偶然出会った少女にお願い事をされたから、受け入れる事にしたら人生が変わった!

小春かぜね

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【R-15】稀子編 第2章

第356話 夜食を食べる その2

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 "工の字"型のシェルターに残ったのはかすかな機械の作動音だけだ。
 町もどきには持ち主不在の武具が転がるばかりで、格安事故物件としての格がだいぶ上がったかもしれない。

「……行くぞニク、動くのがいたら何だろうが撃て」
「ん、了解」

 そんな訳ありを三度重ねた建物の中、わん娘と一緒に小部屋の前で構えた。
 そこで質素な金属扉が【監視室】と内側の事情を隠しており。

『こっちも突入すんぜ、援護頼むわセアリさん』
『この変な匂いがテュマーなんでしょうね……念のため防御魔法をお願いします、行きますよー?』
『気を付けてね、二人とも? 【セイクリッド・プロテクション】!』

 戦利品だらけの道を一度隔てた向こうでタカアキたちも動きを揃えていた。
 青色髪なワーウルフに魔法の盾のエフェクトが被さったのを合図にして。

「……ゴー」

 ドアを蹴り飛ばした。
 向こうでもパワフルな人外キックが派手な音を立てる中、散弾銃を覗かせる。
 ニクの機関拳銃と射線が交差する――稼働中のパソコンが闇をぼんやり照らしてた。
 片隅には鈍器のようなもので頭を叩き潰されたテュマーがお一人、クリア。

「タカアキ! テュマーの死体だけ、敵なしだ!」
『こっちにもくたばってるお二人さんがいたぞ! 死に立てだ!』

 あっちも検め終わったらしい。マフィアさながらの姿がすたすた戻ってきた。

「セアリさん申し訳ないがグロはNGなんです……」

 セアリの不快そうな顔もセットだった、敵はいないそうだ。

「……うん、白き民もテュマーもいないみたい。もう大丈夫かも?」
「ていうかミコさん、どうしてあんなの見て平気なんですか……」
「慣れちゃったんだと思います……」
「あんなバイオレンスな現場に……!? ちょっとイチ君、一体何経験させたんですかうちのふわとろ系女子に!」
「話してやってもいいけど恨むなら俺じゃなくあっちの世界観にしてくれ」
「ほんとに何があったんですかね……」

 遅れてミコも来て、ひとまず目に見える範囲は片付いた。
 武具が山積みの通路で落ち合えば、タカアキが自動拳銃をくるっと回して。

「倉庫は缶詰やら日用品でいっぱいで、ご遺体がほったらかしにされてたぜ。そっちは?」
「可哀そうなやつが隅っこでくたばってた。あるのはまだ動いてるパソコンと壁にモニタいっぱいってところか」
「そいつはシェルターの監視システムだな、またずいぶんと金かかってそうだ」
「どんだけ金と暇を持て余してたんだろうな。気合入れ過ぎて町すらできてんだぞ?」
「あんまり健全な精神状態じゃなかったにちがいねえぜ」
「例えばどんな状態だ」
「こんな場所でカルトでもお開きになってたとかだ」
「そんな感じがしてきた、教祖様が生きてたらぶっ殺してやる」

 丁重にお返しされた――貸してやった『リージョン』自動拳銃だ。
 ホルスターに収めれば、幼馴染はそこらの天井に「あれだな」と指をさす。
 今気づいた、監視カメラが首を振ってささやかな町をなめ回してる。

「こっちも安全だ。とても嫌なものを見てしまったが……」
「ちょっと男子ー! 団長たちにトイレ調べさせるとか最低なんですけど!」
「ほ、骨だけでしたねー……? うう、ちょっと気分が……!」

 向こうからエルとフランとリスティアナも顔色悪く戻ってきた。
 何を見たのかトイレの現状に三名とも気味がよろしくないご様子だ。

「これで大体は制圧したってわけだな。ってことは……」
「うん……残るはここだけ、なんだけど……?」

 全員が無事に集まったところで、ある場所へと視線が移っていく。
 ちょうど激戦が繰り広げられた通路の先で突きあたる機械の扉だ。
 行く手を阻む金属の厚みは軍用車両も通れそうな幅を見せびらかしてる。

