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二章 学園編

ぎこちなさの解消 前編

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「……と、なるわけだ。昼はここまで!皆お昼ご飯だぞぉ!」
パンパン、と手を叩くとピッタリ昼の鐘が鳴る。昼食の合図である。
いつもならば隣にいるシアと一緒に食べに行くのだが、最近ぎこちない。というより避けられている。
視線を向けると慌てて立ち上がってこちらに顔を向けずに言う。

「わ、私先に行くね!」
「あ、シア……」

待って、とその言葉が出ない。彼女を悲しませているだろうか、怖がらせているのだろうか。
思い当たる節はある。数日前のアグラタムの訪問のことだろう。だが、彼の言う通り何かあってからでは済まされない。ましてやシアが誘拐されては……。
(……なんでシアの事をこんなにも、気にかけているんだろう。他の皆にも気にかけているのに)
そうしてレテ自身も考え込んでしまう。そんな数日が続いていた。

その外野から。Sクラスの隅に残りの八人が集まっていた。
「なぁ、あの二人の様子……明らかにおかしいよな」
クロウが言うと皆がうんうん、と頷く。
「……前ならシアが早く行こうって、レテ君の手を引きずる勢いで食堂に行ってた」
「でも今は……こう、避けてるって感じだよね。なんでだろうねー?」
ファレスとフォレスが頭を傾げる。ニアも珍しく真面目に悩んでいる。
「……告白の失敗?」
至っていつも通りだった。しかしそれ以外に何かあるだろうか。
「……レテがシアを悲しませるような事をするとは思えない。それに、あれは辛いとかじゃない。何か、知らない人に会ったような反応だ」
レンターの分析にニアも確かに、と頷く。他の皆も黙って聞く中、知識人でこういう時いつも冷静なミトロを一斉に見る。
「そうですね……ここは皆で、二人を仲直りさせましょうか。男子はレテ君、女子はシアさんから話を聞いて、仲直りの切っ掛けを作るんです。そうすれば相部屋の二人は夜にでも話をしてくれるでしょう」
見られて少し考えたミトロは提案するように説明する。それに皆が乗った。と反応するとショウが纏める。
「じゃあそれで行こうぜ。今日の授業が終わった後……寮に帰る時にでどうだ?そこなら二人とも捕まえやすいだろ」
それに皆が頷くと、自分達もご飯を食べに行くべく食堂へと歩いていった。

授業終了後。先に帰ってるね、と言うシアを慌てて女子組が追いかける。
「ねえねえシア!」
「どうしたの、ニア?」
女子で囲むと、ニアが切り込み役として最初に声をかける。こういう時彼女はとても頼りになる。
「最近レテ君のこと避けてるよね?もしかして……告白失敗しちゃった?」
「告白なんてしてないよっ!?……でも、避けてるのは事実かも」
そこにファレスとフォレスが丁寧に言葉を紡ぐ。
「じゃあさ!なんでレテ君の事避けてるのー?」
「……何か、あった?なら話せる範囲でいいから話してほしい。その方が楽になる」
そう言うとシアは少し考えた様子を見せると、ううん、と首を振る。
「大丈夫だよ、大丈夫だから……」

「……今のシアさんは大丈夫には見えませんよ。本当は彼と、共にご飯を食べたいのではないのですか?それに相部屋でぎこちない、というのも見ている側にとっては辛いものです。少しで良いので、話していただけないでしょうか」

ミトロが諭すようにシアを説得する。それに考える素振りを見せると、こっちこっち、と少し道から離れた場所まで来てくれと手で呼ばれる。四人は頷くとそちらへと向かう。

「これは私の印象なんだけど……レテ君ってさ、凄く強いじゃない?戦いも、精神も」

戦ったことのあるファレスとフォレスが真っ先に頷き、精神的な強さにミトロとニアが納得する。それで?とミトロが優しく続きを諭す。こういう時は冷静なミトロが一番スムーズに進む。

「……だけどさ、最近とある事があって。これに関しては本当に口に出来なくて……ごめん。だけど、その事があってレテ君が知らない人みたいに感じちゃって……」

ぽつりぽつりと話すシアによしよしと双子が頭を撫でる。それに対し、ニアが疑問をぶつける。

「それって、レテ君がレテ君じゃなくなった……みたいな感じ?見た感じは変わってないんだけど……」
「うん、見た目も中身も変わってないよ。それはわかる……けど……」

ごもる。それだけ秘密にするということは、本当にとんでもない出来事……想像も出来ない事に遭遇してしまったのだろう。
そう考えたミトロは、一手を打ってみる。

「例え話でもいいのでしてみませんか?それなら秘密は破りませんし、楽になるかもしれません」

そう提案してみたのだ。そして、考えた末に彼女はそれに頷いてくれた。

「……わかった。これは例え話なんだけど……。とある子供が、雲の上の存在。例えば軍の偉い人とかさ。その人より強かったり……それこそさ、子供が教える側とかだったらさ。皆、思わない?自分の見ていたそのとある子は、本当に見てきたその子なのか……って」
「……!」

その言葉に全員が絶句する。もしもこれが例え話でも、事実に基づいた話だとすると納得が行く。
彼は現在の軍人よりも強い。もしくは、それに準ずる何かの光景を見た。そんな事を見れば確かに自分達の見てきた彼は何だったのだろう、となるだろう。
しかし、その中でもニアが真っ先に口を開いた。

「でもさ、それでも見てきた子は変わっていないわけでしょ?どれだけ印象が変わったって、その子はその子!可愛かったり、純粋なところはあるんじゃない?子供らしくさ!大人より強くても!」
「……!」

そう言われて、シアは思い出す。
彼を避け始めてから、夜に「ごめんね」と言ってリラックスの魔道具を設置してくれたのだ。見ただけでも高いそれを、自分のために設置してくれるのは彼の優しさの本質では無いのか?
それに彼は言っていたでは無いか。シアのよく知っているレテだと。
何も変わらない。恐れていたのは、自分だった。彼はずっと優しかった。

「……そう、だ。レテ君はずっと避けてる間も優しくしてくれて……なのに私は……」

そう言って泣き出す彼女をミトロが優しく受け止める。

「きっと彼なら、思った事を伝えればすぐに仲直り出来ますよ。見ていましたが、彼があなたを嫌っている様子も、素っ気なくする様子もありませんでした。……むしろ、心配していたみたいですよ?」
「……そっか、うん、そうだよね。私……本当に……バカだね……」

それを受け入れられるシアも相当心が強いと四人は同時に思っていた。
雲の上の存在。思っていた人とかけ離れた人物。そんな事がいきなりわかれば受け入れられない。それなのに、自分達の言葉で納得して、受け入れてくれた。それがどれだけ強いことか。

「……シアは、強い。心が強い」
「だからさ、夜にでもレテ君と仲直りしてみよ?ねっ?」

泣いている彼女を皆で撫でながら、落ち着かせる。
うん、と声を発した彼女に安心しながら、その後優しく寄り添って寮まで帰るのであった。
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