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時にはキャラ崩壊するものです。人間だもの

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「アキラさんの絵を元に、私なりに作ってみました
とりあえず四種類のみですが」

 丸いミール皿から始まり、三角、四角、ひし形のミール皿が私の目の前にある。
 この世界にやってきて木の精霊の加護で樹脂を出せること、レジンアクセが作れると喜ぶもミール皿がないことに絶望した私の目の前に今、ミール皿がある!

――念願のミール皿を手に入れた!

 叫べるものなら叫びたい。この喜びを!

「これなに?」

「何に使うの?」

 シオンとリオンも興味津々という顔でミール皿を手にとって眺めている。
私も一つミール皿を手にとり眺めてみた。
 深過ぎず浅過ぎずちょうど良い深さの溝。大き過ぎず小さ過ぎない絶妙なサイズ感。
チェーンや紐を通せるカンもついていて要望通りの仕上がりに再度感動した。

 昨日の今日で作り上げるなんて奴は天才か!?
企業努力踏み躙るが如くの早技じゃないの!
仕事できる男かよ!最高じゃないの!

「婆ちゃん。これ何に使うの?」

「これはね……木の精霊の加護を
世界中に広げるためのアイテムなんだよ」

 リオンの問いに私は、顔がニヤけないよう注意しながら答えた。

 木の精霊の加護を選ぶ者がいないこの世界で布教活動するにはアイテムが必要だ。
他の精霊の加護であれば、もう既に広告塔になってる人物とかいそうだから宣伝の必要性はない。
だが、木の精霊の加護だけは広告塔なし。
だからこそ身近なもの、身につけるオシャレ系から攻め込むのだ。

 幸いなことにこの世界は、前にも言ったと思うがアクセサリー系がシンプル過ぎる。
ネックレスは宝石に穴を開け紐を通したものが一般。
中には金具が付いてるものもあったが作りが雑。
指輪は小さな宝石が嵌め込まれているものと何もついていないもの。
イヤリングは耳たぶに嵌めて使うタイプ。
腕輪に関しては宝飾もなくただただ金の腕輪がズラリと並んでいただけ。

 このシンプルなアクセサリー業界に変わったアクセサリーが彗星の如く現れたらどうよ?
しかも同じデザインが二つとない一点物!
使うクローバーや花の種類は同じでも、模様の入り方は違うし色も全部同じとは限らない。配置を少し変えるだけでも同じものにはならないわけさ。

 さらにここに上昇能力バフ効果が付いてたらどうよ?
冒険者なら戦うことは日常茶飯事。常に鍛えてるようなものなんだから、効果を実感するのも早いとみた。

「素晴らしい出来だよヘイス!
ちなみにこれを量産することはできる?」

「四種類の木型を用意してあるので
これで型を取り、今後使っていく金型を用意し
砂型を取って鉄を流し込む鋳造であれば
量産することは可能です
すぐに取り掛かりますね」

 なるほど……よくわからない単語が飛び交っていたけど、つまり完成を待てということだな。
ヘイスはとても生き生きとした表情で再び工房へと戻って行った。
 水を得た魚のようだった。
買取価格はヘイスが大量生産できたら一緒に考えよう。

 机の上に置かれた丸型のミール皿も手に取り、シオンとリオンが持っていたミール皿も受け取った。
これで依頼達成の下準備は整った。

「ねえねえお婆ちゃん
それがどんなアイテムになるの?」

「今から作るの?
俺たちも見てて良い?」

 好奇心旺盛なお子様たちだ。
頼むから樹脂を指から出す光景が気持ち悪過ぎてトラウマになったとか言わないでくれよ?

「(アキラアキラ!
アクセサリー作る前にスキルを授からないと)」

「(……そうだった)」

 貰うスキル1つ目は≪一点狙いピンポイントC≫という生産系スキル。
上昇能力バフ弱体能力デバフが狙ってつけられるものだ。
 これって属性も付与できるのか女神精霊王様に聞いといた方が良いよね。

「準備ができたら呼ぶから
それまでちょっと待っててね」

 そう言い聞かせれば二人は素直に頷いた。
こう聞き分けのいい子は好きだよ。



「問題なのは2つ目のスキルなんだよね」

 1つで良いと言っていたな。あれは本音だった。
しかしスキル本を見ていたら色々あると便利だと気づいた。
なので後々恩着せがましく女神聖霊王様から魅了効果アップのお供えをー!とせがまれても納品することにした。
背に腹はかえられぬというやつだ。
 2つ目のスキルはレジンアクセの素材を作れるようにするため創造合成クリエイティブというスキルにしようかと検討中だ。
 このスキルの説明文には、作りたいものを頭の中で思い浮かべながら合成鍋に魔力を込める。指定された素材を鍋に入れることで鍋の中で合成してくれるというとんでもスキルだ。素材の雑草から緑の色粉ができるという感じだろう。欲を言えば鉄と氷属性の魔核ジュエルを入れて念願の冷蔵庫を手に入れた!――となってくれるのが最高。

