上 下
159 / 198
四章 黄昏のステラ

夏休み ミトロの場合

しおりを挟む
「……ふっ!」

首都から少し南にある家にて、ミトロは両親の前で得た技術を披露していた。
広域化の目眩しは勿論の事、逆に限定的に暗闇を広げることによって敢えて敵を誘い込む道を作る技術。
しかし何よりも褒められたのはやはり、闇の獄であろう。

「流石です、ミトロ。勉強熱心な貴女がこうして新しい技術を身につけた事、母として嬉しく思います」

母は厳しくも、優しい人だ。
知識を重んじ、時に叱られる事もあった。だけれども、理不尽な叱られ方はしなかった。知識不足であれば教えてくれた。本が読みたいと駄々をこねたときもダメと言いながら、そっと父親からのプレゼントという形で買ってくれたのを知っている。

「……闇の獄、といったか。実際の人間、魔物相手にも使える技であるのは間違いないな。だがどうやってこの一年でそれを習得したのだ?」

父は冷静でるが冷徹ではない。単に不器用で、闇という自分の娘の属性に戸惑っていてまだ距離感を図れないのだろうと思っている。
また、国を守る兵士故にこういった技術は聞きたいようだ。なので素直に答える事にする。

「はい。実はとあるクラスメイトに教えてもらったのです」

「む、闇属性が他にもいたのか。珍しい……いや、そうでもないのか。Sクラスというものは」

その父親の納得には首を横に振らざるを得ない。

「いいえ、その友人の得意とするのは風の顕現系統です」

「……なんと?」

聞き直すのも無理はない。闇属性と光属性は希少な上に技の種類も文献として残されているものはそうそう無く、あったとしても危険なものが多いため王城で保管されているという噂だ。

しかし、父は気づいてしまった。いや、気づかない方が無理があるといったところか。
父は先の通り不器用ではあるものの、実力は確かなものがあった。故に、タルタロスの侵攻にも末端として関わっていたのだ。

「……フード、いや。レテ殿か」

「お父さん?そのレテ殿というのは?」

母が当然聞き返す。それに対し、父は言葉を選ぶように返した。

「うむ、実はタルタロス侵攻の際にやけに幼い少年がいてな。最初は迷子かと思ったのだ。しかし、蓋を開けてみればその実、怪物と言っても差支えがないだろう。作戦の要と言っても過言ではない地位にそのフード……レテ殿は置かれていたのだ。……ああ、これは勘違いしないで欲しいのだが、あくまで居たのはその少年のみだ。ミトロは見かけていない」

嘘だ。これは、母に追求されないための嘘。
父は見ていたはずだ。レテ君に鼓舞される私達を。けれど、その関係を壊さないために敢えて嘘をついたのだ。
不器用。けれど優しい父に心の中で感謝する。

「なるほど。……そんな子がクラスメイトですか。ミトロ、貴女も負けずに知識を得て、強くなるのですよ」

「勿論です、母上、父上」

ミトロはそう言いながら、ふとシアの事を思い出した。
これはミトロの推測であるが、レテが恐らくタルタロスの事に関して一番最初に相談したのはシアのはずだ。
いつの時か、シアがレテを避けていた時もあった。けれどそれは今となってはわかる。あの圧倒的な実力、もしくは準ずるものを見てしまえばそばに居て良いものか悩むだろう。
けれど、シアは諦めなかった。レテが悲しい顔をした時も、笑った時も、真剣な時も、彼女はそばにいた。

(……レテ君のように、突出した実力ではないにしても。その特異能力とレテ君に鍛えられたであろう力。……しかし、私は貴女の心の芯の強さこそが最大の武器だと思います。現役の兵士をして化け物と恐れられる彼を支える貴女の想い。それは……これ以上は野暮でしょうか)

思わずクスッと笑ってしまう。まさかとは思うが二人が付き合っているなどと。流石に突飛がすぎた考えであると。

「……何時また、危険が迫るかわかりません。聞けば魔術、武術の両学院にも異界の敵が現れたとか。単独で勝てとは言いません。逃げるなとも言いません。しかし、もしも守り通したいモノが何か一つでもあるのであれば、迷いなく貴女は力を振るいなさい」

その言葉を聞いてハッと思った。

(……そうか、レテ君の強さは。その根源は……)

……誰かを守る。彼は、それを貫き通した。

(貴方から学ぶ事はまだまだ多そうですが……いつの日か。貴方を抜かしてみせましょう)

