転生未遂から始まる恋色開花

にぃ

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第56話 揃いつつある黄金世代

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 順番に呼ばれ、ついに僕の面接の時がやってきた。
 面接室の扉の前で軽く身支度を整える。

「どうぞ。入ってください」

「はい。失礼します」

 身だしなみを整え、出来る限り声を震わせず、尚且つ元気に。この3つさえ気を付けていれば面接は大丈夫、と担任は言っていた。
 身だしなみはともかく、他二つは僕の苦手とする分野だけど意識すればだれでもできることだ。
 そういえば面接って貴重な体験だよな。もしお仕事モノを題材とした小説を書く時に良いサンプルになりそうだ。
 そうか、小説のネタ提供の場と考えればいいんだ。そう考えればほんのちょっとだけ気が楽になった気がする。

「初めまして。私立K高校から来ました雪野弓と申します。本日はよろしくお願い致します」

「ああ。そう固くならずに。どうぞ座ってくれたまえ」

「失礼します」

 軽く腰を掛ける。背もたれは使わない。背筋を伸ばし、顎を軽く引く。
 面接官は若い女性だった。
 すらりとした長身。パンツルックのスーツ姿。銀縁のメガネがキラリと光る。
 おぉ。小説に出てくる『やり手の女教師』みたいだ。大人の魅力があふれ出ている。

「本日面接を担当する月見里美雪だ。本日は遠くからよく来てくれた。感謝する」

「こちらこそ。お時間いただきありがとうございます」

「うむ。キミ全く緊張していないな。こういう場には慣れているのかな?」

「いいえ。少しでも良い印象を持ってもらおうと腹に力を入れて緊張を誤魔化しています」

 って、僕は何を正直に答えているんだ!

「あっはっはっはっ! そうかそうか。面白いなキミは。その緊張を解す技は自分で編み出したのか?」

「いえ。ネット知識です。自身の小説執筆ネタを探すとき、良いと思ったものは自分でも実際に取り入れています」

「良いな。とても良い心がけだ。だが、ネット知識に踊られすぎていかんぞ。正誤激しいからな」

「はい。ご助言感謝いたします」

「なんだか軍人と話しているみたいだな。とにかく腹の力を抜くがいい。緊張しても良いからキミの言葉を聞きたい」

「は、はい」

 言われるがまま腹の力を抜く。同時に若干猫背になる。
 でも一気にリラックスできた感覚はあった。

「さて、面接の内容だが、ありがちな志望動機とかこの学校に入って何がしたいとか今さら聞く気はない。模範解答しか返ってこない質問には興味ないからな」

 おぉう。薄々感じていたけど、普通の面接じゃないなこれ。

「願書を拝見させてもらった。著名、弓野ゆき。代表作『大恋愛は忘れた頃にやってくる』。現在は『小説家だろぉ』にオリジナル作品を執筆中。間違いないな?」

「はい」

 ここを受験するに従って願書を提出の際、『今までの創作/芸能/など自身の活動記録があれば記載すること』と記されていた。
 ノベル科だったら出版作や受賞歴の記載。
 ちなみにイラスト科は渾身の一枚を持ってくるようにと記載されていたらしい。

「購入されてもらった」

「えぇぇっ!?」

 月見里先生はスーツの内側から見覚えのある表紙の本を取り出していた。
 まさかこの場で自分の本が登場するとは思わなかった。ていうか良く買えたな。もう書店にはそんなに並んでいないらしいのに。

「文章力、ストーリー構成は問題ない。むしろ水準以上。キャラが少ないことが功を奏しているな。主人公二人にしっかりと焦点が当たって無駄なものが一切ない。会話もテンポ良く小気味よい」

「あ、ありがとうございます」

「だが、それだけだ」

「えっ?」

「キミはどうして主人公達の恋愛の『先』を書かなかったのだ?」

「そ、それは……」

 これをいうと印象が悪くなる気がする。
 だけど月見里先生は『僕の言葉』を聞きたいと仰ってくれた。
 ならば僕の真意を述べるべきなのだろう。

「恋愛小説は主人公達がくっついたらつまらなくなるからです」

「ふむ。なるほどな」

 月見里先生はうんうんと首を縦に振り続けていた。
 あれ? 思ったよりも肯定的なのか?

