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しおりを挟むどうしてこうなっているか、いまだに理解が出来ていない。
「お気に召しませんか?」
「いや酒はいい。一旦水を」
この妙な空間にいることが一番理解出来ない。
「おーじさまもう飲まないの?こんなかわいい子がついてくれてるのに勿体なーい」
ミズキの世界の接待なるものを体験させられているのだが、なんで隣がお前じゃないんだと叫びたいくらいだ。娼婦達はそれはそれは楽だろう、いつもと違い体を使わない接客なのだから。場を仕切るのもミズキ、それとミズキが気に入ったあの娼婦だ。ジョエルとノアールを自分の横ではなく娼婦と娼婦の間に座って楽しそうにしているミズキを見るとどれだけあの娼婦達がすごいのかがわかる。最初から彼女が気に入った方はリリウムの館に紹介するに値する人間だろう。
「アカシアは?彼氏か旦那さんは?」
娼婦に彼氏がいるかと聞く女もどうかと思うが、返しも実に見事であった。誤魔化しながらも客を立てミズキを満足させる答えにこの場の全員が感心したものだ。
明日も予定があるからとチェイサーを欲しがるミズキには水ではなくアルコール度数が低めの酒を提供している。早いところ潰してしまえばいいと周囲の人間達は考えているのだろう。先程から脚を組み替える頻度が高くなってこちらとしては目のやり場に困る。夫二人は普段から露出度の高い彼女と過ごしているから何も思わないのだろうが、こちらはとても困る。膝は見えそうだしなにより太ももが目につく。
主賓のくせに夫達の飲み物をせっせと作っている彼女はとても楽しそうだ。よくわからないが「キャバ時代思い出す」と楽しそうに水割りやソーダ割りを作っている。彼女が楽しそうに作るから夫達もペースは早くなるしミズキも楽しそうにしている。一番楽しそうで大変なのはどうみても横のアカシア嬢とスタッフ達だが。
「パルミエは?源氏名?」
「えぇ。ここのスタッフは皆植物の名前なんですよ」
「えー!?りんごちゃんとかぶどうちゃんみたいなもの?かーわいいー!あたしもここで働きたい」
お前がここで働くなんてことになったら大変なことになるとこの場の全員が思ったけどはずだ。
自分についている娼婦達も全員ミズキと楽しそうに話をしている。彼女達も普段はこんな風に接待なんてないのだろう、同年代か少し上のミズキに知らない世界の話をされれば楽しくないはずがない。おかげで男は全員置いてけぼり、ミズキと娼婦達が楽しそうにずっと話をしている。先程なんてミズキの悪ノリでロランが一気飲みをさせられていた。ボトル1本あけたあとも煽られ続けている。
妻とは娼婦一人を挟んでいるので隣に座れない夫達は不満そうではあるが、彼女の楽しそうな様子には満足しているようだ。どうせ部屋に戻ってからのことを考えているのだろうがアカシアの方が上手だろう、ミズキを酔い潰そうとしているのだから。 酔いつぶれた女とヤるほどこの二人は欲求不満なわけはないのだから今日は大人しくしているだろう。
「ねぇこの世界じゃいい男ってどうなの?アカシアは?誰がかっこいいとかあるの?」
いい男の基準なんて人それぞれだよっていうのが本音だろうがわざわざ聞いている、それも全員に。
「ミズキ様はどうなんですの?異世界の方から見てどうなのかは気になりますわ」
「好み?みんなカッコいいと思うけど顔なら王子様が一番かな?」
なんと言った?驚きすぎて場が静まった。いや、確かに顔には自信がある。てっきり嫌われているものだと思っていた彼女に顔が一番と褒められたらどんな顔をしていいかもわからない。
「でも顔だけ。ありがとうとごめんなさいも言えない偉そうな人はセフレでもイヤ」
あげられたのに一気に落とされた。隣の娼婦が哀れみの目を向けてくる。簡単に謝ってはいけないと幼少期から教育されている自分には何より難しいことであるし、そもそも悪いのは全て父上なのだから。いや、そんなことばかり思っているから彼女に避けられる一方なのだろう。同席を許してもらっているだけ今はいいと思うしかない。
