魔女狩り聖女ジャンヌ・ダルク サイドストーリー篇

白崎詩葉

文字の大きさ
上 下
6 / 648

糸巻の魔女①

しおりを挟む
「今日も野宿かな」
 日が傾き、赤くなった空を眺めながらジャンヌは歩いていた。
「さて、寝床を探さないと」
 一歩前に歩いた瞬間。
 目の前でドスッと岩石が落ちたような重い音がした。
 あと一歩早ければ、巻き込まれるところだった。
 咄嗟に後ろへ下がり、ロザリオに手をかける。
 土煙に黒い影が映る。
「げほ、げほ、変なところに落ちた」
 聞いたことがある声だった。やがて、土煙が止んだ。
 金髪の長い髪。シャツに短いスカートをはいているエルフの少女だと思ったが、声が男だった。それに見覚えがある顔だった。
「もしかして…レオン?」
 女装したレオンだった。
 以前、よきの魔女リリス・ライラ・ウィッチャーに復讐するためにナリカケを作る事件があった。その時に一緒に協力した間柄だった。
「は?あ、おまえ!この間の短気聖女!」
 レオンは、ジャンヌに指を指す。
「何よ。その言い方」
 失礼な発言にジャンヌは眉を吊り上げる。
「あなた・・・どうして上から落ちてきたの?危うく巻き込まれそうになったけど」
「逃亡経路に失敗した」
 レオンが悔しそうに言う。
「逃亡?あ~リリスから逃げてきたでしょ」
「そうだよ」
 レオンは、よきの魔女リリス・ライラ・ウィッチャ―の子供でエルフの血を引いたリリムである。特に彼は、リリスのお気に入りでとても可愛がっている。その可愛い方が尋常ではない。想像もつかないようなことをしているらしい。レオンが男として以前に生き物の扱いをしていないと聞く。
嫌になっていつも逃げ出しているという。
「その服もまた『呪い』で作っていないでしょうね」
 前回会った時に、知らずに『呪い』で作った服に触れた時、浄化され、服を破けたことがあった。それで彼が女装した男だと初めて知った。
「今回は本物だ。でも・・・今回男物の服がない・・・」
 レオンは口惜しがる。
「・・・そう」
「リリスが俺の隠した男服を燃やすんだ。しかも目の前で。誰が着るんだろうと言ってさ」
 レオンは苦労しているようだ。
「まだ女装させるだけでまだマシか・・・人形のように弄ぶし。生き物すら見てねえ」
 魔女は基本何を考えているのか分からない。考えるだけ無駄。どの魔女もまともではないからだ。
ジャンヌはふと気づいたことをレオンに問いかける。
「ねえ、そんなに逃げたって、すぐに連れて帰るんじゃないの?懲りないの?」
 レオンがリリスのお気に入りなら手放したくない。外に出ないように閉じ込めるような気がする。
「俺だって・・・無意味だって分かっても逃げ出したいんだ・・・」
 自覚はしていた。
「俺・・・リリスと契約されて逃げられないんだ」
「え?契約?」
 魔女の契約ほど面倒くさいものはない。
 魔女と契約を結ぶのは、首輪に繋がれているような状態で、魔女が解除されない限り、自由を奪われる。契約内容はそれぞれだが、その契約を破かれたら、どう裁かれるのか、想像はつかない。運が良くて、怪我して生きて帰ればいい方。
 レオンは、素直に契約内容を話してくれた。

 いい。よ~く聞きなさい。
 あなたは、私が死なない限り、死ぬことも老いることもない。
 つまり一生愛らしい姿にいられるってこと。
 例え、バラバラに引き裂いても、燃え尽きて死んでも生き返れるのよ。
 嬉しいことでしょ。
 後ね。あなたが嫌がって逃げてもかまわないのよ。
 だって怯える兎って愛らしいでしょ。

「ウサギじゃない!」
「そこに突っ込むの」
 相当気に入っているらしい。リリスがそこまでやるとは。リリスが生きている限り、老いることや死ぬことができない。この世で最強と言われるリリスを倒すことなんて、誰もできないことだ。つまり、レオンは一生リリスのおもちゃとなる。
「もう嫌だ!こんな生活!誰かあああああああ。俺を自由に解放させてくれー」
 地面に叩きつけ、悲痛な叫びをする。
 レオンの事情と苦労を知ってしまい、いろいろと哀れみを感じてしまう。
 涙目になったレオンがジャンヌに振り向く。嫌な予感。
「リリスを…」
「断る」
「なんで!まだ何も言っていないじゃないか!」
「言わなくても話の流れからして、リリスを殺してほしいとかでしょ。いやよ。相手はこの世界で最強と言われる魔女よ。それに面倒くさそう」
 それが一番の理由だった。
 リリスを倒すとなると、黒女神(シュバルツ)と戦うのと同じくらい総力戦になる。古の聖女のイヴとマリアと互角な戦いが続くかどうかだ。
 いろいろと想像以上なことになるかもしれない。考えるだけで鳥肌がたつ。
「それにリリス死んだら、あなたも死ぬんじゃないの?」
 魔女の契約によって、魔女が死んだら、共倒れする場合もある。レオンからの話からして共倒れになる。
「リリスから解放されるなら、死んでもいい!」
「自殺願望か!」
「じゃあ、せめてこの契約解除とかできないのか?」
 必死にせがんでくるレオン。
「いや、それはそれで面倒くさくなるから嫌よ」
 もし契約解除されたと分かったら、リリスに何されるか想像もつかない。
「それに聖女は魔女の契約を解除できると思わないでよ。そこまで聖女は万能じゃないの」
「ち!使えねえな!」
「ああ」
 ドスのきいた声を出す。生意気な言葉にイラつくが立ち、ゴツっとレオンの頭を殴る。
「なんだよ!」
「失礼なこと言ったから。それにこれ以上話が続いたら夜になるわよ。暗くなる前に寝床を探したいから、さようなら」
 赤かった空が徐々に暗くなっていた。ジャンヌは歩き出そうとしたが足が止まる。
「そういえば・・・」
 ジャンヌは見回し、果実を見つけ、木からもぎ取る。
「ちょっと」
 レオンに声をかける。
「ああ!」
 不機嫌な声で返したレオンが、振り返ったところで果実を投げる。
 レオンは片手で果実を受け取る。
「なんだよ。これは」
「ナリカケの時、手伝ったお礼」
 以前ナリカケ退治に協力し、お礼もしてなかった。
「安」
 レオンは、果物をかじる。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

冤罪で追放した男の末路

菜花
ファンタジー
ディアークは参っていた。仲間の一人がディアークを嫌ってるのか、回復魔法を絶対にかけないのだ。命にかかわる嫌がらせをする女はいらんと追放したが、その後冤罪だったと判明し……。カクヨムでも同じ話を投稿しています。

悪役令嬢は処刑されました

菜花
ファンタジー
王家の命で王太子と婚約したペネロペ。しかしそれは不幸な婚約と言う他なく、最終的にペネロペは冤罪で処刑される。彼女の処刑後の話と、転生後の話。カクヨム様でも投稿しています。

私も処刑されたことですし、どうか皆さま地獄へ落ちてくださいね。

火野村志紀
恋愛
あなた方が訪れるその時をお待ちしております。 王宮医官長のエステルは、流行り病の特効薬を第四王子に服用させた。すると王子は高熱で苦しみ出し、エステルを含めた王宮医官たちは罪人として投獄されてしまう。 そしてエステルの婚約者であり大臣の息子のブノワは、エステルを口汚く罵り婚約破棄をすると、王女ナデージュとの婚約を果たす。ブノワにとって、優秀すぎるエステルは以前から邪魔な存在だったのだ。 エステルは貴族や平民からも悪女、魔女と罵られながら処刑された。 それがこの国の終わりの始まりだった。

聖女召喚

胸の轟
ファンタジー
召喚は不幸しか生まないので止めましょう。

【完結】そして、誰もいなくなった

杜野秋人
ファンタジー
「そなたは私の妻として、侯爵夫人として相応しくない!よって婚約を破棄する!」 愛する令嬢を傍らに声高にそう叫ぶ婚約者イグナシオに伯爵家令嬢セリアは誤解だと訴えるが、イグナシオは聞く耳を持たない。それどころか明らかに犯してもいない罪を挙げられ糾弾され、彼女は思わず彼に手を伸ばして取り縋ろうとした。 「触るな!」 だがその手をイグナシオは大きく振り払った。振り払われよろめいたセリアは、受け身も取れないまま仰向けに倒れ、頭を打って昏倒した。 「突き飛ばしたぞ」 「彼が手を上げた」 「誰か衛兵を呼べ!」 騒然となるパーティー会場。すぐさま会場警護の騎士たちに取り囲まれ、彼は「違うんだ、話を聞いてくれ!」と叫びながら愛人の令嬢とともに連行されていった。 そして倒れたセリアもすぐさま人が集められ運び出されていった。 そして誰もいなくなった。 彼女と彼と愛人と、果たして誰が悪かったのか。 これはとある悲しい、婚約破棄の物語である。 ◆小説家になろう様でも公開しています。話数の関係上あちらの方が進みが早いです。 3/27、なろう版完結。あちらは全8話です。 3/30、小説家になろうヒューマンドラマランキング日間1位になりました! 4/1、完結しました。全14話。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

1人生活なので自由な生き方を謳歌する

さっちさん
ファンタジー
大商会の娘。 出来損ないと家族から追い出された。 唯一の救いは祖父母が家族に内緒で譲ってくれた小さな町のお店だけ。 これからはひとりで生きていかなくては。 そんな少女も実は、、、 1人の方が気楽に出来るしラッキー これ幸いと実家と絶縁。1人生活を満喫する。

仰っている意味が分かりません

水姫
ファンタジー
お兄様が何故か王位を継ぐ気満々なのですけれど、何を仰っているのでしょうか? 常識知らずの迷惑な兄と次代の王のやり取りです。 ※過去に投稿したものを手直し後再度投稿しています。

処理中です...