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第40話 弓とハーレム要因達
しおりを挟む「そ、そういえば黒龍はあれからどうなったの?」
「強引に話を変えたわね。話数を空けたからってエロ話から逃げられるとでも思っているのかしら?」
メタ的発言はやめて。絶対不評だから。
「瑠璃川さん。私も気になってまして……教えてもらってもよろしいでしょうか?」
「わかったわ」
心底残念そうだこの人。エロ話から話が逸れてくれて本当に良かった。
「まずE組の出し物は中止になったわ。あんなことがあったから当然だろうけど」
もし黒龍達が悪ふざけせずに真面目にライブだけに注力していたら素晴らしい催し物になっていただろうに。それだけは本当に惜しいと思う。
「先生方に取り押さえられた黒滝は終始おとなしかったわ。たぶん雪野君を本気で殴ってしまったことで冷静になれたのでしょうね」
それは意外だった。
アイツなら教師に取り押さえられようがそのまま暴れ出してもおかしくないと思っていたのだけど。
「この後すぐに緊急職員会議を開くと言っていたわ。黒滝達バンドメンバーは自宅待機。あれだけ目撃者が居たのだから重い処分が下されるはずよ」
先生方もさすがにすぐに動いてくれたか。
まぁ、文化祭真っ最中に生徒の暴力事件なんて学校側も顔色真っ青なことだろう。
「情状酌量の余地とか言い出して軽い処分にしようものなら私が全力抗議にいくけどね。持てる全ての手札を使って必ず破滅させてみせるわ。ふ、ふふ、ふふふふ」
言えることは瑠璃川さんが味方で本当に良かった、ということだ。手札ってなんだ。あと笑みが怖い。
金輪際この人の逆鱗にふれないように僕も気を付けよう。
「花恋ちゃん。賠償金はいくらくらい請求するの?」
「賠償金なんて請求するつもりありませんよ」
「駄目よ。著作物の不正利用されたのだから取るものはとらないと」
「うーん。それでもクラスメイトからお金を取るなんて私にはできません」
「優しいね、雨宮さん。じゃあこうしたらいい。もし今後黒龍がちょっかい出してきたら賠償の件をチラつかせる。そうすればアイツも調子に乗れないはずだ」
「わかりました。雪野さんの言う通りにしますね」
しないだろうな。
この子心底優しい故にたとえあんな奴でも賠償金を請求したりなんてしない。
だからこそ今後も黒龍の動向には気を付けておかないといけない。
瑠璃川さんと視線が合う。
神妙な面持ちだ。故にわかる。瑠璃川さんも僕と同じ考えに至っていることを。
僕らは無言のまま頷きあった。
「ていうかなんなのですか! お二人の通じ合っている感! 二人そんなに仲良しでしたっけ?」
雨宮さんが頬を膨らませながら目を細めて睨んでくる。
そういえば何なのだろうこの以心伝心感。
先ほどのE組教室でもそうだったけど、瑠璃川さんとは言葉を交わさなくても考えが理解できる。
思考が似ているのかな?
「よし、瑠璃川さん意思疎通ゲームをしよう」
「望むところよ」
意思疎通ゲーム。
掲示されたお題に対し、参加者の意思を組んで解答を一致させるゲームだ。
「休日の過ごし方と言えば?」
「「小説執筆」」
「女の子の好きな髪型と言えば?」
「「ポニーテール」」
「恋愛小説で気に入らない展開と言えば?」
「「恋人のフリをする展開から本当の恋人になる」」
「アニメ:ラブリーくりむぞんの好きなキャラといえば?」
「カミア様「ミコトちゃん」」
ふむ。
「残念ながら以心伝心ではなかったようだね」
「そうね。むしろ真逆の存在と言えるわ」
「4問中3問も一致すれば立派な以心伝心です! 本当になんなんですか二人とも!」
推しキャラだけは被らなかったけど、瑠璃川さんとある程度思考が似ていることが判明した。
でもE組での以心伝心はちょっと気持ちよかったな。相棒感があった。
「それよりこれからどうする? 午後もどこか回る?」
「あっ、すみません。私ちょっとやりたいことがあるので別行動しようと思います」
「どこいくの?」
「パソコン室です。なんか今すごくインスピレーションが高鳴ってしまいまして! 執筆をしたい気分なんです!」
鼻息荒く、むふー!と音を鳴らしながら雨宮さんは意気込んでいた。
パソコン室か、時間をつぶすにはちょうどいいかも。
「雨宮さん。僕も一緒に言っていいかな? せっかくだから僕も執筆したい」
「もちろんいいですよ」
よかったお許しが出た。人によっては一人じゃないと集中できない人とかもいるからな。
「二人とも文化祭の日によくやるわね。私はちょっと疲れたから図書室にでもいって読書に励むわ」
「わかった。じゃ瑠璃川さんまた教室で」
「ええ」
「あ、あの、瑠璃川さんも今日は本当にありがとうござました」
「いいのよ花恋ちゃん。友達でしょう。いつか私がピンチの時は助けてね」
「はい!」
