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19.5 真白とトーニャの休日(6)
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少し冷ましてから、味見をする。
サクサクとした食感とバターの風味が利いた甘みに、焼きたての温かさが加わって美味しい。
この出来ならば、サファイアさんとクオーツさんにも喜んで食べてもらえるだろう。
「トーニャも1枚どう?」
「俺は遠慮しておく」
「美味しいよ?」
「いや…」
「もしかして実は甘い物苦手?」
肯定も否定もせずに、トーニャはぐぬぬと小さく唸るだけだ。
けれども、彼はその間もずっとクッキーに熱い眼差しを注ぎ続けている。
どう見ても、これは嫌いな人間の表情には思えないんだよなー。
食べられない理由が何かあるのかなと気を揉んでいると、トーニヤはぽつりと呟いた。
「軍人は本能のままに生きてはならない」
「ん?」
「いついかなる時でも本能に負けることなく自分を律する。俺の信念だ」
「それ、今関係ある?」
「だから好物には手をつけないようにしている」
「…それだけの理由?」
「あぁ、そうだ」
何言ってんだ、こいつ。
どういう理屈だ、そんなん聞いたことないわ。
目を瞑って食欲と戦っているトーニャに呆れ果てた俺は奴の口にクッキーを突っ込んでやった。
「むぐっ!?な、何するんだ!?」
「食いたいんだろ?」
「だが…」
「今のお前は軍人じゃなくて、俺の夫だ。俺といる時だけは本能に負けちゃえば?」
サクサクとした食感とバターの風味が利いた甘みに、焼きたての温かさが加わって美味しい。
この出来ならば、サファイアさんとクオーツさんにも喜んで食べてもらえるだろう。
「トーニャも1枚どう?」
「俺は遠慮しておく」
「美味しいよ?」
「いや…」
「もしかして実は甘い物苦手?」
肯定も否定もせずに、トーニャはぐぬぬと小さく唸るだけだ。
けれども、彼はその間もずっとクッキーに熱い眼差しを注ぎ続けている。
どう見ても、これは嫌いな人間の表情には思えないんだよなー。
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「ん?」
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目を瞑って食欲と戦っているトーニャに呆れ果てた俺は奴の口にクッキーを突っ込んでやった。
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