136 / 167
番外編
第57話 結婚直前の旅行 その3
しおりを挟む ロボットスーツを着脱装置に戻すと、程なくして『以下の部品を補充して下さい』というメッセージが表示された。
見ると、通信機の部品だ。
「香子さん。ごめんなさい。通信機は治りそうにありません」
済まなそうに頭を下げる芽衣を、香子はねぎらった。
「芽衣ちゃんが無事だっただけ十分よ。気にしないで……」
「でも……」
「壊れちゃった物はしょうがないわよ。それに、送信はダメだけど、受信機能は生きているのでしょ?」
「はい。それはなんとか。でも、私があの魔法使いの挑発にさえ乗らなかったら……」
「挑発に乗らなかったら、相手の実力も分からなかったわ」
香子はモニター画面の方に視線を向けた。
そこには、ロボットスーツ搭載カメラが撮ったエラの様子が映っている。
それを眺めているのは、中年のナーモ族男性ター・メ・リック。薬師を生業としている男で、魔法にも詳しい。
リックが香子の方を向いた。
「雷魔法ですね。それもかなり強力な」
「雷魔法? 帝国は魔法の軍事利用に踏み切ったという事でしょうか?」
「そのようです。帝国は今まで火薬を使った武器で有利な立場にいたので、扱いにくい魔法など使おうとはしなかった。しかし、日本人から我々に火薬の製法が伝わってしまったために、そうも言っていられなくなったのでしょう」
「こちらに、対抗できる魔法使いはいますか?」
「魔法使いは何人かいるが、これと戦える力のある者はいません。いたとしても、肝心の回復薬がない。シーバ城の方へ回してしまって、こちらの在庫が空なのです」
「作れないのですか?」
「材料さえあれば……レッドドラゴンの肝以外は揃っています。今、それを取り寄せているのです」
となると、自分たちの持ち込んだ武器で戦うしかない。
しかし、すでにヘリコプターは飛べない。
ヘリに積んであった武器は、ショットガンと化学レーザーと芽衣のロボットスーツ。
そして、ドローンが三機。
死んだ海斗のロボットスーツもあるが、これを動かせる者はいない。
カルカシェルターでプリンターが動いていた時代に作られたドローンで、飛べる物は一機もなく、その三機を貸し出していたのだが、うち一機はすでに落とされた。
これ以上ドローンを失いたくないので、エラ攻撃には使いたくない。
しかし、あの魔法使いにはショットガンが効かなかった。カルカシェルターで生産しているライフル銃も通用するか分からない。レーザーは?
いや、あの魔法使いの周りを守っていたのがプラズマの壁なら、レーザーだって吸収されてしまう。
頼みの綱は、芽衣のロボットスーツ。
しかし、ロボットスーツの装甲でも、あの光球に耐えられるだろうか?
「大丈夫です。香子さん」
「芽衣ちゃん。大丈夫って……さっきは通信機だけで済んだけど、あれの直撃を受けたら、ロボットスーツだって、ただでは済まないわよ」
「大丈夫です。当たらなければ、どうという事ありません」
「当たらなければって……」
「さっきの戦いで分かったのですけど、あの光球ってすごく遅いです。空中を素早く飛び回っていれば当たりません」
「そうなの? でも、こっちの攻撃も通じないわよ」
「ですから、攻撃はしません。挑発して撃たせ続けるのです」
「え?」
「リックさんの話では、雷魔法は魔力消費が激しいそうです。無駄撃ちさせていれば、そのうち魔力が尽きます。魔力が尽きたところを見計らって攻撃に転ずれば勝機はあります」
「そう、うまく行くといいけど……」
その時、ドアがノックされて楊美雨が入ってきた。
「ちょっと、確認したいのですが、その魔法使いの名前はエラ・アレンスキーで間違えないかしら?」
芽衣が頷くと、楊美雨はタブレットを差し出した。
「これは私のオリジナルが、日本留学中に読んでいた雑誌の記事なのだけど」
それを見て、芽衣は顔を輝かせる。
「わあ! 『ウー』じゃないですか。私も大好きでした」
香子はため息をついた。
(なんでこの子、リケ女のくせに、こんなオカルト雑誌が好きなのだろう?)
「そうなの? まあ、その話は置いといて、ここにエラ・アレンスキーという人物の記事が載っているの」
そこには『驚異の電気人間』というタイトルの記事が載っていた。その中に、手で電球を持っただけで点灯させる男とか、身体が磁石になっている男とかの記事に混じって、手が触れるだけで相手を感電させる電撃少女が紹介されている。少女の名前は、エラ・アレンスキー。
「記事が書かれた二〇××年の時点で、この少女の年齢は十二歳。この時に、この少女の三次元データが取られたとして。帝国の船を私たちが破壊したのは三十年前。それ以降、帝国はコピー人間を作れない。だとすると、彼女のコピーが作られたのは三十年より前になる。現在は四十代のはず」
芽衣は記事の写真に写っている少女の顔を見つめた。
確かに、さっき会った女の面影がある。
「では、あの魔法使いはコピー人間?」
「おそらく。映像を見ると四十代くらいだから、年齢的には合っているわ」
そこへ香子が疑問を挟んだ。
「でも、この記事だと精々スタンガン程度の能力ですよ。芽衣ちゃんが戦った女が使っていたのは、高温のプラズマボールです」
「香子さん。未来ちゃんの事を覚えていますか?」
「え? 未来ちゃんがどうしたの?」
「あの子、電脳空間で式神が使えると言っていましたね。誰も、本気にしていなかったけど」
「ええ」
「でも、プロクシマ・ケンタウリbという惑星で、未来ちゃんを再生したら、本当に式神を使いだしたと……」
「その話は、私も知っているけど……」
「超能力というべきか魔法というべきか、地球ではこういう不思議な力が発動するのを抑制する何かがあるのではないかと言われています」
「じゃあ、エラ・アレンスキーも、この惑星で再生されて、能力が強くなったというの?」
「そうじゃないかと思うのです」
香子は考え込んだ。だが、なにもいいアイデアは浮かばない。
「ちょっと、それを見せてもらっていいですか?」
「どうぞ」
芽衣は、楊美雨からタブレットを受け取った。
記事に目を通すと、エラへのインタビュー記事もあった。そこには、日本の時代劇や特撮ヒーロードラマが好きだと書いてある。
「やはり、同一人物だと思います」
「そうだとして、そこに付け入る隙はないかしら?」
「ちょっと返して」
楊美雨は芽衣から、タブレットを返してもらって操作した。
「エラ・アレンスキーは、二十代になってから逮捕されているわ。罪状は暴行傷害拉致監禁。そうとうの性格異常者だったようよ」
「性格異常? 確かに変な人だな、とは思いましたけど……」
芽衣は、エラと会った時の事を思い浮かべながら言った。
「それなら、挑発に乗りやすいかもしれないですね」
見ると、通信機の部品だ。
「香子さん。ごめんなさい。通信機は治りそうにありません」
済まなそうに頭を下げる芽衣を、香子はねぎらった。
「芽衣ちゃんが無事だっただけ十分よ。気にしないで……」
「でも……」
「壊れちゃった物はしょうがないわよ。それに、送信はダメだけど、受信機能は生きているのでしょ?」
「はい。それはなんとか。でも、私があの魔法使いの挑発にさえ乗らなかったら……」
「挑発に乗らなかったら、相手の実力も分からなかったわ」
香子はモニター画面の方に視線を向けた。
そこには、ロボットスーツ搭載カメラが撮ったエラの様子が映っている。
それを眺めているのは、中年のナーモ族男性ター・メ・リック。薬師を生業としている男で、魔法にも詳しい。
リックが香子の方を向いた。
「雷魔法ですね。それもかなり強力な」
「雷魔法? 帝国は魔法の軍事利用に踏み切ったという事でしょうか?」
「そのようです。帝国は今まで火薬を使った武器で有利な立場にいたので、扱いにくい魔法など使おうとはしなかった。しかし、日本人から我々に火薬の製法が伝わってしまったために、そうも言っていられなくなったのでしょう」
「こちらに、対抗できる魔法使いはいますか?」
「魔法使いは何人かいるが、これと戦える力のある者はいません。いたとしても、肝心の回復薬がない。シーバ城の方へ回してしまって、こちらの在庫が空なのです」
「作れないのですか?」
「材料さえあれば……レッドドラゴンの肝以外は揃っています。今、それを取り寄せているのです」
となると、自分たちの持ち込んだ武器で戦うしかない。
しかし、すでにヘリコプターは飛べない。
ヘリに積んであった武器は、ショットガンと化学レーザーと芽衣のロボットスーツ。
そして、ドローンが三機。
死んだ海斗のロボットスーツもあるが、これを動かせる者はいない。
カルカシェルターでプリンターが動いていた時代に作られたドローンで、飛べる物は一機もなく、その三機を貸し出していたのだが、うち一機はすでに落とされた。
これ以上ドローンを失いたくないので、エラ攻撃には使いたくない。
しかし、あの魔法使いにはショットガンが効かなかった。カルカシェルターで生産しているライフル銃も通用するか分からない。レーザーは?
いや、あの魔法使いの周りを守っていたのがプラズマの壁なら、レーザーだって吸収されてしまう。
頼みの綱は、芽衣のロボットスーツ。
しかし、ロボットスーツの装甲でも、あの光球に耐えられるだろうか?