「恋愛小説の一番面白いところは告白イベントだ。そこで盛り上がりすぎてしまうと後の物語に蛇足感が生じてしまう。告白イベント以上のシーンを書ける気がしない……と、そんな所かな?」

「そ、その通りです。よくわかりましたね」

「いや、私も若いころはキミと全く同じ考えを持っていたからな」

「今は違うのでしょうか?」

「……難しいところだな。私は書き手であり読み手でもある。正直『読み手』としては二人がくっついた先の物語を読みたいと思うさ。この大恋愛は忘れた頃にやってくる、も含めてな」

「あ、ありがとうございます」

「だが、『書き手』としてはキミに似た考えを持っていることは事実だ。恋愛物のピークは気持ちを打ち明けるシーンだからな。そこに最大級の盛り上がりを持っていくのは恋愛物の書き手としては当たり前だ。その先を書こうものなら燃え尽きた後の気力で生み出された蛇足になるのは必然だ」

「はい」

「だけど、もしピークを『告白イベントの後の展開』に持っていける作者が居るとすれば、それを実現できたとすれば、恋愛物小説の革命が起きるかもしれない」

「あっ……」

 それはまさに雨宮さんがやろうとしていることだ。
 深くは考えていなかったけど雨宮さんは――桜宮恋は大衆恋愛小説の革命家になろうとしているのかも。
 今さらながらそんな野心に気づかされる。

「今まで色々な恋愛小説を見てきたが、その革命を起こせそう人物を私は2人知っている」

「ど、どなたなのでしょう!?」

 僕も知っている作者だろうか? いや、知らなくてもここまで聡明な方が仰る作者様だ。単純に僕もその方の作品を読んでみたい。

「一人は著者名:『金襴』。キミも『だろぉ』で書いているのであれば名前くらいは知っているであろう?」

「金襴さん! もちろん存じております! 常にランキングトップの『神』と称された方ですから! 作品は映画化までされてますし!」

「ああ。間違いなく現代小説の筆頭者だ。なぜあれ程の者が『だろぉ』で書いているのか――まぁ、それはいいか」

「あれ? でも金襴さんの小説ジャンルは恋愛物じゃなくありませんか?」

 金襴さんの小説はどれもジャンルは『ファンタジー』に属する。熱いバトルものが主流だ。

「いや、金襴の小説は常に『恋愛』要素が絡んでいる。必ずパーティメンバー内にカップルが出来上がっているだろう?」

「確かに」

「だけど、どの作品も主人公は絶対に誰ともカップルになっていない。理由はわかるか?」

「商業的な理由でしょうか? キャラに人気が出過ぎると異性の影をチラつかせただけで軽く炎上しますし」

「ほぉ。なかなか鋭い意見だな。なるほど。そういう考えもあるか。面白いなキミ」

 この様子を見るに、僕は先生が欲しかった回答を出せていなかったようだ。

「え、えと、先生はどのようにお考えなのでしょうか?」

「ん? ああ。私はこう考えている。金襴はハーレムモノを嫌っていることと主人公に見合うヒロインを生み出せていないことだ」

「えっ? でも……」

「まぁ、待て。まずは私に語らせてくれ」

「ど、どうぞ」

 面接で受験者を放っておいて面接官が語るって今さらながらどうなんだろうか?
 月見里先生の話は面白いから嬉しいのだけど。

「金襴は自身のプロフィールコメントでハーレムモノは苦手と公言している。だからこそ女キャラが主人公のミーハーにならずカップル化されないのだ。いや、そもそも『ちょっと良い出会いをした程度で好意を寄せてくるキャラ』全般を嫌っているのだろう。主人公とヒロインが恋愛関係に陥るには――そうだな、それこそ『大恋愛』をさせるレベルの物語性が必要なのだと考えているのだろう」

