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第54話 咲子の我が儘 その3
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「お父さん…」
「どうした、咲子?」
「私ね、お父さんの事が、―――」
『♪~~~~』
咲子が何かを言おうとした時に、タイミングが良いのか悪いのか、俺のスマートフォンから電話の着信音が鳴る。
「あっ、電話だ……誰からだろう?」
スマートフォンに表示されている画面を見ると母さんからだった。
『ピッ』
「もし、もし」
「あっ、お父さん」
「こんにちは!」
「はい。母さん、こんにちは」
「今、家に着いたよ♪」
「おぉ、無事着いたか。それは良かった!」
「うん! 無事に着けた♪」
「そうか、良かった……。あっ、それでな母さん。ちょっと、咲子が海を見たいからと言ったから、高速道路を使ったから…」
俺がそう言うと、電話向こうの穏やかな母さんの口調が、仰天する口調に変わる。
「えっ!?」
「あの時間から海へ行ったの!?」
「何、考えているの!?」
「まぁ、そうなんだが……それで今、海にいる…」
「どこの海よ!」
「もちろん、近場なんでしょうね!?」
仰天の口調から、怒り口調に変わってしまった母さん。
「まっ、まあ…近いと言うか……、俺の中では近いと思う」
高速道路を使って2時間以上掛る場所が近い訳無いが、事実を言うと事がややこしく成るので言わないで置く。
「まぁ、良いわ……」
「クレジットカードの請求書を見れば、何処に行ったかは直ぐに分かるから!」
「あまり、咲子を甘やかしちゃダメだよ……お父さん!」
「あぁ、済まない。母さん…」
「ちょっと、咲子に変わって!」
「一言、言うわ!」
「分かった……。じゃあ、咲子に変わる」
「咲子。母さんから話が有るって」
「えっ、私に!? 何だろう……?」
俺はスマートフォンを咲子に渡す。
「あっ、お母さん変わったけど…」
「―――」
「あっ、うん……、はい」
「―――」
「迷惑は掛けてないよ…」
「―――」
「えっ!?」
「……はい……、分かった…」
どうやら、咲子は母さんに怒られている感じだった。
普段は温厚な母さんだが、実は怒らすと凄く怖いらしい。
俺は本当に怒った母さんの姿をまだ見た事は無いが、咲子は見た事が有るらしい。
「はい、お父さん」
「お母さんが変わってだって」
咲子はそう言いながら、スマートフォンを渡してくる。
「もし、もし、変わったよ」
「あっ、お父さん」
「ちょっと、咲子にはお灸を据えておいたから……」
「あまり、無茶振りはしてこないとは思うわ!」
「あぁ、そうか…」
「それと、お父さん……。ちょっと、咲子に甘すぎだよ!」
「私としては、咲子がお父さんの場所に居るのは構わないのだけど、お父さんを彼方此方に連れ回すのは反対なの!」
「お父さんだって、仕事の疲れも残っているはずだし、私と真央の対応で疲れているでしょう!」
「それなのに、咲子の言う事なんて聞いていたら、お父さんがバテちゃうよ!」
「心配してくれて、ありがとう。母さん…」
「まぁ、何処の海に居るかは、咲子も言わなかったけど、気を付けて帰って来るんだよ!」
「本当にすまんな、母さん…」
「全くだよ……!?」
「宮子と言い、咲子と言い…」
「何だ?」
「宮子が何かやったのか?」
「別にたいした事では無いよ!」
「ちょっと、家事の甘かった部分が有っただけ!」
「大事じゃ無ければ大丈夫だ!」
「じゃあ、今から私は、晩ご飯の用意をしなければ成らないから、これで電話切るね!」
「本当に気を付けて帰って来るんだよ!」
「あぁ、ありがと。母さん」
「じゃあね♪」
「あぁ…」
『ピッ!』
母さんとの通話が終わる。
俺は横に座っている咲子に話し掛ける。
「咲子。済まなかったな。話の途中で母さんから電話が掛かってきて……」
「はぁ~~」
俺がそう言うと、咲子は大きなため息をつく。
「うぁ~~」
「折角、海まで来たのに、お母さんに邪魔された~~」
咲子は頭を押さえながら、何か1人で喚いている。
「どうした? 咲子?」
「大丈夫か!?」
「だっ、大丈夫じゃ無い!」
「こんな気分じゃ、とても言えないよ~~」
咲子は何かを『ワ~ワ~』言っている。
しばらくすれば落ち着くと思って、俺は飲みかけの缶コーヒーを飲む。母さんの電話の事も有って、大分ぬるくなってしまったが、まだ少しは冷たかった……
咲子が少し落ち着いて来たようなので話し掛ける。
「咲子」
「それで、母さんは咲子に何て言ったのだ?」
「お父さんにあんまり無茶を言うなって!」
「後、罰としてもう1週間お父さんの所に居なさいって言われた……」
「お父さんの体調や栄養面を考えて、私がケアをしなさいと…」
「はっ!?」
「母さん、そんな事全然言ってなかったぞ!」
「そりゃあ、言わないよ。私の口から言いなさいと言われたし……」
「それより咲子、学校の方は大丈夫なの?」
「今週は大丈夫……」
「来週は直ぐに登校日が有るから、まぁ日曜日の午前中までかな?」
「学校が無いなら良いけど、咲子的はそれで良いのか?」
「良いも、悪いも無いよ……。お母さんの所為で全てがぶち壊しだよ!」
「『お父さん、キュンキュン大作戦』は失敗に終わったよ…」
「なんだ!?」
「その謎すぎる作戦は!?」
「綺麗な海を背景に『お父さん! 大好きだよ!!』と言って、ドラマみたいに結ばれるつもりだったのに……」
「いや……咲子」
「俺には母さんが居るから…」
「まぁ、良いや…。お母さんにロマンチックなムードも壊されたし、もう1週間居る訳だから、その間に何とかしよ…」
(咲子の心の声がダダ漏れなんだが!!)
残っていたコーラを咲子は一気に飲み干して、そして急に立ち上がり、海辺に向かって走り出し、波打ち際で立ち止まって『お母さんのバカやろ~』と叫んでいる。
そして直ぐに陽気な声で『お父さんもこっち来て~。折角来たんだし海で遊ぼうよ!』と言ってくる。
咲子は海で俺に告白するつもりだったらしい。
しかし、母さんがタイミング良く邪魔をしてきたので、台無しにされたようだ。
咲子と一緒に波打ち際で少しじゃれ合って、辺りが暗くなってきたので海を後にする。
こうして咲子の我が儘は、良く判らないまま終わりそうだ。
「どうした、咲子?」
「私ね、お父さんの事が、―――」
『♪~~~~』
咲子が何かを言おうとした時に、タイミングが良いのか悪いのか、俺のスマートフォンから電話の着信音が鳴る。
「あっ、電話だ……誰からだろう?」
スマートフォンに表示されている画面を見ると母さんからだった。
『ピッ』
「もし、もし」
「あっ、お父さん」
「こんにちは!」
「はい。母さん、こんにちは」
「今、家に着いたよ♪」
「おぉ、無事着いたか。それは良かった!」
「うん! 無事に着けた♪」
「そうか、良かった……。あっ、それでな母さん。ちょっと、咲子が海を見たいからと言ったから、高速道路を使ったから…」
俺がそう言うと、電話向こうの穏やかな母さんの口調が、仰天する口調に変わる。
「えっ!?」
「あの時間から海へ行ったの!?」
「何、考えているの!?」
「まぁ、そうなんだが……それで今、海にいる…」
「どこの海よ!」
「もちろん、近場なんでしょうね!?」
仰天の口調から、怒り口調に変わってしまった母さん。
「まっ、まあ…近いと言うか……、俺の中では近いと思う」
高速道路を使って2時間以上掛る場所が近い訳無いが、事実を言うと事がややこしく成るので言わないで置く。
「まぁ、良いわ……」
「クレジットカードの請求書を見れば、何処に行ったかは直ぐに分かるから!」
「あまり、咲子を甘やかしちゃダメだよ……お父さん!」
「あぁ、済まない。母さん…」
「ちょっと、咲子に変わって!」
「一言、言うわ!」
「分かった……。じゃあ、咲子に変わる」
「咲子。母さんから話が有るって」
「えっ、私に!? 何だろう……?」
俺はスマートフォンを咲子に渡す。
「あっ、お母さん変わったけど…」
「―――」
「あっ、うん……、はい」
「―――」
「迷惑は掛けてないよ…」
「―――」
「えっ!?」
「……はい……、分かった…」
どうやら、咲子は母さんに怒られている感じだった。
普段は温厚な母さんだが、実は怒らすと凄く怖いらしい。
俺は本当に怒った母さんの姿をまだ見た事は無いが、咲子は見た事が有るらしい。
「はい、お父さん」
「お母さんが変わってだって」
咲子はそう言いながら、スマートフォンを渡してくる。
「もし、もし、変わったよ」
「あっ、お父さん」
「ちょっと、咲子にはお灸を据えておいたから……」
「あまり、無茶振りはしてこないとは思うわ!」
「あぁ、そうか…」
「それと、お父さん……。ちょっと、咲子に甘すぎだよ!」
「私としては、咲子がお父さんの場所に居るのは構わないのだけど、お父さんを彼方此方に連れ回すのは反対なの!」
「お父さんだって、仕事の疲れも残っているはずだし、私と真央の対応で疲れているでしょう!」
「それなのに、咲子の言う事なんて聞いていたら、お父さんがバテちゃうよ!」
「心配してくれて、ありがとう。母さん…」
「まぁ、何処の海に居るかは、咲子も言わなかったけど、気を付けて帰って来るんだよ!」
「本当にすまんな、母さん…」
「全くだよ……!?」
「宮子と言い、咲子と言い…」
「何だ?」
「宮子が何かやったのか?」
「別にたいした事では無いよ!」
「ちょっと、家事の甘かった部分が有っただけ!」
「大事じゃ無ければ大丈夫だ!」
「じゃあ、今から私は、晩ご飯の用意をしなければ成らないから、これで電話切るね!」
「本当に気を付けて帰って来るんだよ!」
「あぁ、ありがと。母さん」
「じゃあね♪」
「あぁ…」
『ピッ!』
母さんとの通話が終わる。
俺は横に座っている咲子に話し掛ける。
「咲子。済まなかったな。話の途中で母さんから電話が掛かってきて……」
「はぁ~~」
俺がそう言うと、咲子は大きなため息をつく。
「うぁ~~」
「折角、海まで来たのに、お母さんに邪魔された~~」
咲子は頭を押さえながら、何か1人で喚いている。
「どうした? 咲子?」
「大丈夫か!?」
「だっ、大丈夫じゃ無い!」
「こんな気分じゃ、とても言えないよ~~」
咲子は何かを『ワ~ワ~』言っている。
しばらくすれば落ち着くと思って、俺は飲みかけの缶コーヒーを飲む。母さんの電話の事も有って、大分ぬるくなってしまったが、まだ少しは冷たかった……
咲子が少し落ち着いて来たようなので話し掛ける。
「咲子」
「それで、母さんは咲子に何て言ったのだ?」
「お父さんにあんまり無茶を言うなって!」
「後、罰としてもう1週間お父さんの所に居なさいって言われた……」
「お父さんの体調や栄養面を考えて、私がケアをしなさいと…」
「はっ!?」
「母さん、そんな事全然言ってなかったぞ!」
「そりゃあ、言わないよ。私の口から言いなさいと言われたし……」
「それより咲子、学校の方は大丈夫なの?」
「今週は大丈夫……」
「来週は直ぐに登校日が有るから、まぁ日曜日の午前中までかな?」
「学校が無いなら良いけど、咲子的はそれで良いのか?」
「良いも、悪いも無いよ……。お母さんの所為で全てがぶち壊しだよ!」
「『お父さん、キュンキュン大作戦』は失敗に終わったよ…」
「なんだ!?」
「その謎すぎる作戦は!?」
「綺麗な海を背景に『お父さん! 大好きだよ!!』と言って、ドラマみたいに結ばれるつもりだったのに……」
「いや……咲子」
「俺には母さんが居るから…」
「まぁ、良いや…。お母さんにロマンチックなムードも壊されたし、もう1週間居る訳だから、その間に何とかしよ…」
(咲子の心の声がダダ漏れなんだが!!)
残っていたコーラを咲子は一気に飲み干して、そして急に立ち上がり、海辺に向かって走り出し、波打ち際で立ち止まって『お母さんのバカやろ~』と叫んでいる。
そして直ぐに陽気な声で『お父さんもこっち来て~。折角来たんだし海で遊ぼうよ!』と言ってくる。
咲子は海で俺に告白するつもりだったらしい。
しかし、母さんがタイミング良く邪魔をしてきたので、台無しにされたようだ。
咲子と一緒に波打ち際で少しじゃれ合って、辺りが暗くなってきたので海を後にする。
こうして咲子の我が儘は、良く判らないまま終わりそうだ。
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