195 / 198
四章 黄昏のステラ
スイロウ先生への質問
しおりを挟む
「スイロウ先生……あの子は……?」
呆然と私に問いかけられる。二人のうちどっちだろう、と思った後に二人とも説明する事にした。
「今特異能力を展開しているのが二年Sクラスの1人、ダイナ君です。彼は広域化系統の風を得意としていますね。
そしてその相手をしているのが一学年の時我々の結界を操った『顕現の神童』、レテ君です」
「そんな……こんなの、暴走させられたら……」
その気持ちはよく分かる。ダイナ君が奈落迷宮と言った通り、暴走すればどう止めていいか普通なら分からない。
そう、それは相対している相手が普通なら、であればの話なのだ。
「……心配要りません。そもそも、何故私がダイナ君の訓練の相手をしなかったか分かりますか?」
「……そ、そういえば。こんな能力であるなら先に言ってくれれば我々が……!」
その言葉に、静かに首を横に振る。最も、暗闇の中では分からないだろうが気配は伝わるであろう。
「……確かに、この暗闇の中で平衡感覚を奪われる、というのは厄介です。暴走すればどんな影響が起こるか分からない」
「それなら尚更……!」
「しかし、それを止められる子が、あのレテ君なのです。
悔しいですが、あの子の特異能力は何よりも強い。Sクラスの生徒はおろか、私ですら特異能力を展開されたら手も足も出ないでしょう」
それに唖然とする吐息が聞こえてきた。私の言葉を後押しするようにシア君が言う。
「……それは、わかる。正直に言って、彼の……レテ君の特異能力に心あるモノは勝てない」
「……心、あるモノ?てっきり私は彼が空間侵食などで対抗して暴走したダイナ君を止めるのかと……」
シア君は付き添いの先生に優しく、それでいて予想の範疇を超える声を届ける。
「……彼は、彼の純白の盾は。心あるモノに対して語りかけてきます。
もう敵対しなくていいのだと、闘わなくていいのだと。打算も見返りも何も求めない、一点の曇りもない博愛。それが彼の特異能力の『一つ』です」
「ひ、ひとつ……?」
そう、私だって覚えている。
一年の終わりに全力で皆がレテ君と戦った時に最後に見せた剣を。
審判である私でさえ、審判をできる状態ではなかった。
ただ、『アレに近寄られたくない』。狂ったように自分の身だけが恋しかった。
それを代弁するかのように、私は言う。
「精霊召喚や空間侵食、これらは対魔物、対人に『優位』に立つものの特異能力です。
ですが彼の……レテ君の特異能力は違う。使った瞬間に『勝利』が確定する、次元が違うものです。
もしも彼の特異特異で勝ちが確定しないモノがあるとすれば何一つとして心を持ちえないもの……仮初の心すら持たない、本当に無機物ぐらいのものです」
「……そんな、能力があっていいのか……」
もう一人の先生が有り得ない、というように呟く。
有り得ないだろう、信じたくないだろう。けれど事実は小説よりも奇なり、我々の常識を打ち壊す。それが『レテ』という生徒だ。
加えて特異能力を展開しながら攻撃も出来るならば、魔物だろうが人だろうが敵無しなのではないか。あの純白の盾を展開されたら此方は攻撃すら出来ないのに、レテ君は攻撃が出来る。そうなればお終いだ。
……けれど、彼の特異能力の真のおそろしさはそこでは無いと思っている。それを口にする。
「……実は私は彼の特異能力の本当に注目するべき点はそこでは無いと思っています」
「と、いいますと?」
不思議そうに問いかけてくる教師に、言葉を選ばず言う。
「彼の特異能力の真に見るべき点。それは今のように『相手が特異能力』を使っている時だと思っているのです」
「……分かりませんな。確かに、先程の話では鎮めることは可能だと思いましたが……」
その言葉にそうだろう、と思う。だがあの紫の剣を使う事で、彼はある事を可能とするのではないか、という仮説を立てている。
「……今回は特異能力の訓練です。だから彼も暴走するまで使わないでしょう。
ですが、敵対する人が特異能力を使った時。
彼はそれを『鎮めること』も、逆に相手を破滅させる為に『暴走させる』ことも可能……そう思っているのです」
「な……」
「それは、あの紫の……?」
絶句する教師と、シア君が問いかけてくる。それに返答する。
「うむ。あの紫の剣は我々を……それこそ、審判をしていた私でさえ暴走させた。あれを特異能力を展開した状態で使われたら……。
間違いなく、展開した特異能力は暴走する。そして、それを抑えようにも展開させたものを正せないこその暴走なのだ。……彼に、特異能力で挑んだ時点で勝ち目どころか、最悪死に至る可能性まである」
改めて言って震えてきた。
(彼は……あれを、操っていた。それならば……それならば……。
あれが、暴走したら、どうなるのだ……?)
