王と騎士の輪舞曲(ロンド)

春風アオイ

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序章 Oracle

雪解け

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スツールに腰を下ろしたシルビオとソファーで横たわったままのヴォルガは、早速会話の火蓋を切っていた。

「じゃあ、まずは改めて。俺はシルビオ。シルビオ・ジェイディアス。生まれも育ちもジェイド地区で、今はこの酒場マヨイガで店員やってるよ」

先に話し始めたのはシルビオだ。
ちらりとヴォルガへ視線を送る。
彼は少し訝しげな顔をして早速質問してきた。

「……ただの酒場の店員なのか?」
「うん、そうだよ?」

何が不思議なのかと思い首を傾げると、彼は据わった目でシルビオを睨んできた。

「無自覚なのか?お前、魔力量が尋常じゃないぞ。精霊を中に飼ってるのかと思うくらいな。魔法士でないのが勿体ない」

魔法士とは、文字通り魔法を用いて戦う兵士のことを言う。
前の自己紹介でも魔法士だと言っていたので、ヴォルガは軍人なのだろう。
通常兵士とは異なり、魔法士の能力は魔力や魔法のレパートリー、その精度や威力で決まる。
彼のように華奢な体格の男性や小柄な女性、果てには子供であっても侮ることは決して出来ない。
少なくとも一見しただけで魔力量を言い当てられる程度には手練だ。
魔力なんて、目に見えるものではない。
そう簡単に判明してはたまらないものだ。
そんなことが容易く出来る人物が何故こんなところにいるのだろう。
謎は深まるばかりだ。

「そうなんだ?確かに魔法は得意な方だけど、そんなにはっきり言われたことはなかったなぁ。ヴォルガ、すごいね」

素直に思っていたことを言ってみると、逆に不思議そうな顔をされる。

「そんな脈略なく褒められても困るんだが」
「えぇー?」

魔力を判別出来ることを賞賛することが理解不能ならしい。
かなりすごいことだと思うのだが。
やっぱり、何と言うか、常識が噛み合わない。
薄々感じていたことは恐らく当たっている。
ので、聞いてみることにした。

「……やっぱり、ヴォルガってジェイドの人じゃないよね?」

ヴォルガはぱちぱちと瞬きし、どこか気まずそうに目を逸らす。

「分かるものなのか」

正解らしい。
シルビオは苦笑いして足をぱたぱたと揺らす。

「んー、まぁねー。ジェイドって聞いてあからさまにテンション下がってたし、外から無理矢理連れて来られたんじゃないかなーって。最低でも平民区出身だろうなーってね」
「……」

ヴォルガはしばらく黙り込んでから、諦めたように息を吐いた。

「仰る通りだよ。俺は、元々ヘルヴェティアの人間だ。教会保護区の出身だったから……どちらにせよ、二度と帰ることは出来ない」
「ヘルヴェティア……?!」

思わぬ名前が出て、シルビオは思わず瞠目する。

ヘルヴェティア地区は、この大陸最西部にある山に囲まれた平民区だ。
古代の騎士王伝説に名高い土地で、平民区ではあるが教会や貴族の保護が手厚い地区でもある。
そして何より、このジェイド地区は大陸最東部。
閉鎖的で地区外に出ることは滅多にないこの国で、彼は見事に大陸を横断してきたという訳だ。

「うわぁ、大冒険だね……そりゃあジェイドにまで飛ばされたら絶望するよなぁ」
「……まぁ、な」

暗い表情になるヴォルガ。
くるりとシルビオに背を向け、くぐもった声で続ける。

「意地だけで生き残ったが……もう、どうでも良くなっていた。にさえ殺されなければ、生きようが死のうがどうでも良いと……だから、助けられると思っていなくて……正直、混乱していた。…シルビオに当たり散らしたのは、大人気なかったよ。悪かった」
「……!」

思ってもいなかった謝罪が飛んできて驚いてしまった。
本当に律儀な性格だ。
シルビオは慌てて首を振る。

「いや、勝手に触っちゃったし……謝るのはこっちだよ。気にしないで」
「……ん」

まだ気まずそうなヴォルガ。
だんだん罪悪感が湧いてきたらしい。
ぎゅ、と毛布を掴んでいる。

「……」

どこか寂しげなその姿に、心臓が締め付けられる思いがする。
お人好しだとはよく言われるが、彼にはそれ以上に入れ込んでしまっている気がする。
こんなに、どうしようもなく切ない気持ちになるのは初めてだ。
初対面の、はずなのだが。

「……ヴォルガ」
「何だ?」
「やっぱり、触れてもいい?」

堪えきれなくて、またすぐ隣まで近付いてしまう。
ヴォルガは困ったような顔を向けてくる。

「何故そんなに触れたがる?」
「いやぁ、そういう意思疎通コミュニケーションに慣れてるからさ。ここら辺がそういう文化ってのもあるけど…」

ちらりとヴォルガを見る。
彼は水属性の魔法士だと言っていた。
属性が反映されやすい髪色や瞳の色も青だし、間違いはないだろう。
そして、水属性を持つプリーストの宗派は一つだけ。
アステル教─秩序、そして純粋を主な理念としているものだ。
アステル教徒は一般論として清貧さを好む。
つまり、同性同士であっても触れ合うことに忌避感を持つ者が多いのだ。

それが分かっていない訳ではない。
けれど、たまにはこういうことも大切だと思うのだ。
ただでさえ心が弱っている今は尚更。

伝わったのだろうか。
彼はしばらくすると諦めたような溜め息をついて、シルビオにじっとりした目を向けてきた。

「……まぁ、別に、いいけど」

きちんと確認を取ったからか、前ほど嫌そうな感じはなかった。
それならばと、シルビオは早速彼に身体を寄せ。
そのまま、胸元に倒れ込むように抱き着いた。

「………………え?」

呆然としているヴォルガ。
シルビオはくすっと笑い、その鼓動に耳を傾ける。

「俺があの時ヴォルガを見つけてなかったら、多分ヴォルガはそのまま死んじゃってたと思う。だから、これは運命なんだよ。神様は、ヴォルガに生きてて欲しいんだよ」
「……」

体温が、少しだけ上がった気がした。

「生きる意味なんて、たくさんあるよ。楽しいこともいっぱい見つかるから。だから、大丈夫」

優しく髪を撫でる。
ヴォルガは気恥ずかしそうに呻いて、手で顔を覆った。

「……やっぱり、お前とは仲良くしたくない」
「あははっ、照れちゃった~?顔真っ赤だよ」
「うるさい」
「あたっ」

ぺし、と頭を叩かれる。
威力は全然無くて、その照れ隠しが可愛かった。

そんなこんなで、少しだけ距離が縮まったシルビオとヴォルガであった。
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