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しおりを挟む彼女の元にはファヴォリのメインデザイナーであるルネが来ているそうだ。彼女の御披露目のドレスの注文だろう、本当に仕事が早いあの男には心底腹が立つが仕方ない。
「ルネにあとでこちらに寄るように使いを出せ」
ミシェルへ指示を出せば「異世界の花嫁様のサイズでしたら昨日宰相補佐殿が注文した品で把握しております」と。
よくできた執事である。自分が調べられる立場であれば気味が悪いこの上ないが、ルネと話すよりはましだと思うしかない。
時間もないので既製品で彼女にあうドレスを見立てるよう指示を出す。あからさまに自分達の色であれば嫌がられる可能性があるので全く別の…いや、ここはノアールを味方に付けるのも手か…いや、ルネに聞いて…
『御客様の情報は他の方にはお伝えいたしませんの。例え殿下のお願いであっても』
デカイ図体のくせにハイヒールを履きこなす彼に上から見下ろされてそう言われるのが想像できる。
頭を悩ませながら執務棟を歩いて彼女のいる貴賓室へ向かっている最中、ルネが大慌てで帰っていくのが見えた
「ルネ!」
「あら、殿下。ご機嫌麗しゅう」
「そのような挨拶はいい。今は異世界の花嫁殿のところへ?」
「まぁ、そうですが御存知なのですね」
「彼女のドレスは…」
「安心なさって、この国のどの女よりも輝くものにしますから。それより急いでおりますの失礼しますわ」
「まて、色、」
「それはお答え致しかねますわ!とりあえず今贈るのでしたらこれからの流行りはベージュですわよ!うちの系列の百貨店のブティックがこれから流通にのせますの。サイズも工房へ伝えておきますから取りに来てくださる?」
彼女に贈るならベージュか。ルネのやつすべてをわかって営業までしてきたな。わざわざ系列店だとまで言ってくるから立派な営業だ。
「プレフェレの工房へ行くぞ。どうせルネがもう用意している。そのあとはアクセサリーを見繕って彼女の部屋へ行く」
工房は慌ただしいことになっていた。
「こちらですがすこし丈を詰めるので今用意しております。殿下はそちらへお掛けになって下さい」
お茶を淹れる人員も割けないのかミシェルが奥を借りて用意してきた
「すごいことになっているな」
「ファヴォリのドレスをこちらの職人も含め全員で仕立てるそうですよ」
「異世界の花嫁のドレスだろう?確かにあと数日しかないが1から仕立てるというのか」
「仕立てもですがなんでも仕上げがとんでもないことになりそうだと。絶対に魔術は使わないとルネ殿が申しているそうで。明日はメゾン・ド・ニュイがあの貴賓室に呼ばれているそうなのでまた大変でしょうね。しばらく二大メゾンには新規で注文するのも苦労しそうです」
毛色の違う二大メゾンに注文しているとは流石宰相家の人間だと思わざるをえない。彼女を広告塔にしメゾンへ恩を売るのだろう。ヒナの言っていたウィンウィンの関係というやつだ
「殿下、お待たせいたしました。こちらを」
晩餐用のドレスではあるが落ち着いたデザインの中にもリボンなど女性の好みそうなものがきちんと組み込まれている。彼女も喜んでくれるだろうか
「マーメイドラインと悩んだそうですが、あちらはニュイお得意のシルエットですからそちらへとルネ様が」
「ルネが選んだ物であれば何の問題もないだろう」
「市販用に回すものはウエスト部はゴールドなのですがルネ様が今回は茶色にせよとのことでお渡しに時間がかかってしまいました」
「なぜ?ゴールドでは不都合が?」
「余計な揉め事にうちを巻き込むなと申しておりまして…」
「いや、ルネがそう言うならそれでよいだろう。プレフェレの店頭には夜会が終わったら出してくれ」
「えぇ!それはもう!異世界の花嫁様のために殿下がお買い求めになったと大々的に!これで今季も安泰です!」
鼻息荒く彼が言うので無理に笑顔をつくることしかできなかった。
「アクセサリーはルネ様指定のものがありますので代金だけ頂戴いたします」
「そこまで決めているのか!?」
「えぇ、来週から百貨店のウインドウはうちが担当ですので殿下の御求めになったものと宰相御子息様の御求めになったものを並べて、異世界の花嫁様ご愛用のお品として大々的に展開する予定です!」
メゾン、ブティック、宝飾店、百貨店すべてがグルなのだと悟った。それもおそらくすべてルネの指示だろう。異世界の花嫁が召喚されたとはまだ内々の話だ、それも出さずよくここまで進めたものだ。
*****
ドレスは用意した、晩餐に誘いに貴賓室をノックすれば出てきたのはまさかの彼女本人であった
「え?人多くない?」
もうすでに飲んでいるのだろう、ほのかな酒の香りをまとい少しだけ赤くなった頬が彼女の色気を助長している,。
ごきげんようと出てきたジョエルに苛立ちをおぼえながらも彼女を晩餐へ誘えば返ってきた答えは「微妙」であった。理由も既に飲んでいるから、ジョエルと一緒にいたいからと目の前でベタベタされながら言われれば怒りは隠せなくなってくる
「っ…では明日また来る」
今すぐ怒鳴りそうになるのを堪え明日も誘いにくるといい立ち去ろうとすれば彼女からの提案で、ノアールとジョエルがいれば明日行くとのことであった。あまりにも嬉しいので、止めようとしていたジョエルの言葉を遮ってドレスを用意していることを伝え一番聞きたかったことを彼女に聞くため膝をつく。やめてと言いながらも名前を教えてくれたことに喜びを隠しきれず、ジョエルのことを御夫君とまで呼んでしまった。それが引き金となったのか目の前の男はいきなりミズキの胸を服の上から揉みはじめた。
恥ずかしそうにしながらも満更ではないのか受け入れていることに驚いてしてしまう。いくら婚約したばかりとはいえど人前で胸を揉みしだくやつなど初めて見た。首筋や胸元には執着の痕もある、彼女はもうノアールかジョエルの手付きなのがみてとれる。
「ジョエル、今は私がミズキと話していたんだが」
「ミズキはいかなるときも夫を優先してくれる女性ですから。殿下はお帰りになったらよろしいのでは?」
「お帰りに、だと?ここが私の城であると知ってか?」
「殿下は公爵ではありませんか。公爵邸も離宮もあるのですしここが私のと言われても」
だからこいつが苦手なんだ。妙に説教臭いというか少しばかり年上だからといって偉そうなところが昔から本当に苦手。
公爵邸?そんなものあるだけじゃないか。執務やなんやらで城に住んでいるようなものなのだから
執務はないのか?執務の量が足りていないのなら増やしますがなど嫌なことばかり言ってくる。執務はきちんとこなしているし量も充分すぎる程あるから増やすなんて冗談ではない
「げっ…!」
ミシェルとロランと話していた彼女のおかしな声に見てみればふらついて転びそうになっていた。自分が飛び出していく前にミシェルが腕を支えたが、バランスを崩した彼女はまさかのロランの下半身に顔を押し付ける形になっていた。
大層御立派なものをと言われ、髪を下ろしていればわからなかったが結っているので耳が真っ赤になっているのが見えてこちらは笑いを堪えるのに必死だった。
ジョエルは彼女を横抱きにして部屋へ戻ってしまった。最後に爆弾を投下して
「仕込んでいた私の子種が溢れてしまったようなのでまた注ぎ直さねばと」
「なっ…」
バタンと扉が閉まって取り残された。我々3人以外にも侍従や近衛兵がいたが誰も触れても来ない
「ロラン、それは今日のお供に?」
「しないっ!」
「私が洗って差し上げましょうか?」
「やめろ!」
「私は先程触れた腕の感触を思い出してしますよ?例え貴方のボトムスであろうと使っていいのなら」
「本っ当に趣味悪いな。こんなところで言うのもやめろ。殿下の前だぞ」
「殿下は気になされませんよ。あぁ、股間に顔を埋められたいとは思っていたでしょうけど。フェラチオを彷彿とさせますよね。堪らないですよ」
いや、その意味不明な会話は気にする。側近二人の自慰事情など知ったことではないが今目の前にいた自分と結婚するかもしれない彼女のこととなれば気にはする。寧ろ自慰ができる二人を羨ましくも思う。王子という立場上部屋にも風呂にも必ず誰かに見張られているので迂闊に自慰などできない。
「明日のメニューの打ち合わせに行くぞ」
「「はっ!」」
場所はそう、離宮が見えるところがいいな。いずれ彼女の住まいになるのだから。
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