雪ん子 ─ずっと、好きでした─

瑠璃宮 櫻羅

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二章 聖獣

五日目前半 雪ん子、ハムスターを飼う

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 お昼前、小鳥のさえずりで目が覚めた。
 
「ん~!」

 背伸びをして身体を解す。布団で寝るとどうにも身体が固くなる。
 畳の上に布団、だからだろうなぁ……。

「やっぱり相談しよう」

 居間に向かうと美亞葵君が居た。鍋を煮ている。
 今朝はおなかに優しい米煮おじやのようですね。寝起きにはありがたい一品です。

「おはようございます。脚の具合はどうですか?」
「もう大丈夫です。ほとんど治ってます」

 ──ピタッ。
 あれ?何かが美亞葵君の琴線に触れたみたい。固まった。え、どれ?嘘は吐いてない。
 本当にうっすらしか分かりませんよ?見ます?

「だから異性に見せるなと!」
「美亞葵君しか居ないし……ほら、パッと見分からないでしょう?」

 渋々脚に目を向け、そして驚かれた。
 これが私のなんですけど、違うんですか?
 傷のあった場所をすーっとなぞられ、背筋が粟立った。
 
「ん……」
「まさか……ほんの半日で……?」

 怖いくらい真剣な顔をしていて、なんというかハラハラする。
 やはり私はおかしいのでしょうか。

「いえ、これくらいなら……何も問題は……ない筈……」
「美亞葵、君?」
「春姫」

 な、なんでしょう。

「怪我の治りが早い事、誰にも知られてはなりませんよ」

 この街にも差別はある、ということですか?もしかして、美亞葵君も?

「そうではなく、軍事利用されるかもしれないので」

 軍事、利用?女を?

「正直この国、というか、王族は腐っていますから」

 でも、皆さんお優しいですよ?綿飴をくれたおばさんも、喫茶店の店員さんも。

「そうですね。しかし、軍を除く王侯貴族はそうではないんです。彼らは使えるものは何でも使う。たとえ女子供であっても」

 そんな……。
 もしそうなった時、軍の皆さんは私をどう扱うのでしょう。

「今の所、貴女は僕の遠戚となっています。そして、祖国で虐待を受けた為に、亡命したとも言い訳してあります」

 後半は半分事実ですよ。虐待ではなく迫害ですけど。肉体的に何かされたという訳では無いですし。
 まぁ、最終的に一族は皆殺しにされましたが。

「偽りとはいえ、貴女に事情がある事は皆知っています。なので、大変な事にはならないかと……」

 それを聞いて少しばかり安堵した。
 とにかく。その事態を避けるには、なるべく怪我をしない事ですね。気を付けないと。

「そうしてください。さ、難しい話は終わりにして朝餉あさげをいただきましょう」
「はいっ」

 ✻    ✻    ✻    ✻

 所変わり動物保護施設。
 夢で見た建物と同じ外観と中。これで一昨日見た夢が正夢である事が判明した。

「動物を引き取りたいんですか?」
「目的の子たちが居たら、ですけど……」

 そういえば、あの子たち、何ていう動物なんだろう。小さくてふわふわしてて、ほっぺが膨らむ、あの小動物。

「おそらく、齧歯類げっしるい……ハムスターかと」
「ハムスター……」

 なら、ハムちゃんですね。可愛い種族名です。
 あの二匹は確かこの先に居た筈……あ!

「居ました!」

 真っ白な子と、若干水色がかった毛を持つ子。

「あの白い子と水色っぽい子です」
「何故ここに居ると知ってたんですか?」
「実は、かくかくしかじかで」

 夢で見たことを簡単に伝える。

「成程、そういう事でしたか。奇妙な発言の数々は」

 奇妙!奇妙って言いました!?私、そんなおかしな発言しましたっけ!?!

「いやほら、動物の保護施設がある事を伝えていないのに知っしましたし、場所も知ってましたよね。この子たちが居るという事も」

 確かに色々おかしい。ごめんなさい、混乱させましたよね。
 でも、この子たちをどうしても引き取りたくて。やっぱりダメですか?ハムちゃんは嫌い?
  
 二匹を手に乗せ、うるうるお目々で聞いてみる。
 
「いえ!特段そんなことは……!」
「良かったね!ハルちゃん、ユキちゃん!」
「ごほっ、げほっ」

 あ、咳した。夢と同じ反応。正夢の正確さ、すごい。

「この二匹、近付けても喧嘩しないんですよ。他の子たちは警戒心強いのに。良い子たちでしょう?」
「そ、そうですね……それにしても、懐っこい」

 人に慣れている、というよりは頭が良いんでしょう。
 今も大人しく手に乗っていますし。

「それで……その、名前はあれで決定なんですか」
「絶対変えません。この子たちに似合う名前はハルとユキです」

 何を照れてるんです。照れるとこなんて有りましたか?
 ともかく……早く手続きをしに行きましょう。この子たちのおうちを作らないと。

「そういえば美亞葵君。ご家族の方はどちらに?別居ですか?」
「はい。別居というか、隠居ですけどね」

 それなら気を遣わなくても大丈夫そう。執事さんや侍女さんの中に動物嫌いがいたらごめんなさい。

「問題ありませんよ。皆、動物好きですから」

 それはそれは。大変喜ばしいことです。是非仲良くなりたいですね。
 動物を通して仲良くなる人って結構多いですよね。聞きかじりですけど。

「では、手続きを済ませてくるので入口で待っててください。この子たちも借りますね」

 てちてち歩いてハルちゃん達自ら、美亞葵君の掌に移った。やっぱり賢い。私の掌は寂しいけど。
 椅子に座ってぼーっとしている内に美亞葵君が来た。手下げ籠にハルちゃん達を入れて。
 ひょっこりと顔を出している様が愛らしい。その籠は何処で?

「担当官に貰いました。二匹だと手が塞がるだろう、と」

 親切な方です。どなたか知りませんが、ありがとうございます。
 さてさて、引き取りが終わったので今度は服屋さんです!せっかくなので、美亞葵君に選んでもらいます。

「僕がですか!?」
「え?嫌なんですか?女の子の服が選べるんですよ?好きな服を着せられるんですよ?やってみたくないです?」
「何処で覚えたんですか、その知識」

 お顔、真っ赤ですよ。やってみたいんですね?さては。

「…………」

 図星のようです。これは楽しみです!どんな服を選んでくれるんでしょう?わくわくします!
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