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番外篇
ある日の午後
しおりを挟む「お姉ちゃん知らない?」
「先程来ましたよ、貴方を探しに」
すれ違ったか。にしてもお姉ちゃんが僕を探してるなんて珍しいな。どうしたんだろう?
「さぁ、私にもよく……」
そっかぁ。せめて、伝言してくれれば良かったのに。
「御兄様がいないと知るといなや、去っていきましたし」
うーん。
「そういえば……帰り際、ただ一言『暇……』と呟いてましたね」
おかしいな、お姉ちゃんはいつも暇してると思うけどなぁ。面倒くさがってても、なんだかんだ優秀だから。執務なんて一時間もしない内に終わっちゃうし。
「構って欲しいのでは?」
昨日散々、喘がされたんだけどなぁ。
「なんでしょうね?」
二人して首を傾げる。だって分からないから。
もうすぐお茶の時間だし、好きなお菓子でも作ってあげよう。
──午後三時十八分。
「よし、出来た」
ぐぅぅ~。
ん?
振り向けば、すぐそこにお姉ちゃんがヨダレを垂らして、早く食べたいと言わんばかりに瞳を輝かせていた。
良い歳した大人がヨダレを垂らさないでよ。
甘い香りに誘われてきたのかな?子どもみたいで可愛い。
「六華の分、届けてきて」
「!?」
そんなこの世の終わりみたいな顔しないで。
ほら、六華にもあげないと不公平だし。普段なら六華も本館に来て食べるんだけど、今は忙しいみたいだから。
「届けてくれないと、晩ごはん抜くよ」
「行ってきます」
「うん、行ってらっしゃい」
──三時三十二分。
お姉ちゃんが帰ってきた。
本館と六華の屋敷まではかなり距離があったはずだけど……。
まだ温かいアップルパイとプリンを食堂に持っていく。隣にお姉ちゃんが座る。
あれ、いつもは対面に座るよね?不思議に思って隣を見ると、ワンコがいた。犬の耳としっぽの幻覚が見える。よく見れば、猫の耳と花びら触手だった。
待ちきれんとばかりに、ゆらゆらとしっぽが揺れている。
「ふふっ」
ダメだ、笑えてしまう。反応が可愛すぎて。
くんくん、と袖を引っ張られた。
「ん?」
口を開けて待機している。何、食べさせて欲しいの?
仕方ないなぁ。
「はい、どうぞ」
「あーん……ん~!」
本当に美味しそうに食べるね。嬉しいけど。
次はプリンを掬ってやる。
「……!とろとろしてて、ほんのり甘くて美味しい!苦味がない!」
カラメルのこと?苦手だって知ってるからね。特に何も悪いことはしてないのに、苦手なものは出さないよ。
「それ、やらかしたら出すってことよね……」
そうとも言う。
「あむっ」
可愛い。餌付けが癖になりそう。
お腹がいっぱいになったのか、目がとろんとしている。
「眠い?」
「眠くない……」
うん、眠いんだね。
舟を漕ぎ始めたお姉ちゃんを抱いて、備え付けのソファーに連れていく。
「ん~……」
既に夢の中にいるようだ。
膝の上にお姉ちゃんの頭を乗せて、髪を梳く。起きたら髪を結わせてもらおう。今日は忙しくて身支度を手伝えなかったから、髪を下ろしっぱなしだ。
「だめぇ……まだ……むぅぅ」
どんな夢を見ているんだろう。今更だけど、神様でも夢を見るんだね。
「……おやすみ」
良い夢を。
なんだか僕も眠くなってきた。
ソファーに凭れて目を瞑ると、自然と眠りに落ちた。
今日のご飯、何にしようかな……。
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