「うーん……とりあえず
この2つのスキルで様子見かな」

創造合成クリエイティブのスキル貰うなら
ヘイスさんのミール皿入らなくなるんじゃない?」

「ミール皿はヘイスに依頼するから自分じゃ作らないよ」

 ここに泊めてもらってる恩があるし、リオンとシオンを養っていくための資金源が少しでもあった方が良いだろう。これはヘイスへの先行投資であって、断じて憐れみでもお情けでもない。

「私がこのスキルで作るのは
レジンアクセに使うこの世界ではまだ
手に入らないだろう素材だけだよ
近場に作り出した人がいるなら
魔力消費抑えるためにも金で買った方が早い」

 魔核ジュエル上昇能力バフ弱体能力デバフを付与するにも魔力を使う。創造合成クリエイティブスキルを使うにも魔力が必要。無尽蔵の魔力じゃない私にしてみれば、用意できるものは近場で!
魔力は付与のために鍛えるというのが一番良いわけだ。

「それに≪ディブルここ≫の労働環境的にも
商業ギルドは機能した方が良いからね」

 私が依頼を出して街の人たちが素材を集めてくる。
私はその素材でレジンアクセや魔核ジュエルを売る。
冒険者はそれを購入しダンジョンでお宝発見。
冒険者ギルドや貴族様に売買して金を得る。
街で装備品を整えるだろうから街に金が転がり込む。
街の人たちの懐潤い購入意欲も上がる。
そして最初に戻るのサイクルだ。
 正直そんな上手く回ってくれる保証はない。
だが≪ディブルここ≫の現状を見る限り明らかな格差がある。子供の成長にしても大人の体格にしても、貴族エリアの区画の方に行くほど人々の顔色は良く、離れているほど顔色は悪い。活気あるように見せても内面は苦しいと言っている。
 私は聖女でも救世主でもないから世界を救うのは無理。むしろあんな褐色皇子が治める王都なんて滅べ!な勢いで嫌いだ。

「この街くらいは幸せにできたら良いな~って思ってるんだね!」

 ニヤニヤ笑いしながらそう言ってきたフィルギャを指差し、私は「ねぇわ」と口にした。

「で?
ドリュアスちゃんはどう呼べば良いの?」

 前に来た時そのことを聞き忘れていた。痛恨のミス。このババ脳め。

「ダメ族精霊ドリュアスさっさと来いよって
暴言吐いてればきっと「誰がダメ族精霊だコラー!」ほら来たよ」

 お前ら本当に何したらそんな仲悪くなんのよ。と言いたいが喧嘩するほど仲が良い同類と解釈しこの二人のじゃれ合いを少し見守るとしようか――なんて場合じゃない。双子を待たせていることを忘れてはいかん。

「ドリュアスちゃん
フィルギャとの喧嘩はあとでするとして
スキルを付与してほしいんだけど」

「お任せをアキラさん!」

 貴方は来ちゃダメでしょ女神聖霊王……。
貴方ダメ神族の女神聖霊王様じゃないでしょう――否!
魅了のアクセに釣られてくるあたりダメ神族の女神聖霊王様です。残念!

「それで……どのスキルをお選びになったんですか?」

 こちらを見る女神聖霊王の表情はまるで、プレゼントをもらった時の純真無垢な子供のような顔だった。
早く開けたくてうずうずしてるいるが如くの食いつきっぷりだ。

「1つ目は≪一点狙いピンポイントC≫という生産系スキルにしようかなと思ってるんだけど…
このスキルって属性も狙ってつけられるのか聞いておきたくてね」

 スキル本を見せながら指定したスキルの文章を指差し聞いてみれば、女神聖霊王様は「キャー」とハイテンションな歓喜の声を上げていた。
これできっと私にもお供物がくると思っているのだろう。
 しばらく黙り込んで様子見をしていれば、女神聖霊王様はわかりやすくハッと我に返りコホンと咳き込んでいた。
 今更お淑やかな女神聖霊王様演じられても残念っていうのは承知してますよ。

「属性も狙ってつけられますよ
更に制約をつけることも可能です」

「制約?
それって例えば弱体能力デバフ効果付きの魔核ジュエル
人間は攻撃できないとかのあれ?」

 私が無難な例をあげ問い尋ねれば、女神聖霊王様はぐっと親指を立ててウィンクをしてきた。なんとも女神らしからぬ行動に、この女神聖霊王様は本当に女神聖霊王様なのかと問いたくなるほど人間味溢れている。

「普段アキラさんが上昇能力バフ弱体能力デバフをつける際は
ただ魔力を注いでるだけですよね?」

「まあ、そうね」

「このスキルを使用する時は
魔力を注ぐ前に制約をたてるのです」

「どうやって?」

 女神精霊王様はくるっと人差し指を回した。
数秒遅れて私の目の前に昔ながらの黒板が出現し、白チョークでスキル解説と書かれていた。
 フィルギャの青空教室の時も思ったけど……中々に親切だよね、妖精と精霊って。

「例えば先ほどアキラさんが言った
弱体能力デバフ効果付きの魔核ジュエルで人間は攻撃できない”
という制約を付与したい場合
“制約”と唱え“弱体能力デバフ対象外人“と発してから“攻撃力低下”と発して魔力を込めれば
魔核ジュエルには攻撃力低下の弱体能力デバフ効果がついた制約付き装備ができるわけです」

 弱体能力デバフ対象外◯◯+付与したい能力+魔力=制約付き魔核ジュエルまたはアクセサリーということか…。
言葉だけだとなんのこっちゃさっぱりだが、黒板に書かれるとわかりやすいなぁ。

「制約をつけない場合は
付与したい能力を口にしてから
魔力を込めれば良いってことだね」

「その通りです
属性付与の場合も同じで
付与したい属性を発してから
魔力を込めれば属性が付与された魔核ジュエルができます
あ、口にせずとも心の中で念じるだけでも大丈夫ですよ」

 それを聞いて安心した。
都度口にしなきゃ狙って付与できないなんて言われたら、きっと付与するの怠いとか言ってすぐに商売畳むところだった。
 あと単純に独り言?黙れ心の中で騒いでろって言いたくなってしまう。

「気をつけていただきたいのが
一点狙いピンポイントC≫のスキルを使い
魔核ジュエルやネックレスなどにつけられる効果は1つのみです
スキルを使い2つの能力をつけることはできません」

「……つまりそれって裏を返せば
スキルを使用せず付与した魔核ジュエルにスキルを付与して
2つの能力をつけることはできるってことだね」

 私がそう口にすれば女神精霊王様はまた、ぐっと親指を立ててウィンクをしてきた。

「ドリュアスがいただいた
魅了効果が付与されているネックレスに
一点狙いピンポイントC≫のスキルを使い
さらに魅了の効果を上乗せすることは可能です!」

 やばいな……組み合わせの幅広がって最高に楽しみなんですけど!
前衛職のために防御と体力アップ。中衛職のために攻撃と防御アップ。後衛職のために魔攻と防御アップとか。
防御と魔防御で守備固めるのも有りだし、攻撃と素早さで一撃必殺タイプも有り。
冒険者のタイプに合わせて色々組み合わせられるなんて最高!
魔法使いだけどあえて攻撃と防御アップで殴り魔にジョブチェンジとかも有りだよ。

「はい!アフロディーテ様!
攻撃力の上昇能力バフがついてる魔核ジュエル
属性を狙ってつけることも可能ですか!?」

「いい質問ですねアキラさん」

 どこかの先生の授業を彷彿とさせるやりとりに若干不安を覚えるが、隅の方に置いておくことにした。

「もちろん可能です!」

「っしゃあ!!」

 年甲斐もなく叫んでしまったこと。キャラじゃないガッツポーズを何度も取ったこと。
今なら杖も無しで≪ディブル≫を出て行き、魔物も拳で倒せるんじゃないかと思ってしまう。
それほど私は馬鹿みたいに浮かれているんだ。だからそんな驚いた顔してこっちを見るなフィルギャ。察してくれフィルギャ。

「ちなみにSランクを狙ってつけることは!?」

「残念ながらそれはできません!」

 そこは流石にできないかぁ…。
まあ、そこまでできちゃダメだよね。
ランクは地道にレベル上げていくとしようか。

「他に聞いておきたいことは?」

 これだけ親切な女神精霊王様なら創造合成クリエイティブのスキルについても聞いておこうかな。
説明してもらうだけならタダ!後々ミスった!ってならないように質問できることは全部する。
あ、でも双子待たせてるし夕飯の準備もしなきゃだから手短に済まそうか。
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