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第25話 敵キャラの挿絵はなぜかとてつもなく格好良い
しおりを挟む「これは例え話なんだけど、クラスの陰キャぼっち少年が他クラスの中心人物に喧嘩を売ったとする」
「ふむふむ。学園ものでは王道な展開だね。開口一番『もしもし』も言わず例え話を始めるなんて砕けた会話ができる親友ぽくてグレートだよキュウちゃん」
帰宅後、僕は即座に親友に通話を繋ぎ、今日あった出来事を例え話に化して相談することにした。
「その中心人物は強面でワイルド、クラスでも一目置かれた存在だ。だけど性格は悪い。ジャイアンがそのまま高校生になったような存在だ」
「テレビ版? 劇場版?」
「テレビ版」
「あー、それはなかなか拗らせてるね。私が同じクラスだったら絶対に距離を置くタイプだね」
「ぼっち少年も自分から関わろうとは思わないタイプだったんだ。だけど、その、イケメンジャイアンはぼっちくんの琴線に触れることを言っちゃったんだ」
「イケメンジャイアンってなんか想像付きづらいなぁ。きれいなジャイアンみたいなもの?」
「あーごめん。言い方間違えたかも。見た目は花輪君くんで性格がジャイアンなんだ」
「他局! 合わさっちゃいけない組み合わせだよキュウちゃん!」
「じゃあ見た目は風間くんで性格がジャイアンなんだ」
「うん。それならよし」
「話戻すね?」
「どうぞ!」
どうしてこの子と話すと会話が漫才みたいになるのだろう。楽しすぎるんだけど。
こんな砕けた会話できるのやっぱり雫くらいだよなぁ。本当にありがたい存在だ。
って、なごんでいる場合じゃなかった。僕は真剣に悩み相談をしているのだった。
「口喧嘩の末、最終的にジャイアンは怒り狂ってぼっち少年を殴った」
「殴られたの!? キュウちゃん大丈夫なの!?」
「うん。相手は寸止めするつもりだったみたいだから大丈夫……って、例えだよ!? 創作少年の話だよ!?」
「や、キュウちゃんの話でしょ? 『これは例え話なんだけど』って切り出し方は自身の事実を語る時の常套句だもん」
「くっ、さすが雫。テンプレを把握していたか。じゃあもう正直に言うけど、今日僕初めて喧嘩っぽいことしちゃったんだ」
「わんぱくだねキュウちゃん。でも理由あるんでしょ?」
「うん。アイツ――黒龍は僕の知り合いを侮辱したんだ」
「キュウちゃんはドラゴンと戦ってたの!?」
「気分はドラゴンスレイヤーだったけど違うよ。あだ名が中二なだけの普通な陽キャジャイアンだよ」
「めちゃくちゃキャラ濃い人だね。小説のキャラみたい」
「小説キャラならどれだけ良かったか。現実で居たんだよそんなキャラが。しかも敵対存在として」
「あのキュウちゃんが喧嘩するほどなんだからよっぽど酷いこと言ったんだね。いくらイケメンでも許せない」
「雫は僕の味方してくれるの?」
「――? 当たり前でしょ?」
何を当然なことを、みたいに不思議そうに聞き返してくる雫。
「そ、そっか。親友だからかな。ありがとう」
「んー、キュウちゃん。それはちょっと違う」
「えっ?」
「上手く言えないけど、キュウちゃんだから信じられる。1年半ずっとキュウちゃんとお話してキュウちゃんのことよく知っているから『この人が意味なく喧嘩したりしない。絶対重大な理由があったんだ』って思えるの。んー、伝わったかな?」
「あ、ありがとう。十分すぎるほどに伝わった」
雫の言葉に勇気づけられた。
ひょっとしたらなんて命知らずのことをしてしまったんだなんて思ったりしていたから、自分の行動は間違っていないと自信を持つことができる。
雫に相談して良かった。
「それで? どうしてそんな経緯になったのかな?」
「あー、うん。以前雫にも渡した7000文字小説あったでしょ? アレを書くキッカケをくれた人が黒龍にひどい目にあっていたんだ」
「以前言っていた他クラスの小説好きの人だよね? ひどい目ってどんな?」
「その人が書いていた小説を教室で音読しようとしたり、以前出版した小説を破いたり」
「酷い!! ひどすぎるよ!! キュウちゃん、ちゃんと息の根を止めた後埋めてきた!?」
「そんなことできるかい!? まー、そうしてやりたいくらい怒り狂ったのは事実だけど」
文学の価値もわからない素人に天才『桜宮恋』が愚弄された。
それだけで即座に頭に血が上った。
いや、本当にそれだけか?
もしかしたらもっと違う理由もあったのかもしれないが、とにかくあの時は黒龍の愚行が許せなかった。
「あの場は一旦収まったけどさ。絶対報復があると思うんだよね。雫に相談したいのはその対策についてなんだ」
「そっか。でも先生方はその一件については知っているんでしょ? どう考えてもドラゴンさんの方が悪いんだからそれなりの処分が下るんじゃない?」
「僕もそう思う。目撃者があれだけ居たんだし、頬を殴られた後自分の頬を連射で写真撮ったから証拠も残っている。だけどさ、処分が下るまでちょっと時間がかかると思うんだ」
「その間謹慎とかにはならないのかな?」
「うーん。なってくれたらありがたいんだけど、どうだろうか? 謹慎になった場合の方がヘイトを溜めてしまう気がする。それで処分明けに『てめぇがしゃしゃりでてきたせいでこの俺様が謹慎になってしまったじゃねーか! どうしてくれるんだ! ああん!?』とか言ってきそう」
「挿絵にするのが容易そうな悪役ムーブだ」
「こんど描いて」
「あいあいさー!」
描いてくれるんだ冗談で言ったつもりだったのに。
ものすごく軽いノリで引き受けてくれたけど、この人の場合鬼クオリティの絵を仕上げてきそうで怖い。
「話を戻すけど、もし処分が下るまで謹慎にならなかった時の方が問題だよね。明日にも報復にきそう」
「そこなんだよね。今ウチってさ文化祭シーズンで準備とかでバタバタしてるんだ。先生方も忙しそうだし、職員会議開いている暇あるのかな、って正直思う」
「あらら。間の悪い。処分検討が後回しにされちゃうパターンあるね」
「だよね。普通に黒龍に見つからないように逃げ回るしかないかなぁ」
「……………」
「雫?」
「…………キュウちゃん。今、文化祭準備しているって言っていたよね? 文化祭はいつから?」
「えっと。今週の土曜だから明後日だけど」
「……………」
「どうしたの?」
雫の無言の時間が続く。
対策を考えてくれているのだと思うけど、彼女が今何を考えているのか想像がつかなかった。
「……よしっ! 決めた」
「おっ、何か思いついた!?」
「キュウちゃん、私を信じてくれる?」
「信じる」
「おぉぅ。即答だね」
「雫がさっきいってくれた言葉そのまま返すよ。1年半の付き合いなんだ。雫のことは信じられる」
「……ありがとう。素直に嬉しい。キュウちゃんと親友になれてよかった」
「それで? どんな秘策を思いついたの?」
「うん。まずキュウちゃんに用意してもらいたいものがあるんだ」
その後、すぐに通話を終えると、僕は雫に言われたものを買いあさりにいった。
彼女が具体的にどんな秘策を抱えているのかは教えてくれなかったが、僕は雫を信じて動くことにした。
その決め手になったのは雫が最後に投げた一言だった。
『――私にできることは絵を描くことだけだから。だからキュウちゃん。私の絵を信じてね』
本当にどんな作戦なのか見当がつかない。
だけど僕はいつでも『水河雫』と『水河雫のイラスト』を信じてきた。いや、信じられるものだということを『知っている』。
「信じるよ親友」
薬局からの帰り道、僕は少々顔を緩ませながら、だれもいない夜道でぽつりとつぶやいた。
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