「武器庫と書いてあるようだがな。こんな大層な扉の向こうで一体何をため込んでいるんだ?」
「そだねー……何があるんだろう? 機関銃とかロケットランチャーとか山のように積まれてるのかな?」
「そんなものがあったところでちっとも嬉しくはないぞ。この厳重さから察するに、ろくなものではなさそうだ」
「団長たちが喜ぶようなものはなさそうだよね……白き民の戦利品がいっぱい持ち帰れるだけ収穫は十分だけどさぁ」

 エルとフランが興味津々に見上げても開くことはなさそうだ。
 というのも、そばの壁にこの堅牢さを制御するパネルがあったからだ。
 問題はそれがぶち壊されて開かずの間と化していることだが。

「永久封鎖されてるな。誰かが世界の平和のために閉ざしてくれたか」
「操作盤ぶっちぎられてるじゃねーか、誰だこんなことしやがったの? どっちの住民だ? テュマーか白か?」

 タカアキと一緒にあちこち調べるも「開けゴマ」は見当たらずだ。
 でも逆に言えば、中に白き民がいることはないはずだ。
 このシェルターはもう安全だ――武器庫の中身を知らない限りは。

「……ってことは、敵はもういないんですよね? 依頼は達成ってことでしょうか?」

 リスティアナが首をかしげる通りだった。
 白き民を駆除してくれ、という依頼は少なくともこれで達成されたわけだ。

「これで一人あたり二万メルタってわけですね! いやあ儲けましたね!」
「戦利品もいっぱいだねー、矢喰らっちゃったけど団長満足! さっそく調べよっか!」

 そうと分かれば話が早かった、特にセアリとフランが。
 怪しげな武器庫はもうそっちのけで敵の置き土産を物色してる。

「こら貴様ら、いきなり敵のドロップ品を漁るな! はしたないぞ!」
「だってキャプテン倒したんですよ! いい装備とかアーツアーカイブとか落としてるかもしれません!」
「鎧はともかく武器とか売れるからねー。それにほら、エルも剣ぼっこぼこじゃん?」
「リスティアナさんもどうぞ! いっぱいありますよ!」
「あっ、じゃあ私もいただいちゃいますね? 何かいいものないですかねー?」

 エルのきりっとした静止もむなしくヒロインたちは戦利品漁りのお時間だ。あっちの世界のスカベンジャーといい勝負である。

「……エミリオたち思い出すな。これが冒険者の営みってやつか?」
「ん、スカベンジャーのみなさまみたい」

 わん娘と思いが重なったようだ、エミリオたちがちょっと懐かしい。

「ふふっ、そうだね? 白き民が落とす装備とかってけっこうお金になるの。だからそういうドロップ品は冒険者たちにとっても大事だったりするんだ」

 次第にエルすらも探り始めると、そこにミコもすたすた混じってくる。
 どうも白き民の忘れ物には価値があるらしい。

「こいつらの忘れ物がか?」
「えっとね、わたしたちが使ってる武具ってほとんど白き民のドロップ品なの」
「そもそもの話だけどよ、クラングルには武器屋がねーんだよ。それどころかフランメリアはドワーフのいる都市以外そんなもんありませんよーって感じでな」

 タカアキの説明込みで冒険者の装備事情も教えてくれた――どうなってんだ。
 MMORPG基準の世界のくせして武器屋がない。そしてこいつらの落とし物で俺たちが支えられてるってさ。

「じゃあなんだ、冒険者ギルドにいる皆さまはみんな白き民のお古使ってるってことか?」
「うん、新しい装備品とかはほとんど出回ってなくて……。拾ったものを修繕したりして使うしかないんだよね」
「RPGっぽい世界なら武器屋ぐらいあってもいいだろ」
「そ、そうなんだよね……? でも、MGOもそういうゲームだったし」
「どういうゲームだ」
「生産スキルを活かそうっていう理由で、装備品はプレイヤーやヒロインたちが自分で作って流通させるシステムだったの。だから……」
「つまり「未来の俺何やってんだ案件」か、お前のせいだぞ俺」

 ミコも足元の落とし物を調べながら教えてくれた。
 誰かさんが装備は自分たちでどうにかしろなんて設定してくれたおかげで冒険者稼業は難儀してるらしい。
 するとタカアキが近くの『白き民殺人現場』から何かもってきて。

