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稀子編
第56話 素直に考えた結果……
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……
『カチャ、カチャ、―――』
俺は今、稀子と晩ご飯の後片付けをしている……
稀子は洗剤で食器を洗っている。俺はそれを拭いて仕舞う係だが、今は手持ち無沙汰だ。
結局俺は、鈴音さんには声を掛けられず、鈴音さんを工場に行かせてしまった……
本当にこれで良かったのか…?
「鈴ちゃん……。大丈夫かな?」
稀子は洗剤の付いた、食器を洗い流しながら言う。
「工場から、悲鳴とかが聞こえては無いから、大丈夫じゃないかな?」
「悲鳴!? どう言う事、比叡君?」
稀子は食器を洗う手を止めて、怪訝な表情をしながら俺に聞いてくる。
「あっ……工場で話し合いをして居るから、工具類も有るだろうと思って…」
俺がそう言うと、稀子は素で返事をする。
「鈴ちゃんは絶対にそんな事しないし、山本さんもしないよ!」
「そうだと良いが…」
「無事に和解出来ると良いが…」
「出来るんじゃ無い?」
「鈴ちゃんは山本さんの事が大好きだし、山本さんも鈴ちゃんの事好きだから…」
「そうだとしたら、あんな非道い事を言わなくても良かったのに」
俺がそう言うと……
「鈴ちゃんは、頭が良いからね!」
「成績も優秀だから、進学しても現役合格は間違い無し!」
「だからこそ山本さんは、家業を手伝わせての怪我を、一番恐れたのでは無いかな?」
「成績優秀でも……留年したら一気に馬鹿にされるから、やむを得ない理由で有っても!」
「大人の世界でもそうだけど、子どもの世界は特に、揚げ足取りが好きだからな」
「たしかに分からない事も無いが、もう少しオブラードに包んで話せば良いのに…」
「山本さんは口下手か…?」
「……ねぇ、比叡君?」
「後片付けが終わったら、様子見に行こうか?」
「……行きたいのは山々だけど、2人の問題だから…」
「そうだよね…」
「下手に覗きに行ったら、鈴ちゃんが怒るかも知れないね…」
稀子は自分で提案した割には、案を直ぐに引っ込める。
「今日は、気まずい晩ご飯に成っちゃたね。比叡君」
稀子は苦笑いをしながら言う。
「稀子」
「今日が珍しい日……何でしょ?」
「そうだね……。もしかしたら初めてかも知れない?」
「今まで…、ご飯時に仕事の話は言わなかったし、私達にも愚痴をこぼさなかった」
「比叡君が来た事で山本さんの中で、何かが起きているのかもね!」
最後の方は笑顔で話す稀子。
「俺が来た事でか……」
山本さんは俺を期待しているのか?
手先は本当に不器用だし、根性も無い。
そんな俺を、期待してもこちらが困るのだが……
晩ご飯の後片付け中、鈴音さんの事を心配しながら後片付けをしたが、その間に鈴音さんがリビングに戻ってくる事は無かった。
……
晩ご飯の後片付けが終わった後、俺と稀子はしばらくリビングで待機していたが、俺は明日もアルバイトが有るし、知り合いの家だからと言って、何時までもお邪魔して良い訳でもない。
山本さんのお母さんも、晩ご飯以降はこちらには顔を出さずに、本当に帳簿を付けているのだろうか?
「……稀子ちゃん。俺、明日もアルバイトが有るから、お先に失礼しても良い?」
リビングの壁時計を見ると、22時45分を過ぎていた。
「あっ……そうだよね」
「比叡君、明日もお仕事だもんね」
「それしても、長い話し合いだね……」
たしか、鈴音さんが工場に向かったのは、21時過ぎだったと思うから、確かに長すぎるがどうしようも出来ない。
「……私も、お風呂入って、一旦自室に戻るよ!」
「私も明日学校だし、もしかしたら朝ご飯も、私が作らないと行けないと思うから…」
「朝ご飯も当番制なの?」
「そうだよ!」
「明日は山本さんのお母さんの日だけど、万が一に備えて…」
稀子はそう言う。
稀子の口ぶりからして、山本さんのお母さんが、リビングに顔を出さないと言う事はもしかしたら、3人で話し合っているのかも知れない……
これ以上、ここに居ても何も出来ないので、俺は一足先にアパートに戻る事にした。
「じゃあ、お休み。稀子ちゃん!」
「お休み~~。比叡君!!」
稀子は元気な声で玄関から見送ってくれる。
でも、見送ってくれるだけで有る……
鈴音さんとの連絡先交換は言い損ねたが、また今度有った時に言えば良いと思った。
俺はアパートに戻り、シャワーを浴びながら先ほどの事を考える。
鈴音さんと山本さんの関係。俺と稀子の関係……。そして、これからの事。
複雑すぎて考えは纏まらないが、それでもみんなが、少しでも幸せに成れる事思いながら、俺はシャワーを浴び続けた……
『カチャ、カチャ、―――』
俺は今、稀子と晩ご飯の後片付けをしている……
稀子は洗剤で食器を洗っている。俺はそれを拭いて仕舞う係だが、今は手持ち無沙汰だ。
結局俺は、鈴音さんには声を掛けられず、鈴音さんを工場に行かせてしまった……
本当にこれで良かったのか…?
