転生未遂から始まる恋色開花

にぃ

文字の大きさ
上 下
6 / 62

第6話 恋愛ダメージは致命傷

しおりを挟む
 翌日の昼休み。
 僕はいつも通り校舎を繋ぐ渡り橋の真ん中で一人購買のパンを頬張っていた。
 そういえば、雨宮さんの恋愛相談に乗ると約束は取り付けたが、具体的な時間を決めていなかった。
 ついでに言えば待ち合わせの場所も決めていなかった。
 更に言えば連絡先の交換も行っていなかった。
 えっ? もしかして3年の教室全部回って雨宮さんを探さないといけないの? 陰キャの僕が? 知らない人に「このクラスに雨宮さんって方おりますかねぇ、へっへっへっ」みたいに言って回るの? 地獄過ぎない? 不審者過ぎない?
 でも約束してしまったしなぁ。この手元のパンを食べ終えたら覚悟を決めて捜索始めるか。

「――この季節に外での食事は昼食が冷めてしまいませんか?」

「うわああああっ!」

 気が付くと雨宮花恋さんは僕の真横から食事の様子を覗きこんでいた。

「あ、雨宮さんいつの間に隣に!?」

 全く気が付かなかった。扉を開ける音すらなかったぞ。忍者かこの人は。

「気配消して近づきましたからね」

「なんで!?」

「なんか雪野さんを驚かせたくて」

「それもなんで!?」

「雪野さんなら可愛いリアクションをしてくれるかなーって思ったので。ふふ、私の想像以上に良い反応ありがとうございました」

「心臓に悪い試みはやめてください。パンがのどに詰まるかと思っちゃった」

 昨日とはまるで印象が違う行動を出してきたな。
 物腰が丁寧だからこんな子供っぽい悪戯絶対しない人だと思ってた。

「それは申し訳ありません。トマトジュースあげるので許してください」

 ストロー付きでトマトジュースを手渡される。
 ジュース系は野菜果汁が好みだったのでありがたくそれを受け取った。

「ありがとうございます。仕方ないから許してあげよう」

 上機嫌でストローを吸う僕。
 うん。上手い。やや薄味で僕好みだ。どこで売ってるんだろこれ。

「雪野さん。もっと照れてくれないと困ります。間接キスに慌てふためくリアクションを見たいのに」

「~~~~~~~~っっっつ!??」

 横から真顔でとんでも発言する雨宮さん。
 危うく吹き出しそうになる所をなんとかこらえる。

「げほげほげほっ!」

 ジュースは何とか飲み込んだがその後思いっきりむせてしまった。
 雨宮さんは優しく僕の背中を摩ってくれる。

「大丈夫ですか? 雪野さん」

「大丈夫じゃないですよ! たった数秒でどれだけ僕にダメージを与える気なんですか!?」

「ごめんなさい。苦しませるとかそういった目的ではなかったのですが、恋愛小説のネタとして定番の間接キスって実際やってみるとどんな反応をしてくれるのかつい確かめたくなってしまいまして」

「昨日言ってた恋愛を教えてくださいってこういう意味!?」

「はい。もっと恋愛っぽいことを色々試してみたいです。雪野さんのリアクション、大変参考になりました」

 とても満足そうな笑みで、悪魔のような一言を仰っていた。

「僕はもっと座学的な講座を行って恋愛小説の書き方を教わりたいのかと思っていましたよ」

「もちろんそれもぜひお願いしたいです! 弓野ゆき先生が執筆アドバイスしてくれるなら光栄です!」

 目を輝かせながら距離を詰めてくる雨宮さん。
 思わず僕は数歩下がって距離を取ってしまった。

「では雪野さんからは執筆アドバイスを、私からは恋愛っぽいことを仕掛けてリアクションを拾うことを、この2軸で今後お願いします」

「間接キスみたいな悪戯は今後もやるつもりなんですか!」

「もちろんです。あっ、でもやりすぎていたら言ってくださいね。ご迷惑になりそうでしたら自重しますので」

 初手間接キスは十分やりすぎの部類に入る気がするのだけど……
 まぁ、本人もちゃんと自重する意思はあるみたいだから大丈夫……かなぁ?

「じゃあ早速今日の放課後から雪野さんの執筆指導良いですか?」

「うん。でも昨日もちょっと言ったけどあまり期待はしないくださいね。偉そうに指導できるほど僕に力があるわけじゃないのだから」

 むしろ実績で言えば確実に桜宮恋の方が上だ。
 事小説内容に関して僕なんかが教えられることなんて本当にあるのか怪しいものだ。
 でも彼女はこう言ってくれる。

「私にとって弓野ゆき先生は原点であって頂点です。そんな人からアドバイスをもらえるなんて私幸せです」

 屈折のない笑顔。
 ああ、僕はこの笑顔の期待に裏切らない指導を行わないといけないのか。

「あのあの、雪野さん。ご連絡先を教えてもらっても良いですか?」

「あ、そうですね。僕もそれ思っていた所で」

 お互いスマホを出す。
 初めは電話番号交換にしようと思ったけど、無料通話アプリの方が正直便利なのでそちらを提案。
 雨宮さんも二つ返事でオーケーしてくれたので、昨日雫さんと通話したときに使ったアプリに新たに雨宮さんの連絡先を登録した。

「おぉ。ものすごく久しぶりに人と連絡先を交換した」

「久しぶり?」

「うん。僕はぼっちの化身ですからね。伊達にこんな偏狭でぼっち飯を喰らってないですよ」

「そっか。私は雪野さんにとって『久しぶり』の人なのですね」

「え、うん。そうですけど――」

 このアプリに誰かの連絡先が追加されたのは本当に久しぶりである。
 数年前雫さんにIDを教えてもらって登録した時以来であった。

「――雪野さんは私以外にもこのアプリで連絡先交換した人がいるのですね」

 な、なんだ?
 なんか雨宮さんの視線がやたら攻撃的なのはどうしてだ?

「私なんて……」

「えっ?」

「なんでもありません! 連絡先交換したのですから私から連絡があっても文句はいわないでくださいね!」

「えっ? は、はい。それはもちろん全然大丈夫なんですが」

「あと、放課後もよろしくお願いします! 集合場所は後で連絡します! アプリで連絡しますから!」

 声を荒げながら頬を膨らませて去っていく雨宮さん。
 なぜ急に荒ぶりだしたのか、この場で集合場所決めればよいのになぜわざわざアプリ連絡なのか。

「雨宮さんの琴線がわからない」

 小説家というのは孤高の思考を持っていると聞くがその代表例みたいな人だなぁ。
 小説界で上り詰めれば上り詰めるほど凡人には理解しがたい天才脳になってしまうということか。さすが桜宮恋だ。

    ブブッ

 不意にポケットの中のスマホが微振動する。
 たった今連絡先を交換したばかりの雨宮さんからメッセージが1件届いていた。

『やっぱり放課後迎えに行こうと思いますので教室で待っていてください。雪野さんのクラス教えてもらえますか?』

 わ、わざわざ迎えにきてくれるのか。
 嬉しいような恥ずかしいような。
 でも――

『3-Aですよ』

 でも、一度で良いから『放課後、女の子が自分を迎えに来る』というシチュエーションを味わってみたかったので正直にクラスを教える。
 まさか僕の人生にそんなシチュエーションを味わえる日がやってこようとは、しかもあんな飛び切り美人さんに。
 それに――

「なんだかこれって友達みたいじゃないか」

 初めての同年代の友達と呼べる存在。
 その事実はしばらく僕の表情をにやけ顔に変容させていたのであった。






    キーンコーンカーンコーン

 本日の最終授業を終える鐘が鳴る。
 これから雨宮さんがここにくる。
 ミスター催眠術師と称されている東山先生の国語の授業中も全く眠気に襲われることなく終えることができた。
 それだけ雨宮さんと会うのを楽しみにしている自分が居た。
 皆が帰り支度をしている中、僕は自分の席で背筋を伸ばしたまま待機する。
 クラスメイトが奇異の視線を一瞬向けるが気にせず次々と帰宅の路へ進んでいった。
 出来たらクラスメイトは早々に全員この場から退出してほしい。僕が女の子と会う現場をなんかクラスの皆には見られたくない。
 でもそうはいかないか。半数くらいのクラスメイトはすぐには帰らずその場で駄弁っている。
 彼らに『早く帰れ光線』を視線で送っていると、待ち合わせの人物は控えめに教室のドアの前に現れていた。

「…………ぁ、ぁのぉ……ゅきのさん……ぃますでしょぅか~~……」

 控えめにもほどがある!?
 ささやくような訴えにクラスメイト達は誰も気づいていない。
 蚊やハエの方がまだ大きな音を出しているぞ。
 もしかして雨宮さんって意外と恥ずかしがりなのか?
 ここは僕の方から迎えにいくべきだよな、うん。

「…………ぁ、雨宮さん……どうもぉ~……」

「声……ちいさっ」

「ぁ、雨宮さんに言われたく……ないっ」

 ドアの前に内緒話するような体制で会話する僕と雨宮さん。
 近くにいたクラスメイトの女子達が目を見開いて僕らの様子をうかがっていた。
 うっ、何か言われてる。『陰キャぼっち野郎が他クラスの超美人と話している』みたいな噂をしているに違いない。

「ぁ、雨宮さん。ひとまず場所を移そう。すぐに移動しましょう」

 言いながら僕は彼女の右手首をつかんで逃げるようにその場から駆け出していた。

「…………」

 雨宮さんは僕の顔と自分の手首を交互に見比べながら黙って僕についてきてくれた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

シチュボの台本詰め合わせ(女性用)

勇射 支夢
恋愛
書いた台本を適当に置いておきます。 フリーなので好きにお使いください。

自宅が全焼して女神様と同居する事になりました

皐月 遊
恋愛
如月陽太(きさらぎようた)は、地元を離れてごく普通に学園生活を送っていた。 そんなある日、公園で傘もささずに雨に濡れている同じ学校の生徒、柊渚咲(ひいらぎなぎさ)と出会う。 シャワーを貸そうと自宅へ行くと、なんとそこには黒煙が上がっていた。 「…貴方が住んでるアパートってあれですか?」 「…あぁ…絶賛燃えてる最中だな」 これは、そんな陽太の不幸から始まった、素直になれない2人の物語。

💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活

XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

最底辺の落ちこぼれ、実は彼がハイスペックであることを知っている元幼馴染のヤンデレ義妹が入学してきたせいで真の実力が発覚してしまう!

電脳ピエロ
恋愛
時野 玲二はとある事情から真の実力を隠しており、常に退学ギリギリの成績をとっていたことから最底辺の落ちこぼれとバカにされていた。 しかし玲二が2年生になった頃、時を同じくして義理の妹になった人気モデルの神堂 朱音が入学してきたことにより、彼の実力隠しは終わりを迎えようとしていた。 「わたしは大好きなお義兄様の真の実力を、全校生徒に知らしめたいんです♡ そして、全校生徒から羨望の眼差しを向けられているお兄様をわたしだけのものにすることに興奮するんです……あぁんっ♡ お義兄様ぁ♡」 朱音は玲二が実力隠しを始めるよりも前、幼少期からの幼馴染だった。 そして義理の兄妹として再開した現在、玲二に対して変質的な愛情を抱くヤンデレなブラコン義妹に変貌していた朱音は、あの手この手を使って彼の真の実力を発覚させようとしてくる! ――俺はもう、人に期待されるのはごめんなんだ。 そんな玲二の願いは叶うことなく、ヤンデレ義妹の暴走によって彼がハイスペックであるという噂は徐々に学校中へと広まっていく。 やがて玲二の真の実力に危機感を覚えた生徒会までもが動き始めてしまい……。 義兄の実力を全校生徒に知らしめたい、ブラコンにしてヤンデレの人気モデル VS 真の実力を絶対に隠し通したい、実は最強な最底辺の陰キャぼっち。 二人の心理戦は、やがて学校全体を巻き込むほどの大きな戦いへと発展していく。

シチュボ(女性向け)

身喰らう白蛇
恋愛
自発さえしなければ好きに使用してください。 アドリブ、改変、なんでもOKです。 他人を害することだけはお止め下さい。 使用報告は無しで商用でも練習でもなんでもOKです。 Twitterやコメント欄等にリアクションあるとむせながら喜びます✌︎︎(´ °∀︎°`)✌︎︎ゲホゴホ

処理中です...