76 / 77
76
しおりを挟むミズキが城からいなくなって一週間、騒がしかった日々が今までのような厳かな雰囲気に戻ったが、全くもって物足りない。
「それで?社交はすべて断りの連絡が?」
「えぇ、宰相夫人が『邪魔者がいない空間で3人でそれはもう仲睦まじく過ごしていますのよ』とわざわざ登城されて言いふらしていましたから。それも私のことをみながら。侯爵夫人から邪魔者扱いされるとは出世したものですよ」
ミシェルは笑っているが笑えないじゃないか。あの侯爵夫人、宰相夫人に牽制されているんだぞ、よく笑えるな。俺なら下げた頭をあげることすらできないだろう。
「殿下は?」
「…関係ない」
「またまた、強がることありませんよ。たとえ嫌われていても顔を見れるだけで嬉しいんでしょう?」
「うるさいっ」
余裕しかないミシェルは最近ずっとこんなかんじだ。自分だけミズキと体も繋げて幸せの絶頂だからだろう。いくら幼馴染みのような存在だとしても不敬にも程がある。
「大体どうしてあんなにまで嫌われるのか…たかが下着ですよ?いつも下着みたいな格好をしているミズキがここまで意地を張ってるんですから」
「それよりお前達だけどうして許されているのかのほうが知りたいくらいだ」
「さぁ?日頃の行いですかね?」
「お前達に日頃の行いで比べられたくない」
殿下も苦労しているようだ。そもそも会話をちゃんとしているところもみたことがないかもしれない。ミズキは殿下のことは嫌いじゃないと思うんだが、まぁそれを言ったら面白くないから絶対に言わない。
「え?ちょっと待って、ノアが魔力が足りなくなって小さくなっただけだから童貞とかじゃなくない?騙されてるんだけどあたし!」
同じ時、ミズキはこんなことを言って夫達に怒り狂ってるとは知らず。
翌日、昼前から城門で騎士団ではどうしようもできない問題が起きていると殿下にまで話がきたのだ。
「なんだ?騎士団でもどうにでもできない問題とは」
「騒がしくもないですから市民が大量に押し掛けてきたとかでもなさそうですよ」
「ロラン、なにかきいていないか?」
「いえ、特には」
3人で向かえば大好きな彼女の姿があった。
「ミシェェえルっ!」
こちらに、いや、特定の恋人に気付いたミズキが走ってくる。俺も恋人なはずだが、やはり体を繋げた方が強い。
走った勢いそのままにミシェルに飛び込んで首に手を回して、どちらからともなく自然に唇を合わせるんだから驚きだ。城門だからパパラッチもここぞとばかりに撮っている。明日と言わず今日には世間に出回るな。
「ミズキ、閣下がいらっしゃいますよ」
ジョエルの一言でミシェルと離れたミズキはスカートを持って「ごきげんよう閣下」ときちんと挨拶をしたから驚きだ。
「あぁ」
あぁじゃないあぁじゃ!と斜め前にいる主人に全力で言いたいがあまり好ましくない状況だろう。なんてったって横でまたいちゃつきはじめたから。
「ねぇ、今日お泊まりしたい」
「私の部屋にですか?」
「うん」
いちゃつきながら夜の約束まで始まった。どう聞いてもセックスのお誘いだし、ミズキもよく夫達のいる前でできるな。ジョエル様は殿下と話をしているし、ノアールは泣きそうなのか嫉妬しているのかよくわからない表情だ。
「すみません、今夜は殿下の仕事の予定が入っていて。ロランは非番ですからロランの部屋に泊まったらどうですか?」
「ロラン空いてる?」
「空いてる」
「じゃあ泊めて」
神は存在した。神に祈るなんて馬鹿馬鹿しいと思っていたが、神はいる。神はみていますよとよく言っていた母には今まで悪かったと伝えよう。
駄目だとも言いづらそうな夫2人はなんとも言えない顔をしている。ミズキがみたら怒り出すか優越感を感じるか、もうそれすらよくわからない。だってもう夜のことしか考えられないから
「ミズキ」
「ロランは夜まで仕事みたいだからその間また言い訳をききますー、しかも浮気でもないですー、ロランも彼氏なの知ってるでしょ?もー、そんな顔しないで。あたしが今王子様に」
ジョエルに名前を呼ばれただけでずらずらと言い訳がましいミズキがミシェルから離れて殿下に寄り添った。
「ねぇ殿下、夫達と少しだけもめてるの、今夜一緒に過ごしてくださらない?」
腕に胸を押し付けじゃない、もはや腕を谷間で挟んでいる。それで上目使いに甘い声で誘惑するものだからこの場の全員どうしたらいいかわからない。もはや隠れてもいないパパラッチすら大人しい。ヒールを履いても背伸びをしても殿下の口元や頬に届かなくても今にも口付けをしてしまいそうなその雰囲気に圧倒されている。
「こんなかんじ」
パッと離れて大笑いしているが周りは笑えない。それはもう運命とでも言おうか、一瞬の出来事だったのに周りは静まり返ったあと花々が咲き誇り、緑は青々と、天から光がキラキラと降り注いでいる気すらする。これが世界の理を越えた運命というものだろう。すごい、すごすぎる。なのになぜこの二人は素直になれないのだ?勿体ない。
あまりの出来事にパパラッチも驚いてはいるがこれは記事にされたら困る、すぐに人を使って記事を止めなければなるまい、まぁ俺以外もそう思っているだろうが、各所から止められるほうが念押しのようになるだろうから家を使って止めさせよう。
「じゃあ部屋にかえるね。ノアとジョエルはお仕事へどーぞ」
幸いにも頬を赤く染めなかった殿下を置き去りにしたまま、お騒がせ夫婦は城の自室へと向かっていった。ちなみに殿下の耳は真っ赤だ。
「なんだったんだ…」
ふと自分の口から出た。本当に意味がわからなかった。本当に騒ぐだけ騒いで、運命を見せつけて、部屋へ帰る、本当になんだったんだ?
「どうせまたミズキを上手いこと騙したつもりがバレたとかでしょう?いつものことじゃありませんか」
「しかし、殿下まで呼ばれるとなると」
「その殿下は使い物になりませんよ。ミズキのおっぱいは柔らかかったでしょう?あれ天然ですよ。乳首も巨乳なのに感度がよくって。今日はあの格好だとミズキのブラジャーでしょうね、腰はコルセットなしですから脱いでもあのままの細さですよ」
そうだ、こいつはもうミズキと寝ているからかナチュラルにマウントをとってくる。かくいう俺も随分と触ってはいる、あの呪いのせいで。魔女が言うには真実の愛でとだが、どう考えてもミズキとだ。やっと、やっと、やっとあの忌まわしい呪いから今夜解放されるのだ。
「ロラン、ロランっ!」
呪いのこと、今夜のことに思いを馳せていたらミシェルに呼ばれた。
「殿下のこと、触れるなよ。ミズキとは無理矢理」
「わかっている」
それは運命だからと無理矢理くっつけるような真似はするなということだ。ミズキが殿下に抱いた嫌悪感、殿下が素直になれない性格なのも重々承知の上で話し合って決めた。もちろんミズキの夫となった二人とも話し合っている。いずれは結ばれるであろう二人を無理矢理ではなく自然のままなんとかしてもらおうと。方々があの二人のために動いてはいるが、肝心の本人達が
「行くぞ」
「「はい」」
気持ちが落ち着いたのか殿下はシャキッとしていた。トイレに行ってヌいてきたらいいのにとかいいそうになったが、言ったら謹慎処分になりそうだ。
そんなことより今夜が楽しみすぎて足取りが軽くなっている。途中何度か人にぶつかり、スキップをしかけてお叱りを受けた。
16
お気に入りに追加
603
あなたにおすすめの小説
旦那様が多すぎて困っています!? 〜逆ハー異世界ラブコメ〜
ことりとりとん
恋愛
男女比8:1の逆ハーレム異世界に転移してしまった女子大生・大森泉
転移早々旦那さんが6人もできて、しかも魔力無限チートがあると教えられて!?
のんびりまったり暮らしたいのにいつの間にか国を救うハメになりました……
イケメン山盛りの逆ハーです
前半はラブラブまったりの予定。後半で主人公が頑張ります
小説家になろう、カクヨムに転載しています