口元に笑顔を湛えながら、返事をする。

「私の中の守りたいもの。今それが何かはわかりませんが、先の為に……そう、守るべき何かを見つけた時のために力をつけようと思います」

「それでこそ私たちの娘です。……応援していますよ」

そう言って頭を撫でられる。温かい手だ。言葉は少しぶっきらぼうでも、その温もりは真実だ。

闇という属性に産まれても、温かい手に囲まれている。これほどの家庭がどれだけあるだろうか。

ミトロは自分の家庭に感謝しながら、顔を微笑ませた。

「……ところで」

父が声を出す。母が手を離して二人でそちらを向くと父は恥ずかしそうに言う。

「ご飯は……まだかな」

そう言うとギュルルル……と腹の虫が声を上げる。当然だろう。帰ってきて現在時刻夜八時。実際私もお腹がすいた。

「あらいけない。ミトロの成長に目を奪われて……すぐに作りますね」

「頼む」

そう言いながら母は家の中に入る。父が入ろうとしたところで、小声で私に伝えた。

「……よく、タルタロスから生存した。同じ兵士として誇りに思うぞ」

「……!」

やはり、バレていた。けれど咎められはしなかった。

「腕を上げよ。アグラタム様のように、彼のように」

「勿論です。父上」

小声で会話を交わすと、無理やり表情筋を動かしたような父の笑顔が見えた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ドアマットヒロインはごめん被るので、元凶を蹴落とすことにした

月白ヤトヒコ
ファンタジー
お母様が亡くなった。 それから程なくして―――― お父様が屋敷に見知らぬ母子を連れて来た。 「はじめまして! あなたが、あたしのおねえちゃんになるの?」 にっこりとわたくしを見やるその瞳と髪は、お父様とそっくりな色をしている。 「わ~、おねえちゃんキレイなブローチしてるのね! いいなぁ」 そう、新しい妹? が、言った瞬間・・・ 頭の中を、凄まじい情報が巡った。 これ、なんでも奪って行く異母妹と家族に虐げられるドアマット主人公の話じゃね? ドアマットヒロイン……物語の主人公としての、奪われる人生の、最初の一手。 だから、わたしは・・・よし、とりあえず馬鹿なことを言い出したこのアホをぶん殴っておこう。 ドアマットヒロインはごめん被るので、これからビシバシ躾けてやるか。 ついでに、「政略に使うための駒として娘を必要とし、そのついでに母親を、娘の世話係としてただで扱き使える女として連れて来たものかと」 そう言って、ヒロインのクズ親父と異母妹の母親との間に亀裂を入れることにする。 フハハハハハハハ! これで、異母妹の母親とこの男が仲良くわたしを虐げることはないだろう。ドアマットフラグを一つ折ってやったわっ! うん? ドアマットヒロインを拾って溺愛するヒーローはどうなったかって? そんなの知らん。 設定はふわっと。

【完結】父が再婚。義母には連れ子がいて一つ下の妹になるそうですが……ちょうだい癖のある義妹に寮生活は無理なのでは?

つくも茄子
ファンタジー
父が再婚をしました。お相手は男爵夫人。 平民の我が家でいいのですか? 疑問に思うものの、よくよく聞けば、相手も再婚で、娘が一人いるとのこと。 義妹はそれは美しい少女でした。義母に似たのでしょう。父も実娘をそっちのけで義妹にメロメロです。ですが、この新しい義妹には悪癖があるようで、人の物を欲しがるのです。「お義姉様、ちょうだい!」が口癖。あまりに煩いので快く渡しています。何故かって?もうすぐ、学園での寮生活に入るからです。少しの間だけ我慢すれば済むこと。 学園では煩い家族がいない分、のびのびと過ごせていたのですが、義妹が入学してきました。 必ずしも入学しなければならない、というわけではありません。 勉強嫌いの義妹。 この学園は成績順だということを知らないのでは?思った通り、最下位クラスにいってしまった義妹。 両親に駄々をこねているようです。 私のところにも手紙を送ってくるのですから、相当です。 しかも、寮やクラスで揉め事を起こしては顰蹙を買っています。入学早々に学園中の女子を敵にまわしたのです!やりたい放題の義妹に、とうとう、ある処置を施され・・・。 なろう、カクヨム、にも公開中。

目が覚めたら夫と子供がいました

青井陸
恋愛
とある公爵家の若い公爵夫人、シャルロットが毒の入ったのお茶を飲んで倒れた。 1週間寝たきりのシャルロットが目を覚ましたとき、幼い可愛い男の子がいた。 「…お母様?よかった…誰か!お母様が!!!!」 「…あなた誰?」 16歳で政略結婚によって公爵家に嫁いだ、元伯爵令嬢のシャルロット。 シャルロットは一目惚れであったが、夫のハロルドは結婚前からシャルロットには冷たい。 そんな関係の二人が、シャルロットが毒によって記憶をなくしたことにより少しずつ変わっていく。 なろう様でも同時掲載しています。

