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第41話 画面共有事故
しおりを挟む帰宅した僕は部屋の椅子に深く腰掛け、ふい~っと大きなため息をついていた。
とにかく盛りだくさんな一日だった。
でもすべてをやり終えることができて僕は大きな達成感に満ちていた。
「雫はもう帰ってきているかな?」
一応チャットを送ってみた。
『もう家だよ~。さぁ通話の時間だ親友』と即返信があった。
雫に一言チャットを入れてからいつものように通話を繋ぐ。
「あれ? おかしいな。出ない」
一旦通話モードをオフにし、もう一度チャットを入れようとする。
~~♪ ~~♪
おや、今度は向こうから掛かってきた。タイミングがかみ合わなかったのかな。
あれ? でもいつもとメロディが違う気がする。まあいいや。とにかく出てみよう。
「もしもし――って、うわ! 画面に雫が映ってる」
「ビデオ通話モードだぞキュウちゃん。もう顔バレしたから開放してもいいかなって」
「えっ、僕は恥ずかしいんだけど」
「両手で顔を隠さないの。乙女かキミは。可愛いを通り越してあざといぞ」
「雫は恥ずかしくないの?」
「んー、まぁ照れはあるけど、それ以上にキュウちゃんの顔を見ながら話せるのが嬉しい」
雫はこう言ってくれているがやっぱり僕は普通に恥ずかしい。
だって画面一杯に美少女が映っているんだよ? その美少女が僕に語り掛けてきているんだよ? とんでもないことじゃない?
雫の顔から目を離すように彼女の後ろに映っている背景へと視線を移した。
「雫の部屋も丸見えだけど」
「どうぞご覧あれ。別に隠すものもないし」
「年頃の女の子の反応としてそれでいいのか疑問だね」
「んー、今までの秘密主義の反動なのかなぁ。今はなんか全部さらけ出したい気分かも」
そういうことを素で言わないでほしい。
ちょっと変な想像してしまうではないか。
「キュウちゃんちょっとどいてみて。男の子の部屋がどんなのか見たい」
「いいけど。別に普通の部屋だよ?」
「見せてくれるんだ。ありがと。5分くらいあげるから見られたくなもの片づけてきてもいいよ」
言われ、部屋を見渡してみる。
んー、別にみられて困るものはないか。洗濯物を干しているわけでもないし。
「別に大丈夫だよ」
「キュウちゃんノートPCって言っていたよね? モニターもってぐるっと回れたりするかな? 部屋全体見たい」
「ほいよー」
雫の指示通りノートPCを持ち上げ部屋の中をゆっくり散歩する。
「おっ、ゲーム機発見」
「うん。男の子の必需品だよ」
「ちなみに私も持ってるぞ。もっと早く言え♪ なぜ隠してたー?」
「いや、女の子との会話でゲームの話題を出してくる男は幻滅されると思ったから」
「それは普通の女の子との会話でしょ?」
「そうだった。雫は普通じゃなかったね」
「おいこら」
「雫はゲームやってそうな印象なかったからちょっと慎重になってたかも」
「バリバリやるぞー! ていうか雫ちゃんはオタクだよ? イラストも萌え絵多いでしょ?」
「確かに」
勝手な印象で雫は暇ができたらイラスト執筆だけに時間を費やしているんだろうなって思っていた。先入観良くないな。
「ちなみに私は乙女ゲー大好きです」
「雫、めっちゃさらけ出してくるね。今までの『超秘密主義の雫さん』は本当に死んでしまったのか」
「あー、それなんだけど、自分もさらけ出さずに何が親友かとふと思っちゃってさ。良くないなって思った。だから可能な限りさらしていく方向性にシフトチェンジしたのだ」
「なるほど。理由は分かったけど無理してない? 親友とはいえ異性だからさ話しづらいこととかあると思うんだ。話してくれるのはすごく嬉しいけど、本当無理だけはしないでね」
「ありがと。キミ優しすぎない? 気配りの鬼かな?」
「小学生の頃にクラスメイトの良いところを書けという課題で、クラスメイトほぼ全員から『雪野君の良いところは優しいところ』と書かれたことがある」
