392 / 434
【R-15】稀子編 第2章
第390話 稀子とすき焼き! その2
しおりを挟む 目を覚ました時、医務室のベッドの上だった。発情Ωの女客を連れてきた時の記憶がすぐに蘇った。
先生の姿が霞んで見える。
「……た? ……うぶ?」
先生が何かを言っているみたいだけど、まだ頭がぼんやりして聞き取れない。
そういえば、俺はなんでこんなところにいるんだ?
今日は確か、パーティー会場の助っ人で働いてて……。
そうだ! リアム様に発情して、ジェイクが助けてくれたんだった!!
ジェイクはあれからどうなったんだろう。パーティーは無事終わったのだろうか。
はぁ。明日は料理長に怒られるんだろうな。
怒られて終わりならまだいい。次に住み込みで働かせてもらえるところがすぐに見つかればいいんだけど……。
「大丈夫?」
「あっ、はい」
医務室の先生の声がようやくはっきりと聞こえた。
先生は初老くらいの女性だが、小柄で大人しそうな見た目とは裏腹に、活発で身のこなしが軽い。しかも力も強い。
俺が連れてきた女性も腕を力付くで固定して抑制剤の注射を打っていた。
きっと俺のことも一人でさっさと治療したのだろう。
「あの、俺どのくらい寝てたんですか?」
「そうね、一晩ぐっすり寝たってところじゃない?」
「え? もう朝なんですか?」
「そうよ。何か急ぎの用事でも?」
「早く厨房に行かないと!! 料理長に怒られる!!」
慌ててベッドから飛び降り、飛び出そうとすると、床に足をついた流れで膝の力が抜けそのままへたり込んだ。
「あらあら、急に動いちゃダメよ! ほら、横になって!!」
自分よりも小柄な先生に体を支えてもらってベッドに戻る。
「昨日のホールが忙しすぎて倒れたってことにしてあるから。私からも3日ほど休まないといけないって話つけてるから。仕事の心配はしなくていいわよ」
ぐいぐいと俺の体をベッドに押さえつけながら先生が言った。
「あの、ありがとう」
休めるのはありがたいが、これは料理長に俺がΩってバレたんだよな。
自業自得とは言え、ショックは大きい。
「あの、三日間ってここで寝れるってこと?」
「ああ、まぁベッドが足りなくなることはないからいいわよ。でも自分の部屋の方がリラックスできるんじゃないの?」
「いや、でももう……」
自分の部屋なんて残ってるのか……。
βしか従業員になれないというルールがあるこのホテルで、Ωとバレてしまえばおしまいだ。
せめてこのまま誰にも会わずに……。
「別に、あなたがΩなんて言ってないわよ」
「えっ? なんで? だって、このホテルは……」
「まあね、それはそうなんだけど。昨日あなたのヒートを知らせてくれた従業員に頼まれたのよ。Ωっていうことは誰にも言わないでくださいって」
「ジェイクが……」
あんなことをしてしまったのに。どこまで優しいやつなんだ!!
熱くなった目頭を腕で拭う。
また会えたらお礼を言おう。まあ、会えることなんてないかもしれないけどな。
先生に甘えて、本当に三日間を医務室で寝て過ごした。
先生は抑制剤を持たせてくれた。一番軽い、副作用もほとんどないやつだから、毎日飲みなさいって笑顔で怒られた。
☆☆☆☆☆☆☆☆
過去作にもオメガバース作品があります。
『転生したら淫紋が刻まれていたΩの俺~運命の番は闇堕ち王子~』
