洛楽倶楽部!〜京都のボッチ大学生が学生生活を彩るために京都を堪能するサークルを作ってみます〜

岳南洛

文字の大きさ
上 下
3 / 4

第3話 サークル結成!?

しおりを挟む
 満開の桜が京を彩る時期はもうすでに終了し、新緑は盛れども初夏と呼ぶにはまだ早い4月の下旬。穏やかな暖かさが生けるものの活動を活発にさせ、冬の忘れ物がそんなものたちの少し火照った体をひんやりと抱擁する。1年のうちで最も過ごしやすい部類に入るこの気持ちの良い爽やかな日に、トオルは陰湿なストーカー行為を受けていた。

「だあ、もう!いつまでついてくるんだよ!」

 忙しない昼休みの大学構内で、トオルは煩わしそうに声を荒げる。

「そんな邪険にしなくても良いではありませんかトオル殿!あたくしたちは己の体の一部を接触し合った仲だというのに」

「意味ありげな言い方しないでくれるかな!?握手しただけだから!」

 トオルが昨日、ふらっと立ち寄った龍安寺で出会ったこの長髪眼鏡の男、山城ススムは、今日の1限から空きコマに至るまでトオルのそばに張り付いて離れなかった。トオルは最初こそススムと話すよう努めたが、それもすぐにやめた。

「とにかく、少しは自由にさせてくれ」

「もう、何をそんなに嫌がっているのですか。仲の良いもの同士が一日中一緒にいることなど、別に普通のことではありませぬか」

「ああ、それは普通だとも。けど、トイレの個室にまで一緒に入ってきたり、自分がとってもない講義にまでついてきたりするのはさすがにおかしいだろ!しかも喋るでもなく、真剣に講義聞いてるのがさらに怖い」

 トオルは、今日1日のススムのおかしなところをつらつらと吐き出しながら、学食のカウンター席に座る。すると、ススムも当然とばかりにトオルの横に座った。

「……山城くん、なんで横に座った」

「あたくしのことはヤマさんとでもお呼びください」

「じゃあヤマさん。俺は自由にさせてくれと言ったはずだが?」

「いやいやトオル殿!これはたまたま席が隣になってしまっただけであります」

 トオルは、カウンター席の仕切りの上から顔を覗かせ、辺りを見渡す。見たところここ以外の席は埋まってしまっているようだ。

「はあ……じゃあまあそれはいいよ。でも、ずっと付き纏うのはやめてくれ。流石にまだそこまでの仲ではないだろ。仲良くしたいとは思っているけど」

 トオルはオブラートに包まず正直に思っていることを伝えた。こういうことははっきり言ってしまった方が、その後の関係を築いていくためにもいいはずだ。仲良くしたいというのは本心なのだから。

「それはそうとしてトオル殿」

「聞いちゃいないな」

「あたくしこんなものを作ってきたのです」

 ススムはリュックの中から一枚の紙を取り出した。

「何これ?チラシ?」

「まあそのようなものでございます」

 トオルは紙に軽く目を落とす。色はなく、殴り書かれたような汚い文字と絵が描かれていた。

「なんだこれ、なんかの建物の絵かな?んーと、サークルメンバー……募集?ん?マジでなにこれ」

「あたくし山城ススム。この度サークルを立ち上げることにいたしました!」

 ススムは拳を体の前で握り、勢いよく席を立つ。

「サ、サークルだと!めっちゃいいじゃんヤマさん!」

 トオルは興奮したように顔を輝かせる。1回生のときに入らなかったことを後悔し、2回生になった今では半ば諦めていたが、トオルはサークルというものに大変興味があったのだ。

「ふふふ、そうでしょう。もちろん、トオル殿はもうサークルの一員でございますよ」

「お、おお……!それはちょっと嬉しいな。ちなみにどんなサークルなの?」

 トオルは好奇心を抑えられない様子でススムに尋ねる。

「ズバリ、京都を観光して満喫するサークルにございます!サークル名は『京都を満喫しようの会』であります!」

 ススムはカウンターテーブルに置いてある先ほどの紙を力強く指差した。指の先には崩れた文字で「京都を満喫しようの会」と書かれていた。

 トオルは眉を八の字にする。

「……なにその謎のサークル。俺やっぱいいや」

「な、なにを申されますかトオル殿!」

「いやそれさ、別にサークルである必要ないじゃん。サークル入らなくても京都なんて観光できるし」

 そう言うと、トオルは冷めたようにスマホをいじり始めた。

「し、しかし!複数人で行くことによって、更に充実した京都観光ができるというものではないですか!」

「それはそうかもだけど、それだったら個人的に誰か誘って行くよ」

「友達がいないのにですか?」

「うぐっ」

 トオルはまるでみぞおちを殴られたかのように疼くまる。

 ススムは疼くまるトオルに近寄り、小さな声で続ける。

「それにトオル殿、サークルにいれば、いつか入ってくるであろう新メンバーと新たな人脈・友情が生まれるやもしれませんぞ」

「そ、それは……」

「さらにさらに、あたくしの膨大な京都の知識を吸収すれば、京都デートをした際に女性を満足させることも可能になります。そうすれば、念願の彼女も……」

「入ろう。俺もこのサークルの一員だ」

 トオルは意外にもゴツゴツとしたススムの手を握る。龍安寺でした純な握手とは違う、少しよこしまな握手だ。

「そう言ってくれると信じていましたぞトオル殿。では!善は急げです!早速このチラシを構内に貼りに行きましょうぞ!」

 ススムはリュックの口を大きく開け、トオルに見せる。そこには先ほどの簡素なチラシが大量に入っていた。

「え、今から!?ちょっと待ってよ、飯も食べてないのに。てか、その汚いチラシ作り直そうよ!あとサークル名もダサいから変えない?」

「汚いとはなんですか!それにサークル名も昨日徹夜して考えたのです!変えるつもりはありませぬ!ほらトオル殿、立った立った!」

 ススムに腕を引っ張られたトオルは、困惑しながらも学食を勢いよく飛び出した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

会社の上司の妻との禁断の関係に溺れた男の物語

六角
恋愛
日本の大都市で働くサラリーマンが、偶然出会った上司の妻に一目惚れしてしまう。彼女に強く引き寄せられるように、彼女との禁断の関係に溺れていく。しかし、会社に知られてしまい、別れを余儀なくされる。彼女との別れに苦しみ、彼女を忘れることができずにいる。彼女との関係は、運命的なものであり、彼女との愛は一生忘れることができない。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【Vtuberさん向け】1人用フリー台本置き場《ネタ系/5分以内》

小熊井つん
大衆娯楽
Vtuberさん向けフリー台本置き場です ◆使用報告等不要ですのでどなたでもご自由にどうぞ ◆コメントで利用報告していただけた場合は聞きに行きます! ◆クレジット表記は任意です ※クレジット表記しない場合はフリー台本であることを明記してください 【ご利用にあたっての注意事項】  ⭕️OK ・収益化済みのチャンネルまたは配信での使用 ※ファンボックスや有料会員限定配信等『金銭の支払いをしないと視聴できないコンテンツ』での使用は不可 ✖️禁止事項 ・二次配布 ・自作発言 ・大幅なセリフ改変 ・こちらの台本を使用したボイスデータの販売

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

教え子に手を出した塾講師の話

神谷 愛
恋愛
バイトしている塾に通い始めた女生徒の担任になった私は授業をし、その中で一線を越えてしまう話

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

百合系サキュバスにモテてしまっていると言う話

釧路太郎
キャラ文芸
名門零楼館高校はもともと女子高であったのだが、様々な要因で共学になって数年が経つ。 文武両道を掲げる零楼館高校はスポーツ分野だけではなく進学実績も全国レベルで見ても上位に食い込んでいるのであった。 そんな零楼館高校の歴史において今まで誰一人として選ばれたことのない“特別指名推薦”に選ばれたのが工藤珠希なのである。 工藤珠希は身長こそ平均を超えていたが、運動や学力はいたって平均クラスであり性格の良さはあるものの特筆すべき才能も無いように見られていた。 むしろ、彼女の幼馴染である工藤太郎は様々な部活の助っ人として活躍し、中学生でありながら様々な競技のプロ団体からスカウトが来るほどであった。更に、学力面においても優秀であり国内のみならず海外への進学も不可能ではないと言われるほどであった。 “特別指名推薦”の話が学校に来た時は誰もが相手を間違えているのではないかと疑ったほどであったが、零楼館高校関係者は工藤珠希で間違いないという。 工藤珠希と工藤太郎は血縁関係はなく、複雑な家庭環境であった工藤太郎が幼いころに両親を亡くしたこともあって彼は工藤家の養子として迎えられていた。 兄妹同然に育った二人ではあったが、お互いが相手の事を守ろうとする良き関係であり、恋人ではないがそれ以上に信頼しあっている。二人の関係性は苗字が同じという事もあって夫婦と揶揄されることも多々あったのだ。 工藤太郎は県外にあるスポーツ名門校からの推薦も来ていてほぼ内定していたのだが、工藤珠希が零楼館高校に入学することを決めたことを受けて彼も零楼館高校を受験することとなった。 スポーツ分野でも名をはせている零楼館高校に工藤太郎が入学すること自体は何の違和感もないのだが、本来入学する予定であった高校関係者は落胆の声をあげていたのだ。だが、彼の出自も相まって彼の意志を否定する者は誰もいなかったのである。 二人が入学する零楼館高校には外に出ていない秘密があるのだ。 零楼館高校に通う生徒のみならず、教員職員運営者の多くがサキュバスでありそのサキュバスも一般的に知られているサキュバスと違い女性を対象とした変異種なのである。 かつては“秘密の花園”と呼ばれた零楼館女子高等学校もそういった意味を持っていたのだった。 ちなみに、工藤珠希は工藤太郎の事を好きなのだが、それは誰にも言えない秘密なのである。 この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルアッププラス」「ノベルバ」「ノベルピア」にも掲載しております。

処理中です...