7 / 12
二章 聖獣
五日目前半 雪ん子、ハムスターを飼う
しおりを挟むお昼前、小鳥のさえずりで目が覚めた。
「ん~!」
背伸びをして身体を解す。布団で寝るとどうにも身体が固くなる。
畳の上に布団、だからだろうなぁ……。
「やっぱり相談しよう」
居間に向かうと美亞葵君が居た。鍋を煮ている。
今朝はおなかに優しい米煮のようですね。寝起きにはありがたい一品です。
「おはようございます。脚の具合はどうですか?」
「もう大丈夫です。ほとんど治ってます」
──ピタッ。
あれ?何かが美亞葵君の琴線に触れたみたい。固まった。え、どれ?嘘は吐いてない。
本当にうっすらしか分かりませんよ?見ます?
「だから異性に見せるなと!」
「美亞葵君しか居ないし……ほら、パッと見分からないでしょう?」
渋々脚に目を向け、そして驚かれた。
これが私の普通なんですけど、違うんですか?
傷のあった場所をすーっとなぞられ、背筋が粟立った。
「ん……」
「まさか……ほんの半日で……?」
怖いくらい真剣な顔をしていて、なんというかハラハラする。
やはり私はおかしいのでしょうか。
「いえ、これくらいなら……何も問題は……ない筈……」
「美亞葵、君?」
「春姫」
な、なんでしょう。
「怪我の治りが早い事、誰にも知られてはなりませんよ」
この街にも差別はある、ということですか?もしかして、美亞葵君も?
「そうではなく、軍事利用されるかもしれないので」
軍事、利用?女を?
「正直この国、というか、王族は腐っていますから」
でも、皆さんお優しいですよ?綿飴をくれたおばさんも、喫茶店の店員さんも。
「そうですね。しかし、軍を除く王侯貴族はそうではないんです。彼らは使えるものは何でも使う。たとえ女子供であっても」
そんな……。
もしそうなった時、軍の皆さんは私をどう扱うのでしょう。
「今の所、貴女は僕の遠戚となっています。そして、祖国で虐待を受けた為に、亡命したとも言い訳してあります」
後半は半分事実ですよ。虐待ではなく迫害ですけど。肉体的に何かされたという訳では無いですし。
まぁ、最終的に一族は皆殺しにされましたが。
「偽りとはいえ、貴女に事情がある事は皆知っています。なので、大変な事にはならないかと……」
それを聞いて少しばかり安堵した。
とにかく。その事態を避けるには、なるべく怪我をしない事ですね。気を付けないと。
「そうしてください。さ、難しい話は終わりにして朝餉をいただきましょう」
「はいっ」
✻ ✻ ✻ ✻
所変わり動物保護施設。
夢で見た建物と同じ外観と中。これで一昨日見た夢が正夢である事が判明した。
「動物を引き取りたいんですか?」
「目的の子たちが居たら、ですけど……」
そういえば、あの子たち、何ていう動物なんだろう。小さくてふわふわしてて、ほっぺが膨らむ、あの小動物。
「おそらく、齧歯類……ハムスターかと」
「ハムスター……」
なら、ハムちゃんですね。可愛い種族名です。
あの二匹は確かこの先に居た筈……あ!
「居ました!」
真っ白な子と、若干水色がかった毛を持つ子。
「あの白い子と水色っぽい子です」
「何故ここに居ると知ってたんですか?」
「実は、かくかくしかじかで」
夢で見たことを簡単に伝える。
「成程、そういう事でしたか。奇妙な発言の数々は」
奇妙!奇妙って言いました!?私、そんなおかしな発言しましたっけ!?!
「いやほら、動物の保護施設がある事を伝えていないのに知っしましたし、場所も知ってましたよね。この子たちが居るという事も」
確かに色々おかしい。ごめんなさい、混乱させましたよね。
でも、この子たちをどうしても引き取りたくて。やっぱりダメですか?ハムちゃんは嫌い?
