上 下
16 / 642

野獣の夜 ①

しおりを挟む
 顔が見れなかったが、とても見覚えたがあった。
「見~つけた♡」
 高い声がした。そして徐々にアヒルの口のように尖らせ、顔に接近する。

 わああああああああああああああああああああ!
 悲痛の叫びを上げながら、アキセは目を覚ます。
 宿で女を捕まえ、夜を過ごし、寝ていたところだった。
「どうしたのよ・・・叫んで・・・」
 隣で寝ていた女が目をこすりながら言う。
「なんでもない・・・」
「そう」
 女は再び寝る。
「ヤバい…ヤツが来る…」
 体中に冷や汗をかいていた。



「どうしよう」
 ジャンヌは悩んでいた。
 現在、海のように広い湖の港にいる町に滞在していた。
 次の街に行こうとしたが、ここからでは、歩いて1週間とかかるらしい。だか、船に乗れば3日で着くという。
 だか、ジャンヌは乗りたくなかった。なぜなら、泳げないからだ。炎を扱うのか、反射的に水が苦手になっている。旅先も水辺を避けるようにしていた。
 急ぎの旅でないため、仕方なく歩くことに決めた時だった。
「泥棒!捕まえて~」
 唐突に女が叫ぶ。
 男がバッグを持って走っていた。
「どけ!」
 男は懐からナイフを取り出し、ジャンヌに迫ってくる。
 腕を伸ばし、男の首に当て、勢いを殺さずに地面に叩きつける。
 男は呻き声を上げる。
 さらに念を入れて、股間に思いっきり踵を落とす。
 一撃必殺の衝撃なのか、男は気を失う。
 

 男は警察に引き渡し、小さな事件は解決した。
「ありがとうございます」
 被害者である女性にお礼を言われる。
「いえいえ」
 水色の長髪。黄色の瞳。ロングスカートとシャツとブラザー。10代後半くらいの女性だった。
 なぜか妙な違和感をした。
「何かお礼をしなければ」
 女は考え込む。
「あの~もしかして船に乗る予定でした?」
「え?」
 急なことで思わず、声を出した。
「よかった~。私も乗ろうとおりまして、お礼を兼ねて、乗船代払いますよ」
「あ、私、歩いて行こうかと・・・」
「長旅になりますよ。さ~遠慮なさらずに!」
 女はジャンヌの手を引っ張る。
「ちょ!話を・・・」
「そうだ、私の名前は、オリビアと言います」
 ジャンヌはなさるがままに船に乗ることになった。



「どうしよう。乗っちゃった」
 顔に手を当てながら悔やんでいた。
 月に照らされながら、船は湖の上を遊覧していた。
 ジャンヌは船の柵に傾けていた。
 大きい帆船で3本のマストに帆を張られている。
 夜風が船を動かしていく。
 なぜか、船に乗ってから、乗船してからオリビアの姿を見失った。
 誘っておきながらどこにいったのだろうか。
追及するつもりはない。
 今は。
「早く降りたい・・・」
 溜息交じりでつぶやく。
 静けさの中で妙な視線が交じり、ロザリオを後ろに払う。
 2,3人切った感覚した。見れば、上半身、腕、頭を失くした人間のようなものが倒れていた。顔を見上げれば、黒い騎士風に格好した人に囲まれていた。彼らには赤い刃を持っている。
「吸血鬼(ヴァンパイア)」
 吸血鬼(ヴァンパイア)。血を好む魔族(アビス)でありながら、月の『光』に抗体がある分、日の『光』に弱い種族。
 相手が魔女でなければ、問題がないが、今回は環境が悪かった。
 船の上で、しかも他の客も紛れている。派手に動けないが、それでもジャンヌは、吸血鬼(ヴァンパイア)を蹴散らす。
「私がいる時に襲うなんて。運が悪いわね」
 悪意を見せるジャンヌに吸血鬼(ヴァンパイア)が怯えている。
「大将を出しな」
 ジャンヌは言い放つ中。
「まさか、聖女様がご同行とは」
 低い声がした。吸血鬼(ヴァンパイア)たちが道を開く。
 どうやら大将がきたようだ。
「あんたが大将でいいかしら」
 吸血鬼(ヴァンパイア)たちは道を開く。
 黒髪。赤目。黒い騎士の格好した男だった。
「はい、私、この部隊の隊長を務めるアンザム・バリスと申します」
「ご丁寧にどうも。どうせ食事用の人間を狩ってきたところでしょ」
 吸血鬼(ヴァンパイア)の世界では、最古の魔女であるひじゅうの魔女カーミラ・リア・ルージュにより貴族制で成り立っている。貴族の食事用に下級の吸血鬼(ヴァンパイア)が人間を狩ることがある。その狩りに鉢合わせたところだろう。
「いいのか。ここの人間を殺すことになるか」
「その前にあんたたちをつぶ・・・」
 殺意を込めてロザリオを振ろうとしたが、唐突に膝をつく。
――なんで。急に体が。
 動けない。体中に痺れを感じる。どう考えても、毒を盛られたしか考えられない。
 だか、いつ盛られた。
 聖女はいつ狙われてもおかしくない。魔女以外でも敵はいるからだ。『呪い』の病気はかからないが、怪我や病気にかかることを知って、狙う者も少なくない。
 日頃から警戒は怠っていない。
 だか、覚えがなかった。
「おや、どうしましたか?」
 アンザムが声をかける。
 まずい。今は逃げなくては。動こうにも体が言うことを利かない。
「捕らえろ」
 アンザムは、部下に指示を下した。
 何も抵抗できなかった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

瓦礫の上の聖女

基本二度寝
恋愛
聖女イリエーゼは王太子に不貞を咎められ、婚約破棄を宣言された。 もちろんそれは冤罪だが、王太子は偽証まで用意していた。 「イリエーゼ!これで終わりだ」 「…ええ、これで終わりですね」

側妃ですか!? ありがとうございます!!

Ryo-k
ファンタジー
『側妃制度』 それは陛下のためにある制度では決してなかった。 ではだれのためにあるのか…… 「――ありがとうございます!!」

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

絶対に間違えないから

mahiro
恋愛
あれは事故だった。 けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。 だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。 何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。 どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。 私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。

我儘女に転生したよ

B.Branch
ファンタジー
転生したら、貴族の第二夫人で息子ありでした。 性格は我儘で癇癪持ちのヒステリック女。 夫との関係は冷え切り、みんなに敬遠される存在です。 でも、息子は超可愛いです。 魔法も使えるみたいなので、息子と一緒に楽しく暮らします。

私も処刑されたことですし、どうか皆さま地獄へ落ちてくださいね。

火野村志紀
恋愛
あなた方が訪れるその時をお待ちしております。 王宮医官長のエステルは、流行り病の特効薬を第四王子に服用させた。すると王子は高熱で苦しみ出し、エステルを含めた王宮医官たちは罪人として投獄されてしまう。 そしてエステルの婚約者であり大臣の息子のブノワは、エステルを口汚く罵り婚約破棄をすると、王女ナデージュとの婚約を果たす。ブノワにとって、優秀すぎるエステルは以前から邪魔な存在だったのだ。 エステルは貴族や平民からも悪女、魔女と罵られながら処刑された。 それがこの国の終わりの始まりだった。

うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生

野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。 普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。 そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。 そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。 そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。 うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。 いずれは王となるのも夢ではないかも!? ◇世界観的に命の価値は軽いです◇ カクヨムでも同タイトルで掲載しています。

セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち

ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。 クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。 それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。 そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決! その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。

処理中です...