 ある意味『だろぉ』を完全否定する考え方だ。
 衝動的に主人公に好意を寄せてくるハーレムモノはキャラに愛着が持てるので僕は好きだ。
 だけど『主人公を好きになる理由』が薄いな、と思ったことがあるのは事実だ。

「もちろん魅力的なヒロインは金襴作品にも居る。だけど主人公との関係性は必ず『良い仲間』止まりだろう? 主人公というのは自己投影される作者の分身だ。もし自分の分身に最高の恋愛をさせるとすれば――まず自分が認める最高のヒロインを生み出さなければいけない。恐らく今までのヒロインに納得できない部分があるから独り身主人公が量産されるのであろう」

 最高の恋愛はハーレムモノの中では生まれづらい。
 前提として主人公とヒロインの1on1であり、『両片思い』の中から生まれやすい。

「だけど、もしいつか金襴が主人公と見合うヒロインを生み出した時、私は革命的な恋愛が見られると確信している。それだけの実力が備わっている」

「ええ。僕もそう思います。例えジャンルが恋愛物じゃなくても――いえ、最高のバトル物でありながら最高の恋愛を見せられる。金襴さんはそういう異次元レベルの方です」

「ほぉ。キミも相当な金襴ファンだな。語っていて楽しいぞ」

「はい。僕もです月見里先生」

 面接というよりは有意義な小説談義だ。

「それと、金襴と同じくらい期待しているのが――キミだ。『弓野ゆき』」

「えっ?」

「恋愛小説に革命を起こせる2人の人物。それは『金襴』と『弓野ゆき』。この二人であると言っているのだよ」

「ま、まってください。金襴さんは間違いなくそうですが、どうして僕が!?」

「キミがこの大恋愛は忘れた頃にやってくる、を『プロット無し』で作ったからだ。キミが物語を練って練って練り上げれば、きっと告白イベント後に作品のピークを持っていける作品を生み出せる。その力があるとこれを読んで思った」

 先生はもう一度僕の小説を取り出して本の表紙をトントンと叩く。
 いや、それよりもどうして先生はプロットのことを――

「小説というのは作者が何を伝えたいのか、どの場面を一番見てほしいのか、それを先に考えてプロットを組まなければいけない。だけどこの作品にはそれがない。故にこの作品には『プロットが無い』。そうだな?」

「そ、その通りです!」

 そう。大恋愛は忘れた頃にやってくる、はプロットと呼ばれる骨組みが存在しなかった。
 なんとなく書き始めて筆が乗ったので思いつくがままに書き綴る。これがこの小説の誕生秘話だった。
 雫も雨宮さんも瑠璃川さんもその辺りには気づいていなかった。
 だけど月見里先生は一目で小説の内側まで暴いてきた。

「プロット無しの小説にありがちな構図だ。中身が薄い。伏線が分かりやすすぎる。『こうなれば良いな』という読者の期待に応えすぎている」

「うっ……」

 大恋愛は忘れた頃にやってくる、は主人公達が苦難の末、やっとの思いで結ばれるストーリー。
 だけど読み進めれば進むほどなんとなく先の展開も読める内容でもあった。

「つまり、何が足りなかったかわかるか?」

「――読者が思いもよらなかった『超展開』ですね」

「それだ! なんだわかっているではないか!!」

 月見里先生は目を見開いて嬉しそうに僕の手を握ってくる。
 うぉぉ!? 距離近いな!? 一応面接でしょコレ?