「娼館ってさ、結局なに?ヤるだけなの?」
酔いも回ってきたのか大胆なことを聞き始めた。ジョエルも止めないので社会勉強の一貫だろう。娼婦達もミズキに煽られてかなり酔いも回っているのか普通に答えている。
「えー、じゃあ基盤もなにも普通にありなんだね。ゴムは?」
「避妊の魔術使ってますよ」
「えー、でも性病こわくない?」
「まずそのような方ははじかれますから」
「信用第一なんだねー。即尺?」
何度も思うが男も同席している場で話すない。ミズキの世界では風俗と言うらしいがもう聞いているこちらが恥ずかしくなるような内容で聞いていられない。ノアールが恥ずかしそうにしているのを見てミズキと娼婦達が楽しそうにしているのか信じられない。
「じゃあこの5人の誰か客で来たことある?」
ロランが吹き出した。お前、使ってると白状しているようなものだぞ。まぁ高級店だし貴族の子息が使うにはもってこいの場所だ。ロランには特殊な性癖があるわけではないし良客だろう。
「ノアはちがうでしょ、王子様も多分店舗型は使わなそうだし、残りの3人は来てるな絶対!」
全員が黙るから肯定だ。ミズキは大笑いしながら飲め飲め言うが気まずさと言ったらない。ジョエルなんて愛想尽かされてもおかしくないくらい今日だけで株が下がりまくっている。気の毒になるくらい
お手洗いに行く!と立ち上がった彼女は相当酒が回っている。高いピンヒール履いてグラグラしている。普段はよくそんな高い靴履いて膝も曲がらず歩いているなと感心してしまうが今日は笑いながらバランスもとれていない。
「ミズキ様、こちらのほうが出やすいかと」
「たしかにー。おーじさま、前しつれーしますよー」
は?絶対通らないと思っていた自分とローテーブルの間を抜けようとしている。
「あっ!」
なぜかバランスを崩した彼女が倒れてくる。ぶつかったりしたらいけないと咄嗟に手が出て抱き止める。
「ありがとー。びっくりした」
あたたかくて細い腕。指が胸に当たるが布越しでもあたたかくて柔らかい。あといい香りがする
「大丈夫か?」
「うん…」
目と目が合う。こんな至近距離で見つめるのは初めてだ。潤んだ瞳に大きい黒目、いや茶色がかっているか。化粧だと言っていた大袈裟なほどの睫毛に眩く輝くアイメイク。鼻筋も少しパールがかったハイライトをいれているのかキラキラしている。唇も少し潤んでいる。
「おーじさまほんと顔、好き…リュカ、だっけ?」
名前を呼ばれてまさかその唇が自分に近付いてくるなんて…胸が高鳴るのを抑えられない。彼女を支えていた手に力を入れて瞼を閉じる。好きになった女と口付けなんて…
「ミズキ」
ジョエルの声で彼女の動きが止まった。
「ごめーん、ちょっと調子乗っただけ。トイレいってくる」
「俺もいく」
「じゃあ私もついていきますよ」
この場に残されたのは娼婦達と彼女の夫達だけ。
「殿下、なんであそこで止まっちゃうんですか!」
彼女が可愛がっている夫、ノアールに責められる。普通妻が別の男と口付けを交わすことに怒るのだがこいつは違う。
「いや、ジョエルが」
「私はただ名前を呼んだだけですよ。あぁ、この場の女性達も皆殿下を応援していますよ。ミズキを転ばせたのも殿下の横の女性ですし、ただ私が意地悪なだけで」
「…ならお前から、」
言った直後にしまったと思ったがもう遅い。
「好きでもない男と運命だから?魔術で決められたから?結婚しろと愛するミズキに言えと?王族ならではなお考えですね」
あぁ失敗した。わかっている、ジョエルがミズキの決められた相手ではないと。ノアールの魔術を使ったんだから自分に合う人間を途方もないところから呼んできているんだから運命の相手なんだってわかっているんだ。まさか嫌われると思わなかったけれど。やるせない。
「でも!ミズキがキスしようとしたってことは望みありますよ!名前も覚えていたし!」
ノアールが言うのだから望みはあってほしい。
手洗いから戻ってきた彼女は口紅が少し落ちていた。
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