上 下
4 / 6

4.調査結果

しおりを挟む

「王子は自分の過ちを認めるどころか無実の相手を貶めて殺し、王はそれを許してあまつさえ肉欲に溺れる、両親でさえ我が子よりお金を取る国よ?どう考えたって失敗じゃない」

 わかりやすく言ってあげたのに、王子はまだ理解出来てない顔をしていて…馬鹿なのかしら?

「アナベルは貴方と婚約者になる為に王と寝たのよ?」

 更に噛み砕いて教えてあげると、王子は勢いよく振り向きアナベルを見た。

「うっ、嘘です!そんなデタラメな事言わないで下さい!」

 顔を真っ青にしたアナベルが顔を左右に振りながら私を睨む。

「お馬鹿さんね。素直に認めなさい?何ならその行為の一部始終を水鏡で映してあげてもよくってよ?」

 アナベルは唇を噛み締めているものの、私を睨む事を止めない。

「そんなに妬ましい目で見ないでくれるかしら?まとわりついて気持ち悪いわ」

 負の感情を纏ったその視線はぬるりと絡みつくようで不快だわ。
 忠告したにも関わらず、もっと不快になれとばかりにアナベルは私を見つめたままだった。

「見るなと言っているのよ」

 言い終わる頃にはプディングが潰れるようなぶちゅりと粘度のある音がする。

「ぇ……何?何なの?……ぁあ…ああぁあああっ!」

 突然の暗転に顔を覆うと、瞳があった場所には彼女の感情と同じような真っ黒な空洞ができていた。
 叫ぶ彼女に呼応するように、周りからも悲鳴が上がる。

「うるさいわ、静かにして頂戴。痛くないようにしてあげたんだから」

「なんで!なんでよっ!」

 私の声を聞き、周囲は両手で唇を押さえるようになった。いいこね。
だが、アナベルは見えないせいか明後日の方向を向いて怒鳴っていた。

「見ないでって言ったじゃない。言うことはきちんと聞くものよ?そこで大人しくしていなさい。口も塞がれたくはないでしょう?」

「……ごめんなさい。もう見ないから…。治してください」

地面にペタリと座り込んでアナベルは許しを乞うてきた。

「え?嫌よ」

「っ!?なんでよ!もう見ないって言ってるじゃない!ちゃんと謝ってるじゃないのよっ!」

「…あぁ、本当にもう、うるさいわ」

思わず心の声が漏れ、途端に静かになった。
最初からこうしていれば良かったわね。
 のっぺりとした、かつて唇があった場所を撫でながら暴れているようだけど、言うことはきちんと聞きなさいって言ったじゃないの。

 動作としてはうるさいものの、騒ぎ立てるような事をしなくなったので、目の前の王と王子を見る。
 二人とも股間を濡らし、王は真っ白な顔で震え、王子は身動き一つしなかった。どうやら気絶している様子。

「人の世界でいうと、もうずっと前から調べていたのよ?人間を依代として平民にも貴族にも王族にも生まれていたのよ」

そういうと王がゆるゆるとその顔を持ち上げた。その顔は何の話だと言いたげね。

「この国の死者の魂を管理してたら、その生を嘆いてる者が増えているのがわかって、その調査をしていたのよ」

わかったかしら?と王を見て微笑むが、理解しきれていないようね。

「一度や二度じゃないわ。
貴族に拐われ乱暴の果てに殺された平民。
高位貴族に婿入りし、虐げられ虐待の末死んだ下位貴族の息子。
結婚した家で夫以外の者にも慰み者のように扱われ、愛人が孕んだと殺されて捨てられた高位貴族の娘。
友好の証として他国に人質のように嫁がされ、その国に戦争をふっかけたせいで拷問の末に殺された王女。
 他の平民や貴族、王族にも生まれたけど、どれも似たり寄ったりね。どんなに辛くても自死する事はなかったけど、いずれも短い生だったわ…。

そして、今回が最後の調査よ。さっきも言ったけど、この国は失敗。だから、一度滅ぼす事にしたのよ」

零れそうな程に目を見開き、パカリと開いた王の顔を見て思った。やっと伝わったのね。

 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

友人の結婚式で友人兄嫁がスピーチしてくれたのだけど修羅場だった

海林檎
恋愛
え·····こんな時代錯誤の家まだあったんだ····? 友人の家はまさに嫁は義実家の家政婦と言った風潮の生きた化石でガチで引いた上での修羅場展開になった話を書きます·····(((((´°ω°`*))))))

【完結】待ち望んでいた婚約破棄のおかげで、ついに報復することができます。

みかみかん
恋愛
メリッサの婚約者だったルーザ王子はどうしようもないクズであり、彼が婚約破棄を宣言したことにより、メリッサの復讐計画が始まった。

復讐は合わせ鏡のように─『私』を殺してでも絶対に許しませんわ!

naturalsoft
恋愛
シオン・ローゼンクロイツ公爵令嬢は、この国の王太子であるジーク・サザンクロス王子と婚約関係にあった。 しかし、学園でとある転入生が来たことで平和な日常が変わってしまった。 婚約のジーク王子がその転入生、マリア男爵令嬢に夢中になってしまったのだ。しかも、側近の高位貴族の子息達も同じく夢中となり、学園生活はメチャクチャになっていった。 そしてついに婚約破棄の出来事に発展していく─ 事前にその気配を察知した、頭の切れる公爵令嬢は裏でその計画を潰そうと動いたが、予期せぬ事に逆上した王子に殺されてしまう。 公爵家の抗議を握り潰し、マリア令嬢と婚約を結び直して、幸せを満喫するジーク王子は気付かなかった。 その怨みは死なずに生き続けていることに………

悪役令嬢の去った後、残された物は

たぬまる
恋愛
公爵令嬢シルビアが誕生パーティーで断罪され追放される。 シルビアは喜び去って行き 残された者達に不幸が降り注ぐ 気分転換に短編を書いてみました。

待ち遠しかった卒業パーティー

しゃーりん
恋愛
侯爵令嬢アンネットは、暴力を振るう父、母亡き後に父の後妻になった継母からの虐め、嘘をついてアンネットの婚約者である第四王子シューベルを誘惑した異母姉を卒業パーティーを利用して断罪する予定だった。 しかし、その前にアンネットはシューベルから婚約破棄を言い渡された。 それによってシューベルも一緒にパーティーで断罪されるというお話です。

悪役令嬢と言われ冤罪で追放されたけど、実力でざまぁしてしまった。

三谷朱花
恋愛
レナ・フルサールは元公爵令嬢。何もしていないはずなのに、気が付けば悪役令嬢と呼ばれ、公爵家を追放されるはめに。それまで高スペックと魔力の強さから王太子妃として望まれたはずなのに、スペックも低い魔力もほとんどないマリアンヌ・ゴッセ男爵令嬢が、王太子妃になることに。 何度も断罪を回避しようとしたのに! では、こんな国など出ていきます!

【完結】殿下、私ではなく妹を選ぶなんて……しかしながら、悲しいことにバットエンドを迎えたようです。

みかみかん
恋愛
アウス殿下に婚約破棄を宣言された。アルマーニ・カレン。 そして、殿下が婚約者として選んだのは妹のアルマーニ・ハルカだった。 婚約破棄をされて、ショックを受けるカレンだったが、それ以上にショックな事実が発覚してしまう。 アウス殿下とハルカが国の掟に背いてしまったのだ。 追記:メインストーリー、只今、完結しました。その後のアフターストーリーも、もしかしたら投稿するかもしれません。その際は、またお会いできましたら光栄です(^^)

処理中です...