「せっかく『大恋愛』と称されているんだ。誰も思いもつかないような超展開があってもよかったはずだ! だけどキミの作品はしんみりしすぎている! タイトル負けしているとは言わんが、今のキミならもっと良いものにできたと思わないか!?」

「は、はい。思います。今さらながら加筆修正したくなってきました」

「加筆修正程度じゃだめだ。一から書いてほしい。そして出来上がったら私に見せろ。いいな?」

「はい……えっ? えっ?」

 いや、見せろと言われても。

「ああ。そうか。キミはまだこれを面接と思っているんだな。それなら心配するな。キミは合格だ」

「はぁぁぁ!?」

「うはははは。いいリアクションだな。そうだ。その反応も見たかった。キミ感情の表現が素直で好ましいな」

「ちょ、ちょちょちょ、ちょっと待ってください! 面接の段階で合否を言うって! それにこれから適性試験もあるんですよね!?」

「適性試験など学園が体裁の為に盛り込んだだけのプログラムだ。我々教師側も面倒だから受験生の回答なんて見やしないよ」

「ぶっちゃけすぎじゃありません!?」

「更にぶっちゃける今日一般枠で受験する者は全員合格とすでに決めている。推薦枠と一般枠を合わせても募集人数に達しておらんのだ。声優科だけはギリギリ定員に達しそうだが、他はたぶん定員割れするだろうな。ノベル科は悲惨だぞ? 40人定員なのに下手すると募集数は20人にも届いていないかもしれん」

「本当に悲惨だ!」

 待合室での人数の少なさから懸念していたが、やっぱりこの学校やばいようだ。
 どうしよう。今からでももう1校受験するか?

「頼むから他の学校を受けるなどいけずなことは言わないでくれよな。キミが入学の際にはおっぱい触らせてやるからここに決めてくれ」

「面接でおっぱいなんて単語が出てくるとは思わなかった!」

「自分でいうのもなんだが私は美人の部類だと思うのだ。キミとも年は5~6年しか離れていない。若いぞ私は。このおっぱいチャンスを逃す手はないと思うのだが?」

「おっぱいチャンス!?」

「ちなみに私は処女だ。処女のおっぱいが触れるのだ」

「嘘ですよね!? そんなに色気むんむんな人が処女であるわけないじゃないですか!」

「嘘ではない。私は性格きついからな。付き合った男性は3日持たずに去ってしまう」

「なんで受験生にそんなマル秘事情ぶちまけてくるんですか!?」

「ていうかキミの方が質問多いな。はっはっは。面接官と受験生の立場入れ替わりだな」

「全部あなたの自業自得ですからね!?」

「おっぱいチャーンス」

「帰っていいですか!? 面接の途中ですけど帰っていいですよね!?」

「まぁ、別にいいぞ。合格は決まっているからな。そうだ、キミ実家からは遠くて通えないであろう? 今からでも一人暮らしの準備をちゃんとしておくのだぞ。私的には『シャトー月光』というアパートがお勧めだ」

「途中退出を認めないでください! それとついでのように一人暮らしの準備をさせようとするのもどうなんですか!」

 どうして僕は面接の場でツッコミ疲れをしているんだ。
 この面接は全然小説の参考にならない。
 もはやギャグシーンの参考資料だ。

「私もこんな愉快な面接は久しぶりだった。楽しかったよ。入学後は私がノベル科の担当となる。どうかよろしく頼むよ」

 月見里先生が担任なるのか。
 性格はともかく小説の見る目はあるし、学べることもきっと多そうだ。
 
「それではこの後の適性試験も頑張ってくれたまえ。白紙でも合格できるから」

「頑張らせたいのかそうじゃないのかどっちなんですか!」

 かくして。
 とても面接とはいえない面接は終了した。
 退出後、やたら疲弊しきった僕の姿をみて雨宮さん達は大層驚いていたのであった。






【main view 月見里美雪】

 全受験者の面接終了後、事務室の一角で本日の面接リストを眺めていた。

「お疲れ様です。月見里先生。今年の受験生いかがでしたかな?」

 佐山波瑠教授。イラスト界の巨匠にして講師歴は何十年にも及ぶ大ベテラン。
 自身はクリエイターを卒業して長らく経つが、イラスト業界の変容に敏く、現代アートにも適応力の高い実力者。