転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~
月
恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん)
は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。
しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!?
(もしかして、私、転生してる!!?)
そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!!
そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?
明智さんちの旦那さんたちR
明智 颯茄
恋愛
あの小高い丘の上に建つ大きなお屋敷には、一風変わった夫婦が住んでいる。それは、妻一人に夫十人のいわゆる逆ハーレム婚だ。
奥さんは何かと大変かと思いきやそうではないらしい。旦那さんたちは全員神がかりな美しさを持つイケメンで、奥さんはニヤケ放題らしい。
ほのぼのとしながらも、複数婚が巻き起こすおかしな日常が満載。
*BL描写あり
毎週月曜日と隔週の日曜日お休みします。

女性の少ない異世界に生まれ変わったら
Azuki
恋愛
高校に登校している途中、道路に飛び出した子供を助ける形でトラックに轢かれてそのまま意識を失った私。
目を覚ますと、私はベッドに寝ていて、目の前にも周りにもイケメン、イケメン、イケメンだらけーーー!?
なんと私は幼女に生まれ変わっており、しかもお嬢様だった!!
ーーやった〜!勝ち組人生来た〜〜〜!!!
そう、心の中で思いっきり歓喜していた私だけど、この世界はとんでもない世界で・・・!?
これは、女性が圧倒的に少ない異世界に転生した私が、家族や周りから溺愛されながら様々な問題を解決して、更に溺愛されていく物語。


捕まり癒やされし異世界
波間柏
恋愛
飲んでものまれるな。
飲まれて異世界に飛んでしまい手遅れだが、そう固く決意した大学生 野々村 未来の異世界生活。
異世界から来た者は何か能力をもつはずが、彼女は何もなかった。ただ、とある声を聞き閃いた。
「これ、売れる」と。
自分の中では砂糖多めなお話です。

転生したら乙女ゲームの主人公の友達になったんですが、なぜか私がモテてるんですが?
rita
恋愛
田舎に住むごく普通のアラサー社畜の私は車で帰宅中に、
飛び出してきた猫かたぬきを避けようとしてトラックにぶつかりお陀仏したらしく、
気付くと、最近ハマっていた乙女ゲームの世界の『主人公の友達』に転生していたんだけど、
まぁ、友達でも二次元女子高生になれたし、
推しキャラやイケメンキャラやイケオジも見れるし!楽しく過ごそう!と、
思ってたらなぜか主人公を押し退け、
攻略対象キャラからモテまくる事態に・・・・
ちょ、え、これどうしたらいいの!!!嬉しいけど!!!

私が美女??美醜逆転世界に転移した私
鍋
恋愛
私の名前は如月美夕。
27才入浴剤のメーカーの商品開発室に勤める会社員。
私は都内で独り暮らし。
風邪を拗らせ自宅で寝ていたら異世界転移したらしい。
転移した世界は美醜逆転??
こんな地味な丸顔が絶世の美女。
私の好みど真ん中のイケメンが、醜男らしい。
このお話は転生した女性が優秀な宰相補佐官(醜男/イケメン)に囲い込まれるお話です。
※ゆるゆるな設定です
※ご都合主義
※感想欄はほとんど公開してます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる