上 下
16 / 25

おいしい話には裏がない時もある

しおりを挟む
「ここがお婆ちゃんの部屋
家具とか自由に使ってね」

 案内された一室は四畳半の小さな部屋。
ベッドとクローゼット、テーブルと椅子があるだけのシンプルな部屋だ。
婆さん一人で生活するには申し分のない広さの部屋で感謝はしている。
感謝はしているのだが…。

「厨房はこっちだよ」

 そう…料理だ――。

「お前今日から料理番ね。否定権ないから」と言われた感じだ。
こう言ってはあれだが、私は料理ができない。
こう言ってはあれだが、私は料理ができない。
大事なことなのでもう一度言うことにする。

 私は料理ができない!

 心の中で呟いているだけで泣きたくなってくる。
たしかにガールスカウトには一度参加したことはあるが、その時作ったのは焼き魚とカレーくらいだ。
しかも市販のカレールウからしか作ったことない私に、異世界で香辛料ブレンドして作れなんて無理。
そんなのは節約倹約考えて日々家事してる専業主婦か趣味でやってる人にしかできん!
 こんなことなら異世界お料理モノの漫画や小説も読んでおくんだった…。
 いや、少しくらいは読んでいた。
読んでいたけどレシピまでは覚えてない。
リンゴ切って瓶に水と入れて天然酵母くらいしか覚えてない。
 はい積みゲー。

「ここが厨房!
大皿はここで小皿はここ!」

「レシピ本はこの棚の中にあるから
好きに使ってよ」

 我が救世主レシピ本を手に入れた!!
これさえあれば後はフィルギャに聞きながら料理はできるはずだ!
救いはあったー!!

「お婆ちゃんレシピ本抱えて泣いてるね」

「そんなに珍しいのだっけ?」



「さて…」

「やっと2人っきりになれたねアキラ!」

「ちょっとその発言やめて気持ち悪い」

「酷いよ!」

 いや、普通に引かない?
やっと2人っきりになれたねなんて、どこかのストーカーものの定番セリフだと思ってたんだけど違うのか?
それにしたって気持ちが悪くなるセリフであることはたしかだ。
 見ろこの鳥肌を!半端ないわ!

「気を取り直して依頼品作りますかね」

 取り出しますのは捨てられていた折れたスプーンの先端。
綺麗に洗って乾かしておいたのを使います。
まずレジン液を少量出し先端の表面全体をコーティングするのだが…。

「樹脂ってどうやって出すねん」

 肝心の樹脂の出し方がわからん。
どこでも出せるってドリュアスちゃん言ってたけど…どこから出せと?

「無難に指先か…?」

「ドリュアスちゃんって
そういう説明忘れるから
信仰者増えないんだよね」

 フィルギャにまで哀れまれてるよドリュアスちゃん。
貴方もう少ししっかりした精霊になりなさいな。
 まあドリュアスちゃんのことはドリュアスちゃん自身がなんとかするでしょ。
他人の世話焼きなんてしてられんわ。

「指先から…ちょっとずつ出ろー…」

 恐る恐る呟けば人差し指の先端からトロッと液体が流れ出た。
うわ、気持ち悪い!と思ったがこれはこれで役に立ちそうだ。
 例えば敵の足止めをしたい時に掌から大量の樹脂を噴射。
太陽光によってちょっとずつ硬化させられるメリットがある。
 木の加護を授かった者たちはきっとこういう使い道をしているのだろう。
あくまで想像だがな。

「にしてもこの樹脂すごいね」

「なにが?」

「太陽光をあてて硬化させようとすると
かなり時間がかかるんだよ
でもこの樹脂…1分もかからず硬化しやがった」

 ドリュアスちゃんさ…木の加護すごくね?
これなら魔物?相手でも簡単に仕留められんじゃね?
なんでこういうとこプッシュしてかないのさ。
樹脂が出せる以外のアピールポイントここよ。

「よしよし。表面はコーティングできたね」

 摘んできた花とクローバーも樹脂でコーティング。
スプーンの上に綺麗に配置してそっと樹脂を流し込んで即効硬化!
あっという間にドリュアスちゃんへの最初の捧げ物完成!

「わあ…透明だからクローバーや花がよく見えるね!」

「色粉があれば着色してもっと綺麗にできるんだけどね
まあそれは今度探してみるとしよう
んで、スプーンの折れ目のところにフィルギャがくれた
ネックレスの金具をくっ付ければ…スプーンの先端ネックレスの完成!」

 拾ったものでここまでできれば上出来だろう。
そういえばこれに上昇能力バフの付与できるかやってみよ。

「…フィルギャ!能力付いてる?」

 魔核ジュエルと違って見た目に変化がないから自分の目じゃわからないってのが問題だね。
そのうち私の目にも効果とか見えるのだろうか…。
そんなことになったら最早人間捨てた感が出て嫌だなぁ。
そもそも魔核ジュエル以外に付与できたとして人の目に見えるものなのか?

「このネックレスには
魅力が少し上がる効果がついてるね」

魔核ジュエルだとこの効果がついてるって目に見えるけどさ
魔核ジュエル以外だとわかんないね…」

「冒険者ギルドや兵士団、騎士団に所属している人たちには
ちゃんと装備の効果が見える特殊な水晶玉が支給されてるんだけどね」

「は?なにそれ羨ましいんだけど」

 効果が見える水晶すごいほしいんだけど。
お婆ちゃんだけど冒険者ギルド所属させてくれませんかね?

「でもアキラには必要ないでしょ
だって僕がいるんだから!」

「……いや、必要だろ」

 考えてもみたまえよ。
商売を始めた時に冒険者じゃないお客が冒険者にプレゼントでほしいと言って来たとしよう。
望んでいる効果のついた商品と偽って売ったとしてもそのお客にはわからない。
つまり商品偽装ができてしまうイコール詐欺商売が横行する。ダメだろ。

 お客が望む商品を提供することがうちの会社のモットー。

「……」

 異世界に来ても会社のモットーが全面に出てしまうこの恨めしさ。
異世界なんだし悪に染まったって良いのにね…真面目過ぎるだろ私。

「なんとかして水晶をパクってこれないかな…」

「冒険者ギルドを抜けたら水晶は返す決まりだから…
誰かに譲り受けるは無理だろうね」

 ちくしょう…冒険者ギルドめ。
冒険者が持ってきた素材安く買い取って高値で取引してんだろ。
偏見だって?
いやいや。絶対奴らそれくらいのことしてるって。

「……商業ギルドの方には水晶ないのかな?」

「あるところにはあるだろうけど…
冒険者ギルドと違って商業ギルドは貸し出し料金が発生するよ?」

 冒険者ギルドが無料貸し出しで商業ギルドが有料貸し出し…。

「よし。冒険者登録するか」

「びた一文払いたくないんだね…
でも本当に冒険者ギルドに登録するの?
冒険者ギルドに所属するには
指定のアイテムを取ってくるっていう
ミッションがあるうえに
ある一定の期間依頼を受けないと
ギルド証剥奪っていう厳しいルールがあるけど」

 なるほど…そこが商業ギルドとの違いなわけか。
商業ギルドは受けた依頼を途中放棄し続けるとギルド証剥奪。
信用第一をモットーに活動すればなんの問題もない。
 だが冒険者ギルドは一定期間依頼を受けないとギルド証剥奪。
命掛けで依頼受けて頑張っても剥奪は一瞬だ。

「それ聞くと商業ギルドで水晶借りた方が良いね」

「それが一番良いと思うよ
水晶が借りれるまでは僕がちゃんと見てあげるから」

 なんて心強い妖精だろうか…。
まあ、信じられない人向けに保証書をつければ問題ないだろう。

「そういえば…こういう装備品って
所有者以外に譲渡できないとかあるの?」

「ないよ」

「じゃあ詐欺紛いなことはできないね」

「え、する気なの?」

「私がする前提みたいに言うなし」



「さて…」

 ドリュアスちゃん用のレジンアクセサリーを街外れの教会にお供えしてきたよ。
ついでにスキルを与えなかったことへの恨みつらみ諸々愚痴ってきた。
それはそれで一件落着だ。

「戦いはここからだぜ…」

 そう。私は今厨房に立っている。
右側にシオン。左側にリオンを侍らせて…。
 いや、侍らせた覚えはない。
何故かいつの間にか侍られていた。

「お婆ちゃん何作るの?」

「お腹すいたー!」

 何作れると思う?
レシピ見ながらほうほう頷いてるけど…。
この家に食材という食材なくね?

「普段から何食べてたの…?」

「摘んできた葉っぱ焼いて食べてた」

「お買い物は?」

「ブッカってのが上がっちゃったから
買い物できないんだ」

 この工房そんなに売上ないのか?
いい品いっぱいなのに何故金にならない?

「ねえ…お客さんって
毎日どれくらい来てるの?」

「「……」」

 わかった。聞いて悪かった。
私が大変悪かった。反応から察するにいないのね。

「前はね、お客さんたくさんきたんだよ」

「役人が変わってからだんだん減ってきてさ…」

「お父さんの作るものは全部
なまくらだってみんな言い出すし…」

 また役人か…。
この世界の役人はどんだけ権力持ってんのよ。
まあ威張り散らして融通のきかないゴリゴリなThe役人って感じの奴らでしょうけどね。

「…あれ、ちょっと待って
食材っていう食材がないのに料理番しろって無理じゃない?
それでどうして安定した仕事が見つかるまで泊めてくれるなんて…」

「「……」」

 あ……あんの親父ー!!料理番っていうのは口実だな!
どんだけお前らお人好しなんだよ!
馬鹿だろ?馬鹿だろ!?絶対騙されて泣いてきたタイプだろ!
腹立つ!マジで腹立つ!
そういう自己犠牲型が一番腹立つんだよ!

「ちょっと待ってなさいちびっ子たち!
魚釣って来るから!」

 一宿の恩は一飯で返す!
何日もお世話になるなら食は私がなんとかしてやるわ!
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません

きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」 「正直なところ、不安を感じている」 久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー 激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。 アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。 第2幕、連載開始しました! お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。 以下、1章のあらすじです。 アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。 表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。 常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。 それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。 サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。 しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。 盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。 アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

【書籍化確定、完結】私だけが知らない

綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
書籍化確定です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ 目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2024/12/26……書籍化確定、公表 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

幼馴染みの2人は魔王と勇者〜2人に挟まれて寝た俺は2人の守護者となる〜

海月 結城
ファンタジー
ストーカーが幼馴染みをナイフで殺そうとした所を庇って死んだ俺は、気が付くと異世界に転生していた。だが、目の前に見えるのは生い茂った木々、そして、赤ん坊の鳴き声が3つ。 そんな俺たちが捨てられていたのが孤児院だった。子供は俺たち3人だけ。そんな俺たちが5歳になった時、2人の片目の中に変な紋章が浮かび上がった。1人は悪の化身魔王。もう1人はそれを打ち倒す勇者だった。だけど、2人はそんなことに興味ない。 しかし、世界は2人のことを放って置かない。勇者と魔王が復活した。まだ生まれたばかりと言う事でそれぞれの組織の思惑で2人を手駒にしようと2人に襲いかかる。 けれども俺は知っている。2人の力は強力だ。一度2人が喧嘩した事があったのだが、約半径3kmのクレーターが幾つも出来た事を。俺は、2人が戦わない様に2人を守護するのだ。

処理中です...