白湯と漬物

小春かぜね

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生きていくのは大変

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 この物語はフィクションです。
 設定、登場する人物、団体及び名称は一切関係有りません。

 ……

 季節も11月に入り、秋らしさを感じるどころか、冬直前のような寒さを感じるこの頃。
 今年の冬は、節電や節約の冬に成る上、世界情勢も非常に危うい……

 食べ物の値段も一気に上がり、自然と家計を圧迫していく。
 この先の行方は、どう成ってしまうのだろうか?

 ☆

 まだ、11月上旬なのに、12月上旬を感じるとある日。
 今日も、天気は秋晴れではなく、曇り空で有る。

 私は賃貸アパートの一人暮らしで有る。
 本当はエアコンなどの暖房を付けたいが、節電・節約のために我慢している!?
 私は寒気を感じながら、同時に空腹感も感じる。

『ぶるっ!///』

(肌寒いな……そして、お腹も空いたな…///)
(でも、お金に余裕が無いから、ご飯を食べるわけにはいかない……)

 私はイラストレーターを夢見て、イラストレーターを目指すために大学を出て、新卒で勤めていた会社(正社員)を退職して、イラストレーターの道を目指し始めた。
 会社の同僚や上司は”やんわり”と反対意見を出したけど、私は自分の意志を優先させた!

 貯金は十分に有ったし、2~3年間地道に頑張れば、あしながおじさんが私を拾ってくれると信じていた。

 だけど、イラストレーターでの芽は出ずに、更にAIへよるイラスト生成サービスによって、私は完全に追い込まれた。
 当然、あしながおじさんも現れなかった///

 私のような底辺イラストレーターでは、AIに絶対勝てるわけは無いからだ!
 エロイラストでの勝負も考えたが、エロイラストも生成出来ることを知り、私は途方に暮れるしかなかった。

 イラストレーターへの夢を諦めて、再び正社員のサラリーマン生活に戻ろうとするが、数年間のブランクが影響して、就職活動は全滅で有った。
 面接時にブランクを当然聞かれるが『イラストレーターを目指して、頑張っていました!』と、私は言えなかった……

 私の年齢は、30代に入ってしまった……///
 当たり前だが、おばさん年代に成る。

 心の本音を話せる親友もいない。彼氏もいない。
 そして、ブランクを誤魔化す私を、雇ってくれる企業は無かった。

 私は正社員を諦め、派遣企業に登録して、現在は菓子メーカーで派遣社員をしている。
 生きていくだけの給料は貰えるが、贅沢出来る給料は貰えないし、派遣社員だからボーナスは当然無い。

 自業自得と身から出た錆で有るが、私の人生は完全に詰んでしまった。

(仕方ない……水を飲んで我慢するか!)
(でも、寒いのに水を飲んだら、更に体が冷えるから白湯さゆにしよう)

 私は居間から台所に向かい、湯飲みで水を量ってから、やかんでその水を沸かす。
 お湯が沸いたら、やかんのお湯を湯飲みに注げば、白湯の完成で有る。

 だけど、白湯だけでは物足りない。
 私は”白湯のあて”を探すために、冷蔵庫を開ける。

 冷蔵庫の中に、べったら漬けが有ったので、私はべったら漬けが入った容器を取り出し、湯飲みと一緒に居間に戻る。
 漬物ぐらいなら、食べても良いでしょう……

「あったかい……!」
「こんなに、両手が冷えていたんだ…!///」

 私は湯飲みを両手で持ちながら、優しい口調で呟く。
 冷えた両手に、湯飲みから伝わる熱が、私の両手を温める……

「ふー、ふー、ズズッ…」

 私は湯飲みに息を吹きかけ、白湯を少しずつ飲み始める。

「カルキ臭さが抜けて、柔らかい味を感じる……水では味わえない味だ…!」

 水道水でも白湯にすれば、カルキ臭さは抜けて、水本来の味を楽しめる。

 熱いお湯が、口から喉へ抜けて、胃に入って行く。
 白湯を飲むたびに寒気は治まり、体の中から温かく成っていくのを実感出来る。

『パリッ!』

「ポリ、ポリ、―――」

 私一人だから、べったら漬けの一枚を指で掴んで食べる。
 お行儀なんて関係ない。
 適度の塩分と甘みが口内に広がり、不思議と安心感を感じる……

「ご飯のお供だと思っていたけど、お茶請けにも良いかもしれないね♪」

 私は笑みを零しながら、べったら漬けの感想を言う。
 でも、これがキムチとかだったら、多分合わないだろう!///

「ズズッ…」

『パリッ!』

「ポリ、ポリ、―――」

 私はしばらくの間。白湯を飲みながら、べったら漬けを食べる。
 決して、組み合わせの良い食べ方では無いが、美味しく感じる。

「ふぅ……」

『コトッ』

 湯飲みの白湯も三分の一に成ったところで、私は静かに湯飲みを置く。
 そして、私は思い始める……

(何やっているんだろうな、私……)
(あの時。変な野心なんか起こさず、普通に勤めていれば普通の暮らしも出来たし、出会いも有ったかも知れないのに…///)

 私はイラストの才能が有って、イラストレーターの道を目指したわけでは無い。
 簡単に言えば、サラリーマン生活から私は逃げ出したのだ。
 イラストレーターに為れれば、個人事業主になれるし、名声や名誉だって手に入る!

 私は、サラリーマン生活が嫌だった。
 お金のためとは言えども、規則正しく、詰まらない仕事をするのが嫌だった。

 だが、私は今。またサラリーマン生活をしてしまっている。
 それも、正社員では無く派遣社員で……

(このまま、ずっと……この生活をして行くしか無いのだよな…)
(三年間頑張れば、正社員登用の話も聞いているけど、私の年齢だとその手前で契約終了にされるだろう…!)

 体は白湯で温まったが、心は冷えたままで有る。
 この冷えた心を、誰か温めてくれる人は居ないだろうか。

「……」

 曇り空の、薄ら寒いとある日。
 私はまた、解決出来ない悩みを悩み始めた。

「……いっそ、このまま。世界が滅亡してくれないかな?」

 私は思わず、そう呟いてしまうが、きっと本心なんだろう。
 このまま私は生きていても、絶対に幸福は訪れないから……

 ……

 つづく
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