GARAGE

かんみあん

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おはようからの一日

ガレージの一日

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個人ガレージの朝は早い。平日毎朝9時から開業するお役所に合わせて仕事をしなければならないからだ・・・
シトシトと外から囁きかけてくる雨音にまどろみから頭を引っ張り出し体を起こす。
寝癖の付いた髪をボリボリかきながらケトルの電源を入れ、洗面台に向かい冴えない顔と対面する。32年付き合ってきたさえない顔は当然昨日見たそのままだ。
顔を洗い髭をそり、顎を横に走る肉の盛り上がりを手に感じる。何年前か忘れたがしょうもない理由でついたもので冴えない顔に悪い方向に彩りを添えてくれている。

朝飯の前に我が職場たるガレージに向かう。手狭なガレージには昨日一通りの整備を済ませたライドフレーム。単純にRideingFrameと綴り一般にはRFと略して呼ばれる事が多い2mから3mくらいの乗物。
が、機械や工具が放つ独特の匂いの中にパレットにフックで固定され足を畳み行儀良く座っている。

時間はまだ朝5時台、3月も中盤とはいえ寒く自身の体の各所から苦情が寄せられるのは間違いない。ガレージの隅に設置した廃油ストーブに向かい。上蓋を開いて燃料を確認。足りそうにない。廃油を詰めた缶からハンドポンプで適量を注ぎ、新聞紙を種火に放り込み着火を確認。換気装置のスイッチを入れサーキュレーターも回しておく。
これで朝飯と家事一式を片付ける頃合いには2度寝も難しくない環境になっているだろう。

台所に向かいながらフツフツを湯気をはなつケトルを手にとる。インスタントコーヒーを入れズズッすすると驚いた食道が脳にクレームを入れ完全に目が覚めたような気になる。
カップを片手に冷蔵庫から適当な食材。卵、ベーコン、レタス、トマト、バターに厚め食パンを調理台の上に並べる。フライパンに熱を通しながらバターを転がしつつ、食パン2枚をトースターに放り込む。バターがチリチリ小言を言い始めたのでベーコンを炒め目玉を落として、黒胡椒を多めにふる。調理は乱雑だが昭和から活躍するプロパンの大型ガスコンロの火力は、引き際さえ間違えなければ素材を喉を通しても問題ない物体のまま食料に変えてくれる。野菜を包丁で適当に切り分けたところでトースターから音と匂いでお呼びがかかる。いいタイミングだ。焼きあがった分厚いトースト2枚にたっぷりとしたバターを塗り野菜とベーコンエッグを挟んで齧り付きケトル中身を全てコーヒーに変え胃の中で混ぜ合わせる。

こうして体の中の家事を司るエンジンが回りだし、皿洗い、歯磨き、風呂トイレに部屋掃除、洗濯、と今日は雨だしそのまま乾燥だわな。
朝の点検のごとく繰り返される日々の生活がクランクを回し仕事用のエンジンが頭の中で回り出す。10代のころはセルモーターで一撃点火だったような気もするが、どちらが良いかはもっと年を取ればわかるだろう。

一通りが片付くとガレージに向かう。6時半。廃油ストーブはその一部をオレンジ色に鈍く光らせながらその職を全うしている。

うちは「ガレージ」その名の通り、お客の乗り物をを預かり整備して手元に戻して料金を頂戴する。ちょっと変わったところはお客の乗り物のほとんどがRFで、今の世の中で言われるところの「車検代行業」と呼ばれる仕事を主な稼ぎとしている。時々、中古のRFを取り扱ったりもする。ちなみに普通の車の車検も問題なしだ。

私の名前は一番合戦大介(いちばんがっせんだいすけ)、2度目になるが32歳、独身男。名前が長くて面倒なのでここの当たりでは「カッセン」で通っている。ここに居を構え何年か経つが、自分でも面倒で「どうも、ガレージのカッセンですが」と碌に他人にフルネームを名乗った記憶がついと無い。よって書類仕事関連の知り合いじゃないと覚えてないんじゃないかしらん?と冗談のような事を考えるが、今更周囲の人々に「よう!俺の名前を言ってみろ?」なんてマネはしたくない。できない。

今ガレージに入っているRFは2機。うち1機は午前中に車検を通してしまい、オーナーから駄賃を頂ければ片が付く。2機目はうちの常連の一人でキシカワってやつのだ。次の競技に向けて今日夜に機体の微調整とFCSの設定をちょっといじりたいと連絡があり、この機体も今は行儀よく座って主人を待っている。

とりあえずは車検を受ける1機目の最終点検だ。各種オイル類は正常値か?排ガスや音は規制値内?サスのブーツは敗れてないか?
といった普通車でもおなじみの点検から
コップピットブロックを構成するバスタブと呼ばれるバイタルパートの状態チェック、四肢が正常に動作し適当な強度を維持しているかなど、RFならではも検査項目がちょいちょい並ぶ。
確認後、8時半。ガレージのフックで機体をパレットごとつり上げ、軽トラックの荷台にしっかりと固定。シャッターの隙間からは雨に濡れたアスファルトの匂い、天井からは囁くように降り落ちる雨音。雨量は大したことはなさそうだが防水シートもしっかりかけておく。後は、私が持行くべき車検証などの書類忘れがなければ
無事に書類一式と共にオーナーにこの機体を渡せるはずだ。
そうなれば何事もなく仕事は終わり、信頼とお駄賃をオーナから頂戴し、次の仕事の約束を一応取り付けることができる。

これが日常的に続くうちの仕事だ。飢えないためには定期的以上は欲しい仕事だ。

車検は滞りなく済み、昼すぎにそのRFのオーナーはガレージに訪れた。行った整備内容とかかった費用の明細、競技に出るために必要な車検証からなる書類一式を確かめる。しばらくすると納得した笑顔の表情で私に料金を渡して「次も頼むよ」と声をかけてくれる。自分の軽トラに整備したてのRFをしっかり固定したオーナーを私は笑顔で見送った。天気は晴れていた。

もう1台のオーナー、カワサキからは今日は都合が悪くなったのでまた後日と連絡があった。

ここはガレージ、整備や修理をするところ。

さっきのオーナーやカワサキの機体にしたって、そんなにかからず何処かの戦場に中破したりバラバラになったりするだろう。

しかし、そこからが私の仕事だ。
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