彼女の幸福

豆狸
恋愛
私の首は体に繋がっています。今は、まだ。

公爵家御令嬢に転生?転生先の努力が報われる世界で可愛いもののために本気出します「えっ?私悪役令嬢なんですか?」

へたまろ
ファンタジー
『祝』第17回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞! ここは、とある恋愛ゲームの舞台……かもしれない場所。 主人公は、まったく情報を持たない前世の知識を持っただけの女性。 王子様との婚約、学園での青春、多くの苦難の末に……婚約破棄されて修道院に送られる女の子に転生したただの女性。 修道院に送られる途中で闇に屠られる、可哀そうな……やってたことを考えればさほど可哀そうでも……いや、罰が重すぎる程度の悪役令嬢に転生。 しかし、この女性はそういった予備知識を全く持ってなかった。 だから、そんな筋書きは全く関係なし。 レベルもスキルも魔法もある世界に転生したからにはやることは、一つ! やれば結果が数字や能力で確実に出せる世界。 そんな世界に生まれ変わったら? レベル上げ、やらいでか! 持って生まれたスキル? 全言語理解と、鑑定のみですが? 三種の神器? 初心者パック? 肝心の、空間収納が無いなんて……無いなら、努力でどうにかしてやろうじゃないか! そう、その女性は恋愛ゲームより、王道派ファンタジー。 転生恋愛小説よりも、やりこみチートラノベの愛読者だった! 子供達大好き、みんな友達精神で周りを巻き込むお転婆お嬢様がここに爆誕。 この国の王子の婚約者で、悪役令嬢……らしい? かもしれない? 周囲の反応をよそに、今日もお嬢様は好き勝手やらかす。 周囲を混乱を巻き起こすお嬢様は、平穏無事に王妃になれるのか! 死亡フラグを回避できるのか! そんなの関係ない! 私は、私の道を行く! 王子に恋しない悪役令嬢は、可愛いものを愛でつつやりたいことをする。 コメディエンヌな彼女の、生涯を綴った物語です。

冷遇ですか?違います、厚遇すぎる程に義妹と婚約者に溺愛されてます!

ユウ
ファンタジー
トリアノン公爵令嬢のエリーゼは秀でた才能もなく凡庸な令嬢だった。 反対に次女のマリアンヌは社交界の華で、弟のハイネは公爵家の跡継ぎとして期待されていた。 嫁ぎ先も決まらず公爵家のお荷物と言われていた最中ようやく第一王子との婚約がまとまり、その後に妹のマリアンヌの婚約が決まるも、相手はスチュアート伯爵家からだった。 華麗なる一族とまで呼ばれる一族であるが相手は伯爵家。 マリアンヌは格下に嫁ぐなんて論外だと我儘を言い、エリーゼが身代わりに嫁ぐことになった。 しかしその数か月後、妹から婚約者を寝取り略奪した最低な姉という噂が流れだしてしまい、社交界では爪はじきに合うも。 伯爵家はエリーゼを溺愛していた。 その一方でこれまで姉を踏み台にしていたマリアンヌは何をしても上手く行かず義妹とも折り合いが悪く苛立ちを抱えていた。 なのに、伯爵家で大事にされている姉を見て激怒する。 「お姉様は不幸がお似合いよ…何で幸せそうにしているのよ!」 本性を露わにして姉の幸福を妬むのだが――。

最強幼女は惰眠を求む! 〜神々のお節介で幼女になったが、悠々自適な自堕落ライフを送りたい〜

フウ
ファンタジー
※30話あたりで、タイトルにあるお節介があります。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー これは、最強な幼女が気の赴くままに自堕落ライフを手に入を手に入れる物語。 「……そこまでテンプレ守らなくていいんだよ!?」 絶叫から始まる異世界暗躍! レッツ裏世界の頂点へ!! 異世界に召喚されながらも神様達の思い込みから巻き込まれた事が発覚、お詫びにユニークスキルを授けて貰ったのだが… 「このスキル、チートすぎじゃないですか?」 ちょろ神様が力を込めすぎた結果ユニークスキルは、神の域へ昇格していた!! これは、そんな公式チートスキルを駆使し異世界で成り上が……らない!? 「圧倒的な力で復讐を成し遂げる?メンド臭いんで結構です。 そんな事なら怠惰に毎日を過ごす為に金の力で裏から世界を支配します!」 そんな唐突に発想が飛躍した主人公が裏から世界を牛耳る物語です。 ※やっぱり成り上がってるじゃねぇか。 と思われたそこの方……そこは見なかった事にした下さい。 この小説は「小説家になろう」 「カクヨム」でも公開しております。 上記サイトでは完結済みです。 上記サイトでの総PV1000万越え!

夫の書斎から渡されなかった恋文を見つけた話

束原ミヤコ
恋愛
フリージアはある日、夫であるエルバ公爵クライヴの書斎の机から、渡されなかった恋文を見つけた。 クライヴには想い人がいるという噂があった。 それは、隣国に嫁いだ姫サフィアである。 晩餐会で親し気に話す二人の様子を見たフリージアは、妻でいることが耐えられなくなり離縁してもらうことを決めるが――。

処理中です...