心のリミッター

小春かぜね

文字の大きさ
上 下
19 / 357

第19話 秋の風

しおりを挟む
 今年は夏が短かった気がする。
 私の住んでいる地域では太陽が照りつける、夏らしい日を感じる日を殆ど覚えていない。
 例年の9月なら残暑が厳しい日も有るが、今年は特にそれを感じる日が少なかった。

(……何もせずに、夏が過ぎてしまった)

 私の夏は……毎日仕事に明け暮れる日々だった。
 残業も多くて、それが悪い訳では無いが、心がもやもやする。

(海に行けなかった…)
(旅行も予定すら立てられなかった。家と会社を往復しただけだった!)

 不思議と、そんな事を考える私がいた。

 ☆

 ある日の休日……

 家事以外、何もする気が起きなくて、部屋の中から何気なくベランダの方を見上げると、まだ17時過ぎなのに、もう空は茜色に染まりかけていた。

「いよいよ、本当に秋が来ちゃった……」

 私は思わず呟いてしまう。
 時折、ベランダから入って来る風が、カーテンをなびかせる。
 気持ち良い風と言うより、少し肌寒い。

 遠くから聞こえてくる、カラスの音と車の走り抜ける音。
 私の心を、益々寂しくさせる

(今の人生このままで良いのかな…?)

 仕事も大事だけど、遊びも大事だと思う。
 多少無理を利かせてでも、遊ぶべきだったと後悔する。

 秋の海も良いけど、絶対に夏の海には叶わない。
 太陽が照りつけた後の、あの蒸し暑い夕方に見る海だからこそ、海は最高なのだ!!
 けど、過ぎてしまった時は二度と戻らない……

(後悔しない人生を送るべきだ!)

 そう考えた私は、引き出しから封筒と便箋を取り出す。
 封筒の表には『退職願』と書く。
 直ぐに辞められる職場でないが、休日が日曜以外殆ど無い今の状態では、体も心も厳しい。

 壊れた場所や壊れかけた部分を直すように、壊れかけた心は直す必要が有るのだ。
 何時、退職出来るか分からないが、行動しなければ何も始まらない。
 退職願を書き終える頃には、日はすっかり落ちていた。

 秋が好きと言う人も多いけど、私はやっぱり秋より夏が好きだ!
 心の中は真冬だけど、心の真夏を取り戻そうと、私は強く思った!!
しおりを挟む

処理中です...