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1.危険な男

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見上げると、いっそ憎らしいほどに雲一つなく澄みきった青空が広がっている。
5月の爽やかな薫風は眩しく輝きを放つ太陽の光を目一杯に浴びる山々の草木を優しく揺らす。
清流からはせせらぎが聞こえ、時折その中を気持ち良さそうに泳ぐ川魚の群れによって水紋が象られる音が混ざる。

レオンスタリア王国・ハイネ。

サヴィル候爵家により治められているこの場所は自然溢れる肥沃な大地だ。

(なーんて貴族の奴等は言ってるけど、所詮はただの田舎だろ。それも『ド』がつくほどの。何で俺がこんなところに来なくちゃいけないんだ)

元レオンスタリア王国軍近衛師団長ソニア・アンバーはそう悪態をつく。
もちろん口には出さず、心の中だけで。

(とはいえ、王太子直々の命令だから断る訳にはいかねぇし…。これが公務員の性って奴か?)

両手に大荷物を抱えた上に、沈む気持ちで足取りは重たくなるばかり。
それでも歩を進め続けて、ようやく目的地であるサヴィル邸に到着した。

「うっわ…、ここ本当に人が住んでんのかよ…。あり得ねぇ…」 

大きな邸宅だが、この緑土の主の住処とは思えぬほどに蔓や蔦に全体を覆われて鬱蒼とした雰囲気を醸し出している。

「うちに何か用?」

敷地内からウェーブがかったプラチナブロンドをした長身の優男がひょっこりと顔を出した。
アンニュイな雰囲気のその男はやる気のなさそうな間伸びした声でソニアに呼びかけてきた。

「…あんたがヴォルフヒルデ・サヴィルか?」
「そうだけど…」

ヴォルフヒルデが答えた瞬間、予兆のような青嵐がソニアの頭頂部で結われている深緑色の長い毛束を強くなびかせた。

「俺は命令でここに来た。ソニア・アンバーだ」

ソニアに課せられた命令はヴォルフヒルデ・サヴィル候爵を守ること。
しかしながら、ヴォルフヒルデこそがソニアの運命を大きく変えてしまう最も危険な存在となることをこの時はまだ誰1人として知る由もない。
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