二匹を手に乗せ、うるうるお目々で聞いてみる。
「いえ!特段そんなことは……!」
「良かったね!ハルちゃん、ユキちゃん!」
「ごほっ、げほっ」
あ、咳した。夢と同じ反応。正夢の正確さ、すごい。
「この二匹、近付けても喧嘩しないんですよ。他の子たちは警戒心強いのに。良い子たちでしょう?」
「そ、そうですね……それにしても、懐っこい」
人に慣れている、というよりは頭が良いんでしょう。
今も大人しく手に乗っていますし。
「それで……その、名前はあれで決定なんですか」
「絶対変えません。この子たちに似合う名前はハルとユキです」
何を照れてるんです。照れるとこなんて有りましたか?
ともかく……早く手続きをしに行きましょう。この子たちのおうちを作らないと。
「そういえば美亞葵君。ご家族の方はどちらに?別居ですか?」
「はい。別居というか、隠居ですけどね」
それなら気を遣わなくても大丈夫そう。執事さんや侍女さんの中に動物嫌いがいたらごめんなさい。
「問題ありませんよ。皆、動物好きですから」
それはそれは。大変喜ばしいことです。是非仲良くなりたいですね。
動物を通して仲良くなる人って結構多いですよね。聞きかじりですけど。
「では、手続きを済ませてくるので入口で待っててください。この子たちも借りますね」
てちてち歩いてハルちゃん達自ら、美亞葵君の掌に移った。やっぱり賢い。私の掌は寂しいけど。
椅子に座ってぼーっとしている内に美亞葵君が来た。手下げ籠にハルちゃん達を入れて。
ひょっこりと顔を出している様が愛らしい。その籠は何処で?
「担当官に貰いました。二匹だと手が塞がるだろう、と」
親切な方です。どなたか知りませんが、ありがとうございます。
さてさて、引き取りが終わったので今度は服屋さんです!せっかくなので、美亞葵君に選んでもらいます。
「僕がですか!?」
「え?嫌なんですか?女の子の服が選べるんですよ?好きな服を着せられるんですよ?やってみたくないです?」
「何処で覚えたんですか、その知識」
お顔、真っ赤ですよ。やってみたいんですね?さては。
「…………」
図星のようです。これは楽しみです!どんな服を選んでくれるんでしょう?わくわくします!
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
五歳の時から、側にいた
田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。
それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。
グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。
前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
もう散々泣いて悔やんだから、過去に戻ったら絶対に間違えない
もーりんもも
恋愛
セラフィネは一目惚れで結婚した夫に裏切られ、満足な食事も与えられず自宅に軟禁されていた。
……私が馬鹿だった。それは分かっているけど悔しい。夫と出会う前からやり直したい。 そのチャンスを手に入れたセラフィネは復讐を誓う――。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
皇太子夫妻の歪んだ結婚
夕鈴
恋愛
皇太子妃リーンは夫の秘密に気付いてしまった。
その秘密はリーンにとって許せないものだった。結婚1日目にして離縁を決意したリーンの夫婦生活の始まりだった。
本編完結してます。
番外編を更新中です。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
絶対に間違えないから
mahiro
恋愛
あれは事故だった。
けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。
だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。
何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。
どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。
私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
【完結】生贄になった婚約者と間に合わなかった王子
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
フィーは第二王子レイフの婚約者である。
しかし、仲が良かったのも今は昔。
レイフはフィーとのお茶会をすっぽかすようになり、夜会にエスコートしてくれたのはデビューの時だけだった。
いつしか、レイフはフィーに嫌われていると噂がながれるようになった。
それでも、フィーは信じていた。
レイフは魔法の研究に熱心なだけだと。
しかし、ある夜会で研究室の同僚をエスコートしている姿を見てこころが折れてしまう。
そして、フィーは国守樹の乙女になることを決意する。
国守樹の乙女、それは樹に喰らわれる生贄だった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる