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第23話 クラスの中心人物ガチャ
しおりを挟むクラスの中心となり得る人物には様々なタイプが存在する。
例えば瑠璃川さんみたいに品行方正、容姿端麗で自然と人を引き付けるタイプ。
他にも底抜けに明るい性格をしていたり、寡黙でも部活動などで好成績を収めているタイプだったり、バカキャラで周りが放っておかないタイプだったりと様々あるのだが……
こんなタイプも存在してしまうのも事実。
即ち『誰も逆らえない俺様タイプ』。
あのイケメンヤンキーがその典型なのだろう。
「今日は例の小説ノート無ぇの!? もし書いてきてくれたら俺様が美声を轟かしながらこの場で音読してやろうというのに。くはははは!」
なんだアイツ。
な ん だ あ い つ。
完全に雨宮さんの執筆物を馬鹿にした下品な笑い声が教室中に木霊する。
「「「…………」」」
変わらずE組の皆も目をそらして黙認である。
あのイケメンヤンキーがこのクラスでどれだけ地位が高いのかが感じ取れる沈黙だった。
「そうだ以前音読してやったつまらなすぎて途中で破いたクソ本あっただろう? 『才の国』。アレをまた持ってこいよ。まぁ、また途中で破くことになるだろうが暇つぶしにはなるだろうがな。いいな! 明日持ってこ――」
「――才の国じゃなくて『才の里』なんだが?」
イケメンヤンキーが言葉を終えるよりも先に、僕の言葉が彼の駄言を遮った。
ほとんど無意識だった。
普段の僕なら絶対にしない行動。
抑止力よりも『怒り』が上回るってこんな感覚なんだなと初めて知った。
「え……えぇっ!? 雪野さん!? ど、どうしてここに!?」
雨宮さんが驚きの表情を向けているのが感じ取れる。
だけど僕はこのイケメンヤンキー。いや、こんなやつをイケメンなんて呼ぶのは本物のイケメンに失礼だ。
イカれ男、黒滝を睨みつける行為を止められなかった。
「だれだ? チビ」
「誰でもいいでしょバカ男」
「ば……っ!」
「バカだから雨宮さんの作品の良さを分からないんじゃん」
「こいつ――!」
「ちょっとでも学があれば才の里を破るなんて愚行起こすわけがない」
ガッ!
黒滝の細い目が更に鋭くなり、瞬時に僕は胸倉を捕まれる。
だけど僕は黒滝に向ける『軽蔑』の視線を緩めたりしなかった。
逆により強く黒滝を睨みつけた。
「なんだその目はぁぁぁっ!!! 俺様を馬鹿にしやがって! これ俺様が黒龍のあだ名で知れ渡っていることを知らねえのか!」
「…………っ!!」
黒滝の叫びを聞いた途端、僕の顔は引きつった。
それを見て黒滝は微かに微笑む。
「へっ、やっと自分が誰にたてついていたのか理解したみ――」
「……ぷ、ぷぷぷ、ぷくくく……」
「何笑ってやがる!?」
「あははははははっ! こ、黒龍……っ! 自分のことを……黒龍だなんて……あはははは!」
駄目だ。シリアスなシーンだったはずなのに耐えられなかった。
いやぁ、だって無理でしょう。自分のことを、こ、黒龍、だなんて。
ハイセンスギャグすぎて笑いを耐えることができなかった。
「バカにしてんのか!!」
「馬鹿にしてるけど?」
「この野郎……っ!」
ずガッーー!
黒滝の鉄拳が僕の右頬に命中する。
一瞬、しびれるような痛みが奔ったが、思ったより痛くなかった。
僕の頬に命中した瞬間、なぜか黒滝はパンチの威力をセーブしていたようだ。
「雪野さん!!」
「きゃあああああっ!」
先ほどまで静かだったE組の教室内が一気に騒がしくなる。
雨宮さん含め、女子を中心に悲鳴が大きく木霊した。
「やべ……っ、当てちまったっ!」
なるほど。寸止めで僕を脅すつもりが勢い余ってそのまま殴ってしまったというわけか。
痛くないとはいえ、痕くらい残っているかもしれない。
だとすれば僕のすべき行動は一つ。
僕は悠長にスマホを取り出し、カメラを起動し、連射モードに切り替えた。
パシャシャシャシャシャシャシャシャ!
軽快な音を鳴らしながら僕の殴られた自分の右頬を連射で撮影する。
「ゆ、雪野さん? な、何を?」
傍に駆け寄ってくれた雨宮さんが僕の奇行について疑問を投げる。
「勿論殴られた証拠を残しているんだよ。痕でもあればこれを理由に教師に見せるだけで黒龍は破滅だからね」
それを聞いた黒滝はギョッとした表情で焦りを見せる。
まあ写真なんか残さなくても目撃者がこれだけいるのだからこいつの破滅は必須だけど。
「そ、それよりも怪我を手当しないと! ほ、保健室に!」
「あー、うん。そうだね。雨宮さん付き添ってくれる?」
「勿論です!」
怪我の手当というよりは雨宮さんをこんな空間に残したくないという気持ちが先行して付き添いをお願いした。
「お、おい、お前! 結局お前は誰なんだよ! なんなんだよ!?」
まぁ、黒滝からすればいきなり介入してきた意味不明な他クラスの男だわな。
ここで僕はちょっとだけ悪戯心が顔を出す。
「僕は3-Gの雪野虎之助。んじゃねブラックドラゴン」
自己紹介を済ませると隣にいた雨宮さんがピクっと肩を震わせた。
誰にも見えないように僕は『しぃっ』と人差し指を鼻前に当てる。
「お、覚えてやがれ、雪野虎之助えええええええええええええ!」
黒滝の悲痛な叫びに対し、僕は笑いを堪えるのに必死だった。
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