呆然と私に問いかけられる。二人のうちどっちだろう、と思った後に二人とも説明する事にした。
「今特異能力を展開しているのが二年Sクラスの1人、ダイナ君です。彼は広域化系統の風を得意としていますね。
そしてその相手をしているのが一学年の時我々の結界を操った『顕現の神童』、レテ君です」
「そんな……こんなの、暴走させられたら……」
その気持ちはよく分かる。ダイナ君が奈落迷宮と言った通り、暴走すればどう止めていいか普通なら分からない。
そう、それは相対している相手が普通なら、であればの話なのだ。
「……心配要りません。そもそも、何故私がダイナ君の訓練の相手をしなかったか分かりますか?」
「……そ、そういえば。こんな能力であるなら先に言ってくれれば我々が……!」
その言葉に、静かに首を横に振る。最も、暗闇の中では分からないだろうが気配は伝わるであろう。
「……確かに、この暗闇の中で平衡感覚を奪われる、というのは厄介です。暴走すればどんな影響が起こるか分からない」
「それなら尚更……!」
「しかし、それを止められる子が、あのレテ君なのです。
悔しいですが、あの子の特異能力は何よりも強い。Sクラスの生徒はおろか、私ですら特異能力を展開されたら手も足も出ないでしょう」
それに唖然とする吐息が聞こえてきた。私の言葉を後押しするようにシア君が言う。
「……それは、わかる。正直に言って、彼の……レテ君の特異能力に心あるモノは勝てない」
「……心、あるモノ?てっきり私は彼が空間侵食などで対抗して暴走したダイナ君を止めるのかと……」
シア君は付き添いの先生に優しく、それでいて予想の範疇を超える声を届ける。
「……彼は、彼の純白の盾は。心あるモノに対して語りかけてきます。
もう敵対しなくていいのだと、闘わなくていいのだと。打算も見返りも何も求めない、一点の曇りもない博愛。それが彼の特異能力の『一つ』です」
「ひ、ひとつ……?」
そう、私だって覚えている。
一年の終わりに全力で皆がレテ君と戦った時に最後に見せた剣を。
審判である私でさえ、審判をできる状態ではなかった。
ただ、『アレに近寄られたくない』。狂ったように自分の身だけが恋しかった。
それを代弁するかのように、私は言う。
「精霊召喚や空間侵食、これらは対魔物、対人に『優位』に立つものの特異能力です。
ですが彼の……レテ君の特異能力は違う。使った瞬間に『勝利』が確定する、次元が違うものです。
もしも彼の特異特異で勝ちが確定しないモノがあるとすれば何一つとして心を持ちえないもの……仮初の心すら持たない、本当に無機物ぐらいのものです」
「……そんな、能力があっていいのか……」
もう一人の先生が有り得ない、というように呟く。
有り得ないだろう、信じたくないだろう。けれど事実は小説よりも奇なり、我々の常識を打ち壊す。それが『レテ』という生徒だ。
加えて特異能力を展開しながら攻撃も出来るならば、魔物だろうが人だろうが敵無しなのではないか。あの純白の盾を展開されたら此方は攻撃すら出来ないのに、レテ君は攻撃が出来る。そうなればお終いだ。
……けれど、彼の特異能力の真のおそろしさはそこでは無いと思っている。それを口にする。
「……実は私は彼の特異能力の本当に注目するべき点はそこでは無いと思っています」
「と、いいますと?」
不思議そうに問いかけてくる教師に、言葉を選ばず言う。
「彼の特異能力の真に見るべき点。それは今のように『相手が特異能力』を使っている時だと思っているのです」
「……分かりませんな。確かに、先程の話では鎮めることは可能だと思いましたが……」
その言葉にそうだろう、と思う。だがあの紫の剣を使う事で、彼はある事を可能とするのではないか、という仮説を立てている。
