンヌは魔女から飛び、アキセの手前に降りる。
「ジャンヌ様!助けに来てくれたんですね」
「違う!仕事!」
 単調に言いながら、ロザリオを構える。
「顔に蹴りやがったな。穢しやろう!」
 魔女は立ち上がる。
「手加減したら失礼だと思いましてね」
「もう頭が切れ切れよ。盗憐(とうれん)の魔女アルセーヌ・カリーナが殺してやる!」
 カリーナは、鉈をステッキに変え、ジャンヌに迫る。
「何を言っているの」
 怒り狂った魔女が突進するが、ロザリオであっさり首を切る。
「バカな魔女。今夜は月夜に負けるわけないでしょ」
 ロザリオの一振りでカリーナは白い炎と共に消えた。
「さて」
 振り向くが、外された木の枷だけが残っていた。
「ち!逃げやがった」
 アキセは逃げていた。
「まあいいっか。もう遅いし。帰って寝るか」とした時に、何かが光っていた。正体を確かめると、それは指輪だった。



 翌日の昼。
 ジャンヌは町のカフェで紅茶を飲んでいた。
 あの後、アキセが後処理したらしく、怪盗に関する目撃者の記憶と記録を消された。つまり、アキセの逮捕がなかったことにされた。
 手際のいいこと。
 アキセに前科をつけそこなったが、怪盗として捕まえた実感を得たからいいか。思い出しただけでも、笑ってしまい、あの時の達成感はもう忘れない。
「さて、どうしようかな」
 アキセの指輪を見ていた。
こうさくの魔女コルン・ゴボルドが取り戻したかった発明品の一つ。ジャンヌが持っていても意味がないため、コルンに渡すかと決めた時だった。
 物音がした。視線を向けば、向かい側の席に誰かが座っていた。
「やっぱ、ジャンヌが持っていたか・・・」
 息を上がりながらアキセが顔を上がる。
「まだいたのか。怪盗」
「もう怪盗じゃないって・・・」
 アキセが汗をかき、疲れ切ったように言う。
「その様子だと一晩かけて情報をもみ消したのね。ご苦労なことを」
「あんなもの残して溜まるものか・・・」
 アキセにとっては黒歴史のようだ。あの羞恥は、この町の歴史になるほど残してほしかった。
「なあ、それ返してくれないか」
「あんたに返したって得がない」
「そのセリフそのまま返す」
「そうね。だからコルンに返すわ」
 テーブルから立ち去ろうとしたが、アキセがジャンヌの腕を引っぱり、頬にキスされると思ったがしなかった。
「昨日の仕返し」と耳元で囁く。
 不機嫌な顔で返す。キスされるのも嫌だか、キスしないのもからかっているようで嫌になる。
 その時警察が視界に入った。
「ぎゃあああああああああああ」と叫び声を上げる。
「おま!」
「助けて~急に触ってきたの!痴漢!」
 か弱い少女のように演じるジャンヌはアキセに舌を出す。
「そこの君!」
 警察が近づいてくる。
「やば」とアキセは逃げ出す。
「待て~」と警察は追いかける。
「ざまあ」と小さく呟くが、手にはいつの間にか指輪がなかった。手際のいいことに。
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