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豪火の魔女②
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「落ち着きましたか」
「はい」
ジャンヌとトールが家で夕食を食べ始める頃だった。
「まだあの男がいるかもしれません。男が完全にいなくなるまでは家にいたほうがいいかもしれません。まだ家までは見つかってはいないと思いますから」
「そうします」
あの男を思い出しただけでなぜか鳥肌が立ってしまう。関係者だとしても反射的に会いたくない。
「あれから1週間も経ちましたけど、どうですか?」
「いいえ。名前しか・・・」
どうしても名前までしか思い出せない。
「そうですか。無理しなくてもいいですよ」
「はい」
「あの時、川で倒れていた時は本当に驚きましたよ」
「今でも感謝しております」
「怪我人を救うのが医者の本望ですから」
トールは笑う。
「では、夕飯が冷める前に頂きましょ」
「はい、いただきます」
ジャンヌとトールは、夕飯を食べ始める。
「なるほどな」
その会話を家の外から聞いていたアキセが状況を理解した。
ジャンヌはなぜか記憶を失っていること。いつものことで魔女と何かと戦ったんだろと推測立てる。
「ん~。もしかしたら・・・」
「はい、今日はここまでにしとくよ」
この町の医者であるトールは、患者の家で診療し、道具を片付けているところだった。
「先生。あのジャンヌちゃんは元気か」
患者の老婆のキヨがいう。
「元気ですよ。今家にいますよ。」
「昨日不審者が現れたって騒いでいたね」
「あの時、ジョンさんのおかげで助かりました。後でお礼を言わないと」
「そういえば、先生」
「何ですか」
「狙っていませんか。ジャンヌさんのこと」
急な話題を変えたことに、手元を滑ってしまう。
「何を言っているんですか。キヨさん!」
思わず顔を赤くして言う。
「あんな美人さん。ほっとけないでしょ。」
「からかわないで下さい」
「先生とぴったりだと思ったんだけどね」
キヨは、がっかりした様子だった。
「あと昨日、山の村で火事が起きたって」
「火事?気付かなかった」
「けっこう大きい火事だったらしいよ。死人が出たんじゃないかのう」
「原因は?」
「さあ、話を訊いたくらいだからね。よく知らん。あんまり考えたくはないけど、魔族(アビス)か魔女の仕業っていうのもあるかもしれないなあ」
「これで終わりよ。死にな!」
誰かの首を絞められながら言ってきた。
下は崖で木が小さく見えるほどの高さだった。
誰かが女の腹を剣が刺し込んだ。
「道ずれにしてやるわ!」と女を刺した剣を掴み、崖の下へ一緒に落ちる。
ジャンヌは、机の上で眠っていた。どうやら夢を見ていた。
「あれ?いつの間に寝ていたのね」
体を起こし、手を頭に当てる。
「夢だった。でもあれは・・・」
と思い返しながら、顔を上げる。
「やっと起きたか?」
ジャンヌの向かい側に昨日の男が座っていた。
「きゃ!」
目の前にいた男に驚きに椅子を倒すほど勢いよく立ち上がる。
「いい反応だ」
男は近づいてくる。
「あなた・・・どこから・・・」
怯えながら下がっていく。
「そんなに怯えることないだろうが。おまえは俺のフィアンセなんだから」
「ウソですね」
「そこは即答かよ」
フィアンセと言われた時、なぜか鳥肌が立った。それに思わず否定をした。
「まあいいや。俺はアキセだ。まさか、記憶喪失だったとは。そりゃ不審者って言われても仕方ないかな」
アキセは徐々に近づく。
「来ないでください・・・」
「いや~かわいく怯えるジャンヌも新鮮でいいわ」
その時、頭の中で何かが甦る。
裸にさせられたり、胸を触られたりとアキセの記憶が甦った。
「あ!この人!」
「お、思い出したのか」
「私を裸にさせたり、胸を触ったり、不審者じゃないわ。本当の変質者。このヘンタイ!」
アキセに向かって叫ぶ。
「え、何、俺のことそう見てたの。なぜ肝心なとこ覚えていないわけ…」
アキセは落ち込んでいるようだ。だか、そんな彼を同情する気は全くない。
「来ないで!」
ジャンヌは下がっている内に壁にぶつかる。
逃げようとしたが、アキセが壁に片手を当て、行く手を阻む。
「そんな逃げなくてもいいだろ。おまえの記憶を呼び起こそうと、エンジェライトを取りにいったんだぜ」
アキセの手に白く輝く宝石を取り出す。
「このところ曇ってる日が続いたから、『光』が少なく、記憶も思い出さないだろう。これで思い出すはず・・・」
アキセの手が止まる。
アキセは瞬時に思いつく。
いや、待てよ。こんなかわいげのあるジャンヌを見るなんて、もうないかもしれないぞ。ちょっとくらい。
ジャンヌはアキセが何か考え込んでいる様子だったので、隙間からすり抜け、そのまま家から飛び出す。
「あ!逃げるなって!」
アキセは、ジャンヌを追いかける。
「はい」
ジャンヌとトールが家で夕食を食べ始める頃だった。
「まだあの男がいるかもしれません。男が完全にいなくなるまでは家にいたほうがいいかもしれません。まだ家までは見つかってはいないと思いますから」
「そうします」
あの男を思い出しただけでなぜか鳥肌が立ってしまう。関係者だとしても反射的に会いたくない。
「あれから1週間も経ちましたけど、どうですか?」
「いいえ。名前しか・・・」
どうしても名前までしか思い出せない。
「そうですか。無理しなくてもいいですよ」
「はい」
「あの時、川で倒れていた時は本当に驚きましたよ」
「今でも感謝しております」
「怪我人を救うのが医者の本望ですから」
トールは笑う。
「では、夕飯が冷める前に頂きましょ」
「はい、いただきます」
ジャンヌとトールは、夕飯を食べ始める。
「なるほどな」
その会話を家の外から聞いていたアキセが状況を理解した。
ジャンヌはなぜか記憶を失っていること。いつものことで魔女と何かと戦ったんだろと推測立てる。
「ん~。もしかしたら・・・」
「はい、今日はここまでにしとくよ」
この町の医者であるトールは、患者の家で診療し、道具を片付けているところだった。
「先生。あのジャンヌちゃんは元気か」
患者の老婆のキヨがいう。
「元気ですよ。今家にいますよ。」
「昨日不審者が現れたって騒いでいたね」
「あの時、ジョンさんのおかげで助かりました。後でお礼を言わないと」
「そういえば、先生」
「何ですか」
「狙っていませんか。ジャンヌさんのこと」
急な話題を変えたことに、手元を滑ってしまう。
「何を言っているんですか。キヨさん!」
思わず顔を赤くして言う。
「あんな美人さん。ほっとけないでしょ。」
「からかわないで下さい」
「先生とぴったりだと思ったんだけどね」
キヨは、がっかりした様子だった。
「あと昨日、山の村で火事が起きたって」
「火事?気付かなかった」
「けっこう大きい火事だったらしいよ。死人が出たんじゃないかのう」
「原因は?」
「さあ、話を訊いたくらいだからね。よく知らん。あんまり考えたくはないけど、魔族(アビス)か魔女の仕業っていうのもあるかもしれないなあ」
「これで終わりよ。死にな!」
誰かの首を絞められながら言ってきた。
下は崖で木が小さく見えるほどの高さだった。
誰かが女の腹を剣が刺し込んだ。
「道ずれにしてやるわ!」と女を刺した剣を掴み、崖の下へ一緒に落ちる。
ジャンヌは、机の上で眠っていた。どうやら夢を見ていた。
「あれ?いつの間に寝ていたのね」
体を起こし、手を頭に当てる。
「夢だった。でもあれは・・・」
と思い返しながら、顔を上げる。
「やっと起きたか?」
ジャンヌの向かい側に昨日の男が座っていた。
「きゃ!」
目の前にいた男に驚きに椅子を倒すほど勢いよく立ち上がる。
「いい反応だ」
男は近づいてくる。
「あなた・・・どこから・・・」
怯えながら下がっていく。
「そんなに怯えることないだろうが。おまえは俺のフィアンセなんだから」
「ウソですね」
「そこは即答かよ」
フィアンセと言われた時、なぜか鳥肌が立った。それに思わず否定をした。
「まあいいや。俺はアキセだ。まさか、記憶喪失だったとは。そりゃ不審者って言われても仕方ないかな」
アキセは徐々に近づく。
「来ないでください・・・」
「いや~かわいく怯えるジャンヌも新鮮でいいわ」
その時、頭の中で何かが甦る。
裸にさせられたり、胸を触られたりとアキセの記憶が甦った。
「あ!この人!」
「お、思い出したのか」
「私を裸にさせたり、胸を触ったり、不審者じゃないわ。本当の変質者。このヘンタイ!」
アキセに向かって叫ぶ。
「え、何、俺のことそう見てたの。なぜ肝心なとこ覚えていないわけ…」
アキセは落ち込んでいるようだ。だか、そんな彼を同情する気は全くない。
「来ないで!」
ジャンヌは下がっている内に壁にぶつかる。
逃げようとしたが、アキセが壁に片手を当て、行く手を阻む。
「そんな逃げなくてもいいだろ。おまえの記憶を呼び起こそうと、エンジェライトを取りにいったんだぜ」
アキセの手に白く輝く宝石を取り出す。
「このところ曇ってる日が続いたから、『光』が少なく、記憶も思い出さないだろう。これで思い出すはず・・・」
アキセの手が止まる。
アキセは瞬時に思いつく。
いや、待てよ。こんなかわいげのあるジャンヌを見るなんて、もうないかもしれないぞ。ちょっとくらい。
ジャンヌはアキセが何か考え込んでいる様子だったので、隙間からすり抜け、そのまま家から飛び出す。
「あ!逃げるなって!」
アキセは、ジャンヌを追いかける。
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