「鈴ちゃん……。大丈夫かな?」
稀子は洗剤の付いた、食器を洗い流しながら言う。
「工場から、悲鳴とかが聞こえては無いから、大丈夫じゃないかな?」
「悲鳴!? どう言う事、比叡君?」
稀子は食器を洗う手を止めて、怪訝な表情をしながら俺に聞いてくる。
「あっ……工場で話し合いをして居るから、工具類も有るだろうと思って…」
俺がそう言うと、稀子は素で返事をする。
「鈴ちゃんは絶対にそんな事しないし、山本さんもしないよ!」
「そうだと良いが…」
「無事に和解出来ると良いが…」
「出来るんじゃ無い?」
「鈴ちゃんは山本さんの事が大好きだし、山本さんも鈴ちゃんの事好きだから…」
「そうだとしたら、あんな非道い事を言わなくても良かったのに」
俺がそう言うと……
「鈴ちゃんは、頭が良いからね!」
「成績も優秀だから、進学しても現役合格は間違い無し!」
「だからこそ山本さんは、家業を手伝わせての怪我を、一番恐れたのでは無いかな?」
「成績優秀でも……留年したら一気に馬鹿にされるから、やむを得ない理由で有っても!」
「大人の世界でもそうだけど、子どもの世界は特に、揚げ足取りが好きだからな」
「たしかに分からない事も無いが、もう少しオブラードに包んで話せば良いのに…」
「山本さんは口下手か…?」
「……ねぇ、比叡君?」
「後片付けが終わったら、様子見に行こうか?」
「……行きたいのは山々だけど、2人の問題だから…」
「そうだよね…」
「下手に覗きに行ったら、鈴ちゃんが怒るかも知れないね…」
稀子は自分で提案した割には、案を直ぐに引っ込める。
「今日は、気まずい晩ご飯に成っちゃたね。比叡君」
稀子は苦笑いをしながら言う。
「稀子」
「今日が珍しい日……何でしょ?」
「そうだね……。もしかしたら初めてかも知れない?」
「今まで…、ご飯時に仕事の話は言わなかったし、私達にも愚痴をこぼさなかった」
「比叡君が来た事で山本さんの中で、何かが起きているのかもね!」
最後の方は笑顔で話す稀子。
「俺が来た事でか……」
山本さんは俺を期待しているのか?
手先は本当に不器用だし、根性も無い。
そんな俺を、期待してもこちらが困るのだが……
晩ご飯の後片付け中、鈴音さんの事を心配しながら後片付けをしたが、その間に鈴音さんがリビングに戻ってくる事は無かった。
……
晩ご飯の後片付けが終わった後、俺と稀子はしばらくリビングで待機していたが、俺は明日もアルバイトが有るし、知り合いの家だからと言って、何時までもお邪魔して良い訳でもない。
山本さんのお母さんも、晩ご飯以降はこちらには顔を出さずに、本当に帳簿を付けているのだろうか?
「……稀子ちゃん。俺、明日もアルバイトが有るから、お先に失礼しても良い?」
リビングの壁時計を見ると、22時45分を過ぎていた。
「あっ……そうだよね」
「比叡君、明日もお仕事だもんね」
「それしても、長い話し合いだね……」
たしか、鈴音さんが工場に向かったのは、21時過ぎだったと思うから、確かに長すぎるがどうしようも出来ない。
「……私も、お風呂入って、一旦自室に戻るよ!」
「私も明日学校だし、もしかしたら朝ご飯も、私が作らないと行けないと思うから…」
「朝ご飯も当番制なの?」
「そうだよ!」
「明日は山本さんのお母さんの日だけど、万が一に備えて…」
稀子はそう言う。
稀子の口ぶりからして、山本さんのお母さんが、リビングに顔を出さないと言う事はもしかしたら、3人で話し合っているのかも知れない……
これ以上、ここに居ても何も出来ないので、俺は一足先にアパートに戻る事にした。
「じゃあ、お休み。稀子ちゃん!」
「お休み~~。比叡君!!」
稀子は元気な声で玄関から見送ってくれる。
でも、見送ってくれるだけで有る……
鈴音さんとの連絡先交換は言い損ねたが、また今度有った時に言えば良いと思った。
俺はアパートに戻り、シャワーを浴びながら先ほどの事を考える。
鈴音さんと山本さんの関係。俺と稀子の関係……。そして、これからの事。
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