「悪いことじゃないはずなのになぜか悲しくなる!」
「他に記すような長所がなかったんだろうねぇ」
「言葉を濁してあげたのに!」
小学生ぼっちあるある、自分の長所は『優しいところ』になりがち。
しかも特段優しくした覚えのない人間にまでそういわれる傾向がある。
「でもキュウちゃんの場合は本当に優しいところがいいなって思われていた可能性あると思う。特に女の子は優しさに敏感だから」
「ハッ! 僕が小学生の頃女子とまともに話が出来たとでも?」
「自慢げに自嘲してきた!?」
「小学生の頃どころか中学の時も女子と会話した覚えないよ」
「なんでさー。キュウちゃんって話しやすい雰囲気あるのに」
「そんなこと言ってくれるのは雫だけだよ。雫の良いところは優しいところだね」
「今の流れでそれを言うか!」
「僕は本心で言っているよ。小学生の頃のクラスメイトとは違ってね」
「うぅ。ありがとうと言えばいいのか微妙だー」
冗談抜きにしても雫の一番の長所は優しさだと思う。
それは今日の行動からも十分に感じ取れた。
底なしに優しくなければ片道2時間もかけて僕を助けにきてくれたりしないだろう。
「そうだ。ありがとうは僕が言わなきゃいけなかったね。雫、今日は本当にありがとう。雫のおかげで黒龍問題は終着できそうだよ。それに――」
一瞬言い淀む。
これ言うの死ぬほど照れくさい。
でも今くらいしかいう機会無いしなぁ。
「それに?」
「それに――その――単純に――会えてうれしかった……です」
「~~~~っ!!」
画面越しの雫の目が見開かれる。
ノートPCの荒い画像でも彼女の頬の赤さまではっきり見て取れた。
「そ、そかそか。私も、キュウちゃんと会えてうれしかったよ」
「う、うん。そかそか」
「うん」
「うん」
「…………」
「…………」
ほら変な空気になっちゃった。
どうしたら良いのか、この桃色空気感。
ビデオ通話じゃなければまだ照れは隠せたかもしれないのになぁ。
とにかく、話を変えなければ。
「そ、そうだ。今日通話したかったのはお礼を言いたかったのともう一つ。小説の新作だけどさ」
「あっ、そ、そうだったね。プロット。そだそだ、プロット見せてくれるっていったよね」
「と言っても実はぼんやりとしか作ってなくて、良かったら雫の意見が欲しいんだ」
「あ、はい」
額の汗をぬぐいながら手で顔の熱を冷ますように手でパタパタ仰いでいる。あっ、ハンディファンつけた。
ビデオ通話だから雫の挙動が全て丸見えである。
「画面共有するね」
ディスプレイの全画面を共有モードにする。
プロット資料をドキュメントから立ち上げる。
「エロゲのアイコン見えたよ」
「……さて、まず世界観だけどね」
「全画面モードにして隠したな」
「僕がゲームなんてするわけないじゃないか。僕は昔から小説執筆一筋だよ」
「さっきゲーム機映していただろうがぃ」
「……ああ、そうだよ! エロゲ―だよ! 悪いか! 僕がエロゲやって悪いかー!」
「悪くないよ。男の子だもん。ねね。ちょっとやって見せてよ」
「やらないよ!? ちなみに言っておくけど、僕がもっているエロゲは年間シナリオ賞を受賞したものばかりなんだ。そう。これは資料! ゲームからシナリオを学んで自分の作品に活かすという勤勉さが垣間見えただけなんだ。雫がちらっと見たアイコンは泣きゲーで有名なソフトでさ。いやーこれがまた本当にシナリオが秀逸でゲームプレイ後は満足感でしばらく何も手が付かなかったなぁ。いやはやいつか僕もそんな一作を作りたいものだよ、うん」
「アイコンの可愛い女の子の18禁シーンを堪能したのかぁ」
「僕の言い訳聞いてた!?」
「言い訳って認めているがな。キュウちゃんのエッチ」
「うぅぅぅ!」
親友との初のビデオ通話でどうして僕はエロゲ趣味を暴露しているのだろうか。
しかも女の子との初ビデオ通話で。どうしてこうなった。
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