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三章 破滅のタルタロス

タルタロス侵攻 4

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「……ここが、タルタロス」
門を抜け、異界へと辿り着く。門を通った感覚は少し妙だった。感覚で表現するなら一瞬だけ眩む、という感じだろうか。身体がどこかへ移動するだけでなく失って構築されるような、変な感覚。
私はそう感じた。
とはいえ留まっているだけでは居られない。唯一現状を見ているミトロに声をかける。
「ミトロ、指示頼んでいい?」
その声に呆然としていた他の皆もミトロの方を向く。門から離れた所に移動したミトロに着いていくと、彼女は頷いた。
「わかりました。とにかく私達の役割は撹乱、そして生還。万が一にもはぐれた場合は空へ目立つものを打ち上げてください。……出来れば、魔法で」
私も含めてクロウやニア達が頷くとミトロはこっちだ、というように走り出した。
少しして、居住区だろうか。そんな感じの場所に辿り着くとミトロは建物に向けて魔法を放つ。
「……え、撹乱じゃないのか?」
ショウがそれでは殺してしまう、と言わんばかりの声で言うとミトロは答える。
「建物が無事じゃないと分かれば外に出てきます。そうすれば勝手に自ら混乱状態に引き摺りこんでくれるのですよ。それに慢心してはいけません。相手だって反撃してくる可能性があるのですから」
「……それもそうだな」
そう言ってレンターも光の弾を放つ。
それに納得したのか、ショウが炎の剣を顕現させる。
「そういう事なら行ってきなぁッ!」
建物にグサグサ刺さる炎の剣。そこから炎が広がり、微かな光と熱気だけが伝わってくる。
「ありゃ、燃えなかったか?」
「いいえ。この世界からは全ての光が失われています。炎とて例外では無いのでしょう。……次の建物に行きますよ」

そして幾つ建物を壊しただろうか。幾つ燃やしただろうか。幾つ消し飛ばしただろうか。
分からないけれど、中から狂乱した影が出てくるのだけは確かだった。そして次の建物へ向かおうとすると、声がかかる。
「キサマラ……!」
影が建物の中から刃物を持って飛びかかってくる。
「っ!」
皆避けると、私が素早くその背中に水の槍をぶつける。
「……ナメルナ」
影からは何か液体が流れている。それが血なのか、涙なのか……暗くて分からなかった。だが、再びこちらに刃物を持って走ってくる。
「ふっ!」
「せやぁっ!」
クロウとニアが同時に土の魔法を使って影に同時攻撃を仕掛ける。特にニアは殲滅者を使用したらしい。流石の影も少し怯んだようだった。
「ゲンブ!」
私は咄嗟にゲンブを呼び出して壁を作り、皆の退避場所を作る。
「……オマエラガ!ヒカリヲ……!」
「光を奪ったのは私達ではなく、貴方達の王。それが真実です」
「タワゴトヲッ!」
ミトロが告げるも聞く耳を持たない。それもそうかと思いつつ、ゲンブが巨体の足を持ち上げる。
「……ゲンブ」
「オマエラガアアアア!」
突撃してくるその影に向かって、ゲンブの足が振り下ろされた。
ドスン!と土埃が舞う中、ゲンブの足の下から何かが流れてくる。
(……あぁ、あぁ……)
それを見て、嗅いで。皆も察したようだった。最初に声をかけてくれたのはミトロだった。
「……我々の生存が第一優先です。抵抗が、それも明確な殺意を向けられたらもうそれは片方が倒れるまで終わりません。……次に行きましょう。撹乱に」
そう言ってミトロは私を支えてくれた。ゲンブが消える。その様子を私は見ていない。
しかし、レンターが一言だけ呟いたのが聞こえた。
「……せめて、安らかに」

それからも建物や商店街らしき場所を荒らして回った。抵抗もあった。そして、皆応戦していた。
「……そうだよな、いきなり攻撃なんて受けたら……」
「戦える人は~……戦うよね……」
そう言ってダイナが風を起こす。複数人が舞い上がったところにクロウが土の杭を飛ばす。
それを避ける影もいれば、刺さる影もいる。それでもしぶとく生き残っていた。
「ワレワレハキサマラヲ……!」
「ヒカリノタメニ……!」
「ユルサナイ……ユルサナイ……!」
怒りの声。怨嗟の声。それを何度聞いたか。それに目を瞑りながらゲンブを出して影からの攻撃を防ぐ。
そして防いだところにレンターが光の球体を空に投げる。その一瞬後。影のいた場所に圧倒的な光を放つ柱が立ち上がった。
最後にトドメとばかりにショウが炎の剣を地面に串刺しにしていくように刺していく。
「……元々は、同じ人だった……んだよね」
「……」
ニアが呟き、ショウは黙る。それに私は答える。
「……今でも、同じ人だよ。でも私達は負けられない。……負けちゃいけないの」
今まで犠牲になった人のためにも。その言葉を飲み込むとミトロが淡々と指示を出す。
「次はあっちに行きますよ」
「……っ!ミトロはどうしてそんな平気そうに!」
「クロウ!」
珍しくダイナが声を荒らげてそっとミトロの頬の部分を指で示す。
そこには既に涙の流れた跡が、微かだが見えていた。ミトロも握り拳を強く握っている。
「私達は生き残らなければならないのです!例え人を……殺しても……!それが彼との約束なのだから!」
「……そう、だったな。すまない」
そうだ。これは私たちが協力したこと。
けれど、そこで初めて本当に取り返しのつかないこと、という事を学んだ気がした。
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