『家族に虐げられた高雅な銀狼Ωと慈愛に満ちた優美なαが出会い愛を知る』
こちらも是非お楽しみください。
先生の姿が霞んで見える。
「……た? ……うぶ?」
先生が何かを言っているみたいだけど、まだ頭がぼんやりして聞き取れない。
そういえば、俺はなんでこんなところにいるんだ?
今日は確か、パーティー会場の助っ人で働いてて……。
そうだ! リアム様に発情して、ジェイクが助けてくれたんだった!!
ジェイクはあれからどうなったんだろう。パーティーは無事終わったのだろうか。
はぁ。明日は料理長に怒られるんだろうな。
怒られて終わりならまだいい。次に住み込みで働かせてもらえるところがすぐに見つかればいいんだけど……。
「大丈夫?」
「あっ、はい」
医務室の先生の声がようやくはっきりと聞こえた。
先生は初老くらいの女性だが、小柄で大人しそうな見た目とは裏腹に、活発で身のこなしが軽い。しかも力も強い。
俺が連れてきた女性も腕を力付くで固定して抑制剤の注射を打っていた。
きっと俺のことも一人でさっさと治療したのだろう。
「あの、俺どのくらい寝てたんですか?」
「そうね、一晩ぐっすり寝たってところじゃない?」
「え? もう朝なんですか?」
「そうよ。何か急ぎの用事でも?」
「早く厨房に行かないと!! 料理長に怒られる!!」
慌ててベッドから飛び降り、飛び出そうとすると、床に足をついた流れで膝の力が抜けそのままへたり込んだ。
「あらあら、急に動いちゃダメよ! ほら、横になって!!」
自分よりも小柄な先生に体を支えてもらってベッドに戻る。
「昨日のホールが忙しすぎて倒れたってことにしてあるから。私からも3日ほど休まないといけないって話つけてるから。仕事の心配はしなくていいわよ」
ぐいぐいと俺の体をベッドに押さえつけながら先生が言った。
「あの、ありがとう」
休めるのはありがたいが、これは料理長に俺がΩってバレたんだよな。
自業自得とは言え、ショックは大きい。
「あの、三日間ってここで寝れるってこと?」
「ああ、まぁベッドが足りなくなることはないからいいわよ。でも自分の部屋の方がリラックスできるんじゃないの?」
「いや、でももう……」
自分の部屋なんて残ってるのか……。
βしか従業員になれないというルールがあるこのホテルで、Ωとバレてしまえばおしまいだ。
せめてこのまま誰にも会わずに……。
「別に、あなたがΩなんて言ってないわよ」
「えっ? なんで? だって、このホテルは……」
「まあね、それはそうなんだけど。昨日あなたのヒートを知らせてくれた従業員に頼まれたのよ。Ωっていうことは誰にも言わないでくださいって」
「ジェイクが……」
あんなことをしてしまったのに。どこまで優しいやつなんだ!!
熱くなった目頭を腕で拭う。
また会えたらお礼を言おう。まあ、会えることなんてないかもしれないけどな。
先生に甘えて、本当に三日間を医務室で寝て過ごした。
先生は抑制剤を持たせてくれた。一番軽い、副作用もほとんどないやつだから、毎日飲みなさいって笑顔で怒られた。
☆☆☆☆☆☆☆☆
過去作にもオメガバース作品があります。
『転生したら淫紋が刻まれていたΩの俺~運命の番は闇堕ち王子~』
『家族に虐げられた高雅な銀狼Ωと慈愛に満ちた優美なαが出会い愛を知る』
こちらも是非お楽しみください。
0
お気に入りに追加
33
あなたにおすすめの小説


俺を信じろ〜財閥俺様御曹司とのニューヨークでの熱い夜
ラヴ KAZU
恋愛
二年間付き合った恋人に振られた亜紀は傷心旅行でニューヨークへ旅立つ。
そこで東條ホールディングス社長東條理樹にはじめてを捧げてしまう。結婚を約束するも日本に戻ると連絡を貰えず、会社へ乗り込むも、
理樹は亜紀の父親の会社を倒産に追い込んだ東條財閥東條理三郎の息子だった。
しかも理樹には婚約者がいたのである。
全てを捧げた相手の真実を知り翻弄される亜紀。
二人は結婚出来るのであろうか。

まずはお嫁さんからお願いします。
桜庭かなめ
恋愛
高校3年生の長瀬和真のクラスには、有栖川優奈という女子生徒がいる。優奈は成績優秀で容姿端麗、温厚な性格と誰にでも敬語で話すことから、学年や性別を問わず人気を集めている。和真は優奈とはこの2年間で挨拶や、バイト先のドーナッツ屋で接客する程度の関わりだった。
4月の終わり頃。バイト中に店舗の入口前の掃除をしているとき、和真は老齢の男性のスマホを見つける。その男性は優奈の祖父であり、日本有数の企業グループである有栖川グループの会長・有栖川総一郎だった。
総一郎は自分のスマホを見つけてくれた和真をとても気に入り、孫娘の優奈とクラスメイトであること、優奈も和真も18歳であることから優奈との結婚を申し出る。
いきなりの結婚打診に和真は困惑する。ただ、有栖川家の説得や、優奈が和真の印象が良く「結婚していい」「いつかは両親や祖父母のような好き合える夫婦になりたい」と思っていることを知り、和真は結婚を受け入れる。
デート、学校生活、新居での2人での新婚生活などを経て、和真と優奈の距離が近づいていく。交際なしで結婚した高校生の男女が、好き合える夫婦になるまでの温かくて甘いラブコメディ!
※特別編3が完結しました!(2024.8.29)
※小説家になろうとカクヨムでも公開しています。
※お気に入り登録、感想をお待ちしております。

できれば穏便に修道院生活へ移行したいのです
新条 カイ
恋愛
ここは魔法…魔術がある世界。魔力持ちが優位な世界。そんな世界に日本から転生した私だったけれど…魔力持ちではなかった。
それでも、貴族の次女として生まれたから、なんとかなると思っていたのに…逆に、悲惨な将来になる可能性があるですって!?貴族の妾!?嫌よそんなもの。それなら、女の幸せより、悠々自適…かはわからないけれど、修道院での生活がいいに決まってる、はず?
将来の夢は修道院での生活!と、息巻いていたのに、あれ。なんで婚約を申し込まれてるの!?え、第二王子様の護衛騎士様!?接点どこ!?
婚約から逃れたい元日本人、現貴族のお嬢様の、逃れられない恋模様をお送りします。
■■両翼の守り人のヒロイン側の話です。乳母兄弟のあいつが暴走してとんでもない方向にいくので、ストッパーとしてヒロイン側をちょいちょい設定やら会話文書いてたら、なんかこれもUPできそう。と…いう事で、UPしました。よろしくお願いします。(ストッパーになれればいいなぁ…)
■■
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。


社長室の蜜月
ゆる
恋愛
内容紹介:
若き社長・西園寺蓮の秘書に抜擢された相沢結衣は、突然の異動に戸惑いながらも、彼の完璧主義に応えるため懸命に働く日々を送る。冷徹で近寄りがたい蓮のもとで奮闘する中、結衣は彼の意外な一面や、秘められた孤独を知り、次第に特別な絆を築いていく。
一方で、同期の嫉妬や社内の噂、さらには会社を揺るがす陰謀に巻き込まれる結衣。それでも、蓮との信頼関係を深めながら、二人は困難を乗り越えようとする。
仕事のパートナーから始まる二人の関係は、やがて揺るぎない愛情へと発展していく――。オフィスラブならではの緊張感と温かさ、そして心揺さぶるロマンティックな展開が詰まった、大人の純愛ストーリー。

【完】夫に売られて、売られた先の旦那様に溺愛されています。
112
恋愛
夫に売られた。他所に女を作り、売人から受け取った銀貨の入った小袋を懐に入れて、出ていった。呆気ない別れだった。
ローズ・クローは、元々公爵令嬢だった。夫、だった人物は男爵の三男。到底釣合うはずがなく、手に手を取って家を出た。いわゆる駆け落ち婚だった。
ローズは夫を信じ切っていた。金が尽き、宝石を差し出しても、夫は自分を愛していると信じて疑わなかった。
※完結しました。ありがとうございました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる