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三章 破滅のタルタロス

追悼の製菓

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イシュリア王が緊急治療室に入って丸一日。その間に父さんや皆から色んな話を聞かされた。

本来はイシュリア軍が勝利したその日に宣言を出す予定が、実質先延ばしになった事。

先行組や錯乱組が最後まで自分達の心配をしてくれた事。

アグラタムは幸い……というべきか。身体が頑丈なので緊急治療室に入らずとも普通の治療で済んだこと。

そして……王妃ティネモシリが好物だったというティラミスで、その日の夜追悼の儀を行う事。


城にある、大勢を歓迎するためのフロアには上座から順に軍の階級が高い人が並んでいる。
主に最後に攻め入った兵士が多いが、割と近い位置には父であるラファも居て少し驚きながらも納得した。

(ああ……なるほど。だから学院の推薦を貰う時にアグラタムに直に会えた訳だ)

因みに自分達学院組は割と上座に近い位置に座らせて貰っている。
その中でも自分が一番上座に一番近く、次にファレスとフォレスの双子。その後ろに他の皆が並んでいる。

「皆、待たせた」

その言葉にバッと皆が顔を上げ、その声の主を見つめる。

そこには戦闘の時の様な衣装ではなく、黒い服……喪服、というべきものを纏っていた。
それもそうだ。これは単なるお食事会ではない。
イシュリア側の勝利を祝うと共に、タルタロスを追悼する為の催しだからだ。寧ろ、前者よりも後者の意味合いが強い事が兵士の衣装からも分かる。

皆、誰かが亡くなった時の服を着て着席している。自分やシア、他の皆は学院の服を直して貰って着ている。それが正装なのだろう。

上座に座ると、そのすぐ側にアグラタムが立つ。丁度イシュリア王の右側だ。

「守護者アグラタム、及び今回の戦に参加。貢献した強者の意志をここに」

そう言ってゆっくりと膝を床につけて礼をする。自分達もそれに習って礼をする。

すると、予想外の一言……いや、念話が頭の中に響いてきた。

(守護者の師よ。あの国の弔いの言葉を伝えよ)

(えっ)

予想外の顔を向けると同時に、イシュリア王が静かに、厳かな声を発する。

「今回の戦の兵の意志。しかと受け取った。……しかし。我々はそれでは終わってはいけない。……フードよ。我が横にて有るべき言葉を発せよ」

「……はっ」

未だに脚は治らず、自力で歩くことは出来ない。その為後ろに居てくれた医療の人が自分をアグラタムとは反対の横に車椅子を連れていく。そう、イシュリア王の左側だ。


「……王妃ティネモシリと会話せしフード。及びあの異国にて命を散らせし者、生命、そして賢王コキュートス……全てに追悼の意を示す」

立てないため礼は手を胸に当てて頭を下げるだけだ。それでもこれで準備は整った。

「……此度の戦。我々の勝利である。しかし、それまでに我がイシュリアの民や他の異界。何よりもタルタロスの生命が喪われた事は勝者である我々が、責任を持って弔う。……目の前にあるティラミスはタルタロスの王妃、ティネモシリが好物だったという。その菓子には『私を引っ張りあげて』との意があるらしい。……なればこそ。タルタロスで散った命を平和を保ち続けるイシュリアに引っ張りあげるよう祈ることこそ我らがすべき事である。……皆の者。これにて本当に今回の戦いを終いとしよう。
……失われた命に、安らぎを」

「「失われた命に、安らぎを」」

そう言って皆がティラミスを食べ始める。とても美味しそうだ。ところで……。

(……イシュリア様。自分はいつ戻してもらえるのですか?)

(守護者の師、そしてその場にて宣言したのだからその場で食べるが良い。……ほらアグラタムを見てみよ)

そう言われてアグラタムを見てみる。その場で特別に用意された椅子と机で食べている。そして察した。

(……まさか)

「フードにもココにアグラタムと同じように机とティラミス、水を用意せよ」

「仰せのままに」

そう言うと従者の人が優雅に準備を整えていく。参ったものだ。しかし自力で席に戻れない上にこうして名指しで上座の横に居たら寧ろ、戻るのが無礼というものか。

用意された机、ティラミス、水を見て感謝する。すると従者たちは一礼して微笑んだ。
まるで、貴方に仕えています、とのように。

(最初からイシュリア様このつもりだったな……)

何となく想像がつくと、ティラミスをスプーンで掬って口に含む。

ほろ苦いコーヒー味の中に、自然の甘さを感じる。

思えばあの戦いの中、ティネモシリと直に会った時間は短かった。
だが、彼女は救いあげて欲しかったのかもしれない。いや、救いあげて欲しかったのだ。自分自身ではなく、哀しみにくれた賢王を。

一口一口、丁寧に食べていく。

……あぁ。美味しい。

そう感じながらも一筋の涙が流れる。すぐさまハンカチを取り出して拭くが、流れ出したものは止まらない。

……王妃ティネモシリ。貴女がまた賢王コキュートスと暮らせる日がくるとしたら。

今度は病などなく、平和で、護られた世界に。

『普通に』生きようではないか。

そう思わざるを得ない。転生した身としては、それが有り得ない話でないことを知っている。

優しい日差しに照らされながら、ただ皆が追悼を示すように無言でティラミスを食べ続けた。
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