「お疲れ様です。佐山先生。いやはや一般枠を舐めていた自分が恥ずかしいですよ。中々どうして面白い粒揃いでした」

「ほぉ。月見里先生にそこまで言わせるとは。今年の受験生は面白いですな。イラスト科や音楽科も居ましたよ。非常に楽しめそうな人材」

「佐山先生にそこまで言わせるとは――なんていう受験生で?」

「そうですね。非常に楽しみなのは、和泉鶴彦、水河雫、淀川藍里。この辺りはすぐに頭角を現すでしょうな」

「和泉鶴彦――ですか。これはまた音楽科にもとんでもない有名人が現れたものですな」

 若くしてピアノ界を統べる超新星、和泉鶴吉。確かピアノだけじゃなく弦楽器の部門でも名を轟かせていると聞く。
 それと水河雫? どこかで聞いたことある名な気がする。どこだったか。つい最近購入した何かの著書に似たような名前があったような~……ううむ、思い出せん。
 あとの1人の名は初耳だが、佐山先生のお眼鏡にかなうということはかなりのやり手なのだろう。

「ノベル科や声優科はいかがでしたかな?」

「よくぞ聞いてくれました。いやはや度肝を抜かれましたよ。あの桜宮恋がいたんですよ」

「なんと……! 純文学の神童、桜宮恋ですか!」

「話を聞くと大衆文学を学ぶために受験したとか。はっはっは。信じられますか? あの桜宮恋がですよ?」

「ほぉ。自らの土俵である純文学ではなく大衆文学の道を。いいですねぇ。そういう挑戦的な考え大好きですよ」

「ていうか商業作品を持っているやつは推薦枠で応募してこいって話ですよ」

「はっはっは。まぁ、この受験者数ならば推薦でも一般でも合格は間違いないでしょうけどな」

 うぅむ。笑い話ではないですよ佐山先生。下手すると学園の危機的状況でもあるのですが。

「そうそう。他にも面白そうなの居ましたよ。春海ナズナ、池すぐる、それに――」

 ――弓野ゆき。

 と、彼の名前を連ねようとして止めた。
 今日、私が最も面白いと感じたのは間違いなく弓野ゆきだ。
 現段階でも実力者の小説家なのは間違いない。
 だが、同時に危うさもあった。
 彼の場合、大化けするか大挫折するかの2択の未来しかないように思えた。
 ここで変に持ち上げて期待感を高めるのはやめよう。
 挫折などさせてやるものか。
 彼はじっくり育て上げ、必ず化けさせる。

 そのための材料は揃っている。
 もはや運命的としか言えない。
 ノベル科推薦枠のリストをチラッと見る。

『氷上与一』

 氷上与一と雪野弓が出会った時、果たしてどのような化学反応を起こしてくれるだろうか。
 想像するだけでもワクワクしてしまう。

「――とにかく、今年の受験生は間違いなく量より質です。スポーツでいう所の黄金世代みたいな集団に育てたいですね」

「全くですな。そして今年こそ――勝ちましょう。エデンアカデミーとの対抗戦に」

「ええ。勝ちますよ今年は。毎年負けっぱなしのまま終わってたまるものですか」

 これだけの粒が揃っていて負けたりなどしたら間違いなく我ら講師の指導力不足がぼやかれる。
 そのせいで更に次期受験生の数が落ちてしまったら、ノヴァアカデミーは経営不振で終わる。
 下手すれば今採用した受験生で最後の年になる可能性だってあるのだ。
 そうならない為にも夏の対抗戦では勝利が絶対条件になってくる。

「さっ、雑談はこの辺りにして、適性試験の採点に移りましょうか」

「あの、佐山先生、それ本当にやらないと駄目ですか? これ合否に全く関係ないじゃないですか」

 はっきりいって時間の無駄以外何者でもない。
 家に帰ってゲームしていた方が断然有意義である。

「だ め で す。さっ、はりきって採点しますよ」

「……うぅ。こんな無駄な残業納得いかない」

 声優科一般枠20名。ノベル科一般枠9名。
 計29名分の答案用紙が目の前に置かれている。

「だから商業作品を持っているやつは推薦枠で応募してこいって言ったんだ」

 ぼやいたところで目の前の紙束が減るわけではない。
 私は終始ぶつくさ文句を垂れながら答案用紙の採点に取り掛かるのであった。
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