魔女狩り聖女ジャンヌ・ダルク サイドストーリー篇

白崎詩葉

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10月31日⑤

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「もう信じられない!あんなのあるなら、最初からやってよ!」
 町の外れに走っていた。
「え。いや~ちょっとやりたがったし。裁判」 
「私もやりたいわよ。裁判にかけて、あんたを死刑になるところを!」
 目に浮かぶ。処刑台で大きいオノで首をはねるところを。
 でも、今は魔女狩りが最優先。
空を見上げれば、薄ら明るくなっている。もうすぐ夜明けになる。
 町の奥から黒いモヤが漂っていた。
 魔女はこの先にいる。
「んだよ。これで協力してやるんだから。水に流せよ」
 絶対にこれから何度も聞くセリフになると呆れながらも、不気味な木のトンネルを抜け、墓場に着いた。
 地面に埋め込まれた石板が等間隔で並んでいた。石板の前に遺体が埋められている。 墓場から『呪い』が溢れていた。
おそらく魔女がここにいる。
「なんだ。もう来たのね」
 墓石の上でサリーナが足を組みながら座っている。
「さて、あと15分で日が昇りま~す。それまでに倒されなければ、この町の魂を抜き取り、私の一部となりま~す!」
 声を高らかに言う。
「その前に殺す」
「何言ってるの。聖女にそんなことは関係ない」
 『光』がある限り魔女の力は効かない。
「俺は関係あるんですけど」とアキセが横から言うが、無視する。
「けど、聖女は一応人間守るのも仕事でしょ」
 聖女は、魔女から人間を守るのも仕事の内。善意で助けていない。
「いくら操られたからって、あの人間たちを守るのも癪だけど。あんたに私を見世物にしたことを後悔させてやる」
ジャンヌはロザリオに刃を作りながら、サリーナに突っ込む。
「はは。やれるもんならやってみなさいよ!」
 笑った表情を殺意に変えるサリーナも箒を持ち、ジャンヌに向かってくる。
サリーナの箒とジャンヌのロザリオが混じる。
『呪い』で作った箒は、サリーナの『呪い』が消耗しない限り消えない。
 さらに箒とは思えない金属音がする。
 箒を槍のように振り回し、穂先で突く。
 ジャンヌはかわしながら、回し蹴りでサリーナの頭に当たり、ふらついたと思いきや、サリーナはその勢いで箒を上に上げ、ハンマーのように地面に叩く。
 思わず避けたが、よく見れば、穂先が石のように固まり、地面が割れていた。
――なんなのよ。その箒
手を伸ばして白い炎を打つ。
 サリーナは、にやっと笑う。
 穂先に戻り、大きく振り、黒いモヤを生み出し、白い炎を消す。流れるようにサリーナは箒を下に構え、「ドーン」と陽気に言った瞬間に穂先が発射する。
 穂先に白い炎を撃ち、浄化するが、石が四方八方に飛ぶ。
 まさか、穂先の中に石が入っているとは思わなかった。
 石が目の前に来た時だった。
 石が唐突に砕けた。
「危ないところでしたね」
 声をした方へ向けば、アキセが銀色の銃を構えていた。
 その時アキセの背後から刃物が見えた。
 アキセは察したのか、前に飛びながら振り返る。
カボチャとカブの頭をした人形が二つ浮いていた。
 ボタンの目。糸でつぎはきの口。体がマントで覆われている。三角帽子をかぶる。手には大きい鎌を構えていた。
 魔女の使い魔だろう。
「とっりく・おあ・とりーと!」
 幼い声を上げたカボチャとカブの人形は、鎌を構え、アキセに向かう。
「俺かよ!」
 アキセは銃で使い魔に打つが、素早くかわす。
 その隙にサリーナが箒を振り下ろすが、ジャンヌはロザリオで受け止める。
「何?あの雑種。あんたの彼氏?」
「違う。迷惑をかけるストーカーよ」とロザリオで払いながら、白い炎を出す。
サリーナの距離を取る。
その時バタっと音がした。
向けば、アキセが倒れている。血やケガがない。使い魔にやられた様子がない。なぜか苦しんでいる。
「おっと!もうそんな時間」
 もうすぐ日が昇る。
 サリーナの話では魂が抜かれる。
おそらくアキセは魂を抜かれているのだろう。
「楽しいことはすぐに終わっちゃうね」
「まだ終わって・・・」
 カボチャとカブの使い魔が鎌を構えて、迫ってくる。
 鎌で振り回す使い魔をジャンヌは後ろへ下がる。
 サリーナに視線を向けば、宙に浮いた箒に乗っている。
「ばあい」
空へ上昇する。
「待て!」
 白い炎を飛ばす直前で、カボチャが鎌で払ってくる。避けることに集中し、白い炎の軌道を変えてしまう。
――使い魔め
カボチャとカブの使い魔は、鎌でジャンヌをしつこく付け回す。
アキセほどではないが、それでもしつこい。
「もうしつこい!」
 ジャンヌは、白い炎の球を飛ばす。
 使い魔は避けるが、白い炎は二つに分かれ、使い魔を捕らえる。子供の叫び声を上げながら、白い炎と共に消える。
使い魔は退治した。後は魔女を退治する。
見上げれば、サリーナが小さくなるほどの高さまでに昇っている。
空に逃げられては攻撃が届かない。
 その時だった。
急にサリーナが落ちる。
 それは、箒にツルが巻き付き、勢い余って落ちたからだ。
 分かっている。あのツルは、アキセの仕業だということを。
 アキセの方を向けば、右人差し指に長く鋭い銀色の指飾りをつけ、手の甲に宝石をはめ込んだグローブで地面に描いた陣に触れ、陣からツルで箒を捕らえていた。
 魔術を発動するための杖の一つの指飾りを使っていた。
 この隙を逃さない。
 ジャンヌは墓石に乗り、力を込めて、上へまっすぐに跳ぶ。
 箒は根から解放され、一直に下へ飛ぶ。サリーナの元へ戻るつもりだ。
 徐々にサリーナに近づく。
 サリーナが箒を手にした時には、目の前にまで近づき、ロザリオで白い炎を放つ。白い炎は波のようにサリーナを襲う。
「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」
 サリーナは悲鳴と白い炎と共に消えていった。
地面に落ちていくジャンヌは足から白い炎を噴出し、落下を柔らかにしてから着地する。
「間に合った・・・」
 日が昇るまでに魔女を倒した。町の方は、魔女から解放された。おそらく魂まで奪われていない。
「あ~危うく魂抜かれるところだった」
 その証拠にアキセは魂を抜かれていない。
「失敗した。これであんたと切れるチャンスを逃した」
「なんだよ。保護対象として守ったんじゃないのか」
「あんたは、魔女の血が混じっているでしょ。ついでに助けちゃったに過ぎないから」
「散々助けてやっているから、少しくらい返しはいいだろう」
「大半がおまえの主犯だかな」
「まあまあこれからもよろしくってことだよ」
「あんたね・・・」
 目に光が当たった。
 日が昇り始め、空は明るい青空になっていた。
 視線を戻せば、アキセはもう消えていた。
「ち、いつもながら逃げやがって」
 ジャンヌは呟きながら、朝日を眺めていた。
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