偶然出会った少女にお願い事をされたから、受け入れる事にしたら人生が変わった！

稀子編

第55話 鈴音さんの心情

「大丈夫ですか？」
「鈴音さん…？」

　俺は鈴音さんに声を掛ける。

「……ごめんなさい。お見苦しい場面をお見せ為てしまって…」
「どうして、こう成ってしまったのでしょう……」
「私は……間違った事は言っていないのに…」

「それにしても、非道いね。山本さん！」
「あんなに冷たい人だとは思ってなかった！！」

　稀子もかなり、山本さんに対して不信感を持った様だ。
　これも色んな意味でチャンスか？
　しかし…、鈴音さんは傷心しきっていた。

「可笑しいですよね。私は孝明さんの事を考えて発言したのに、断れて仕舞いましたから」
「私は一緒に、山本鞄店を盛り上げたいだけなのに……」

　山本さんがリビングから離れて、緊張の糸が切れたか、鈴音さんの顔には涙が一気に流れ出す……。稀子は鈴音さんの隣に座って、鈴音さんの涙をティッシュで拭きながら鈴音さんを慰める。

「あんな非道い男……別れちゃいなよ！」
「鈴りんちゃんの気持ちを理解出来ない男なんて、鈴ちゃんが可愛そうだよ！」
「比叡君みたいな、優しい人を探したら？」

　稀子はそう、鈴音さんに言って慰めて居るが、果たしてそれは本心何だろうか？
　疑いたくは無いが……稀子は、山本さんがまだ好きな筈で有る。
　俺との関係が有る癖に時々、凄く甘えた表情で山本さんの所に行く時が有る……。俺が居ても平気でする。稀子は子どもっぽい性格だから、そう言われればそれまで有るが。

　ここで鈴音さんが別れたら、稀子にもチャンスがやって来る。
　稀子も俺に好意が有るなら、もっと関係が深くなっても良いのに、親友以上恋人未満で停滞している。

（そうしたら…、俺は鈴音さんを……何て事を考えるがそんな事をしたら、山本さんと殺し合いに成るか！？）
（でも、ペアの入れ替えで有って、問題は無いはずだ）

（てっ……俺は何を考えて居るのだ！　実はそれを望んでいるのか！？）
（鈴音さんと関係が深められれば、その方が良いに決まっている）

　隣の芝生は青く見える現象で有る。
　稀子と鈴音さんを比べると、どうしても鈴音さんに興味を感じてしまう……
　しかし……鈴音さんは、稀子の言葉を鵜呑みにしない様だ。

「稀子さん……。孝明さんは優しい人です」
「きっと、納期の事で困っていて、私に八つ当たりをしたのです」
「お母様や稀子さん、比叡さんに八つ当たりをする訳には行けませんもんね」

　鈴音さんはそう言って、山本さんの言葉を自分自身で正当化している。
　泣き顔から、少しずつ表情も戻って来ている。

「それにしても、あの言葉は非道いよ！」
「鈴ちゃんも“子ども”扱いしたのは、私は一番許せない！！」

　確かにあの発言は、失態だと俺でも分かる。
　稀子や鈴音さんだって自分の体型を気にしている。
　少し考えれば分かるはずなのに……

「稀子さん、比叡さん」
「申し訳ないのですが、後片付けはお願いしても良いですか？」

　鈴音さんはそう言って、席を立ち上がる。
　何かを決意した表情をしていた。

「それは……良いけど、鈴ちゃん。何処に行くの？」

「もう一度、孝明さんと話し合ってきます！」
「孝明さんも、先ほど放った言葉で、孝明さん自身も苦しんでいる筈です！」
「今なら、素直な話し合いが出来るはずです！！」

　俺はその時、考えてしまう……
　このまま、鈴音さんを山本さんの方に向かわせて良いのか？
　それとも、引き留めるべきか？

　工場こうばと言う位だから、刃物類や鈍器類は当然有るだろう。
　普段、温厚な鈴音さんが、さっき彼処まで感情を剥き出しにしたのだ。
　感情を抑えられなく成って、近くに有った、裁ちばさみで山本さんを『グサリ』も十分に考えられる。

　そんな事が起きてしまったら、山本鞄店はお仕舞いで有る。
　同時に鈴音さんの人生も終了してしまう！

　俺が、今すぐ鈴音さんに声を掛ければ止められる。
　鈴音さんと山本さんを、2人きりにしては成らない！？
　俺はどうするべきかと思った……

「それでは、すいません…」

　鈴音さんはそう言って、ゆっくりと歩き出して工場こうばに向かおうとする。
　俺の取るべき行動は、どちらが正しいのだろうか？
　この場直ぐに考えて、行動するしか無かった……