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第29話

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「では、会談を始めましょうか」



「よろしくお願いします」







 バナスタシア帝国と日本の使者が握手を交わして席に着く。







「まず、貴国からの書簡に記されていた、我々が貴国に対して攻撃行動を取ったということであるが、国務庁としては一切関知しておりません」



「なるほど。(なぁ、例の1の画像を。)失礼。しかし、こちらの画像を見ていただいてたらわかる通り、貴国の軍が装備している火器と我が国が攻撃を受けた際に接収した火器が極めて酷似しているのですが」







 棚里は他の外交官に画像を準備させて、いつもの表情で淡々と反論した。







「すみませんな、私共は軍についてあまり知らないので。軍務省の人間を呼びますのでその時に」



「わかりました。しかし主題が進みませんな。とりあえず、我々は貴国をあまり知らないので、文化交流と行きましょうか」



「いいでしょうな。まぁ我々もその算段でありましたので、資料は準備させていただいておりますよ」



「奇遇ですね。では我々から致してよろしいですか」



「よろしくお願いします」







 棚里たちは、説明のための資料の準備をする。やはりモバイルプロジェクターやパソコンなども持ち込まれていたため、これらの機器で説明を開始する。



 例のごとく、日本の歴史や経済、軍備、政治などを一通り解説した。きちんと帝国の人間には紙での資料も配布した。







「貴国は高い技術をお持ちのようですな」



「お褒めいただき光栄です」







 軍備に関しては、当初から友好的ではなかったので、控えめの表現としていた。また、日本が位置する地図なども配布したのだが。







「しかし、マスニカ半島先端部はわが国の領土であるはずなのですが」



「何をおっしゃっているのですか?マスニカ半島先端部はオルスター王国より制式に譲渡された日本領の土地であります」



「貴殿こそ何を言っているのだ?マスニカ半島先端部は旧来より我が国の領土となっている。貴国こそおかしいのではないか?」







 特域の取り扱いについていちゃもんをつけられたのだ。転移国家であることについてはあまり追及もせず、理解してくれたのだが。







「とりあえず、貴国にはマスニカ半島先端部に関するすべての権利の返却を求める」



「いくら何でも非常識過ぎませんかね?我が国はマスニカ半島先端部を第1種特別地域と呼応していますが、この地域は現在我が国の最重要地域となっております。全権利を譲渡なんてもってのほかです」



「ほう。貴殿は我が国との開戦を望んでいますのかな?」



「開戦などは望んでおりません。戦争は不幸を呼ぶだけなのですから。しかし我が国は自国の領土は全力で守るということを留意していただきたい」



「話になりませんな。貴殿らは特使とのことなので我々も無下には扱えませんが、今日のところはこれにて終了とさせていただきたい。明日はまた別の担当が対応いたしますのでね」



「わかりました。今日のところは下がると致しましょう」







 バナスタシア帝国との公式的な初接触は2時間余りで終わることとなった。











 控室



 棚里たちが案内されたのは、会議場の近くに位置する宿であった。当初の説明では国が運営しているとのことだったが、その国を敵に回してしまっている現状、警備は増強することとなった。



 人員は海上自衛隊の護衛艦の人員から一部が割かれた。交代などは持ち込んでいた車両で行うこととなった。







「やらかしたかなぁ~」







 割り当てられた部屋で棚里はため息をつく。







「今回は仕方がなかったでしょう。ただ領土等を紹介していたら急に相手が逆上してきたのですから」







 随伴の外交官は一応落ち込んでいる棚里をなだめる。







「どうかな。あっオルスター王国担当の人間に連絡を取ってくれ」



「なんでですか?」



「本当に特域が元々オルスター王国の領土であったかの確認だな」



「あの憤り方はいちゃもんとはまた別種でしたもんね」



「とりあえず明日からどうするかな」



「日本政府の回答次第ですな。強硬政策を望むか、融和政策を望むか」



「そうですな。とりあえず、今日のところは宿の食事を頂くとしましょうか。特使であるから無下には扱わないという言葉を信じましょう」







 そういって、一行は食事をとる会場に移動し、食事をとった後は各々の部屋でゆっくりと休息をとるのであった。















 バナスタシア帝国 国務行政室



 国務行政室とは、日本で言うところの内閣である。部署は皇帝城に置かれ、実質的に帝の指示による政策の実行を担当していた。



 現在、国務行政室長が座る、ある程度の装飾が施された部屋では、一人の男が跪いていた。







「情報局長。今回の指示はどういう経緯で?」







 国務行政官、つまるところの政権ナンバー2が情報局長に対して問い詰める。



 国家情報局が実行した日本に対する工作はすべて失敗していた。しかしそれが露見して情報局長の座を追われたくなかった情報局長はこの事実を隠蔽した。



 しかし、日本からの抗議文書が国務庁に届き、そのまま国務行政室まで情報が上がった。理由は単純。そんな情報が国務庁に入っていなかったからだ。そこから国務行政室が独自に調査を行った結果、国家情報局の工作部が活動していたことが判明し、そこから芋づる式にさまざまの事実が露見したのだ。







「あの。私は日本という国に優位に接触するために」



「うるさい!まず情報をつかんだら上に情報を上げるのが当たり前だよなぁ」



「すみません!」



「もういい。貴様の処罰を言い渡す。貴様の全財産の没収の上、無期懲役だ」







 この国は帝国である。そのため帝が決断したことは必ず実行されるのである。そしてこの国務行政官はナンバー2ということもあり、この男もある程度の権利が与えられているのだ。情報局長の態度にイラついた室長は即座に判決を言い渡した。







 その後、国家情報局長は必死に許しを請うたものの、衛兵に国務行政室から引きずりだされ、宣言通り全財産の没収のうえ、王城から少し離れた地下に備えられている特別刑務所(極悪犯罪を犯した者や通常の地方刑務所では対応できない者が収容される刑務所)へと連行されたのであった。情報局長の家族・親族にもそれなりの刑罰が下りたのであった。
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