「……今回は特異能力の訓練です。だから彼も暴走するまで使わないでしょう。
ですが、敵対する人が特異能力を使った時。
彼はそれを『鎮めること』も、逆に相手を破滅させる為に『暴走させる』ことも可能……そう思っているのです」
「な……」
「それは、あの紫の……?」
絶句する教師と、シア君が問いかけてくる。それに返答する。
「うむ。あの紫の剣は我々を……それこそ、審判をしていた私でさえ暴走させた。あれを特異能力を展開した状態で使われたら……。
間違いなく、展開した特異能力は暴走する。そして、それを抑えようにも展開させたものを正せないこその暴走なのだ。……彼に、特異能力で挑んだ時点で勝ち目どころか、最悪死に至る可能性まである」
改めて言って震えてきた。
(彼は……あれを、操っていた。それならば……それならば……。
あれが、暴走したら、どうなるのだ……?)
0
お気に入りに追加
41
あなたにおすすめの小説
目が覚めたら夫と子供がいました
青井陸
恋愛
とある公爵家の若い公爵夫人、シャルロットが毒の入ったのお茶を飲んで倒れた。
1週間寝たきりのシャルロットが目を覚ましたとき、幼い可愛い男の子がいた。
「…お母様?よかった…誰か!お母様が!!!!」
「…あなた誰?」
16歳で政略結婚によって公爵家に嫁いだ、元伯爵令嬢のシャルロット。
シャルロットは一目惚れであったが、夫のハロルドは結婚前からシャルロットには冷たい。
そんな関係の二人が、シャルロットが毒によって記憶をなくしたことにより少しずつ変わっていく。
なろう様でも同時掲載しています。
別の形で会い直した宿敵が結婚を迫って来たんだが
まっど↑きみはる
ファンタジー
「我が宿敵!! あなたに、私の夫となる権利をあげるわ!!」
そう、王国騎士『マルクエン・クライス』は、敵対していた魔剣士の女『ラミッタ・ピラ』にプロポーズを受けのだ。
人質から始まった凡庸で優しい王子の英雄譚
咲良喜玖
ファンタジー
アーリア戦記から抜粋。
帝国歴515年。サナリア歴3年。
新国家サナリア王国は、超大国ガルナズン帝国の使者からの宣告により、国家存亡の危機に陥る。
アーリア大陸を二分している超大国との戦いは、全滅覚悟の死の戦争である。
だからこそ、サナリア王アハトは、帝国に従属することを決めるのだが。
当然それだけで交渉が終わるわけがなく、従属した証を示せとの命令が下された。
命令の中身。
それは、二人の王子の内のどちらかを選べとの事だった。
出来たばかりの国を守るために、サナリア王が判断した人物。
それが第一王子である【フュン・メイダルフィア】だった。
フュンは弟に比べて能力が低く、武芸や勉学が出来ない。
彼の良さをあげるとしたら、ただ人に優しいだけ。
そんな人物では、国を背負うことが出来ないだろうと、彼は帝国の人質となってしまったのだ。
しかし、この人質がきっかけとなり、長らく続いているアーリア大陸の戦乱の歴史が変わっていく。
西のイーナミア王国。東のガルナズン帝国。
アーリア大陸の歴史を支える二つの巨大国家を揺るがす英雄が誕生することになるのだ。
偉大なる人質。フュンの物語が今始まる。
他サイトにも書いています。
こちらでは、出来るだけシンプルにしていますので、章分けも簡易にして、解説をしているあとがきもありません。
小説だけを読める形にしています。
義妹の嫌がらせで、子持ち男性と結婚する羽目になりました。義理の娘に嫌われることも覚悟していましたが、本当の家族を手に入れることができました。
石河 翠
ファンタジー
義母と義妹の嫌がらせにより、子持ち男性の元に嫁ぐことになった主人公。夫になる男性は、前妻が残した一人娘を可愛がっており、新しい子どもはいらないのだという。
実家を出ても、自分は家族を持つことなどできない。そう思っていた主人公だが、娘思いの男性と素直になれないわがままな義理の娘に好感を持ち、少しずつ距離を縮めていく。
そんなある日、死んだはずの前妻が屋敷に現れ、主人公を追い出そうとしてきた。前妻いわく、血の繋がった母親の方が、継母よりも価値があるのだという。主人公が言葉に詰まったその時……。
血の繋がらない母と娘が家族になるまでのお話。
この作品は、小説家になろうおよびエブリスタにも投稿しております。
扉絵は、管澤捻さまに描いていただきました。
夫の書斎から渡されなかった恋文を見つけた話
束原ミヤコ
恋愛
フリージアはある日、夫であるエルバ公爵クライヴの書斎の机から、渡されなかった恋文を見つけた。
クライヴには想い人がいるという噂があった。
それは、隣国に嫁いだ姫サフィアである。
晩餐会で親し気に話す二人の様子を見たフリージアは、妻でいることが耐えられなくなり離縁してもらうことを決めるが――。
【悲報】最弱ジョブ「弓使い」の俺、ダンジョン攻略中にSランク迷惑パーティーに絡まれる。~配信中に最弱の俺が最強をボコしたらバズりまくった件~
果 一
ファンタジー
《第17回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を賜りました》
俺こと、息吹翔の通う学校には、Sランクパーティーのメンバーがいる。名前は木山豪気。ハイレベルな強さを持つ“剣士”であり、世間的にも有名である――ただし悪い意味で。
人を見下し、学校のアイドルを盗撮し、さらには平気で他のダンジョン冒険者を襲う、最低最悪の人間だった。しかも俺が最弱ジョブと言われる「弓使い(アーチャー)」だとわかるや否や、ガムを吐き捨てバカにしてくる始末。
「こいつとは二度と関わりたくないな」
そう思った矢先、ダンジョン攻略中に豪気が所属するSランクパーティーと遭遇してしまい、問答無用で攻撃を受けて――
しかし、豪気達は知らない。俺が弓捌きを極め、SSランクまで到達しているということを。
そして、俺も知らない。豪気達との戦いの様子が全国配信されていて、バズリまくってしまうということを。
※この作品はフィクションです。実在の人物•団体•事件•法律などとは一切関係ありません。あらかじめご了承ください。
※本作はカクヨム・小説家になろうでも公開しています。両サイトでのタイトルは『【悲報】最弱ジョブ「弓使い」の俺、ダンジョン攻略中にSランク迷惑パーティーに絡まれる。~全国配信されていることに気付かず全員返り討ちにしたら、バズリまくって大変なことになったんだが!?~』となります。
私は聖女ではないですか。じゃあ勝手にするので放っといてください。
アーエル
ファンタジー
旧題:私は『聖女ではない』ですか。そうですか。帰ることも出来ませんか。じゃあ『勝手にする』ので放っといて下さい。
【 聖女?そんなもん知るか。報復?復讐?しますよ。当たり前でしょう?当然の権利です! 】
地震を知らせるアラームがなると同時に知らない世界の床に座り込んでいた。
同じ状況の少女と共に。
そして現れた『オレ様』な青年が、この国の第二王子!?
怯える少女と睨みつける私。
オレ様王子は少女を『聖女』として選び、私の存在を拒否して城から追い出した。
だったら『勝手にする』から放っておいて!
同時公開
☆カクヨム さん
✻アルファポリスさんにて書籍化されました🎉
タイトルは【 私は聖女ではないですか。じゃあ勝手にするので放っといてください 】です。
そして番外編もはじめました。
相変わらず不定期です。
皆さんのおかげです。
本当にありがとうございます🙇💕
これからもよろしくお願いします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる