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①
しおりを挟む『いいか、ユノ。絶対にこの森の結界から、出ちゃいけないよ。』
『どおしてですか?お師匠様。』
『・・・ユノは、出てみたいかい?』
『 外には、いろんな人や物であふれていると読みました!とても大きな町や、海というすんごく大きな水たまりがあって、そこでみんなが仲良く幸せに暮らしているってご本で読みましたよ!ユノは、いつか行ってみたいです!』
私がそう言うと、お師匠様は一瞬びっくりした様に瞳を見開き、そして困ったように眉を下げて優しく笑ってくれました。
『うーん・・・そうね・・・。でもね?人間は、私たちの事が嫌いなんだって。"魔法を使える者たちがいる" と、人間に知られてしまったら・・・私たちが決して悪い事をしていなくても。私もお前も、殺されてしまうんだよ。殺されなくても・・・とてもひどい事をされるんだ。だから、私たちの事は決して人間に知られてはいけないし、絶対に一人で森の外に出ては駄目だからね。』
何か思い出したように悲しそうな顔をするお師匠様を見て、私はこれ以上わがままを言ってはいけないんだと思いました。
『・・・はい、わかりました。お師匠様。私も、痛いのは嫌です・・・。』
『よしよし、ユノはいい子だね。』
優しく笑って、頭をなでてくれるお師匠様がなぜかとても悲しそうで、なぜか胸を締め付けられたのです。
『・・・お師匠様、』
『・・・ん?』
『お師匠様は、ユノが守ってあげますからね。私、まだ小さいですけど、これからもっともっともーっと大きくなって、お師匠様が悲しいと思うものから全部絶対に守ってあげるので・・・なので、泣かないでくださいね・・・?』
私がそういうと、お師匠様は大きな瞳をもっと大きくして驚いた顔をしています。
でも、なぜかそのあとはとても満足そうな笑みを見せてくれました。
『ありがとう。・・・・じゃあ、まずは早く家に帰って、さっき採った山菜とイノシシでごちそうを作ろう!もちろん、薬草のサラダもね?ちゃんと食べれるか?』
薬草のサラダ・・・体にはいいけれどとても苦くて私が苦手なものです。ですが・・・
『も、もちろんです!!お師匠様!!』
私は、本当の意味でお師匠様の言葉の意味が分かっていなかったけれど、優しく繋がれたその手を握り返して一緒に山奥の家へ帰って行った。
***
幼い頃、お師匠様と交わした“唯一”の約束。
私はいままで、一度も破ったことはなかった。
それに、破ろうとさえ思いもしなかった。
外の世界に興味がなかったわけではないけれど、お師匠様が悲しむってわかっていたから“外に出てみたい”と言ったのはあの時だけだった。
でも、その大切な約束を交わした大好きなお師匠様はいま、どこにも居ない。
そう、”いない”のだ。
***
始まりはちょうど1年ほど前。
王都で大事な用事があるからちょっと行ってくると、お師匠様が家を出た。
最初の数か月はマメに連絡くれていたし、最後の手紙にはもうすぐ帰るという事と、お土産は何が良いかということが書いてあった。
私は、お師匠様の帰りを今か今かと心待ちにしていたけれど、その最後の手紙から半年以上、連絡が取れなくなってしまっていた。
「はぁー・・・」
今日も、魔法で送ったはずの手紙が封も切られずに戻ってきた。
戻ってきた手紙を見て、大きめのため息が出てしまう。
心配だから探しに行きたい、でも、お師匠様はこの結界から出てはいけないと幼い頃からよく言っていた。
出たら、殺ろされてしまう、と。
そう言われているので、出るのが”怖い”と思うけれど、それ以上に心配な気持ちが勝つ。
でも、何よりお師匠様との約束を破るのは気が引けてしまう。
しかし、どうしてもお師匠様が心配で何か手掛かりはないかと、お師匠様を探しに行きたいという気持ちが日に日に強くなる。
この日、私はなにかお師匠様の居場所の手掛かりになるものが無いかとお師匠様の部屋にある魔道具、記憶の水槽を覗いてみる事にした。
使い方は、前に何度か教えてもらっていたが、実際に自分で使うのは初めてだ。
けれど・・・大丈夫、うまくやれるってそう思った。
今ここで何か知れるとしたらコレが一番だと思ったから。できなくてもやるしか無い、そう思った。
「ふぅ・・・・」
淡く発光している神秘的な水槽に、自分の血を少し落として呪文を唱える。
淡く光っていた水槽が、私の呪文に答える様に段々と輝きを増しだす。
「・・・!」
唱え終わってから、水槽を真上からのぞき込むと同時に、目を開けられないほど光だし、思わず目を閉じた。
そして、何かに手を引かれる様に私は水の中へ誘われた。
***
気が付くと、私は全く知らないところに居た。
人が多い。しかし、誰も私の事なんか気にせずに足早に通り過ぎていく。
(・・・ここは?っ、声が・・・・でない?)
水の記憶の中だからなのか、話そうとしても声が出ない、頭には声は響くのに変な感じだった。
いつもと違う服装、髪色、大きな建物…全然知らない場所なのに、知っている。
…なんだか、変な気分で辺りを見渡す。
『柚乃!またそのゲームしてるの?本当好きねぇ~何周するんだし!』
急に場面が変わって、誰かに話しかけられた。
私はベッドに横になりながら、小さな箱を手にしてポチポチと何かを読みながら話しかけてきた子の方を向く。
『だって、すっっごく面白いんだよ!!?この、サモさん見てよ~~~っ!ベスト オブ サモン!!今回のアプデ最高すぎたんだが!!!やばくない?かっこよすぎて鼻血ものじゃない!?このスチル、色気やばぁ!!!あぁ~…好き。尊い・・・。あぁ~~本当いいなぁ、主人公は。サモさんと恋愛出来てさ~!!!マジでうらやましい!!!なにこの子、可愛すぎる上に強いし、かっこいいし・・・勝ち組決定じゃん!!!でもさ?絶対、主人公よりもあたしの方がサモさん好きなのは絶対だわ!大好きなのに!!うらやましい~~~しかもさ?主人公、溺愛されるんだよ!?a~~~もう!!!殺意しかわかなくなってくるわ~~。あたしのほうが絶対好きなんに・・・。』
自分が話しているわけじゃないのに、勝手に口が動く。
でも、話しかけた相手は顔がよく見えないけれど、この子の事、私はよく知ってる気がする。
(・・・・私、このココの事知ってる?)
『あのさ・・・。生きてる世界線、違うからね!!??っていうか!あんた、今、サモさんサモさん言うてるけど、箱推しなの知ってるから!!つーかそもそも、ゲームだし!作られたものだし!人だし!!』
『ちちちちがくて!!!今回のバレンタインイベのサモさんのスチルが最高すぎるの!!は、箱推しですが何か!?みんなそれぞれやばいんですぅーーー!こっちのドラキュラ仮装のヤチ君とか可愛すぎて悪戯されたいでしょ!?普通に身を投げるレベルでしょ!?この子になら、カラカラになるまで血を吸われても人生に悔い無しで死ねるっしょ!?げ、ゲームな事くらいわ、わわわわかってますよ!!??・・・わかってるけど・・・。』
『はぁ~~~。そんなだから26にして彼氏の一つも出来ないのよ?はぁ。って言ってもさ~、その乙女ゲームエグく無い?攻略対象、ばっさばっさ死んでいくしさ~。後半に行くにつれてしんどくない?その世界線、辛みの塊よ。生き抜くのも、死ぬのもしんどすぎて考えれば考えるほど胃に穴空くレベルだわ。』
呆れたように言うその子の言葉に、私はうんうんと激しく頷いた。
『か、彼氏はいらないだけ!別に遊んではいるもん。カラカラに乾いてるあんたとは違いますぅ~。・・・本当に、そう。すっっっごい辛い。めちゃくちゃ辛い。毎回どのルートでも、エンディングに行くにつれて号泣。とくに、ボス倒すところとか泣く。嗚咽する。だからさ、最近毎日どうしたらみんなを救えるのか考えてるけどさ?みんなの信念が強すぎて説得できる気もしないし、私が力覚醒させても、誰についていくかで死ぬ人変わるからどうしようもない・・・って事で、一番は事が始まる前にすべて終わらせるためにマーリンの闇取り除くしかない。そもそも、マーリンと争わなければみんな死なないし!隣国達との戦争も始まらないし!平和が続くはず!っていうのが一番みんな生きていけるルートだけど・・・。まだ、それには穴があるんだよねぇ。』
寝転がっている私の隣に寝転がるように、その子は私の手元のゲーム画面を覗き込んだ。
『攻略された人以外全滅とか普通にあるじゃん!つーか、殆ど!挙句にバッドエンドなんて、悲惨なんてもんじゃないでしょ?最凶魔女のマーリンがもう、えげつなくってさ~。育ての親のくせに、愛情の欠片もないのなんのって。』
『それなぁ・・・辛いよね~、裏切られた主人公はとてもマーリンを大切に思っていたのにさ・・・。でも、サモさんらに溺愛されてるからプラスマイナスゼロじゃない?私は同情はしないよ。うん。』
『ハハハ。本当好きね。まぁ、みんなに溺愛されるとか人生勝ち組すぎてあたしも同情はしない。うん。ってか、それにしても主人公ってチート過ぎない?』
『まぁね!病もケガも治すし、なんなら欠損した腕まで生やす程の治癒魔法に、物理防御に法術防御、しかも、攻撃魔法も一応できるんだよ?まぁ、攻略対象によって覚醒する力は違うけどさ~この力が全部一気に覚醒できてたら、無双すぎてつまらないよね~!ここまでチートでも、最後の最後まで一般庶民のままでひっそりこっそり暮らしていくのは好感持てるわ~聖女扱いとかされて国で大切に~とかだと、色々つまんなくなるしね~。あ、でもさ~魔法使ったあとは結構しんどくない―――・・・?』
ザバァ・・・・
「ゲホッ、ゴホッ、ハァハァ・・・ゴホゴホッ」
急に体が水に包まれて気がつけば水槽から追い出されてしまった。
全身びしょ濡れで、必死で酸素を吸って息をする。
でも、息苦しかったのなんてどうでもよくて・・・
それよりも、衝撃の事実。
「はぁ、はぁ・・・こ、こは“花幻"の世界・・・・って事?」
私の口から出た小さなつぶやきは、誰にも拾われることはなかった。
応援ありがとうございます!
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わたしも箱推ししますw
コメントありがとうございます╰(*´︶`*)╯♡
箱推し、お願いします!!!w