瑠璃川さんがピンチの時ってどんな時だろうか。そんな特殊なケースあり得るのかなぁ。
そんなことを思いつつ解散し、僕らの文化祭は執筆作業で終了することになりそうだ。
本当に色々あった日だけど、全て無事に終わって本当に良かった。
『以上で文化祭プログラムは全て終了となります。本日はご来場誠にありがとうございます』
校内放送と共に文化祭終了が告げられる。
中々集中できたな。異世ペンも2話分近く執筆を進められた。
さて、一度教室に戻らないといけないんだっけ。片づけとかあるし。
「雪野さん、戻りましょう」
「うん」
雨宮さんのE組は色々大変だろうなぁ。片づけはもちろん黒龍騒動で空気がピリピリしてそうだ。
自分たちのクラスの片づけが終わったら覗きにいこうか。でも僕も当事者だしなぁ。下手に顔を出さない方がいいのかも。
「雪野さん。後でデータを送らせてもらいますね」
「へっ? データって何の?」
「例の地の文がない会話のみの7000文字小説です。ついさっき完成したんですよ」
無邪気な笑顔を向けてくる雨宮さん。黒龍騒動の後片付けの不安さとか一切感じさせない表情だった。
それにしても7000文字小説か。すっかり忘れていた。
「必ず私の居ないところで見てくださいね。でも絶対今日中に見てください」
「完全に見るタイミング指定してきたね。わかった、帰ったら見させてもらうね」
「はい! 私の気持ちが籠っている作品です。真剣に読んでくださいね」
自信作ってことかな。それは楽しみだ。
帰ったら見させてもらう、といったけど、雫との通話が先かなぁ。今日のお礼言わなきゃ。そのあと雨宮さんの小説読んで、全部終わったら自分の作品の執筆だ。異世ペンの最新話今日あげられるかなぁ。
やることたくさんあって嬉しい。
ピコン。
聞きなれた電子音がポケットから不意になった。
「「グループチャットっ!」」
僕と雨宮さんの言葉が重なった。
一斉にスマホに目を移す。
発信者は雫だった。
水河雫が“グループ名を『弓と愉快な仲間たち』に変更しました”
「なんで僕が中心みたいになってるの!?」
「いいじゃないですか。私も含めて皆さん雪野さんを中心に集まったんですから」
「えー。僕中心人物とかの器じゃないんだけどなぁ」
どちらかというと隅っこにひっそり存在している幽霊的存在が僕らしいのに。
――雨宮花恋『雪野さんが自分は中心人物の器じゃないみたいなことほざいています』
「グループチャットの方で暴露するのやめて!?」
――カエデ『グループ名【弓とハーレム要因達】に変更してあげましょうか?』
「やめて!?」
――雨宮花恋『大賛成、と雪野さん言っています』
「言ってないよ!」
ピコン
水河雫が“グループ名を『弓とハーレム要因達』に変更しました”
「雫も無言で変更するのやめて!」
「雪野さん、チャットで言わないとお二人には伝わらないかと」
そ、そうだった。
まずはグループ名をまともなものに変更しないと。
――弓『どうやればグループ名を変更できるのかわからない!』
――水河雫『とか言いながら どうせ私たちのことハーレム要因として見ているんでしょ』
――カエデ『このハーレム王』
――雨宮花恋『このハーレム王』
――水河雫『このハーレム王』
「一瞬でグループ内での立ち位置理解したよ! これからもこんな感じでからかわれる未来しか見えないんだけど!」
「雪野さんハーレムも良いですが、最後には本命一人に絞らないと駄目ですよ。皆さんスタイル良いからとりあえず身体の関係だけでも築きたい気持ちはわかりますが」
「意味深な説教止めて!? スタイル良いのは確かだけど身体だけの関係を求めたことないからね!?」
――雨宮花恋『スタイル良いのは確かだけど身体だけの関係を求めたことはない、とのことです』
――カエデ『反応に困る解答ね』
――水河雫『スタイル良いって私も入ってるの? 私Aカップなんだけど』
「Aカップらしいです」
「どう返答しろと!? なんて返答するのが正解なの!? これ!」
「ハーレム王の模範解答を見せてください」
「その二つ名本当に勘弁して!」
と、とりあえず僕の返答待ちだよなこれ。何か返事しないと。くっそ面倒くさいグループチャットって。
――弓『雫はスレンダーな感じの美人だから大丈夫!』
「あああああああああああっ!!」
これ違う! 絶対模範解答これじゃない!
ていうか誰か突っ込んで! 急に全員チャット無反応になるのやめて!
雨宮さんもジト目でこちらを睨んできているし、僕にどうしろと。
――スレンダーAカップ『お気に召したようで光栄だよ』
――弓『僕が悪かったから! 謝るから! 雫お願いだから名前元に戻しておいて!』
知ってはいたが一つ確信したことがある。
男1:女3のグループチャットは男が孤立するということに。
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