偶然出会った少女にお願い事をされたから、受け入れる事にしたら人生が変わった!

小春かぜね

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稀子編

第53話 いきなり嵐!? その1

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「稀子ちゃんが拗ねているのに、良く気付いたね……」

 俺は小声で返事をする。

「数日前に、似た様な事が有りましたので……」

「そうか…?」
「稀子ちゃんももう少し、大人に成れば良いのだけど……君はそこが好きなんだろ?」

「好きと言うか……稀子の子どもっぽい所は好きですが、子ども過ぎるのも……」

 小声でやり取りをしていた俺と山本さんだが、ここ急に大声で笑い出す。

「あはは!」
「君と僕……似てないけど、何かを感じるかと思ったら其処の部分か!」
「最初の時は、こいつ頭でっかちと思っていたが、話していると案外気が合いそうだな!」

「良し! 今日はおまけで、日本酒を1合サービスしよう。あはは」

 山本さんは上機嫌で言い笑う。
 どういう事だ!?
 好きなタイプが同じで、考え方も同じの意味か!?

 そう成ってしまうと……。鈴音さんを俺が密かに求めているのも、山本さんは理解出来てしまうし、鈴音さんもその様な人が好きなら、俺にも機会は有る!?

 しかし、そんな現象は絶対に起きるはずは無い!
 山本さんは鈴音さんの将来を考えているだろうし、鈴音さんもランドセル職人の道を進むと決めている。そんな状態に俺の出る幕は無い!!
 でも、万が一の事を思いながら俺は味噌汁をすする。

 ……

 瓶ビールを飲みきった俺は、本当に山本さんから日本酒を1合サービスされる。

「はい! 比叡君!!」
「それ飲んで、明日も仕事頑張れよ!!」

 山本さんはあれからずっと上機嫌で有る。
 今日も楽しい晩ご飯は続いているが……

「そうだ…!」
「比叡君は……手先は器用か?」

 山本さんは日本酒を飲みながら突然聞いてくる。

「手先ですか……どちらかと言うと、不器用です」

 俺がそう言うと、山本さんは少し残念そうな顔をする。

「そっか~~、不器用か……。そうか…」

 山本さんは1人で呟いている。

「どうしたんですか…?」
「俺の手先が何か関係有るのですか?」

「あぁ……ちょっと、急な仕事が入ってな…。僕1人でも出来ない事は無いが、君は男だから、僕の仕事を手伝って欲しかったのだが……」

「山本さんの仕事?」
「ランドセルの製造ですか…?」

「そう、そう!」
「僕1人では1日に作れる量何て、たかが知れているし、かあさんも店番が有るからな!」

 山本さんが俺に説明していると、そこに鈴音さんが話しの輪に入ってくる。

「孝明さん!」
「ランドセル作り。私にも手伝わせてくれませんか!」
「何時かは手伝おうと思っていましたし、私にも教えてくれませんか!!」

「えっ!?」
「鈴音にか……?」

 すると、山本さんは凄く驚いた表情をする。『予想外だった』の表情をしている。
 しばらく山本さんは考えるが、山本さんの発した言葉は意外だった。

「駄目だ……。鈴音は工場こうばを見ているから分かるが、ランドセルの製造は意外に体力が要るのだ」
「たしかに、鈴音にも任せられる部分も有るが、鈴音に手伝わせる訳にはいかない!」

 これは、どういう事だ!?
 俺にはランドセル製造の手伝いを持ち掛けて、鈴音さん自ら名乗り出たのに拒否をする!?

「……どうしてですか?」
「……孝明さん!」

 鈴音さんは凄く悲しそうな表情をしながら、山本さんに理由を聞く。

「…それは、鈴音はまだ子どもだからだ!」

「!!」

 俺は『そんな理由な訳、有るか!?』と心の中で言ってしまう。
 鈴音さんは当然、先ほど以上にショックを受ける!!

 すると……突然、鈴音さんはテーブルを『バン!』と叩きながら席を立ち上がる。
 今までの“おしとやかな”な鈴音さんでは無い?!
 ご飯を食べている稀子も、茶碗を手に持ちながら呆然と見ている。

「何故ですか!!」
「私は、来年には学園を卒園する年齢ですよ!!」
「誰もが見ても大人じゃないですか!!」

 今までに無い位の声量で、鈴音さんは山本さんに言う。
 山本さんは座りながら、鈴音さんの目を見据えている。

「鈴音には……製造よりも販売をお願いしたい」

 山本さんはそう言いながら頭を下げる。
 当然、鈴音さんはそれに納得するはずは無くて……

「私にも出来る事が有るなら、手伝わせてくれても良いじゃないですか!!」
「私は、孝明さんとの将来を考えて言っているのですよ!!」

「それは、そうだが……」

 イケイケドンドン派の山本さんも流石に言葉に迷っている!?
 好きな人の要望を何故、拒否するのも謎だし、鈴音さんもランドセル作りに凄く意識を持っていて、その最初の1歩をつまずかされたから、尚更感情を抑えきれなかったのだろう……
 山本さんのお母さんは、何も言わずに食事を続けている。
 この人は事情を把握しているのか?

「私にランドセル作りのお手伝いをさせて貰えないなら、お店のお手伝いも今後は考え直します!!」

 ここで鈴音さんは、決めの1手を打ってきた。
 鈴音さんが販売のお手伝いを辞めれば、山本鞄店は看板娘を失う事に成る。
 将棋で例えるなら、飛車を失う位の状態で有る!?
 看板娘を失うのは、かなりのダメージを受ける事に成る。それは、山本さん自身も自覚している筈だ。

 楽しい食事の時間が何故こう成ってしまった?
 俺が日本酒をサービスされるまでは楽しい時間だったのに……

 鈴音さんがそう言った後、山本さんはまた考え始めるが……、山本さんが予想外の言葉を放つ。
 人とは、ここまで非道く言える者だなと俺は感じた。
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