魔女狩り聖女ジャンヌ・ダルク サイドストーリー篇

白崎詩葉

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借名した末路④

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 ウソ泣きして逃げやがった。
 静かになった夜の街を駆け巡る。
 ジャンヌは、二度と自身の姿を使わせないために。
 アキセは、だまされた腹いせに。
 レオンも騙された腹いせに。たぶん。
 理由は違えど目的は一緒だった。
「こっち!」
 レオンの精霊術で風を利用し、淫魔を捜索している。
 レオンの誘導で辿りついたが、青ざめる。
「あなたね。私の名を使っている淫魔って」
 よきの魔女リリス・ライラ・ウィッチャーがいた。
 腰までに長い金髪。胸が黒いコルセットのようなもので留められている。腰に生えた黒い翼は黒く輝いている。腰に長いドレスのような黄色の布を巻き、左足に黒い紐が結んでいる。
広場の中の噴水の前で優雅に座っている。
「リリス・・・」
 淫魔は怯えていた。
「だいだい想像はしていたけど、ここまで醜いとはね」
 リリスは見下ろす。
「私の名前を使って、他の淫魔を近づけないようにしたところかしら」
 この地域でリリスが出現していると噂が流れていた。関わらないように離れるつもりだった。しかし、その噂は、そこの淫魔が画策で流したものだったようで、どっちにしても結局リリスに会ってしまった。
「別にいいのよ。私人気者だから。真似とか名前を使われるとかある程度は目をつぶってるの。それに」
 リリスは淫魔を見つめる。
「何よ」
「その手段使うのって大半、終わってる淫魔だから。気にしていないわ」
 リリスは無邪気に笑う。
 その手段を使う淫魔は小者として見る価値はないということなのだろうか。
「終わってる淫魔ですって・・・」
 淫魔は怒りを込める。
「なんで相手を誘惑する淫魔が相手に合わせなきゃいけないのよ」
 リリスは答える。
「淫魔はね。自身を魅せてこそ意味があるのよ。それなのに、相手に合わせて誘惑するってことは、もう自分に自信がないってことなの。別に戦略として使うなとは言わせないけど。ただ淫魔としては終わっているよね」
 リリスはあざ笑う。
「笑うな!おまえに何が分かる!」
 淫魔は吠える。
「こんな姿で淫魔として生きられると思うのか。淫魔のプライドなんて知るか!生きるために手段は選んでいられるか!見かけだけの年増に言われる筋合いがない!」
 言ってはいけないことを言った。
「別にこれくらいで怒らないわよ。そこまで短気じゃないもの」
 嘘だろう。
「分かった!」
 リリスが何か閃いたようだ。
「あなたに自信を持たせてあげる」とリリスが指を鳴らすが、何も起きなかった。
「何をした?」
 不細工な淫魔が言う。
 リリスは、黒いモヤを手の中に包み、縦長い鏡を生み出す。
「見てごらん」
 鏡の中の淫魔は、別人で思えるほどの美人になっていたが。
「これって・・・」
「どう。生まれ変わった気分は?」
「そうよ。これが私の求めた姿よ!」
 鏡の中は美人だか、現実は醜い姿のままだった。
 おそらくリリスは淫魔に『タタリ』をかけたのだろう。見た目が変わることなく、自身に幻惑するように。
「さあ!やりまくるわよ!」と高らかになりながらどこかに行った。
「さてどうなることかな」
 リリスはにやつく。
 もう不細工な淫魔はこれからろくなことにならないだろう。
――まあ、気にするつもりはないけど
「あ~コゼット。こんなところにいたの?」
 リリスはこちらに気付く。
「やば」
 反対に逃げるレオンだったが、リリスが瞬時にレオンの頭を踏み、逃亡を防がれた。
 いつの間に。
「あら、思わずやっちゃった。まあいっか。すぐ直るし」
 レオンは、リリスの契約で死ぬことも年も取ることもない。
 リリスは、足をどけ、気絶したレオンを人形のように引きずる。
「さ。帰りましょ」
 リリスはジャンヌに視線を向く。
「あなた。白の聖女のジャンヌ・ダルクでしょ」
「違います」
「名前、覚えたから」と黒い羽から出た黒いモヤにレオンごと包まれる。晴れた時には姿はなかった。
 ジャンヌは、リリスのあの一言で鳥肌が立った。
 この世で最強と言われ、絶対に目をつけてはいけない魔女に覚えられてしまった。
「目つけられたああああああああああああああ」
 泣き叫ぶジャンヌだった。


 数日経ってのことだった。
 おかしな淫魔の話を聞いた。
 自身の姿と似合わずに美人だと言い張る淫魔がいた。周囲の淫魔に小馬鹿にしていたが、淫魔は逆に疑問を抱いた。
 なぜ、こんなに綺麗になったのにバカにされているのだと。
 まだ磨きが足りないと感じたのか、自身を磨くところが、さらに自身を醜くしていた。
 そうとは気づかず、いつまでも疑問は消えず、美を求めて自身を醜くしていた。
 結局、その淫魔は肉塊になっても美を求めているという。
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