【R-18】この探偵、感度良好につき取り扱い注意【完結】

荒野 涼子

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file.02 助手登場

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この探偵、感度良好につき取り扱い注意
file.02  助手登場

「人が欲しいと言うことでしたが」そう切り出した諒介に食い気味に珠莉は
「人手!やっと!」
と叫んでソファから立ち上がりかけた。グレーのボブが部分的に外はねでそこだけ赤みの強いピンクに染まっているのが動くとひょこひょこ目立つ。
黙って立っていれば憂いを帯びたクールビューティーなのに動きが幼なじみて見えてしまう。
「ま、ま、お座りになって」
その身体をソファに押し戻しながら諒介は事務所のドアのところまですすっと移動した。
「ではお入りください!期待の新人さんです」
ドアが開きスーツ姿の男がぎくしゃくと入ってくる。初日と言うことでTPOに合わせてみたということか着慣れていない感じが出ている。事務所内に入り一礼したがかなり厚めの前髪がその表情を読めなくしていた。
「リクエスト通り写真撮影もかなり得意で機械も得意な理系君だから」
言いながら得意げに諒介は珠莉の方を見やる。そちらには眼もくれず珠莉は“新人君”を指差しながら口をぱくぱくさせている。
「どうした?感激のあまり声も出ないか?」
ニヤニヤ笑いながら諒介は珠莉に近寄り肩を叩いた。すかさずその腕に関節技をキメながら珠莉は吠えた。
「禅野秋人(ぜんの あきと)じゃねーか!?」
「じょ、条件にはぴったりだろ?」
痛みを堪え珠莉の腕をタップしながら諒介は宥めるように言ってみる。
「こいつと私の因縁はご存知じゃああありませんでしたか!?」
ぎりぎりと力を加えながら珠莉は諒介を憤怒の表情ってこんなかなと思わせながら詰めた。
(そうなんだよなー。出会いからして最悪だったもんな)
腕の激痛に朦朧としながら諒介は禅野秋人とのこれまでを思い返していた。

【回想】
それはいつもの猫探しの時だった。
「基本が裸族だからっておまえはいつもいつも!もう何度目と思ってる?」
怒ると言うよりも呆れが強い諒介の叱責に流石にしょんぼりとなる珠莉。
「またパンツ履き忘れてよりにもよって猫探しかよ」
「ごめん、履いてくるから…」
「もうダメ!猫探しは時間との勝負。今日はお仕置きとして一日そのままいなさい」
「えーーー!?」
「今更?恥ずかしさを覚えないから忘れるんだろ。身をもって知りなさい」
「むーーー」
「ほんとお父さんは知りません!」
気づいてなかった時は気にもならなかったが今日の服装はなかなか攻めてた。総丈こそ膝まであるワンピースだがジッパーだらけでスリットのようにもなると際どい。
(すーすーするなー。気をつけよ)

今回の探し猫は子猫。
成猫と違ってあらゆる隙間に吸いこまれてしまう恐れがあるので緊急性が高い。それを踏まえて通常の捕獲かご作戦などに加えて側溝をローラー作戦で確認していくことになった。
付近の金網状や鉄柵状の側溝は早々に調べ終えコンクリの側溝に取り掛かる。金網などと違って屈み込んで覗き込まないと中の様子が窺えない。
(いっそのこと四つん這いになれたら楽かもな)
住宅街では奇異に映るのでやめておいたが一つ一つ屈んでは移動するのに疲れてきた頃蹲踞の姿勢でひと休みする。後ろから諒介が目視できない範囲を竹の棒で探りながら付いてきているのが見えた。
目が合ったのに気づき手を振る。その時どこか別の所からも視線を感じた気がした。
(あ…れ?)
住宅街は静かで人通りはなかった。なんとはなしに下を見た。息遣いが聞こえた気がした。そーっと足をずらして側溝の中を窺う。白いものが見えてそれが瞬いた。眼だった。その眼と目が合った。
「ぎゃあーーーーーーーーー!!」
思わず自身でもびっくりするくらいの腹から声が出た。諒介が驚いて飛んでくる。
それを目の端に見ながら珠莉は側溝の蓋に手をかけていた。一気に持ち上げ円盤投げのように放り出す。地響きを立てて蓋が落ちるのに諒介の足が止まる。
(なんて馬鹿力。メスゴリラか!?)
そして珠莉は目を閉じ手を合わせて拝んでいる男を側溝の中に目視した。
「…菩薩様だ。菩薩だけに観音開き…」
最後まで言わせず珠莉はその男を引きずり出し諒介が制止するまでボコった。
それが禅野秋人との邂逅だった。

その後から禅野の珠莉へのストーキング行為が始まった。盗撮や付きまといが主で直接的な接触はほぼなかったが、遠くから拝まれるのを他人に見られる時の羞恥感に耐えられず訴えることに。独自に調査して警察に相談するも何故か被害届が受理されず今もストーキングは続いていた。
【回想終わり】


「採用理由は!?」
ぱっと諒介の腕を離して詰問する珠莉に
「それは、父親が警視だからだね」と腕をさすりながら諒介がネタ明かしをする。
「そんなのいつ知ったの?母子家庭ってそういう…」
と言いかけてあ!と口をつぐむ。禅野は気にしないと言うように手を振って見せる。いわゆる愛人の子ということを禅野自身はあまり気にとめていないようだった。
「一応トップシークレットだったからね。所轄ではトップしか知らないけど禅野秋人が今まで幾つか軽犯罪でしょっ引かれても無罪放免になってたのはそういいうこと」
「だからストーカーで被害届も受理されなかったのか」
「そう言うわけで彼を雇うと警察関係が楽になるというか忖度が期待できるわけ」
一通りの話を聞き納得したのかどうかしばしの沈黙の後
「でもなんでこのこと教えてくれなかったの?私が調査に走り回ってたの知ってたでしょ?」
「自分の調査くらい1人でできるようになってくれないとね」
ぎゃふんとなる珠莉に追い打ちかけるように禅野も言う。
「もっと知って欲しかったですね、僕のこと」
(あれ、喋るの初めて聞いた?)
(そう言えば禅野は私のことたぶん色々と調べ上げているんだろう、あれのことも。ストーカーだけに。その反面私は調査をしたとは言え部分的にしかまだ知らない)
そう思って珠莉は初めて禅野秋人という人物に脅威以外の興味が湧いた。
「わかった。とりあえずは試用期間3ヶ月ということで!人手不足だからなんでもやってもらうからね!」
よし、とばかりに諒介と禅野がハイタッチするのを見ていつの間にそんな仲にと訝しく思いながらも
「じゃあ、よろしく」
と手を差し出す。禅野もおずおずと手を差し出す。
「同僚になるからにはストーカーは卒業ね!」
「それはできません。珠莉様を見守るのは僕の務めなんで」
と予想外の力で握手をして言い切った。

「なーーぜーーだーー!」
(そしてなぜ珠莉“様”???)

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