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人は見た目に騙される

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「なに…しやがっ…うぅっ」

 悶え苦しみながら恨めしそうな目でこちらを見る青年。
手は急所に添えられたままであり、フィルギャ曰く全身麻痺の弱体能力デバフ効果が付与されてしまったらしい。
 私の生み出した紫魔核パープルジュエルのランダム効果は弱体能力デバフの付与なのだが…おかしな点がある。
 そもそもデバフは攻撃力や防御力を下げるなどの行為を示すものだ。
毒を付与したり麻痺や混乱、睡眠なんかの効果は状態異常のカテゴリーだ。
 それなのに弱体能力デバフと一括りにされてしまうのは何故なのか…。
ランダム効果だから弱体能力デバフも状態異常も一緒にしちゃえだったのだろうか…。

 そして今この状況でそんなことを考えて青年を放置してる私は混乱状態だ。

「……」

 とりあえず色々脳内会議を行った結果…。

「クローバーたくさん生えてて良かったー」

 すべてなかったことにした。
夢だったことにした。
幻だったで済ませることにした。
つまり現実逃避。

「(アキラ。とりあえず役人を呼んだ方がいいよ
こいつ人攫ひとさらいかもしれないから)」

「え、おたく人攫ひとさらいなの?」

 そう尋ねてみれば青年は悶え苦しみ中で返事してくれない。
少し離れた場所に立ってた少年二人。
よく見ると双子かしら?って感じの二人に手招きをするも怯えられてる…。

「ああ、ごめんごめん
そのままで良いから教えて
この子人攫ひとさらい?」

 青年を指差しながら聞いてみれば二人の少年たちは互いに顔を見合わせた。
あれ?人攫ひとさらいじゃないの?

「えっと…」

 口を開いたのは弱々しい感じの少年。
片割れの少年の服裾を掴んでモジモジしてる。
普通の女子だったら“可愛い!”とか思うのだろうけど…。

“はよ言えや”

 私の性格的に焦らしとか無理。
ハキハキ喋らんかいと言いたくなる。
でも相手は子供なので我慢。
ただでさえ警戒されてるから尚のこと我慢。

「その兄ちゃん!
オレたちのこと孤児だって言ったんだ!」

 モジモジしていた少年とは逆にこちらの少年はスパッと発言してくれた。
双子ってなんで強気と弱気に分かれるんだろうか?
例外で強気と強気もいるけど。
大体が何故か強気と弱気よな。

「最初から説明してくれる?」

 そう尋ねれば強気な少年は頷いた。

「オレたち、街から少し離れた場所にある
ポムニット鍛冶屋の息子
母ちゃんが亡くなって父ちゃんひとりで
オレとシオンを育ててくれてるんだ」

 話をまとめるとだ。
役人が変わり税が上がったこと。
商業ギルドでの仕事が受けられなくなったことで、食べるものに苦労し始めたポムニット家。
父親が仕事をしている間にこの双子の兄弟。
弱気な兄・エリュシオンと強気な弟・シュベリオンがここらに群生してる食用植物なんかの採取をしてなんとか日々食い繋いでいるらしい。
 今日も日課のように食用植物を採取しに来たら、ここでまだ蹲ってる青年に孤児だと間違われ、孤児院に送られそうになっていたのだということだった。

「青年よ。ちゃんと事実確認してからやらないと
人攫ひとさらいに間違われても仕方がないよ?」

 クローバーを摘みながらまだ蹲ってる青年に声を掛ければ、痛みは和らいだのか睨みつけてきた。

「こんなところに小汚いガキがいたら
誰だって孤児だって疑うだろ!」

 うん。まあ一理ある。
少年たちの姿はお世辞にも綺麗とは言えない。
服は所々破けてるし、髪にはフケも付いている。
子供がこんな状態ならたしかに孤児を疑ってしまうだろう。

「だがな青年よ
人を見た目で判断すると痛い目に遭うから
金輪際慎重に行動しなさいな
あと顎を殴るつもりが急所殴ってごめんね」

「ついでみたいに言うなババア!」

 カチンと来たので杖を青年の方に投げてやった。
それはもう投げやりのように。
運良く杖の先端は急所すぐ近くの地面に突き刺さってた。
惜しいな。なんて顔をしてたら青年と双子の少年、そしてフィルギャまで顔を真っ青にさせていた。

「人を見た目で判断するんじゃねぇぞ若造
そりゃついでに謝ったのは悪いと思うけど
こちとら探し求めてたクローバーを
踏み荒らされたくなかったのよ」

「だ、だからって急所はねぇだろ!」

「だから私は顎を狙ったんだよ!
狙ったつもりが何故か逸れて急所だったんだよ!」

「命中率ねぇならやるなよ!
これで使い物にならなくなったら
どうしてくれんだよ!」

「え、使う相手いるの?」

「ぶっ飛ばすぞ!!」

 うんうん。威勢がいいね。
これだけ喋れるようになってきたなら、そろそろ麻痺の効果が切れるはず。

「少年たち。クローバー摘むの
ちょっと手伝ってくれない?
手伝ってくれたら良いものあげるよ」

「「良いもの?」」

 あ。でも魔核ジュエルって良いものに入るのかな?