「もう一つはクラングルに武器屋あったけど全部潰れましたって背景なんだがな」
「あるっちゃあったのか」
「いい装備いっぱい売りだしたら強盗団が多発して治安悪化、そこから法の改正と武器屋総閉店だとさ」
「よし聞いてくれ、俺の返答は「馬鹿じゃねぇの」だ。どうなってんだここ」
「住民も力強かったらそりゃ悪いことする奴もパワーいっぱいだろうな。それに、店じまいの理由にはフランメリアがだいぶ穏やかになったからってのもあるらしいぜ」

 ひどい事実を陳列しつつ小さな板を投げてきた――アーツアーカイブだ。
 【クイック・ストライク】と出た、素手スキル30だそうだ。

「装備も手に入るしアーツとかも手に入るなら白き民を倒せば稼げるわけか」
「しかも金属製品は溶かして再利用できるらしいぜ、鉄資源持ってきてくれるとか親切なやつらだよな」
「なるほど、この全身鎧のやつとかさぞ溶かしがいがありそうだ」

 受け取ったそれを合図に俺もあたりを探った。
 まだ使えそうな形で転がってるこの武具たちが金になるらしい。

「アドバイスだ、あんま重くなくてかさばらないやつを選んどけ。まあ今回は車もあるからけっこう持ってけるぞ」
「あっ、もしも必要スキル値の高いアーツアーカイブとかスペルピースがあったら言ってね? 使いたい人がいなかったら売ってみんなで分配するから……」
「了解先輩ども。おいセアリ、クイック・ストライクとか出たけど使うか?」
「セアリさんもう覚えてますので結構です!」

 まさか冒険者になってからも倒した敵から物色するとは思わなかった。
 そこらに転がった武器やらに触ると【分解】の文字が浮かんだ。
 そうか、これなら【金属】の補給先になってくれそうだな。

「おい、先輩がた。この傷だらけの訳あり装備とかはどうすんだ?」

 ひとまず損傷のひどいものをどけつつ、手際の良いミセリコルディアに尋ねた。
 もし使い道がなかったら是非とも分解してしまおう。

「基本的に使えそうなものだけにしておけ。そういうものは持って帰っても扱いに困るだけだ」
「一応それ【鍛冶】スキル持ちの人が使う材料になるんですけどね、正直そこまでして持ち帰るものじゃありませんよ」
「そもそも武器とかまともに作れる人、いまだにいないんだよね……」

 トカゲと狼と竜なお三方は「どうぞご自由に」だそうだ、それなら。

「じゃあ俺が貰ってもいいか?」

 周囲のボロボロの装備品を集めて芸術品に仕立て上げた。
 タカアキやミコは分かってくれたのか何も言わず集めてくれた。
 その点、向こうは「どういうことだ」を顔いっぱいにしてるが。

「うん、どうせ持っていけないし……分解しちゃっていいよ?」
「リーダー殿がそう言ってるぜ、やっちまえ」
「……分解だと? 待て、貴様何をす」

 エルの質問タイムを無視して寄せ集めのガラクタに手をかけた。
 鉄と革混じりの一山に【分解しますか?】と質問があった、もちろんYESだ。
 次にはガラクタが綺麗に朽ち果てた、鉄に木材に革だのがいっぱいである。

「リサイクルだ」
「……何をした貴様!? なんだ今の!? どこかへ消えたぞ!?」
「いやいやいや……何してるんですかいち君、手品でもたしなんでおられる?」
「き、消えちゃった……どーゆーことなのキミ、団長に説明求むよ」
「不要なものとかゴミとか消して資源にできるんだ、んでそいつを使ってさっきみたいにいろいろ作れる」

 驚く皆様にさっきのカンガンの残骸をいい例として見せつけた。
 こっちの事情に美少女どもは「ええ……」だ、元カンガンもきれいに消した。

「エコってやつですね! イチ君まるでリサイクル施設です、えらいっ!」

 フランメリアの環境を思いやってると食堂からリスティアナが戻ってきた。
 手には霜がついた瓶やらがいっぱいだ、特にジンジャーエールが目ぼしい。

「女の子に「お前ゴミ箱」みたいに言われた気分だ。今は褒められたことにしてやる」
「リサイクル施設……!? っていうかリスティアナさん、それどうしたの……?」
「小腹が空いたので冷蔵庫を漁って来ました! 飲み物いっぱいですよー?」

 お手柄だリスティアナ、150年ものの炭酸飲料は今の俺には一番うれしい。

「150年前のな、ジンジャーエールは貰うぞ」
「お、お腹空いたんだ……? 後でみんなでご飯でも食べに行く? あ、わたしもジンジャーエールで……」
「逞しいお姫様だねえ、俺にはコーラくれ」
「……そんな物飲んでお腹下しても私は知らんからな貴様ら」
「え、じゃああの時クランハウスで飲んだのって……まあ健康でしたし大丈夫でしょう」
「こーいう炭酸飲料ってフランメリアにはまだないし、おいしいんだよねー……団長にもちょうだーい」

 俺たちは「どうぞどうぞ」とそれをもらった。
 キャップをむしればジンジャーエールだ、飲めば甘いし辛いし冷たい。
 でも桃色髪の方は「んふっ」とむせてる、背中をさすってやった。

「ご主人、こんなの見つけた」

 そんなところにニクがダウナーに帰ってくる。
 犬の手には革と紐で作られた巾着がずっしり重さをたたえてるようだ。
 「なんだそれ」と目で尋ねると。

「あ、お金だね。けっこう入ってるみたい?」

 とミコがちょっと嬉しそうに言い出した。メルタが入ってるらしい。
 受け取ればその通りで、この世界の貨幣がじゃらっといい音を奏でた。
 金まで持ってるのかこいつら、買い物でもするつもりだったんだろうか。

「メルタだな。なんでこいつらが持ってんだ?」
「ん……2000メルタも入ってる、何に使うつもりだったのかな」
「わたしたちも分からないんだよね、でもたまにこういうお財布を持ってる個体がいるの。どうしてだろう……?」
「俺たちが使ってる金をお持ちになってるとは気味悪い話だよな。でもありがたくいただいておこうぜ、メルタはメルタだ」
「腐ってもメルタか。今度会ったらどうして持ってるか聞いとこうか?」

 ひとまず公平な分配を期待してミコに預けた。
 疑問はあるがそういえばテュマーだってそうだ、生前の物持ちの良さそのままにチップを持ってたぐらいだ。
 俺たちは目ぼしいものを探ることにした――アーツはキリガヤのお土産にしよう。



 武器庫を閉ざす扉はさておいてそれなりに収穫はあった。
 まだきれいな武器防具がいっぱい、世紀末世界からきた手つかずの物資もだ。
 ゴミや残骸は【分解】して資源に変換してきれいさっぱりだ。

「……あっちで手に入れたらさぞ儲かっただろうな」
「……わたしもそう思っちゃった」

 一通りのものを手に入れて、ついミコとそう思ってしまった。
 ウェイストランドだったらこのシェルターも中の物資もけっこうなお宝だ。
 原料不明の電力も回ってるとなればいい住処かもしれないけれども、あいにくここは豊かな剣と魔法の世界だ。

「で、白き民どもの戦いぶりはいかがなもんで? やべーだろ?」

 【詰所】とある二段ベッドだらけのそこで通路に積まれた武具を眺めてると、タカアキが機嫌よく戻ってきた。
 手にはアーツアーカイブとスペルピースの形が浮かぶビニール袋がある。
 部屋にじゃらじゃら響くほどだが、質問は「白き民どうだった?」か。

「……今思い返すとやばいな」

 答えはこうだ、やばい。
 ミコやタカアキも少し間を置いて静かにうなずくほどだ。

『……剣がひどく傷んでるな。けっこう気に入っていたんだが』
『キャプテンが使ってたこれなんてどうです? ほぼ新品ですよ?』
『ナイトがぶん回してた大剣もあるけど……エルはそう言うの使わないもんね、リスティアナちゃん使うかー?』
『大丈夫ですよー? 私の剣はちょっと特別なので!』

 通路に目が行けばヒロインどもがかき集めた武具を選別中だ。
 が、エルが名残惜しそうに握っている剣が悪い意味で気になった。
 がぶん回した大剣を受け止めたせいでボロボロだ。

「どうやばいかお兄さんにいってみ?」
「動きもいいし一撃が強いんだ、戦い慣れてないと簡単に死ぬぞあれ」

 具体的に言えば刀身がねじ曲がって、剣としての価値が半分損なわれてる。
 それだけの攻撃を繰り出したのだ、あれは。
 鈍重そうなくせして一撃が素早くて重い――もしエルじゃなくそこらの人間だったら、防御に使った剣が自分の脳天に食い込むはずだ。

「その通りだぜイチ。ぶっちゃけ銃がなきゃあんなん相手にしたくねえ」

 タカアキも空っぽの散弾銃をいじりながらそう言うほどだ。
 適当な現代人が武器を手に意気込んだら、ものの数秒で死後の世界へご招待だ。

「……連携も取れてるからね。わたしたちの間じゃ、集まってる白き民ほど危ないって言われてるんだよ」
 
 ミコが戦利品に埋もれた短弓をじっと見ていた。
 もっと確かめようと足が動くと、戦場だった大きな通路をふと見渡せた。
 ちょっと前に一戦交えた広さだが、敵味方が入り乱れて狭かったはずだ。
 なのに敵の弓持ちは射貫いてきた。それも味方を潜り抜けるように、指揮官不在の独自の判断でだ。


「そうだろうな。あいつらあの乱戦で弓なんてぶっ放してきたんだ、しかも誤射しないで敵だけ的確にな」
「あんなんとタメ張れるのはヒロインのお嬢様がたぐらいだよ。つーか俺たち連れてきて正解だったな、こいつなかったら逆に一方的だったかもしれねえ」
「うん……いちクンたち連れてきて正解だったと思います」
「逆に俺たちだけで相手するのもごめんだ」
「お前が言うってことはよっぽどなんだろうな」
「もしあれと剣使ってチャンバラしろとかいわれたら多分俺が負ける」

 それに考えてみれば、軽装の【ソルジャー】ですらまずい気がする。
 武器をぶん回すだけならテュマーでもできるが、あいつらは扱い方もわきまえてる。
 少なくとも素人の剣捌きが通用する感じじゃない。ガチで殺しにかかってる。
 今は勢いで勝てたが、適当な太刀筋で喧嘩を売れば容易く命を頂戴されそうだ。

「ヒロインの方が勝ってるって思われる理由その2があれだ。人間様からすりゃ白き民と渡りあえりゃ及第点ってイメージがあるぐらいさ」
「ついでに言うと見た目が怖いから一人で相手したくない」
「分かる、壁這ってたもんなゴキみたいに」
「白いゴキブリみたいに言うな馬鹿野郎。しかもだ、なんかカサカサしてるやつが天井に張り付いてたんだぞ? あんなのいるとか正気か?」
「さっきのはスカウトっていうんだけど、動きがあれだよね……」
「あいつは偵察とか奇襲してくるタイプだよ、油断するとすぐそばにいて心臓に悪いぜ。もうこれ完全にゴキ……」
「あんなのとやらないといけないのも冒険者稼業か、パン屋に帰りたい」

 しかも気持ち悪い。どこに壁を這う人間モドキがいるかってお話だ。
 さっきは勢いで殺したが今思い返すとホラーだ、どうか夢に出ないでくれ。

「最近はあの白いのがどんどん目撃されてるらしいんだよなあ、俺たちが来たばっかの頃はちょっと噂に聞く程度だったのによ」
「そうなんだよね……近頃、こんな風に活動している白き民が増えてて冒険者の需要が高まってるとか」
「あいつらどうにかしろって? 俺たちは白アリ駆除業者かなんかか?」
「し、白アリ……?」
「冒険者は仕事を選べないが良く当てはまる案件だよな、でも稼げるのは確かなんだから皮肉なもんさ」

 フランメリアの奴らはそんな白き民に「どうぞ稼いでください」か。
 ちなみに今回の報酬は一人二万だ。
 ドロップ品を折り込めばなおさらだろうけど、命の危機を確かに感じた。

「……こんなものでいいですかね、これ持ち帰って売りさばきましょう」
「おっけー、交渉役は団長に任せなー」

 というところでセアリたちが戦利品の源泉を終えたみたいだ。
 見れば持ち運びやすそうな品々がまとめられてる。
 俺たちもこまごま頂いたが、他に使い道がありそうなものはタケナカ先輩たちに寄付することによう――

「……ご主人、来て」

 が、そこでニクが早足でやってくる。
 さっきの監視室からだ、くいくいジャンプスーツを引かれて急ぎを感じる。

「どうした? 先に聞くけど悪いニュースか?」
「……部屋の画面に変なのが見えた」
「よし、悪い方だな」

 ダウナーな声には若干の警戒心がある、ということは何かあったな。
 タカアキも「どうした」とついてくれば、たどり着いたのはさっきの部屋だ。

「これ見て。何か動いてる」

 じとっとした調子の声は他より一回り大きなモニタを訝しんでる。
 犬らしい手先を辿ると――調子の悪いカメラが知らない大部屋を映してた。
 空のコンテナが転がるどこかで、隅で何かがよろよろ動いてる。

「こいつは……なんだ? 人か?」
「武器庫みてーだぞ。でもよ、こんなとこにいるのが人なわけねえよなぁ」

 見たことのない空間という点からして、たぶん件の武器庫か。
 カメラの視点では誰かが壁にもたれてるように見えるし、ついでにあの扉もでかでかとあった。

「……この写ってるのって……テュマーだよね?」

 遅れてミコもやってきたが一目で気づいたらしい。
 青い瞳が煌めくのが何よりの証拠だ、この誰かは間違いなくテュマーだ。

「いや……待て、この部屋に置かれてるのって……」

 そう分かったところで唐突に嫌なものが目に触れた。
 扉相応に広い面積の中に妙に大きなシルエットが置いてある。
 逆関節の足を持ち、頭部が引っ込んだ丸みを帯びたボディ、両腕の機関銃。
 この要素を掛け合わせる存在といえば何が浮かぶ? 俺だったら――

「どう見てもデザート・ハウンドだよね、これって……?」
「……あの時の無人兵器? どうしてこんなところにあるんだろう」
「きれいな形で残ってんなオイ……なあ、俺なんか嫌な予感してきたぜ」
「お久しぶりだって言ってやりたい気分だ。で、なんで地下にこんなの保管してあるんだ? まさか軍用シェルターだったとか言わないよな?」

 幼馴染の不穏な発言はさておきこれは紛れもなくデザート・ハウンドだ。嫌な思い出しかない重機関銃四問がそう物語ってる。
 そんな今にも動きそうな無人兵器の傍らでテュマーは壁をなぞっており。

*がごんっ*

 画面に存在する逆関節が持ち上がるのと、近くからの鈍い金属音が一致した。
 奇しくも無音の光景の中ではあの無人兵器が立ち上がってた。
 センサーをちかちかさせつつ、五十口径つきの腕が獲物を探っているようだ。

「……タカアキ、「もしかして」から始まる言葉を思いついた」

 とても嫌な予感がした。
 なぜなら既に扉がぎぎぎ、と嫌な音をきしませているからだ。

「ね、ねえ……わたしからも「もしかして」だけど……」
「怒らねえから言ってごらん二人も?」

 俺たちはとても嫌な方向性で、恐る恐るに顔を見合わせた。

「もしかしてやばいんじゃ」「もしかしてまずいんじゃ」

 ミコと言葉が重なって、傍目で画面の扉が開くところも見えてしまう。
 御開帳した先には恐らく五十口径二門だ――まずい!

「息ぴったりでお前らほんと仲良しだな、良かった良かった……逃げろおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!」
「ふっっざけんなあああぁぁッ! 家主ぶち殺してやるぞ畜生がッ!」
「みっみんな逃げて! 無人兵器が来てるよ! 早く!!」
「デザートハウンドが起きてる……! みんな、走って……!」

 ダウナーなわん娘を先頭に全力で走った!
 飛び出た先で開きかけの武器庫を見守る面々がいたがそんな場合か!

「ど、どうした貴様ら!? なんだ無人兵器って!?」
「あーセアリさん分かっちゃいましたー……やっっばいですよ逃げましょう!」
「そりゃいきなりこんなの開いたら不穏だもんね!? 逃げろー!」
「ど、どうしたんですか皆さん!? わ、私も逃げますねー!?」
「いいから早く逃げろ! 俺たちで事故物件になるぞ! 急げえええええええええ!」

 俺は荷物をあきらめさせて走った。 
 事情を把握してすぐ動くのは流石ミセリコルディアだと思う。
 総員ばたばたと広い通路を走れば、不吉極まりない開閉音を背で感じて。

『本日も良い一日をお過ごしください、市民――あの世でな!』

 こんな世界で聞きたくなかったセリフが追いかけてきた。
 一瞬振り向けば、あの無駄にでかい入り口をくぐる逆関節のそれがあった。
 どこぞの都市でお会いしたデザート・ハウンドの堂々たる姿だ。
 そいつがお客様を狙ってるのは見て明らかだ、バグったままのOSが両腕の五十口径を持ち上げる――!
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