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sideヘンリエッタ前
しおりを挟むムカつくムカつくムカつく~っ!
「それじゃ駄目ですよっ!女の子は繊細なんですから」
「そう?じゃあアドバイスとして受け取っておくよ」
くっそめんどくさい夜会に呼ばれて婚約者とファーストダンスだけ踊ったら放置された令嬢とは私のこと。壁の花でいるのも面倒なので飲食スペースから皿いっぱいに軽食を取って1人テーブルを占拠して食べることにした。給仕として主宰の家の執事が斜め後ろにいるが気にしないことにする。
「お嬢様、お酒のお代わりとともにそろそろ甘いものでもいかがですか?」
「…いる」
「えぇ、用意しておりますよ。白と赤を交互に飲むのも飽きたでしょう?次は甘めのスパークリングを用意しましょうか?」
「酸味が強いか甘さは控えたものにしてちょうだい。デザートも種類があったから」
「かしこまりました」
この給仕をしてくれているこの執事、付き合いは長い。今夜の主催は婚約者の家。婚約をしたときからの付き合いだから10年くらい?若かった彼もかなりの地位まで上がっている。なのに私のところにいてもいいのだろうか?今日は忙しいだろうに
「坊っちゃんのところへ行かなくてよろしいのですか?」
「あなたがそれを言う?」
「えぇ、次期公爵夫人はお嬢様ですから」
「わからないわよ。彼と話しているあの子、ずーっと一緒。最近では2人で街にも出ているそうよ」
一番甘そうなケーキを1口頬張って用意されたスパークリングワインで流し込む。少し口の中に甘さが残るが嫌なかんじではない。
「座って」
「いいえ、職務中ですので」
「ほんっと堅いわねここの人間は。私普通にメイド達とお茶するわよ?」
「今は夜会の最中です他の目もありますから」
「ほーんとあなたってば昔から変わらないわ。面白くないところも顔がいいところも。どうして執事なんかやってるの?」
純粋な疑問だ。初めてあったときはまだ若かった彼は兄のようだった。相談はすべてこの執事にしていた。そう、手紙をだしたり外で会ったり我が家に呼び出したり、それはもう様々な手段で。
「あなた様や坊っちゃんのような手のかかる方がいるからですよ」
まぁ私は彼からしてみたら手がかかるだろうな。化粧室に行くといって迷子になった挙げ句庭の薔薇に頭からつっこんだり、思い出せばきりがない。
「今も坊っちゃんを視界に入れないように会場に背を向けて座っておられるのも貴女様らしいですよ」
「そ、そんなことないわ!会場より食事に集中したいからよ!」
「そんなところも、ふふふっ」
「やめてよ!笑わないでっ!ほら、グラスが空いたわ、次」
背を向けているのは本当。彼の髪色と反対色のドレスと目の色と反対色のアクセサリーを着けているのも私の意思。青みがかった紫は好きな色だし、黄色寄りだと彼の髪色を意識してるとか言い出すアホもいるからわざわざシトリンやトパーズもオレンジ強めにしている。
贈られて来たものはイエローゴールドの可愛らしいドレスにブルーサファイアのピアスとペンダント。全て無視して自分で用意したものを身に付けて参加した。
「そんなお顔をされるくらいなら坊っちゃんが贈ったものを身に付ければよかったんじゃ」
新しいボトルを持ってきたこの執事はいやみったらしく言ってくる。
「別に本人も何も言わなかったしいいんじゃない?好みの色だし私に似合うわ」
「紫にオレンジなんて奇抜な。秋の収穫祭のようですよ」
「それでいいわ。カボチャもお芋も大好物よ」
「では次に我が家にいらっしゃるときにはそちらを使ったスイーツを用意しておきますね」
次なんて約束しても意味もない気がするけど。
「帰るわ。うちまでの車の手配を頼める?」
「坊っちゃんとはお話されなくてよろしいんですか?」
「いいわよ、あの子と楽しそうに話しているところに入っていくつもりなんてないもの。このままおじさまとおばさまに挨拶して車が着くまで庭にいるわ。酔いも覚ましたいし」
「では早急に手配致します」
この屋敷の庭だって勝手知ったるものだ。なんせ幼少期からずっと通っているから。辺りが暗かろうが余裕で歩ける。花の香りはいいし道はちゃんと舗装されているから歩きやすい。
「ヘンリエッタ様…」
「あらメアリー様、なにか?」
正直今会いたくない二大巨頭のうちの1人と会ってしまった。なんでこんなところにいるのよ
「差し出がましいようですが…」
「なら言わないでいいんじゃなくって?私があなたのお話に耳を傾ける必要はなくてよ」
アホみたいな扇を広げて口元を隠して彼女に答える。どうせあれでしょ、早く婚約を撤回しろとかでしょ?そんなの私じゃなくてあちらの親とうちの親に言いなさいよ。
「待ってくださいっ!」
「嫌よ」
「ジェイコブ様とお話をなさってください!」
食い下がってくる彼女はあろうことか婚約者の名前を出してきた。しかも家名ではなくファーストネームで。
「はぁ…なんでそんなことあなたに言われなくちゃならないのかしらね」
そう、これが本音。婚約解消の話をしようにも避けられているし、この女、メアリーがいつも一緒なのだから無理だ。なのに話をしろ?ふざけた話だわ。
「ジェイコブ様はヘンリエッタ様とお話をされたくて毎日憂いておいでなんです」
「ならそれをあなたが慰めてさしあげたら?話はそれだけ?待ち人が来たからもう行くわ」
庭に出る大きなガラス扉のところにこの家の執事がいる。おそらく車が用意出来たのだろう。
息の詰まるこんな場所にはもういたくない。
「お待ちくださいっ!ジェイコブ様はヘンリエッタ様のことを」
これ以上は聞きたくない
「スチュアート」
最近は滅多に呼ばなくなったこの家の執事の名を呼んで走って胸に飛び込む。もうこの女の声も聞きたくないし婚約者の名前も聞きたくない。あともうこの場所を見るのすら苦しいのでスチュアートの胸元に飛び込んだ。令嬢が走るなんてはしたないなんて言われたって気にもしていられない。
「大丈夫です。顔をあげなくても。私がそのまま連れていきますから」
「スチュアート、スチュアートもういや、助けて」
「わかっています。お嬢様どうかこのまま」
彼の鼓動と温かさを感じながら現実から目を背けることしかできなかった。
なにも聞きたくないしなにも見たくない。
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