単身赴任しているお父さんの家に押し掛けてみた!

小春かぜね

文字の大きさ
上 下
12 / 167

第11話 日曜日 その2

しおりを挟む
「おお! 戻りやがったか皇子」

 黄金の鬣をなびかせた獅子の男が、千騎長の鎧に身を包んだ勇壮な姿でこちらへ大股に歩いてくるところだった。背中にはもちろん、愛用の大剣をかついでいる。

「レオ!」
「おお、黒坊主。見てたぜ~。かっけえ狼になれるようになったじゃねえかよ~。しかも自分ですぐに戻れたみてえだし。やりやがったな!」
「あうっ……。あ、ありがとうございます」

 にかにかと意味深な顔で笑うのもいつも通り。そのままがしがしと頭を撫でられると、ぎゅんっと勝手に体温があがり、バカみたいに嬉しくなってしまう。
 この男はいつでもどんな場面でも「いつも通り」を崩さない。軍のリーダーという立場の人として、これほど頼もしい男もいないだろう。
 と、インテス様がシディの頭から男の手をぺいっと払った。

「……馴れなれしく触るんじゃない。大体だれが『黒坊主』だ失礼な。撤回しろ」
「なんだよー。男の嫉妬はみっともねえぜ~?」
「ふん」

(えっ……。嫉妬?)

 嫉妬と言ったのだろうか、この男。
 まさかインテス様が自分ごときにそんな風に思われるわけがないのに。そう思ったがレオが登場したとたんに口を差しはさめる空気でなくなるのはいつものこと。
 「さあさあ、こっちだ。まずは落ち着こうぜ」とどんどん執務室へと案内され、茶菓など出されて座らされるまで、ひたすらレオとインテス様だけの会話で満たされてしまう。この男のペースに逆らえる者なんてまずいない。

「で? あれからどうなんだ」
「特にどうもしてねえ。神殿の魔導士どもは時々攻撃しちゃあくるが、こっちの魔導士にとっちゃでもねえ。やっぱり《白》と《黒》を認めてるかそうじゃねえかってことは大きいらしいな」
「そうか」
「特にあのマルガリテのおばちゃんな。ありゃあとんでもねえ曲者くせもんだ」
「えっ? どういうことですか」

 びっくりして腰を浮かせかかったシディに、レオはやっぱり意味深な笑みを返した。

「イタチの爺さんの前じゃ盛大に猫かぶってやがったのよ、あのおばちゃん。ま、猫じゃなくてワニなんだけどよー」
「はい?」
 きょとんとしたシディに、レオはそのままの顔で肩をすくめて見せた。
「まあ、とにかくすんげえ攻撃魔法でやんの。物理な俺らの出番なんてありゃしねえわ。あのおばちゃんがちょちょいと水魔法で攻撃するだけで、みーんな尻をからげて逃げだしちまう」
「ふわあ……そうなんですね」
「そーなんだよー。お陰でこちとら運動不足だっつーの。けどまあ、やつらが逃げるのも無理はねえ。あんなえぐい水死なんてしたくねえわな、誰だってよ」

(ううん……すごそう)

 前にも少し見たけれど、あの大瀑布よりも凄い攻撃が連続してやってきたら、どんな猛者でもひとたまりもないだろう。つくづく魔塔を敵に回さなくてよかったと思ってしまう。

「魔塔に入りこんでやがった間者だの暗殺者だのも、ほぼ潰せたしな。今じゃここ以上に安全な場所はねえ。各地に散って地下にもぐってた反皇太子派の連中も、うわさを聞きつけて集まりはじめてんぜー」
「そうなんですか」
「大丈夫なのか? 味方が多いほうがいいとはいえ、身元もわからぬ者らをあまり増やしても──」
 言いかけたインテス様に、レオはぱちんと片目をつぶって見せた。
「問題ねえ。ちゃあんと魔導士どもが高位魔法で心を読んだり、身元調査もしてから入れてる。そこは安心していい。あれをかいくぐれるのはサクライエ本人ぐれえだかんな」
「なるほど」
「もともと反皇帝派だったやつらも多い。あの皇帝、自分は贅沢三昧やらかしといて庶民のこたあそこらのゴミ以下の扱いしかしてこなかったかんな。それがあのボンクラ皇太子になったところで、自分たちの状況がひとつも好転するわけじゃねえ。それどころか、ずっと悪くなるってよーくわかってんだよ、学のねえ庶民だってな」
「あの」
 シディはそこでやっと口を挟めた。
「魔塔に来た人の中には、神殿でスピリタス教を信仰してた人たちもいるんでしょうか」
「おお、けっこういるんだわこれが」

 レオがにかっと笑って説明してくれた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

キャンプに行ったら異世界転移しましたが、最速で保護されました。

新条 カイ
恋愛
週末の休みを利用してキャンプ場に来た。一歩振り返ったら、周りの環境がガラッと変わって山の中に。車もキャンプ場の施設もないってなに!?クマ出現するし!?と、どうなることかと思いきや、最速でイケメンに保護されました、

悪役令嬢に転生したので、人生楽しみます。

下菊みこと
恋愛
病弱だった主人公が健康な悪役令嬢に転生したお話。 小説家になろう様でも投稿しています。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

蔑ろにされた王妃と見限られた国王

奏千歌
恋愛
※最初に公開したプロット版はカクヨムで公開しています 国王陛下には愛する女性がいた。 彼女は陛下の初恋の相手で、陛下はずっと彼女を想い続けて、そして大切にしていた。 私は、そんな陛下と結婚した。 国と王家のために、私達は結婚しなければならなかったから、結婚すれば陛下も少しは変わるのではと期待していた。 でも結果は……私の理想を打ち砕くものだった。 そしてもう一つ。 私も陛下も知らないことがあった。 彼女のことを。彼女の正体を。

こわいかおの獣人騎士が、仕事大好きトリマーに秒で堕とされた結果

てへぺろ
恋愛
仕事大好きトリマーである黒木優子(クロキ)が召喚されたのは、毛並みの手入れが行き届いていない、犬系獣人たちの国だった。 とりあえず、護衛兼監視役として来たのは、ハスキー系獣人であるルーサー。不機嫌そうににらんでくるものの、ハスキー大好きなクロキにはそんなの関係なかった。 「とりあえずブラッシングさせてくれません?」 毎日、獣人たちのお手入れに精を出しては、ルーサーを(犬的に)愛でる日々。 そのうち、ルーサーはクロキを女性として意識するようになるものの、クロキは彼を犬としかみていなくて……。 ※獣人のケモ度が高い世界での恋愛話ですが、ケモナー向けではないです。ズーフィリア向けでもないです。

甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。

海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。 ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。 「案外、本当に君以外いないかも」 「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」 「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」 そのドクターの甘さは手加減を知らない。 【登場人物】 末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。   恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる? 田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い? 【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】

転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~

恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん) は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。 しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!? (もしかして、私、転生してる!!?) そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!! そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?

処理中です...