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四章 黄昏のステラ

スイロウ先生への質問

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「スイロウ先生……あの子は……?」

呆然と私に問いかけられる。二人のうちどっちだろう、と思った後に二人とも説明する事にした。

「今特異能力を展開しているのが二年Sクラスの1人、ダイナ君です。彼は広域化系統の風を得意としていますね。
そしてその相手をしているのが一学年の時我々の結界を操った『顕現の神童』、レテ君です」

「そんな……こんなの、暴走させられたら……」

その気持ちはよく分かる。ダイナ君が奈落迷宮と言った通り、暴走すればどう止めていいか普通なら分からない。
そう、それは相対している相手が普通なら、であればの話なのだ。

「……心配要りません。そもそも、何故私がダイナ君の訓練の相手をしなかったか分かりますか?」
「……そ、そういえば。こんな能力であるなら先に言ってくれれば我々が……!」

その言葉に、静かに首を横に振る。最も、暗闇の中では分からないだろうが気配は伝わるであろう。

「……確かに、この暗闇の中で平衡感覚を奪われる、というのは厄介です。暴走すればどんな影響が起こるか分からない」

「それなら尚更……!」

「しかし、それを止められる子が、あのレテ君なのです。
悔しいですが、あの子の特異能力は何よりも強い。Sクラスの生徒はおろか、私ですら特異能力を展開されたら手も足も出ないでしょう」

それに唖然とする吐息が聞こえてきた。私の言葉を後押しするようにシア君が言う。

「……それは、わかる。正直に言って、彼の……レテ君の特異能力に心あるモノは勝てない」
「……心、あるモノ?てっきり私は彼が空間侵食などで対抗して暴走したダイナ君を止めるのかと……」

シア君は付き添いの先生に優しく、それでいて予想の範疇を超える声を届ける。

「……彼は、彼の純白の盾は。心あるモノに対して語りかけてきます。
もう敵対しなくていいのだと、闘わなくていいのだと。打算も見返りも何も求めない、一点の曇りもない博愛。それが彼の特異能力の『一つ』です」

「ひ、ひとつ……?」

そう、私だって覚えている。
一年の終わりに全力で皆がレテ君と戦った時に最後に見せた剣を。
審判である私でさえ、審判をできる状態ではなかった。
ただ、『アレに近寄られたくない』。狂ったように自分の身だけが恋しかった。
それを代弁するかのように、私は言う。

「精霊召喚や空間侵食、これらは対魔物、対人に『優位』に立つものの特異能力です。
ですが彼の……レテ君の特異能力は違う。使った瞬間に『勝利』が確定する、次元が違うものです。
もしも彼の特異特異で勝ちが確定しないモノがあるとすれば何一つとして心を持ちえないもの……仮初の心すら持たない、本当に無機物ぐらいのものです」

「……そんな、能力があっていいのか……」

もう一人の先生が有り得ない、というように呟く。
有り得ないだろう、信じたくないだろう。けれど事実は小説よりも奇なり、我々の常識を打ち壊す。それが『レテ』という生徒だ。
加えて特異能力を展開しながら攻撃も出来るならば、魔物だろうが人だろうが敵無しなのではないか。あの純白の盾を展開されたら此方は攻撃すら出来ないのに、レテ君は攻撃が出来る。そうなればお終いだ。
……けれど、彼の特異能力の真のおそろしさはそこでは無いと思っている。それを口にする。

「……実は私は彼の特異能力の本当に注目するべき点はそこでは無いと思っています」

「と、いいますと?」

不思議そうに問いかけてくる教師に、言葉を選ばず言う。

「彼の特異能力の真に見るべき点。それは今のように『相手が特異能力』を使っている時だと思っているのです」

「……分かりませんな。確かに、先程の話では鎮めることは可能だと思いましたが……」

その言葉にそうだろう、と思う。だがあの紫の剣を使う事で、彼はある事を可能とするのではないか、という仮説を立てている。

「……今回は特異能力の訓練です。だから彼も暴走するまで使わないでしょう。
ですが、敵対する人が特異能力を使った時。
彼はそれを『鎮めること』も、逆に相手を破滅させる為に『暴走させる』ことも可能……そう思っているのです」

「な……」
「それは、あの紫の……?」

絶句する教師と、シア君が問いかけてくる。それに返答する。

「うむ。あの紫の剣は我々を……それこそ、審判をしていた私でさえ暴走させた。あれを特異能力を展開した状態で使われたら……。
間違いなく、展開した特異能力は暴走する。そして、それを抑えようにも展開させたものを正せないこその暴走なのだ。……彼に、特異能力で挑んだ時点で勝ち目どころか、最悪死に至る可能性まである」

改めて言って震えてきた。

(彼は……あれを、操っていた。それならば……それならば……。
あれが、暴走したら、どうなるのだ……?)
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