単身赴任しているお父さんの家に押し掛けてみた!

小春かぜね

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第36話 妻の作る朝食

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 ……

「お父さん、起きて。お父さん!!」

 誰かが声を掛けながら、ゆらゆら俺を揺らす。
 まだ、寝たい気分だが、俺は仕方無く目を開ける。
 ゆらゆら動かしていたのは咲子だった。

「咲子。父さん、今日はまだ寝たいのだが…」

 しかし、咲子はそれをさえぎる様に喋る。

「朝ご飯出来たって!」
「お母さんが『起こしてきて!』って言ったから、起こしにきた!」

 それを聞いて、俺は枕元近くの目覚まし時計を見る。
 時計の時刻を見ると、午前9時を過ぎていた。

「ありゃ、今日は大分寝過ごしてしまったな……」

 母さん達が来ている事も有って、気が緩んだだろうか?
 俺は布団から起き上がる。

「もう準備は出来ているから、早く来てね!」

 咲子はそう言って寝室にしている部屋から出て行く。
 隣の布団を見るが、真央も起きているようだ。

(久しぶりに誰かに起こされたな…)
(これが仕事の日だったら大遅刻だな)

 そう考えながら俺はトイレに行ってから、洗面台に向かい顔を洗う。俺の場合は、寝間着と部屋着は兼用だ。
 顔を洗って居間に入ると、座卓の上には朝食の用意が出来ている。

「お父さん来たね♪」

 母さんはその様に言う。

「みんな、おはよう」

 それぞれが挨拶をする。
 俺は朝食を見ながらクッションに腰を下ろす。朝食の準備は全て終わっており、本当に俺待ちだった。

「ご飯と味噌汁と漬物か!」
「シンプルだけど良いね!!」

 俺がそう言うと母さんが答える。

「もうちょっと気合い入れたの作ろうかなと思ったけど、みんな、そんなにお腹空いてないかな~と思って♪」

 夜中に家族4人で、インスタントラーメンを食べているのだから、そう考えるのは当たり前だろう。

「今日はこれくらい軽い方が却って良いよ」
「朝ご飯と昨夜の片付けをしてくれて、ありがとう、母さん!」

「いえ、いえ」
「じゃあ、お父さん、食べましょうか♪」

「そうだな、母さん、食べようか!」

 みんなで『いただきます』をして朝食が始まる。
 俺は改めて、今朝の朝食のメニューを見る。

(ご飯(白米)。漬物は市販のキュウリの醤油漬け)
(味噌汁は豆腐とゴボウか……。母さんが作ったから、しっかり合わせ味噌だな。)
(今日はシンプルの具材が丁度良いな)

 味噌汁の表面に見える具材を見て、そう考えながら俺は味噌汁に口を付ける。

(あれ!)
(豆腐とゴボウの味噌汁の割には、やけにコクと言うか、うま味が有るな?)
(ゴボウのうま味に加えて、良く見ると味噌汁に油が浮いているし……そして、この強いうま味は!?)

 俺は味噌汁の予想外の味に驚いて、思わずお椀の中を箸で探ってしまう。探ると言っても、豆腐を避けると直ぐにそれの正体は分かる。
 お椀の中から、細かく切られた豚肉を見つける。それもバラ肉で有る。

「あっ、お父さん。冷凍庫の豚肉使わせて貰ったよ♪」

 朝からほぼ豚汁見たいのを、母さん達は美味しそうに食べている。

(昨夜の晩ご飯に唐揚げ食べて、お菓子も食べて、ラーメンも食べているのに、何故、朝からこれを普通に食べられているのだ!?)

 俺の方は正直言って胃は重い。何時もの朝なら豚汁も良いが、今日みたいな深酒の翌日に、この朝食には少々厳しい……。俺の箸が止まっているのに母さんが気付く。

「食欲無いの?」

「いや…そうでは無いけど、豚肉が入っているから驚いた」

「豚肉は体に良いんだよ♪」
「あれ? もしかして、冷凍の豚肉使ったらダメだった?」

「いや、使って貰って大丈夫だけど。みんな凄いね…」

 俺は周りを見ながら言う。
 母さんはさておき、咲子もパクパク食べている。おかわりしそうな勢いだ。真央の方を見ると、真央も澄ました顔で食べている。
 俺が唖然と見ていると、咲子が話し掛けてくる。

「お父さん! 朝食はとっても大事なんだよ!!」
「少し食欲が無くても食べないと、体に悪いよ!」
「それに、豚肉入りの味噌汁も美味しいしね……お母さん。ご飯とお味噌汁お代わり!!」

「食欲は有るから大丈夫だよ……咲子は何ともないのか?」

「……?」
「何が?」

 母さんから、お代わりを貰ったご飯を受け取りながら咲子は言う。

「昨日から大分食べているようだが…」

「平気だよ!」
「今日は朝ご飯の時間がゆっくりだから、何時もよりお腹空いているみたい!!」

 咲子は言い終わると、再びご飯を食べ始めた。

(育ち盛りの頃だから、こんなもんなのかな?)

 俺も再び朝食を取るが、母さんや咲子、真央ほど勢いは無く、逆に何時もよりゆっくりペースで進めていく。

(やはり、昨日の酒と締めのラーメンが効いているな。少し前なら平気だったのに…)

 母さん達が楽しく朝食を取っている反対に、俺は体の衰えを感じながらの朝食となった。
 ちなみに味噌汁は無事無くなり、炊飯器のご飯も殆ど売れたそうだ。

 朝食の後は単身赴任の時だったら、洗濯とかの雑用が待っているが、今日は母さん達がしてくれている。
 今日も天気は良いが、ベランダの物干し竿は1本しか無いため、それを埋め尽くすような感じで洗濯物が干されている。4人分の洗濯を1回で干す場所とハンガーが無いので2回に分けるそうだ。

「だから、洗濯2回目干すまでは、お家だね♪」

 母さんはその様に言う。

「母さん、咲子達済まんな。家事までして貰って…」

「家族なんだから当然だよ♪」
「ねっ、咲子、真央」

「そうだよ!」
「うん!!」

 そう返事をする咲子、真央。

 次の洗濯物が干せるまで、みんなでのお出かけは待機と成る。
 この時間をどう過ごそうか、みんなで考えた…… 
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