「大丈夫です。香子さん」
「芽衣ちゃん。大丈夫って……さっきは通信機だけで済んだけど、あれの直撃を受けたら、ロボットスーツだって、ただでは済まないわよ」
「大丈夫です。当たらなければ、どうという事ありません」
「当たらなければって……」
「さっきの戦いで分かったのですけど、あの光球ってすごく遅いです。空中を素早く飛び回っていれば当たりません」
「そうなの? でも、こっちの攻撃も通じないわよ」
「ですから、攻撃はしません。挑発して撃たせ続けるのです」
「え?」
「リックさんの話では、雷魔法は魔力消費が激しいそうです。無駄撃ちさせていれば、そのうち魔力が尽きます。魔力が尽きたところを見計らって攻撃に転ずれば勝機はあります」
「そう、うまく行くといいけど……」
その時、ドアがノックされて楊美雨が入ってきた。
「ちょっと、確認したいのですが、その魔法使いの名前はエラ・アレンスキーで間違えないかしら?」
芽衣が頷くと、楊美雨はタブレットを差し出した。
「これは私のオリジナルが、日本留学中に読んでいた雑誌の記事なのだけど」
それを見て、芽衣は顔を輝かせる。
「わあ! 『ウー』じゃないですか。私も大好きでした」
香子はため息をついた。
(なんでこの子、リケ女のくせに、こんなオカルト雑誌が好きなのだろう?)
「そうなの? まあ、その話は置いといて、ここにエラ・アレンスキーという人物の記事が載っているの」
そこには『驚異の電気人間』というタイトルの記事が載っていた。その中に、手で電球を持っただけで点灯させる男とか、身体が磁石になっている男とかの記事に混じって、手が触れるだけで相手を感電させる電撃少女が紹介されている。少女の名前は、エラ・アレンスキー。
「記事が書かれた二〇××年の時点で、この少女の年齢は十二歳。この時に、この少女の三次元データが取られたとして。帝国の船を私たちが破壊したのは三十年前。それ以降、帝国はコピー人間を作れない。だとすると、彼女のコピーが作られたのは三十年より前になる。現在は四十代のはず」
芽衣は記事の写真に写っている少女の顔を見つめた。
確かに、さっき会った女の面影がある。
「では、あの魔法使いはコピー人間?」
「おそらく。映像を見ると四十代くらいだから、年齢的には合っているわ」
そこへ香子が疑問を挟んだ。
「でも、この記事だと精々スタンガン程度の能力ですよ。芽衣ちゃんが戦った女が使っていたのは、高温のプラズマボールです」
「香子さん。未来ちゃんの事を覚えていますか?」
「え? 未来ちゃんがどうしたの?」
「あの子、電脳空間で式神が使えると言っていましたね。誰も、本気にしていなかったけど」
「ええ」
「でも、プロクシマ・ケンタウリbという惑星で、未来ちゃんを再生したら、本当に式神を使いだしたと……」
「その話は、私も知っているけど……」
「超能力というべきか魔法というべきか、地球ではこういう不思議な力が発動するのを抑制する何かがあるのではないかと言われています」
「じゃあ、エラ・アレンスキーも、この惑星で再生されて、能力が強くなったというの?」
「そうじゃないかと思うのです」
香子は考え込んだ。だが、なにもいいアイデアは浮かばない。
「ちょっと、それを見せてもらっていいですか?」
「どうぞ」
芽衣は、楊美雨からタブレットを受け取った。
記事に目を通すと、エラへのインタビュー記事もあった。そこには、日本の時代劇や特撮ヒーロードラマが好きだと書いてある。
「やはり、同一人物だと思います」
「そうだとして、そこに付け入る隙はないかしら?」
「ちょっと返して」
楊美雨は芽衣から、タブレットを返してもらって操作した。
「エラ・アレンスキーは、二十代になってから逮捕されているわ。罪状は暴行傷害拉致監禁。そうとうの性格異常者だったようよ」
「性格異常? 確かに変な人だな、とは思いましたけど……」
芽衣は、エラと会った時の事を思い浮かべながら言った。
「それなら、挑発に乗りやすいかもしれないですね」
0
お気に入りに追加
27
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

キャンプに行ったら異世界転移しましたが、最速で保護されました。
新条 カイ
恋愛
週末の休みを利用してキャンプ場に来た。一歩振り返ったら、周りの環境がガラッと変わって山の中に。車もキャンプ場の施設もないってなに!?クマ出現するし!?と、どうなることかと思いきや、最速でイケメンに保護されました、

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
こわいかおの獣人騎士が、仕事大好きトリマーに秒で堕とされた結果
てへぺろ
恋愛
仕事大好きトリマーである黒木優子(クロキ)が召喚されたのは、毛並みの手入れが行き届いていない、犬系獣人たちの国だった。
とりあえず、護衛兼監視役として来たのは、ハスキー系獣人であるルーサー。不機嫌そうににらんでくるものの、ハスキー大好きなクロキにはそんなの関係なかった。
「とりあえずブラッシングさせてくれません?」
毎日、獣人たちのお手入れに精を出しては、ルーサーを(犬的に)愛でる日々。
そのうち、ルーサーはクロキを女性として意識するようになるものの、クロキは彼を犬としかみていなくて……。
※獣人のケモ度が高い世界での恋愛話ですが、ケモナー向けではないです。ズーフィリア向けでもないです。

甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。
海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。
ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。
「案外、本当に君以外いないかも」
「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」
「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」
そのドクターの甘さは手加減を知らない。
【登場人物】
末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。
恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる?
田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い?
【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】

転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~
月
恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん)
は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。
しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!?
(もしかして、私、転生してる!!?)
そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!!
そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる