偶然出会った少女にお願い事をされたから、受け入れる事にしたら人生が変わった!

小春かぜね

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稀子編

第67話 最後の望み その2

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「はい……」

「比叡さんですか?」
「鈴音です…」

「そうです。こんばんは」

「はい…こんばんは」
「結果は、残念でしたね…。私に出来る事が有りましたら、―――」

 鈴音さんは慰めの言葉を掛けているが、俺はそれを遮るように言う。

「いえ、おごっていた自分が悪いのです…」
「…要件は、それだけですか?」

「……そちらに稀子さんは、いらっしゃいますか?」

「?」
「稀子ちゃんですか? えぇ、来ていますよ…」

 すると…、電話向こうから、ため息が聞こえる。
 それは安心した時に吐く、ため息で有った。

「……どうしました? 鈴音さん?」

「いえ……先ほど、稀子さんの部屋を覗いたら、稀子さんが部屋に居ないし、電話を掛けたら稀子さんの部屋から着信音が聞こえるから、少し心配をしまして…」

「そうでしたか…」
「稀子に代わりましょうか?」

「いえ、大丈夫です…」

 俺が鈴音さんと通話をしていると、稀子が俺の体を指で突いてくる。
 俺は通話口を手で押さえて、稀子に顔を向ける。

「比叡君! りんちゃんからでしょ!!」
「少し変わって!!」

「あっ…あぁ、分かった」
「鈴音さん? 稀子ちゃんが鈴音さんと話がしたいそうです」

「稀子さんがですか?」
「…分かりました」

 鈴音さんに事情を話してから、俺は稀子にスマートフォンを渡す。

「あっ、鈴ちゃん!!」

「―――」

「あ~~、ごめん、ごめん。」
「比叡君が心配でさ、様子見に行っていた」
「電話はうっかり……ワザとじゃ無いよ///」

「―――」

「それでね、鈴ちゃん」
「比叡君、やっぱり保育士さんに成るって!」

「―――」

「違うよ!」
「この町に住みながらだよ!!」

「―――」

「通信講座で、保育士さんの勉強をするんだって!!」
「まだ、山本さん起きているでしょ」
「今から、比叡君と向かうから準備して置いて鈴ちゃん!」

「―――」

「大丈夫! 大丈夫!!」
「だって、山本さんのお店。ランドセル屋さんでしょ!!」
「よく考えれば、保育園児や幼稚園児の繋がりの大きいお店なのに、何で気付かなかったんだよね♪」

「―――」

「そう。そう!」
「じゃあ、今から行くね!!」

『ピッ』

 稀子は勝手に通話を終了させて、スマートフォンを渡しながら言う。

「比叡君! 最後の戦いだよ!!」
「これが突破出来れば、比叡君の道は安泰に成るよ!!」

 根拠の無い事を自身満々で稀子は言う。

「……今から、山本さんの家に行くの?」
「もうすぐ、22時だよ…」

「比叡君! 逃げては駄目だよ!!」
「今日起きた問題は、今日解決しなければ!!」

「明日に成ったら、比叡君はアルバイト先も無くなるし……私達の関係も無くなるかもだよ……」

 最後の方は、しぼむ様な声で稀子は言う。

「私達の関係も無くなる? どう言う意味だ稀子ちゃん?」

「……山本さんがさっき言っていたじゃない」
「私に興味が有る人が居ると……。あの言葉……冗談では無いみたい」

「つまり……今日中に、全て解決するしか無い訳か!」

「そうだよ! 比叡君!!」
「鈴ちゃんにはさっき頼んで置いたから、私達が行けば、直ぐに話し合いが出来る用意は出来ているよ!」

「さぁ、行こう! 比叡君!!」

 稀子は立ち上がり、ゲームのワンシーンの様に手を差し伸べる。
 俺は静かに立ち上がり、稀子の手を握る。

「もし山本さんが『駄目!』と言ったら、私は比叡君に付いて行く!!」

「えっ!?」

「比叡君は逃げ出さずに、自分で道を探した!」
「直ぐにでは無いけど、比叡君は対応が出来たんだよ!!」

「前向きの人を、私は捨てたり何かしないよ!!」

 稀子は笑顔でそう言ってくれる。

「……稀子。信じても良いのか?」

「おっ! やっと男らしい顔つきに成ってきた!!」
「比叡君……何処か、覚悟が仕切れてない部分が有ったのだよね!」

「でも……今の比叡君なら、男として見ても良いかな?」
「少しだけだけど…」

「稀子……」

「んっ……」

 俺は稀子を手繰り寄せて、稀子の唇に吸い付く様にキスをする。
 今日はご飯の味はしなかったが、歯磨き粉の味と香りがするキスだった。
 しばらくすると稀子は離れたがるので、そこでキスも終わる。

「行こうか! 比叡君!!」

「あぁ……」

 先ほどまでは中立の立場を取っていた稀子だが、今は完全に俺の味方に成った。
 俺と稀子で山本さんと対峙する。
 負けても、稀子は俺に付いて来てくれる。勝てない戦かも知れないが、負ける事も無い戦に成った。

 俺は稀子と共に、決戦の場に向かった……
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