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第1章

第9話

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 「くくくくくっ、いや失礼。少し思い出し笑いをしてしまいました。」

 バベル魔法学園の入学式のあった日の夜。リディアは屋敷に戻り、夕食を食べていた。

 「何よ、どうせ今日のやらかしの事でしょ?元はと言えばアンタが悪いんでしょ?」

 「いえいえ、まさか渡した魔力を全部使いきるとは思わなかったもので。ふふっ、しかし傑作でしたね、リディアお嬢様の泣き顔は。」

 「あんたねぇ! 他人から魔力を渡されるなんて経験初めてなのよっ! あんな事になるなんて思わないじゃない!!」

 「まぁまぁ、後始末は私がやったんですからそう怒らないで下さい。」

 破壊された防御壁、的、床、修復魔法陣はメッフィが時間遡行魔法で元に戻していた。
 さらに、リディアの本国という事になっているアストラディアならこれぐらいあまり珍しく無い等と言って驚く担任を言いくるめていた。


 「それに、壁の向こうが海だったから良かったけど、壁の先が街中だったらどうするのよ!」

 「もちろん、その場合は私が障壁を張って被害が出ない様にいたします。それに、あの時だって周りの生徒達に被害が出ないように障壁で守っていたんですよ。」

 「えっ? そうなの?」

 「まぁ魔法ですからある程度は指向性のある熱エネルギーですが、あそこまで高熱だと触れなくても周囲に被害が及びますからね。良かったですね、私のおかげで大量殺戮者に成らずに済んで。」

 「まったく、アンタの せい の間違いでしょ。」


 「しかし、伝説の破壊神の復活だとか、撃滅の天使、破滅の女神だとか色々な二つ名が付いてしまいましたね。」

 「やめてよ、忘れてたのに……」


 リディアが壁を破壊してから誰が付けたか、恥ずかしい二つ名は瞬く間に学園に広がっていった。


 「さて、絶壁の女神様、明日はどんな面白い事があるでしょうねぇ」


 軽口を叩くメッフィにツッコむ気にもなれず、リディアは頭を抱えて小さく呟く。


 「マジでコイツ*****」






~~~~~~~~~~



 次の日、リディアが学園にいくとリディアの机にセットの椅子が見当たらなかった。

 「あれ? 椅子が無いわ? どこいったのかしら?」

 「なるほど。」

 辺りをキョロキョロと椅子を探すリディア。
 メッフィが教室の出入り口付近を見ると、何人かの女生徒がリディアを見ながらニヤニヤと笑っている。


 「リディアお嬢様。少々お待ちを。」

 そう言ってメッフィは教室の窓から外に飛び出していく。

 直ぐに戻って来ると、どこから調達してきたのか、太い木の幹の一部を抱えていた。


 「前の椅子はリディアお嬢様には相応しくありませんでしたので捨てました。リディアお嬢様には私が直接最高の椅子をご用意したいと思います。」

 メッフィは抱えてきた太い木の幹をものすごい勢いで削り始めた。だんだんとそれは一脚の椅子の形をとり始める。


 「リディアお嬢様、お待たせ致しました。リディアお嬢様専用の椅子でございます。」


 完成したそれはとても立派な椅子であり、座り心地もとてもいいように計算して作ってあった。


 「ありがとうメッフィ。あら?この椅子とても座り心地がいいわ。」

 リディアが座り心地を確かめていると、出入り口付近に居た女生徒達はいつのまにか居なくなっていた。


 「リディアお嬢様。わざわざ目立った甲斐があって、どうやらエサに食い付いて来た様ですね。」


 その日から、リディアは様々な嫌がらせをうけ始める。

 他国の侯爵令嬢、さらに規格外の魔力を持っているリディアに正面から挑むのは流石に分が悪いと思ったのか陰湿なイタズラだ。


 ある日、教科書が焼却炉で燃やされる事件が起きる。

 メッフィが焼却炉の灰から時間遡行魔法で巻き戻して直す。

 またある時は、校庭を歩いていると遠くからとても硬いボールがリディアを目掛け飛んできた。

 メッフィの物理反射魔方陣により、投げてきた人物と女生徒に硬いボールは戻ってぶつかっていく。

  タチの悪いイタズラはメッフィによって悉く潰されてしまう。実際リディアが気づかぬうちにメッフィに対処されていたものもいくつかあった。


 「ふふっメッフィ、そろそろあの桃色頭が出て来る頃かしらね?」


 

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