魔女狩り聖女ジャンヌ・ダルク サイドストーリー篇

白崎詩葉

文字の大きさ
上 下
14 / 648

つぎはぎの男⑤

しおりを挟む
 馬を借り、2時間かかるところを1時間強に短縮した。
 ジャンヌは、町の中に入り、馬から下りる。
「『呪い』が増加している。魔女が現れたのは本当みたいね」
 黒いモヤがあちこちに散らばっている。明らかに魔女がいるようだ。
「どうやら住民は避難したようね」
 町の中を警戒しながら、歩いていたところで、黒い物体が襲ってくる。
 後ろに下がる。黒い物体の正体を確かめる。
「針?」
 ナイフくらいの大きさだった。
 ジャンヌはロザリオを構え、見回す。
「ち!避けるなよ」
 ジャンヌは屋根の上にいる少女を見上げる。
「あんた、魔女でしょ」
白いメイドキャップで後ろ髪を止めている。ワンピースを着て、大針を持っている少女だった。
「この盗人!」
「はあ?」
「よくも私の人形を惑わしたね!」
「何言っているのよ・・・」
 言いがかりにもほどがある。
「はあ!しらかばくれるんじゃないよ。たぶらし女!この繋目(つなぎめ)の魔女ユナ・クシャナが殺してやる!」
 ユナは、針をジャンヌに向けて投げ出すが、刃を作ったロザリオで針を浄化する。
「ユナって!?」
 あの獣人(デミ・ビースト)から聞いた魔女の名前だ。
 彼女が言っている人形とは獣人(デミ・ビースト)のことだろうが。
 魔女がこんな町まできたということは、獣人(デミ・ビースト)はこの町にいるのか。でも、どうしてと考える隙を与えることもなく、ユナは、針を構えて襲ってくる。


 外は騒がしい。どうやら魔女ユナが聖女ジャンヌ・ダルクと戦っているようだ。あの男が仕掛けた罠にはまった。
「よ~し、抜けたっと」
 いつの間にか男は、手足についた糸を解き、自由の身になっていた。
「じゃあな。化け物」
 男が立ち去ろうとしている。
 許せない。あの男をこのままにしてはいけない。獣人(デミ・ビースト)を落とし占め、ジャンヌを巻き込ませたことに。 
怒りに任せ、鎖が解け、檻をこわし、男を襲いかかる。
 男は異変に気付き、振り返る。
「え?マジ!?」


 所詮は魔女が『呪い』で作ったに過ぎない。
 体中から飛んできた針は、光の刃を作ったロザリオで浄化して消えるが、ユナが持っている大針は消えなかった。
 おそらく大針は、魔女が浄化しない限り、消えない。ロザリオへの対策をしている。
 聖女と戦う魔女は、『光』の消耗か『呪い』以外で殺す。前者は、『光』を消耗するば、『呪い』を浄化する力を失い、後者は『呪い』以外なら聖女は病気やケガをするからだ。
 今回は後者に当たる。
 それは、針が瓦礫や家の破片などに刺し、ジャンヌの元へ飛ばしてくる。
よく見れば、針の頭に穴が空き、糸が絡んでユナの手に繋がっている。
 針に刺した物を糸に繋げて操っていた。
 間接に殺しにきている。
 しかし、今は晴れており、『光』が無限に吸収できる。環境的には有利に立っている。
 負ける気はしないが、油断はできない。
 ユナがジャンヌに突っ込み、ロザリオと針のぶつかった時だった。
 突如、轟音が響いていた。
「何?」
 ユナが視線を向けた隙に、蹴りを入れ、建物に飛ばす。
 轟音した先を見れば、壊れたテントに視線を向く。
「ちょっと、待って!そんなに怒ってたの!悪かったって!」
 聞いたことのある声。
 予想通り、煙からアキセが飛び出す。
 その後を追う獣人(デミ・ビースト)。尋常ではない怒りを感じる。
 止めなくては。
「ち、獣らしく退治してやる!」
 アキセが獣人(デミ・ビースト)に銀色の銃を構える。
「やめんか!」
 アキセの顔にドスをきいた声をしたジャンヌが蹴りを入れ、近くの壁に飛んでいく。
 目を見開いた獣人(デミ・ビースト)は、すぐに勢いを止める。
 ジャンヌは華麗に獣人(デミ・ビースト)の前に着地する。
「なんでここにいるの」
 何もなかったように獣人(デミ・ビースト)に声をかける。
 獣人(デミ・ビースト)は、唸り声しか出さなかった。
「あんた?声は?」
 獣人(デミ・ビースト)は視線をアキセに向けていた。
 察しがついた。おそらくアキセの奪う魔力で獣人(デミ・ビースト)の声を奪ったのだろう。
「またあんたが・・・」といいかけたところで何かが飛んできたのを感じ、ジャンヌと獣人(デミ・ビースト)は咄嗟に避けるが、アキセは避けきれず、謎の物体にぶつかる。
 ジャンヌが正体を確かめると、それはアキセが糸で体中巻かれ、身動きが取れなくなっていた。
まあいい気味。
「もう!なんで鎖が解けているのよ!」
 ユナ・クシャナが怒鳴る。
 ジャンヌと獣人(デミ・ビースト)は警戒する。
「あれ、言葉はどうしたの?話せるはずだよね?」
 ユナは首をかしげる。
「まあいいわ。それはそれでいい人形になったし。そこの聖女を殺すまでおとなしくしてよ!」
 ユナが大針を大きく振り、糸の塊を出す。
 獣人(デミ・ビースト)に向かって糸の塊が飛ぶが、飛んできた白い炎が糸の塊を消す。
「はあ。邪魔なんですけど」
 ユナは、がんを飛ばす。
「邪魔なのは、あんたの方でしょうが」
 ジャンヌは、獣人(デミ・ビースト)の前に立つ。
「何言ってるの?」
「私、結構気に入っているのよ。彼に」
 ジャンヌは獣人(デミ・ビースト)に振り向く。
「だからさ。彼が困っている魔女の縁を切るって言っているの」
 ジャンヌはロザリオをユナに向ける。
「縁を切るって何よ・・・ふざけるな!」
 ユナが怒声を上げる。
「人形は連れ帰る!しつけし直してやる!あんたを串刺してからな!」
「もうあんたとこれ以上付き合う気はないわ。決着つけさせる!」
白い炎を向けて放ち、ユナの姿を見えなくするほど取り囲む。
「合図したら、魔女を襲って」
 獣人(デミ・ビースト)は静かに頷く。
 獣人(デミ・ビースト)ではユナに近づいたら、針でやられてしまう。
 だったら。
 ユナが白い炎を抜け、空へ逃げていく。
 よく見れば、大針を上に伸ばしている。
「今!」
 獣人(デミ・ビースト)はオオトカゲの足に力を込め、ユナの元へ跳ぶ。
 ロザリオを通して、大きく振るい、細い蛇のような白い炎を獣人(デミ・ビースト)に向ける。
 白い炎は、渦を巻きながら、獣人を囲む。
 ユナは体から針を飛び出すが、獣人(デミ・ビースト)に巻き付いた白い炎が浄化する。
 獣人(デミ・ビースト)はユナの首を噛みつき、ユナを大針から離す。ユナを首ごと回し、ジャンヌの元へ投げる。
ジャンヌは、白い炎を槍状に形を変え、ユナに向かって投げる。
 白い槍は、ユナの頭を貫く。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

冤罪で追放した男の末路

菜花
ファンタジー
ディアークは参っていた。仲間の一人がディアークを嫌ってるのか、回復魔法を絶対にかけないのだ。命にかかわる嫌がらせをする女はいらんと追放したが、その後冤罪だったと判明し……。カクヨムでも同じ話を投稿しています。

私も処刑されたことですし、どうか皆さま地獄へ落ちてくださいね。

火野村志紀
恋愛
あなた方が訪れるその時をお待ちしております。 王宮医官長のエステルは、流行り病の特効薬を第四王子に服用させた。すると王子は高熱で苦しみ出し、エステルを含めた王宮医官たちは罪人として投獄されてしまう。 そしてエステルの婚約者であり大臣の息子のブノワは、エステルを口汚く罵り婚約破棄をすると、王女ナデージュとの婚約を果たす。ブノワにとって、優秀すぎるエステルは以前から邪魔な存在だったのだ。 エステルは貴族や平民からも悪女、魔女と罵られながら処刑された。 それがこの国の終わりの始まりだった。

悪役令嬢は処刑されました

菜花
ファンタジー
王家の命で王太子と婚約したペネロペ。しかしそれは不幸な婚約と言う他なく、最終的にペネロペは冤罪で処刑される。彼女の処刑後の話と、転生後の話。カクヨム様でも投稿しています。

聖女召喚

胸の轟
ファンタジー
召喚は不幸しか生まないので止めましょう。

【完結】そして、誰もいなくなった

杜野秋人
ファンタジー
「そなたは私の妻として、侯爵夫人として相応しくない!よって婚約を破棄する!」 愛する令嬢を傍らに声高にそう叫ぶ婚約者イグナシオに伯爵家令嬢セリアは誤解だと訴えるが、イグナシオは聞く耳を持たない。それどころか明らかに犯してもいない罪を挙げられ糾弾され、彼女は思わず彼に手を伸ばして取り縋ろうとした。 「触るな!」 だがその手をイグナシオは大きく振り払った。振り払われよろめいたセリアは、受け身も取れないまま仰向けに倒れ、頭を打って昏倒した。 「突き飛ばしたぞ」 「彼が手を上げた」 「誰か衛兵を呼べ!」 騒然となるパーティー会場。すぐさま会場警護の騎士たちに取り囲まれ、彼は「違うんだ、話を聞いてくれ!」と叫びながら愛人の令嬢とともに連行されていった。 そして倒れたセリアもすぐさま人が集められ運び出されていった。 そして誰もいなくなった。 彼女と彼と愛人と、果たして誰が悪かったのか。 これはとある悲しい、婚約破棄の物語である。 ◆小説家になろう様でも公開しています。話数の関係上あちらの方が進みが早いです。 3/27、なろう版完結。あちらは全8話です。 3/30、小説家になろうヒューマンドラマランキング日間1位になりました! 4/1、完結しました。全14話。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

1人生活なので自由な生き方を謳歌する

さっちさん
ファンタジー
大商会の娘。 出来損ないと家族から追い出された。 唯一の救いは祖父母が家族に内緒で譲ってくれた小さな町のお店だけ。 これからはひとりで生きていかなくては。 そんな少女も実は、、、 1人の方が気楽に出来るしラッキー これ幸いと実家と絶縁。1人生活を満喫する。

仰っている意味が分かりません

水姫
ファンタジー
お兄様が何故か王位を継ぐ気満々なのですけれど、何を仰っているのでしょうか? 常識知らずの迷惑な兄と次代の王のやり取りです。 ※過去に投稿したものを手直し後再度投稿しています。

処理中です...