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序章
epilogue
しおりを挟む「はい、ここがデイジーの部屋ね。好きに使って構わないから」
「……ありがとう」
「気にしないで。明日にでも、日用品の買い出しに行きましょ」
優しく微笑む金髪の少女に導かれ、デイジーはその部屋に足を踏み入れた。
現在は、デイジーが何でも屋『悪魔のお悩み相談所』に加入し、ちょっとした歓迎会が終わった後のこと。
手続きがあるからと出て行ったジオとリリーに代わり、三人が仕事やこの建物の説明をしてくれていた。
歳上組と歳下組で分かれることが多いらしく、三人はかなり仲が良かった。
あの二人とは違い、常にわちゃわちゃしていて楽しげなトリオである。
主に苦労人気質のロータスが見ていて面白かった。
そんなこんなで話が進まず、しっかり者のレアが一人で紹介するからと言い出し、今に至る。
ようやく上階を案内して貰えて、正直ほっとしていたデイジーだった。
通された部屋は、見晴らしの良い聖樹側だった。
巨大な聖樹と、自然豊かな聖都の街並みが一望出来る。
部屋自体はこぢんまりとした小さな部屋だが、居心地は最高だ。
「ふふっ、気に入った?いいでしょ、ここ。ちょうど余ってたから、住む人ができて良かったわ」
目をきらきらさせるデイジーに微笑みかけてくるレア。
デイジーはこくんと頷き、部屋の調度品を見て回る。
突然住み着くことになったにもかかわらず、家具はしっかりと揃っていて掃除も行き届いていた。
綺麗に整えられたベッド、しっかりした造りのデスク、可愛いデザインのクッションが添えられたルームチェア…
「……?」
ふと、奥の本棚で目が止まった。
空っぽの筈の棚に、何故か一冊だけ本が置かれていたのだ。
近付いて手に取ってみる。
字はコイネーらしく、デイジーでもすんなりと読めた。
「……『花言葉辞典』?」
「ん?どうしたの、デイジー」
呟きが聞こえたのか、レアが寄って来る。
デイジーが本を見せると、彼女はきょとんとした顔で言った。
「花言葉辞典……あぁ、これは名付けの時によく使うから、大抵の人が持ってる本よ。ミリシア教徒の名前が植物から取られてるって話は聞いてる?名前を決める時は、こうして花言葉の意味を確認して付けることが多いの。でも、何でここに一冊だけ置いてあるのかしら……」
そう独りごちて、レアはデイジーから本を受け取り観察を始める。
そして本を裏返した途端、瞳に納得の色が浮かんだ。
「あぁ、そういうことね」
レアが本を差し出してくる。
素直に裏表紙を見ると、そこに一枚のメモが貼り付けられていた。
『入所祝い! リリー』
悪戯っ子の笑みを浮かべてピースサインを作るリリーの顔が目に浮かんだ。
「リリーらしいわね、こういうの」
苦笑いするレア。
デイジーも頷き、ぱらぱらと捲ってみる。
…と、栞が挟まれたページを見つけた。
開いてみると、精巧にデザインされた短冊型の栞が手元へ滑り落ちる。
桃と黄色の可愛らしい花がお洒落にあしらわれたものだ。
レアはそれを羨ましそうに見て呟いた。
「あっ、これ、ロータスが作った栞!いつの間に協力してたのね」
拗ねたような顔をするレア。
彼はこんなものも作れるのか。
自分を卑下していたが、かなりの才能の持ち主だと思う。
見蕩れていると、それにも小さなメモ用紙がくっついていることに気が付いた。
先程のメモと同じ字─つまりリリーからのメッセージだが、今度は人間族のレイシアのようだ。
『あの鈍感馬鹿、大抵の花言葉覚えてるんだよ。一周回って馬鹿。才能の無駄遣い』
…物凄く毒を吐かれている。
鈍感馬鹿とは、間違いなくジオのことだろう。
けっ、とやさぐれたような顔をするリリーが脳裏に浮かんだ。
人間族のレイシアにしたのは、この悪口をジオに読まれない為だろう。
無表情のジオの前で笑顔ながらがたがた震えるリリーの姿も浮かぶ。
あの二人の漫才のような掛け合いも面白い。
くすっと笑い、そのページに目を落としてみる。
「…………!」
かぁっと、頬が赤く染まった。
思わず本を閉じてしまう。
「デイジー?」
「な、何でも……ない」
訝しげな少女に誤魔化すような声を上げ、近くの机に辞典を置いた。
そのページは、デイジーという同じ名前の花の説明が書かれたページだった。
思い出す。
デイジーと名付けて貰った時の、ジオとリリーの会話。
リリーのメモの内容。
そして、この辞典に記された花言葉。
(……鈍感馬鹿)
リリーの発言の意味が分かってしまう。
ぶんぶんと首を振り、デイジーはレアに向き直った。
「次、どこ行くの?」
「え、あ、そ、そうね……」
デイジーからの圧を感じてか、素直に案内の続きを始めてくれるレア。
デイジーは小さく溜め息をつき、火照る頬をそっと押さえた。
『雛菊』の花言葉は…
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