「(ねえフィルギャ
上昇能力バフの付いた魔核ジュエルって良いものに入るの?)」

「(そりゃ入るよ!
上昇能力バフの付いた魔核ジュエルはランクがあってね)」

 Sランクは1つ装備で十分過ぎる威力があり、Aランクは2つ装備で十分になる。
Bランクは3つ装備でやっと威力が出るらしく、CランクはBランク装備が買えない冒険者向け。
DランクはD級冒険者の殆どがこれを装備していて、Eランクは村人なら大喜びする代物。
そしてFランクは慰め程度。つまりお守りみたいなレベル。

「(アキラが今持ってる
上昇能力バフ付き魔核ジュエルはFランクだけど
成長期の子供にとっては良い代物だよ
エリュシオンくんは魔法の才があるね
シュベリオンくんは万能系だね)」

 であれば仕方がない。

「そう。強くなれるお守りをあげるよ」

「強くなれるのか!?」

「だ、ダメだよリオン!
知らない人からモノをもらうなって
お父さん言ってた」

 ちゃんと言いつけを守って偉いぞ少年。
しかし急がねばならんのよね。

「じゃあこれはお婆ちゃんからのお仕事依頼で
良いものは報酬ってことならどうかな?」

「お仕事…」

「依頼内容はクローバー摘みを手伝って
報酬は上昇能力バフ効果の付いた魔核ジュエル!」

「「「!!」」」

 何故か3人揃って驚いた表情させてる。
そんなに上昇能力バフの付いた魔核ジュエルって良いものなのか?
 フィルギャがたしか能力を付与できる人は少ないって言ってたけど。
ここまで驚かれるのって逆にこっちが驚きだわ。

「やる!やるよその依頼!」

「僕もやる!」

「ちょ、俺も受けるその依頼!」

 いや、青年お前が動けるようになる前にクローバー摘んで少年たち連れて逃げるための依頼なんだよねこれ。

「じゃあ少年たちよ
クローバー摘み手伝ってね」

「「うん!」」

「ちょ!婆さん!俺も受けるって!」

人攫ひとさらいのようなことしようとした人に
頼むような依頼はありません」

 依頼は信用第一だ。
信用のない会社に受注や生産を任せたりはしない。
信用を落とした人に仕事の全てを任せるようなことはしない。
それくらい社会は信用第一だ。

人攫ひとさらいじゃなくて
保護しようとしただけだっての!
俺はこの≪ディブル≫の門番!
メルクリウス・バァム!」

 異世界の名前って本当に長いよね。
覚えるこっちの身になって下さいハート。
ってつけときゃ可愛くなるって誰かが言ってたけど。
実際口に出したら痛い子だな。

「お婆ちゃん
このクローバーも採る?」

「そ、それは四つ葉のクローバー!」

 元いた世界で滅多にお目にかかれなかった四つ葉のクローバー!
四つ葉のクローバーは幸運をもたらすと言われてる代物。
なんでそんな考え方が広まったのかはわかんないけど…。
発生率がかなり低いことから見つけられるだけでも幸運だからとか言う人たちもいたな。
 起源やらはこの際どうでも良いか!
四つ葉のクローバーをレジンに閉じ込めるのわくわくだわ!

「四つ葉のクローバー最高!
また見つけたら採っておいて!」

「わかった!」

「婆ちゃん。花も摘むのか?」

「こういう小さい花なら
少しだけ摘んでほしいな」

「わかった!」

「俺が悪かったって!!
孤児と間違えてすみませんでした!」

 急所への痛みは引いたのだろうが、まだ全身の痺れが残っているのだろう。
起き上がる動作がかなりぎこちない。
産まれたての子鹿のようにプルプルしてる。

「謝ってるけどどうするよ少年たち」

 被害に遭ったのは私ではなく少年たちだからね。
許すも許さないも、決めるのはこの少年たちだ。
ちなみに私が急所を攻撃してしまったことはきっと許されないから逃げるぜ!

「俺は許さない!」

「僕は…謝ってもらったから…いい、かな」

「はあ!?
シオンは甘いんだよ!
俺らこの婆ちゃんが来てくれなかったら
孤児院に連れてかれて死んでたかもしんねーんだぞ!」

「!」

 孤児院に連れてかれて死ぬ?
この世界の孤児院ってそんなヤバいとこなの!?

「え、ちょいとメル…メル…
メルヘン・チック」

「メルクリウス・バァムだって…」

 あ、うん。ごめん。

「この辺りの孤児院って
そんな危ないとこなの?」

 やっとの思いで上体を起こすことに成功した名前の長い青年は、こちらを見て口を開いた。

「少し前から風の噂で広まってきたんだけど
ユースレス全土にある孤児院から
子供たちが失踪したって話があってさ」

 青年の話は少々長いものだった。
奴隷商の仕業か魔族の仕業かわかんないけど、孤児院にいた子供たちが一斉に失踪したらしい。
 奴隷になってるか魔族に食べられて死んでるかはわからない。
そんな事件を受け、自警団や聖騎士団たちが孤児たちを失踪させないために、指定保護区に指定された街に連れて行く慈善活動が始まったらしい。
 その指定保護区では十分な教育を受けさせてもらえ、独り立ちできるまで手厚いサポートをしてくれるそうだ。
 孤児となってしまった子たちにとっては未来への希望となる取り組みだと感心する。
 そこまで子供のことを考える大人がいるとは純粋にすごいな。
私は無理だな。赤の他人のためにそこまで慈善家になれんよ。

「だから変なのに連れてかれる前に
俺が保護して、今日指定保護区に出発する
荷馬車に乗せようとしてただけなんだよ」

「じゃあ…孤児院に連れてく気はなかったってこと?」

「僕らの…勘違い?」

「まあ、人攫ひとさらいっぽい行動を取っちゃったけど
少年たちのためを思っての突っ走った行動ってことね」

「(良い人だったんだね、この人)」

 お互い誤解してたってことね。
説明を省くと面倒なことになるという良い例だ。

「さて…逃げるか」

「待て婆さん」

 あきらさんは逃走に失敗した。
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